大勝利!エルダープラント討伐!
見上げるぐらい大きな荒れ狂うエルダープラントを前に戦おうと意気込んではみたものの、あんな怪物相手に俺達はどうしたらいいのか正直迷う。
なのでカロンちゃんに意見を聞いて判断することにした。
「俺達は何をしたらいいんだ?」
「あのデカブツに致命傷を与えるのは私と小娘でやろう。お前様達はこれ以上あの植物が増えるのを阻止してくれ」
「普通に攻撃するだけでいい感じかしら? けど、カロン達が攻撃している間阻止しないといけないほど、急速に増えているの?」
「この近くに特別な木があるだろう? 奴はこの大地周辺に根を張り巡らせ始め、その木から力をさらに吸おうとしている。もし本格的に力を吸収し始めたら、核も増えさらに再生速度が上がる。だからそれだけは絶対阻止したい」
『……この方の言う通り、周辺の草木から瞬く間に精気が吸い上げられているようです。精霊樹の根も迷宮の崩壊と同時に一部が枯らされるほど吸収されています。これ以上精霊樹へ接近させる訳にはいきません! どうか阻止してください!』
グラリエさんは縋るような必死さで俺達に助けを求めている。
実際に触手を無差別に打ち付けるエルダープラントの周辺を見ると、目に見える速度で草木が枯れていた。
触手が地面に接触した瞬間一気に精気を吸い上げているみたいだ。
もしこのままあいつを倒さなければ、この森一帯の草木は全て枯らされてエルダープラントは今以上の化け物に成長してしまうだろう。
事態は一刻を争うのか、カロンちゃんが女神の聖域から出ると全身から黒いオーラが溢れ出した。
背中には翼、両手両足は鋭い爪、そして短い髪は長髪に伸び、金色の瞳も眩く輝いている。
彼女のスキルである竜魂解放を使った証だ。
さらに前回と同じようにカロンには俺のエクスカリバールを渡して、必要な時にあの一撃を使えるようにしてもらう。
「それでは行くとするか! 私が本体周辺をやるから、小娘は触手の核を狙って潰せ」
「了解した。それと小娘ではなくルーナと呼べ」
「はっはっは、すまんな! それではルーナよ、頼んだぞ!」
「うむ」
カロンとルーナは拳をこつんとぶつけ合うと、その場から一瞬で消えてエルダープラント本体に向けて宙を跳んでいた。
もう俺の目をもってしても完全に追えない速さだな……。
「さて、阻止しろと言われたもののどうするよ?」
「本体部分の進行はカロンが阻止してくれるだろうから、私達は他の触手が進むのを抑えればいいんじゃない? その間にルーナが核を破壊してくれるはずよ」
「本体は無理でも触手なら、私達もスキルを使えばある程度なら阻止できるはずであります」
「そうなると危険ですが、女神の聖域から多少は出ないといけませんねぇ」
「僕もできるだけデバフをばら撒いて援護するぞ! ……ルーナさんの背中にいるのは怖いんで大人しくしてます」
「うー、私も力になりたいけど小さな触手ぐらいしかダメージがないんだよぉ」
「相性が悪いから仕方ないでありますよ。私達の援護をしてくれるだけで十分なのであります」
今回の魔物は全体的にフリージアとは相性が悪かったからなぁ。
スキルも効果が薄いだろうし戦闘不能になるから、彼女にはもしもの時に備えて温存しといてもらおう。
ノールもスキルを発動させると、近くで暴れ回っている触手目掛けて駆け出していく。
エステルもスキルを発動し、白いオーラを纏いながら魔法陣を展開してノールと同じ触手を攻撃し始めた。
2人は触手が地面を叩くのを防いで、これ以上精気を吸収するのを妨害しているようだ。
女神の聖域から出たマルティナはゴーストを大量に呼び出して、荒れ狂う触手達に向かわせてデバフをばら撒いている。
そしてこの戦いで要であるカロンちゃんは、黒い翼を羽ばたかせて宙を舞いながら黒い花を咲かせている本体を相手取っていた。
無数の触手が宙を飛ぶ彼女に向かうが、真っ黒な大剣を振り回して全て一刀両断する。
さらには本体にそのまま突撃し、大剣を巨大な黒い拳に変形させて殴り付けて一部を消し飛ばす。
エルダープラント本体は大きく仰け反って動きを止めたが、瞬く間に本体は再生して元に戻っている。
やっぱり二段階目と比べても圧倒的に再生力が増しているな。
あれじゃ本体を普通に倒すだけでもかなり手こずるぞ。
その一方で触手の複核を倒す重要な役割を担っているルーナは、地面を打ち付けて暴れ回る触手を足場にして宙を駆けていた。
空中にいる間に極太の触手が彼女を叩き潰そうと迫るが、マントの尖った端が伸びて触手に纏わり付いて瞬時に移動。
それだけじゃなくてマントは手足のように動きながら、尋常じゃない三次元的な機動でルーナは飛び回っている。
しばらく攻撃せずに跳び回っていたのだが、ルーナから赤いオーラが発せられると次の瞬間には赤い閃光が放たれた。
もう目で追えないぐらい一瞬で赤い光が宙を走ると、10本の触手が同時に弾け飛んでズシンと音を立てて崩れ落ちる。
全て複核の位置を的確に捉えていて、槍の軌道を自在に操って貫いたようだ。
それでもまだまだ複核を有す触手は数十本以上残っていて、再びルーナは跳び回って攻撃の機会を窺っている。
そんな凄まじい戦闘を目の当たりにして、グラリエさんは思わずといった感じで呟いていた。
『あのお2人方はやはり凄まじいですね……。あれほど強大になったエルダープラント相手に一歩も引けを取っていません』
「カロンには以前にも強敵相手に助けてもらいましたから。ルーナもある物を使って強化しているので……グラリエさん、口調がちょっと変わりましたか?」
『あはは……今まで里長代理として気を張っていましたけど、あの方の覇気に当てられてそれもなくなってしまいました。精一杯私も協力させていただきますから、どうかエルダープラントを倒してください』
「勿論です! ……と言っても主に頑張るのはあの2人なんですけどね」
≪はっはっはー! このカロンちゃんに任せておけぃ!≫
「だそうです」
『ほ、本当に頼りになる方ですね……』
俺達の会話にカロンちゃんが大声で答えてくれている。
結構離れているのに聞こえているなんてめちゃくちゃ地獄耳だな。
だけどあんな心強い声を聞いたら不安だって消し飛んでいくぞ。
カロンちゃんたちの頑張りに応えるために、俺も俺で出来ることをしようとマルティナに声をかけた。
「マルティナ、少しいいか?」
「ん? どうかしたかい?」
「ゴーストを使って俺とルーナの視界を繋いだり連絡を取れるか?」
「2人にゴーストを憑かせれば、僕を介して視界共有とある程度の意思疎通はできるよ」
「なら頼んだ。あのままだと触手の核の位置が把握し辛そうだから俺の地図アプリの情報を知らせたい」
ルーナがさっき回避優先でしばらく跳び回っていたのは、触手の複核の位置を正確に捉えるためのはず。
そしてカズィクルを放って槍を操作し、3秒間で可能な限り破壊したんだ。
3D地図アプリは魔物の形も正確に再現されているから、画面上で操作しながら触手の複核の位置も把握できる。
これをマルティナの視界共有を使ってルーナに伝えられれば、探す手間も省けてスキルの再使用時間がきたらすぐ攻撃が可能だ。
さっそくマルティナにゴーストを出してもらい俺に憑りつかせ、同じようにルーナにもゴーストを飛ばして憑りつかせてもらった。
『ルーナ、聞こえるか?』
『どうした』
『これから俺が地図アプリを見て視界共有で核の位置を知らせるから、それを見て核を破壊してくれ。何かあればそっちからも指示をくれ』
『了解だ』
触手の攻撃を捌くのに集中しているのかルーナの返事は短い。
さっそく視界共有をしてもらって複核の位置を伝えると、ルーナは再度カズィクルを放ってまとめて触手を葬り去る。
そんな攻防を続けてカロンちゃんとルーナがエルダープラントを抑え込んでいる間に、スキルを発動させたノール達も数本の触手を倒し切っていた。
「ふぅ……スキルとグリモワールの3倍魔法を使えば、私でも触手程度は何とか倒せるわね」
「私もスキルを使ってやっと斬れる程度でありますが、ルーナ達のようにはいかないのでありますよ」
「それでも十分足止めはできてるから上出来さ。……おっ、ルーナがまた10個以上核を潰したぞ」
「強化されたルーナさんは最強ですね! 私が治癒する必要もないのは心苦しいですけど……」
「うー、私もスキル使いたいけど気絶しちゃう……」
『皆さん本当にお強いですね……。エルフの代表として同行しましたけど、お役に立てず申し訳ありません』
「いやいや、グラリエさんには迷宮内で凄く助けられましたよ」
迷宮内の案内やエルダープラントの本体まで辿り着けたのもグラリエさんのおかげだ。
こんな化け物相手に何もできないのは恥ずかしいことじゃあない。
ぶっちゃけ俺も殆ど無力だからな! ルーナに視界共有して位置を知らせるぐらいしか俺にはできん!
……まあ、ちょっと自分が無力過ぎて情けなくはあるんだけどさ。
そう内心悲しんではいたものの、主にルーナの働きによってついに最後の触手の複核が破壊された。
カロンちゃんが相手をしていた花の咲く本体部分も連動するようにビクンと痙攣してまっすぐに伸びたが、枯れる様子はなく花の中央部分から蕾が育ち始めている。
「な、なんだ? まさかまた次の形態になるのか!?」
「まだ倒し切れないのでありますか……そろそろ私達のスキルも切れちゃうのでありますよ」
「……いえ、見て。ルーナとカロンが何かするつもりみたいよ」
2人はいつの間にか蕾のすぐ傍にいて各々の武器を構えていた。
カロンはバールのようなものに自身の武器であるティーアマトをオーラ状に変化させて纏わり付かせ、黄金の一撃を発動し黒と金が入り混じったエクスカリバールを。
ルーナはカズィクルを発動させて深紅のオーラと雷を伴う槍を。
お互いの武器をカチンと打ち合わせると、彼女達は大声で叫んだ。
≪せーの!≫
掛け声を同時にエルダープラントの蕾目掛けて振り下ろし、黒と金と赤が混じった衝撃波が森全体に広がる。
攻撃を受けた蕾は瞬時に消し飛び、花も茎も亀裂が走って内部から光が漏れて崩壊していく。
あれだけ巨大だったエルダープラントは触手の残骸も含めて干からびるように枯れていき、最後には光の粒子になって消滅した。
こ、これで今度こそ本当にエルダープラントを倒せたのか?
カロンとルーナは女神の聖域まで戻ってくると、ハイタッチをしてやり遂げた感を出している。
「やるではないかルーナよ! このカロンちゃんと息を合わせられる者がいるとは驚いたぞ!」
「あれぐらい造作もない。むしろよく私に合わせたな龍神」
「はっはっは、小生意気な奴め! やはりお主達といると退屈しなくて済むな!」
そんな2人の様子を見て、ノール達も俺もようやくエルダープラントを倒せたんだと実感して安堵した。
やっと、やっとあのしつこい植物野郎を倒せたぞ!
そう喜んでいたのだが、背後からパチパチと手を叩くような音と共に声をかけられた。
「へー、あれ倒すなんて君達凄いねー」
振り向くとそこには、赤い長髪の少女がいた。
その姿はただの少女ではなく、黒い羽根に尻尾が生えていて……まるで悪魔のような見た目だ。
ま、まさかあれは……魔人なのか!?




