カロンちゃん参上
GC最強クラスのURユニットである龍神カロン。
緊急召喚された彼女は腰に両手を当てて得意げな顔をしている。
だけど俺達は唖然として誰も反応できずに黙り込み、その様子を見てかカロンちゃんは不服そうに首を傾げた。
「ん? どうした皆で呆けた顔をして。このカロンちゃんが来たのだからもっと喜べい!」
ぺしぺしと尻尾を地面に当てながら頬を膨らませてカロンちゃんは不満そうだ。
まさか本当にカロンちゃんが来てくれるなんて思ってなかったからなぁ……。
そんな俺達とはまた違った形で驚いていたグラリエさんが真っ先に声を上げて反応を示した。
『こ、このお方は一体……』
「安心してくださいグラリエさん。私が呼んだ助っ人ですよ」
『それはわかりましたけど力が強大過ぎて……それに突然現れて驚きました』
「ほほぉ、精霊術を使うエルフか。我々の同胞ではないようだが、精霊体になれるとはなかなかの技量ではないか。この前の亀といい面白い者達と関わりを持っているなぁ」
さすが龍神のカロンちゃんだな……グラリエさんを一目見て精霊術を使っているエルフだって見抜いてやがる。
同胞って言うのはGCのユニットのことだよな? 彼女達だけにわかる何かがあるってことなのかねぇ。
ようやく呆気を取られていたノール達も正気に戻ったのか会話に加わってくる。
「ありがたいでありますが、よくこんなに都合よくカロンが来てくれたでありますね……」
「偶然ではない、私が来たのは必然だ。前回渡したありがたーい私の爪を使ったのだろう?」
「た、確かに握っていましたけど……もしかしてわかっていてあの時爪を渡してくれたんですか?」
「はっはっは、知らん! 適当に言ってみただけだ! だが、呼ばれた時何となくつながりは感じた。まさか使わずに私の爪を取っておくとはな。このカロンちゃんとの思い出の品物を残すとはお前様も愛いではないか、うむうむ」
カロンちゃんは頬を赤くしながら尻尾をブンブンと振り回している。
べ、別に思い出の品として残してた訳じゃなかったんだが……からかわれている気がする。
これを想定して爪を渡してきたのか、それとも俺が爪を握りながら緊急召喚石を使ったからこうなったのか。
俺が爪を握り締めた偶然のおかげで、彼女が必然的に来てくれたのなら自分の運命力を感じてしまうぞ。
カロンちゃんはおっほんと咳払いをすると、女神の聖域の外で蠢いている巨大なエルダープラントの触手を見て状況を確認している。
「にしてもだ、随分と追い詰められているようではないか。また面倒ごとに巻き込まれているとは、退屈しなそうな日々を送っていて羨ましいぞ」
「それを羨ましがられても困るのだけれど……別に面倒ごとに好んで首を突っ込んだ訳でもないのよ」
「本来の目的はただ果実を採りに来ただけなんですよねぇ。それがとんだ大事になったものです」
エステルもシスハも疲れたようにため息を吐いている。
ホントそれだよなぁ。神魔硬貨と交換する果実のプルスアルクスを採りに来ただけなのに、隠れ住んでたエルフと遭遇して迷宮に挑むことになって、こんな化け物と戦う羽目になるとか……。
カロンちゃん的には楽しそうなのかもしれないが、俺としてはもっと平和に過ごしたいものだ。
愉快そうにエルダープラントを眺める彼女に対して、ルーナが眉間にしわを寄せながら声をかけた。
「さっさと終わらせたい。手を貸せ龍神」
「おお、吸血鬼の小娘よ! 少しの間で見違えるように逞しくなったではないか! 立派に成長してカロンちゃんは嬉しいぞ!」
「や、止めろ! こっち来るな!」
「ルーナちゃん喜んでるんだよー。いいないいなー」
「喜んでない!」
「はっはっはっ、照れるな照れるなー」
「くぅー、強くなっても照れるルーナさんは尊いです!」
カロンちゃんにわしゃわしゃと頭を撫でられ、ルーナは赤面しながら牙を見せて呻き声を上げている。
それでも振り払う様子はないから、なんだかんだ悪い気はしてないようだ。
解放石であれだけ強化されたといっても、まだまだ小娘扱いされるのか。
ルーナを十分に撫で終わった後、カロンは何か気になったのか周囲をきょろきょろとし始めた。
そしてある一点を見つめ始めたので視線を追ってみると、ローブを深く被って丸まっているマルティナの姿が。
「むむっ、この前は見なかった同胞が増えているではないか。気配を消して隠れてないでこっちへ来い」
「へぁ!? あ、あの、その……」
「どうしたの? いつものカッコいい名乗り上げないの?」
「カ、カロン様の前で出来る訳ないだろ!」
「おっ、カッコいい名乗りだと? カロンちゃん凄く気になるぞ」
「か、かっこよくないです! お見せできるものじゃありません!」
おいおい、あんなに中二要素に拘っているマルティナが自分で否定し始めたぞ!?
カロン様とか言って妙に畏まっているけど、カロンちゃんに関して何か知っているのか?
ジトーとしたカロンちゃんの視線を受けて、マルティナは体を直立させてカチコチに凍っているかのようだ。
「ふーむ……この魂の気配、死霊術師か。このカロンちゃんが見てきた人間の中でもかなり負の力が強いな。死者共を引き寄せて大変だったのではないか?」
「そ、それなりには……」
「はっはっは、健気な奴だなぁ。お主も遠慮なくカロンちゃんと呼んでいいぞ」
「あばばばば……」
カロンちゃんにポンポンと肩に手を置かれて、マルティナは今にも白目をむいて倒れそうになっている。
ビビッているのとはちょっと違う気がするけど、なんであんな反応をしてるのかが凄く気になってくるぞ。
だが、パンッとカロンが手を叩いて場の空気を引き締めると、ようやく彼女を呼んだ本題に話が移った。
「さて、話はこのぐらいにして役目を果たすとしよう。これまた厄介な植物を相手にしてるじゃないか」
「一応2回倒したんだけど復活すると同時に進化して第3形態になってるんだよ」
「ふむふむ、見るからに生命力が強そうだ。恐らく核を全て破壊しなければあれは止まらんぞ」
「本体の核は2回も潰したけれど、あの核だけじゃダメってことかしら?」
「あの手の奴は本体を潰してもすぐに他の核が代わりに機能し始める。今の私1人ではスキルを使っても倒し切れないだろうな。本体以外の核も時間を置けばすぐ再生する。短時間で全て破壊しなければ駄目だ」
な、なんだって、他の核ってことは……まさか複核?
エルダープラントの茎から無数に伸びる触手に複核のような赤い玉が付いているけど、あれを全部破壊しないとエルダープラントは倒せないってことなのか。
カロンちゃんでも1人じゃ倒し切れないという言葉に内心ビビったが、すぐに彼女はその不安を払拭するかのように力強く笑った。
「だがお前様達と一緒なら倒せるだろう。吸血鬼の小娘も私と負けず劣らずの強さになっているようだ」
「むっ、今の私なら貴様を倒せるぞ、龍神」
「はっはっは、このカロンちゃんを倒そうなんて千年は早いぞ! 可能性は0ではないがな! 相手ならいつでもしてやるぞ?」
「嫌だ。面倒だ」
「つれない奴だなぁ。何にせよまずはあの植物を倒すとしようか。お前様達、準備はいいか?」
そうだ、今はルーナも解放石で強くなっているし、俺達だって力を合わせればきっとどんな魔物でも倒せるはずだ。
カロンちゃんに発破をかけられ、俺達は顔を見合わせながらエルダープラントとの戦いに決意を固めた。




