常闇の吸血姫
遅くなりましたが明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします!
倒したと思ったエルダープラントは姿を変えながら復活した。
末端である触手が五本も追加で増えて、さらには本体からも細めの触手が無数に生え出す。
核のある黒い茎には鬼のように見える厳つい顔まで形成されている。
ステータスを見てみれば、最初の嫌な予感が見事に的中していた。
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●エルダープラント(第二形態) 種族:プラント
レベル:100
HP:70万
MP:?
攻撃力:1万3000
防御力:1万5000
敏捷:180
魔法耐性:250
固有能力 超再生 防被膜 精気貯蓄 触手操作
スキル プラント生成 複核生成 鋼鉄化 種子弾
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「やっぱり第二形態あるのかよ!」
「迷宮のボスがあんなにあっけない訳ないですよねぇ……」
第一形態よりもパワーアップしてやがる。
シスハの言う様に迷宮のボスは毎回何かしら特殊な能力持ちだったりするから、こいつも例外じゃないってことだ。
第二形態でも既にステータスがやばいのに、もし第三形態があったとしたら……いや、考えるのは止めておこう。
変身したエルダープラントは既に暴れ狂っていて、ノール達が全力で迎え撃っていた。
グラリエさんも精霊術で触手の1本に干渉してどうにか抑え込んでいるが、段々と俺達は押され始めて壁際へと追い詰められ始める。
ルーナがブラドブルグの投擲を本体に撃ち込んでみたけど、穴が空いた途端すぐに塞がっていき内部を攻撃する暇もない。
第一形態よりも再生力が上がっていやがる!
それに無数にある本体の小さな触手の先端から、銃弾のように種を飛ばしてきて厄介さが増していた。
本体にルーナが近づいた途端弾幕のように乱射してきて接近を阻害している。
攻撃がロクに通らずエステルがグリモワールの3倍魔法を触手に連発して撃ち込むが、仰け反るだけで全くダメージがなさそうだ。
「えいっ! えいっ! ……お兄さん、このままだとまずいわよ」
「くっ……わかってる」
どうする……どうすればいいんだ?
このままだと間違いなく俺達はやられてしまう。
スキルを使って反撃するか、解放石か緊急召喚石を使うか、女神の聖域で一旦安全地帯を確保するか。
こいつを倒せば終わりなら話は簡単なのだが、第二形態を倒してもまだ続きがあると考えたら下手に判断できない。
どれを選択すれば余力を残してこいつを突破できるのか……それを考えて俺はすぐに決断できずにいた。
すると不意に後ろで叫び声が上がる。
「へっ――うわっ!?」
「シスハ!?」
振り返るとシスハの足に壁から出てきた細い触手が絡まっていて、彼女はあっという間に持ち上げられて逆さ吊りにさせられた。
さらに複数の触手が壁から飛び出し次々とシスハに絡まっていく。
フリージアが矢で触手を射抜くが、千切れると同時に即再生して拘束を外せない。
くそ、あの触手までエルダープラントと同じぐらいの再生速度なのかよ!
このままシスハが連れていかれたらヤバいと、対象と自分の位置を入れ替えるアイテムであるスパティウムを使おうとしたが、その前にルーナの叫び声が聞こえた。
「平八! あれを使え!」
背中にマルティナを背負ったルーナがこっちに駆け寄ってきていて、シスハを助けようとしているのがすぐにわかった。
そしてこのタイミングで使えというのは……解放石に違いない。
察した俺はすぐさまスマホを操作して解放石をタップした。
【対象を選択してください】と表示されたので、ルーナを選択しYesを押す。
スマホから光が溢れ出してルーナの体へ吸い込まれていく。
そして彼女の体が赤いオーラに包まれて、目が真っ赤に輝き出した。
ルーナはすぐさま槍を構えるとシスハを拘束している触手目掛けて投擲する。
一瞬赤い光が走ったかと思えば、既にシスハを拘束していた触手は消し飛んでいて、続け様にノール達が対処していた末端であるエルダープラントの5本の触手も同時に途中から千切れ飛んだ。
本体にもいつの間にか大穴が空いており、ルーナもシスハを抱きかかえて俺達の傍に来て彼女を下ろしている。
「シスハ、大丈夫か?」
「ル、ルーナさん……ありがとうございます」
「うむ、無事ならいい」
シスハは顔を赤らめてうっとりした様子でルーナを見ている。
か、カッコいい……心なしかルーナの姿が凛々しく見えてきたぞ。
「あれだけの触手を一度に倒しちゃったのでありますよ……」
「ああ……解放石で強化されたとはいえ強過ぎだろ……」
「ルーナちゃん凄いんだよ! かっこいい!」
触手を倒すだけじゃなくて本体にまで風穴を空けるとは……多分スキルのカズィクルだと思うけど、桁違いに威力が上がっている。
だけどシスハを拘束していた触手、末端である5本の触手、そして本体をまとめてぶち抜いていたのはどういうことなんだ?
ステータスを見させてもらおう。
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●【常闇の吸血姫】ルーナ・ヴァラド
レベル:90
HP:2万1000(2万3000)
MP:7200(8200)
攻撃力:8260(8560)
防御力:4170(4600)
敏捷:560(600)
魔法耐性:45(50)
コスト:22
固有能力
【常闇の支配者】
暗黒地帯にいる間、能力値とHP、MPの自然回復力上昇。
【鮮血公】
敵からHP吸収時、攻撃力、防御力、敏捷を一定時間35%上昇させる。
スキル
【カズィクル☆5】
3秒間総攻撃力が10倍上昇。貫通攻撃を付加し、防御力と魔法耐性を無視する。 再使用時間:1分
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……いやいやいや、色々ぶっ飛び過ぎてるだろ!
攻撃力とかもだけど、カズィクルの数値がヤバ過ぎる。
一撃だったのが3秒間になってさらに貫通攻撃まで付加……あの一瞬で全部貫けたのはこれのおかげだな。
だけど1回の投擲でバラバラの位置にいた触手と本体を全部貫けるか?
という俺の疑問はルーナの強化された専用装備で解消された。
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●ブラドブルグ☆5
攻撃力+8400
HP吸収(与えたダメージの10%)
自動回収
自動追尾
投擲誘導
行動速度+30%
攻撃時30%の確率でHP吸収(与えたダメージの20%)
カズィクル使用時、攻撃力60%上昇
●血染めの黒衣☆5
HP+3500
攻撃力+1200
防御力+2500
ダメージ吸収(受けたダメージの20%回復)
HP自動回復
間合い延長【中】
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わーお……カロンちゃんもびっくりするレベルのぶっ壊れ具合だぞ。
1回の投擲で全部攻撃できたのは、ブラドブルグの投擲誘導だろうな。
多分投げた後ルーナの意思で軌道を動かせる効果だと思う。
目にも止まらない投擲速度で自由自在の動きで飛んでくる槍とか……もはや超兵器じゃないか!
これもし相手にしろって言われたら泣いて逃げ出すレベルなんですが。
ルーナはいつもの気だるそうな雰囲気とは打って変わり、生気に満ち溢れた瞳で槍をブンブンと振り回している。
「ふむ、これほど力が漲るのは久しぶりだ。若い頃を思い出す」
「若い頃って……というかマルティナが後ろでぐったりしてるぞ」
「ヴァラドさん速過ぎる……も、もう降りていいかな?」
「うむ、後は任せろ」
マルティナを背中から降ろしたルーナは跳躍し、穴が塞がりつつあったエルダープラントの本体に向かった。
そしてもう再使用時間になっていたのか、また槍がバチバチと赤い発光をし始めてカズィクルを発動させている。
エルダープラント本体の触手が反撃しようと伸びていたが、ルーナに届く前に槍は突き出されて黒い茎の大部分ごとまとめて消し飛んだ。
ルーナは戻ってくると一仕事終えたように両手を上げて首を振っている。
「やれやれだ。草如きが随分と手こずらせる」
「今度こそ倒せたのか?」
「核どころか本体の大半が吹き飛んだでありますよ」
「いくらなんでもあそこから再生はしないでほしいわね……」
ルーナに解放石を使ったとはいえ、カズィクル2発で第二形態も倒し切ってしまった。
3秒間だけでも、瞬発的な火力は間違いなくGCのURユニットでもトップクラスだ。
ガチャを回しまくって強化できたら、常にこの強さになると思うと……やばいな。
まあ、本人含めて装備込みで星5まで重ねるなんて魔石何十万個必要なんだって話なんだけどさ。
とりあえずこれでエルダープラントは完全に倒したと思ってよさそうだな。
第三形態があったとしてあそこまで消し飛んだらさすがに再生できないだろう。
そう思っていると、急に迷宮全体が揺れ始めた。
「なんだ? また揺れ始めたぞ」
「本体の残骸が地面に吸い込まれていますよ!」
『な、なにこれ……精気がこの場所に急激に集中してる!』
一部残っていたエルダープラントと触手の残骸が迷宮の壁や地面の中に消えていくのと同時に、グラリエさんが大声で叫び出した。
迷宮の揺れも徐々に激しくなり始めて、迷宮の壁に亀裂が走って天井が砕けてパラパラと降ってきている。
や、やばいぞこれ! 迷宮が崩壊しそうだ!
「集まれ! 女神の聖域張るぞ!」
全員で密集して女神の聖域を発動させて、俺達は球体上の光の膜に包まれた。
迷宮の崩壊は止まることなく進行していき、天井は完全に崩壊して曇り空が見えている。
さらには地面まであちこち盛り上がり、俺達は足元ごと一気に押し上げられて迷宮の外まで弾き出された。
「おいおい……地面ごと一気に外まで放り出されたぞ」
「迷宮が崩壊したってことかしら? 女神の聖域がなかったら危なかったわね」
「も、もう無理……ガク」
「マルティナちゃん!? しっかりするんだよー!」
激しい揺れの直後にジェットコースターみたいに外に弾き飛ばされたせいか、マルティナはぐったりとして倒れている。
女神の聖域を使ってなかったらどうなっていたのやら……周辺を見ると地上もぐちゃぐちゃに陥没したり隆起したりと、広範囲に渡って地形が変わっていた。
今まで迷宮をいくつか攻略しているけど、ここまで地上に影響を及ぼすのは初めてだ。
しかもエルダープラントも倒したはずなのに……ノールも俺と同じ疑問を口にしている。
「迷宮が崩壊するなんてどういうことなのでありますか? エルダープラントは倒せたのでありますよね?」
『……いや、倒せていません。さっきよりもさらに強大な邪気を感じます』
グラリエさんがそう言うと、迷宮のあった場所から巨大な黒い花を咲かせた茎が伸びてきた。
茎からは赤い核の付いた極太の触手が何十本も生えていて、さっき戦った時と比較にならないぐらい巨大だ。
……マジかよ、あんな完全に本体の核を消し飛ばしてもまだ生きてやがるのか?
もうステータスも見たくないぐらいなんだが……確認してみよう。
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●エルダープラント(第三形態) 種族:プラント
レベル:100
HP:145万
MP:250万
攻撃力:3万9000
防御力:7万8000
敏捷:230
魔法耐性:280
固有能力 超再生 防被膜 精気吸収
スキル 大地侵食 鋼鉄化 種子砲
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はい無理、無理です! 完全にGCのレイドボス級の強さです!
セヴァリアで戦ったファルスス・テストゥードと同レベルの強さだよこいつは!
第三形態になったエルダープラントを見て、ルーナも忌々しそうに舌打ちをしている。
「ちっ、しぶといにも程がある」
「第三形態ってところですかね……。これ、もう私達の手に負えなくないですか?」
「これは……緊急召喚石を使うしかないか?」
「そうね。ルーナの強化がまだ続いてるけど、私達の総力を合わせてもかなり厳しいと思うわ」
「呼ぶしかありませんね。できればまたカロンさんに来ていただきたいですが……」
「そう都合よくカロンが来てくれるでありますかねぇ」
確かにこんな相手なんだからできればカロンちゃんが来てくれもらいたいけど……それは難しいだろうなぁ。
緊急召喚石は誰が呼び出されるのかランダムで、今のルーナと同じ星5まで強化された状態で来てくれる。
今はルーナも強化されているから誰が来ても多少問題はないけど、可能ならカロンちゃんだとエルダープラントを倒せる可能性が増す。
俺は何となく以前カロンちゃんを召喚した時に貰った、ご利益のありそうな彼女の黒い爪を取り出して祈願した。
「頼む、カロンちゃん来てくれ頼む!」
「お兄さん、爪なんて取り出して何しているのよ……」
「いやぁ、これを使って祈れば来てくれる可能性増しそうじゃないか?」
「ありそうであり得なさそうなで何とも言えないでありますなぁ」
たとえ意味がなかったとしても、確率が増すと思えば実行するのはガチャと一緒だ!
俺はカロンちゃんの爪をギュッと握り締めて懇願しながら、緊急召喚石をタップした。
【緊急召喚石を使用しますか?】と画面に表示され、当然Yesを選択。
スマホから光が溢れ出し、空中で人の形に光が形成されていく。
それと呼応するように俺の手の中にあった黒い爪が光り出して、スマホの中に取り込まれていった。
こ、これは一体!? と驚く間にも、形成されていた人型の光がはっきりとし始める。
その姿は褐色の肌で黒髪、頭に2本の角が生えた黒いミニドレス姿の少女……そう、カロンちゃんだった。
「ふはははは! カロンちゃん参上! 期待に応えて来てやったぞ、お前様よ!」




