立ちはだかる触手
エルダープラントと遭遇してからも、最深部を目指して俺達は探索を続けていた。
あれから何度も何度もエルダープラントの末端という触手に襲撃され続け、もはや探索していると呼べるか怪しくはあるのだが……。
今もまた軽い揺れが起きたかと思えば、グラリエさんが大声で警告を発している。
『上だ! 上から来るぞ!』
グラリエさんの宣言通りエルダープラントの触手がヌルっと前方の天井から現れ、こっちに目掛けて勢いよく向かってきた。
俺はそれと同時にエステルを抱きかかえて即座に反転して逃げる。本当に突然出てくるから身構えていても対処ができん!
「うおおぉぉ! 早くあいつにデバフかけろぉぉ!」
「ひぃぃぃぃ! わかってるよぉぉぉぉ!」
マルティナが霧状のデバフをばら撒くと触手はその中に突っ込み、僅かにだが勢いが削がれて弱ったのがわかる。
それを合図に俺が抱きかかえていたエステルが振り向いて触手に攻撃を始めた。
「えいっ! 今よ!」
「うん!」
「任せろ」
最初と同じようにエステルの爆破魔法で触手は仰け反って怯み、その隙に焼き焦げた表面に向かってフリージアの弓とルーナの槍の投擲で遠距離攻撃を加えた。
彼女達の攻撃は脆くなった触手の表面を易々と貫いて大穴をあけたが、エルダープラントは効いている素振りもせずにウネウネとまた天井の中へ戻っていく。
「はぁ……はぁ……退いたみたいだな……」
「はぁ、本当にしつこい触手ね。フリージア達との連携も試してみたけど、あの様子じゃまたすぐ戻ってきそうだわ」
「むぅー、もう何度も触手に穴開けてるのに全然倒せないんだよ!」
「ふむ、貫きはしたが手応えがない。まるで水にでも攻撃してるような気分だ」
「むむむ、何とかしてあの触手を倒しきれないでありましょうか?」
「ステータスアプリにHP表示がなかったからなぁ。ある程度のダメージで一時的に逃げはするけど、多分超再生ですぐ回復して襲ってきてるんだろ」
「末端って表記されていましたからねぇ。ダメージを受けても繋がっている本体から力を供給して回復できるのかもしれません」
うーむ、このままこんな攻防を続けていてもジリ貧だよなぁ。
ある程度ダメージ受けたら触手は壁の中に引っ込んで俺達が手を出せない場所で回復してしまう。
そもそもグラリエさんは同じような気配を複数感じるって言ってたから、触手を倒し切ったとしてもまた別の奴が出てきて徒労に終わる可能性も高い。
そうなると本体を探し出すのが1番手っ取り早い解決方法だよなぁ。
だけど本体を探そうにもあの触手が邪魔をしてくるし、あれに襲われ続けながら上の階層と同じぐらい広そうな場所を探索するのはディメンションホールを使ってもしんどい。
なんとか最小限の探索で本体を探せないだろうか……と思案していると、グラリエさんが気になることを言い出した。
『確かに攻撃を受けた時一際強く異様な力が集まるのを感じる』
「それが来る方向を探知して本体を見つけられないのかしら?」
『ある程度の方向はわかるが正確な位置は掴めない。ただ1つわかることは、大元はかなり遠くにあるということだ。あの触手に力が供給される瞬間に直接触れさえすれば正確な位置もわかりそうだが……』
……むむ? 触手に力が供給される瞬間……つまり超再生を使う時ってことだよな?
その時にグラリエさんが触手に触れていれば本体の場所がわかるとなれば……。
「上の階層みたいに休憩場所があるかもわからないし、奥に進むのは止めて一旦入り口であの触手を迎え撃つか」
「つまり闇雲に本体を探さないで触手を攻撃して致命傷を与えて、エルフのお姉さんに場所を探ってもらうってこと?」
「さすがエステル、その通りだ。あの強さだと遭遇戦のままじゃさっきみたいに逃げ切られるからな。なら上に逃げられる今の場所で待ち伏せして全力であの触手をぶっ叩いて、本体の位置を特定した方が確実だろう?」
「不利な状況だとすぐ撤退して待ち伏せなどを考え付く辺り、大倉さんもさすがですね。実力も付いてきたというのにそういう所は前から変わりませんよね」
「だから俺は慎重派だと言ってるだろうに。安全のためならプライドなんか捨てて、敵前逃亡や騙し討ちするぐらい朝飯前だぜ。最終的に勝てばよかろうなのだよ」
「……前から常々思っていたでありますけど、大倉殿は絶対敵に回したくないタイプでありますよね」
「ふふ、だけどそこがお兄さんのいいところでもあるわよ」
「僕も考え方には賛同するけど、それはいいところなのかい……?」
わざわざ邪魔される中探索なんてせずに本体を探せるなら、それをしない手はないだろう。
問題はあの触手は攻撃を受けるとすぐ逃げてしまう点なのだが……俺達も待ち伏せをするとなれば問題はないだろう。
ケケッ、散々俺達を追いかけ回したり待ち伏せしてくれた分、今度はこっちがお返ししてやらないとな!
さっそく皆で作戦会議をしつつ準備をし、この階層の入り口付近まで戻って触手を待ち構えることにした。
エルダープラントの触手はある程度進まないと襲って来ないみたいで、そこはマルティナのゴースト達を使い誘導をすることに。
釣りやすいようにわざと負の力とやらを派手に発してもらい、挑発するように10体ぐらいまとめて集団行動をさせる。
視界共有でその様子を見ていると、案の定エルダープラントの触手は反応して壁から姿を現した。
それと同時にゴースト達は一斉に反転し、俺達が待ち伏せする場所まで後退する。
視界共有しつつ敵まで釣れるとは、マルティナの能力は本当に役立つなぁ。
エルダープラントの触手が目的地に到達した瞬間、ゴースト達の姿は紫の光に変わりさらに数が増えていく。
そしてすぐにマルティナが大鎌を掲げて高らかに叫んだ。
「いけ、僕の友達よ!」
紫の光は瞬時に黒い骨、メメントモリ3体に姿を変えると盾で突進してくる触手を受け止めた。
逃がさないように前方と左右から挟み込んだメメントモリは濃い紫色のオーラを纏っていて、3体分のデバフを受けた触手は動きがあからさまに鈍くなった。
それに合わせるように近くで待機していたエステルが、グリモワールを開いて黒いオーラを全開にし杖を構える。
「えいっ!」
グリモワールによって3倍強化されたエステルの魔法は、触手を瞬く間に青い炎で包み込んでいく。
悶えるようにウネウネと動こうとしているがメメントモリにがっちりと掴まれて動けず、炎は絡みつくようにどんどんと広がっていく。
だが、エルダープラントの触手は大人しくやられるつもりはないのか、丸まった先端部分が縦にパカっと開いた。
その中は無数の棘が生えていて何やら攻撃するそぶりを見せている。
が、そんな反撃を当然許す訳もなく、同じく待機していたルーナが前に飛び出した。
そして軽くエルダープラントを斬り付けてから後方に飛び退く。
今の行動は固有能力の鮮血公を発動させるためのもので、攻撃を当てた瞬間にルーナの体から赤いオーラが漂っている。
これだけで攻撃力が20%も上昇するんだからぶっ壊れ能力だよなぁ……。
準備が整ったルーナが槍を振り上げて構えると、答えるようにブラドブルグは深紅の光に包まれた。
そして触手の口に目掛け投擲すると、閃光のような一撃は瞬く間もなく棘の生え揃う内部に吸い込まれていく。
壁から生えていたぶっとい1本の蔦はボコボコとあっちこっちが膨らみ、槍が壁際に到達したのか盛大に弾けた。
触手はドスンと音を立てて地面に力なく倒れ、口を開いて力尽きたようにビクビクと痙攣している。
「おぉ……エステルの3倍魔法も凄いけど、1段階強化されたルーナのカズィクルもやばいな……」
「そうね。私の魔法で牽制する必要もなかったかもしれないわ」
「さすがルーナさんです! あの程度の触手など相手になりませんよ!」
「こわぁ……僕あんな攻撃向けられてたんだ……」
『……は、はははは、敵対しないで本当によかったですぅ』
マルティナのデバフとエステルの3倍魔法の後とはいえ、エルダープラントの末端が逃げ出す暇もなく戦闘不能にするとはルーナもめちゃくちゃ強化されているんだなぁ。
それでもまだエスタープラントの触手は倒し切った訳じゃないようで、所々黒い光の粒子を放ちつつも消える様子はない。
しばらくは動く心配はないと思うけどまたいつ超再生するかわかったもんじゃないから、ささっとグラリエさんに触れてもらって力を供給している大元を探ってもらう。
「グラリエさん、どうですか?」
『……力の流れてくる正確な方向がわかった。あなたの持つ地図アプリとやらを見れば案内もできるはずだ』
よし、これで後は本体を叩きに行けばこの迷宮も終わりだな!
最初はどうなることかと思っていたが、グラリエさんのおかげで無事に攻略できそう……と思っていたけど、グラリエさんは難しい顔をしながら話を続けた。
『ただ、どうやら直接本体に繋がっている訳でもなさそうだ』
「どういうことでありますか?」
『途中に巨大な精気が貯まっている場所があり、そこからさらに奥まで繋がっているようだ』
「中継地点みたいな感じかしら。それじゃあそこまで行ってまた同じようなことをして、地道に本体を探すしかなさそうね」
つまり、あの触手の力の供給源は中間の存在を通しているだけで、本体はもっと奥に潜んでるってことか?
だからあの触手は末端って表記されていたんだな……。
そうなると次の目標はその中継地点になってる何かで、今度はそいつから本体に辿ってと……こりゃぁまだまだめんどくさそうだぞ。




