精霊樹の根
先月の28日にコミック版6巻が発売しました!
興味ある方はお読みいただけると嬉しいです!
精霊樹の根にグラリエさんが触れてから起きた大きな揺れ。
間違いなく迷宮の構造変動並みの現象が起きていると思い、注意しながら俺達は探索を続けていたのだが……。
「結局あれから何か変わった様子はありませんね」
「そうね。あれだけ揺れたんだから何か起きたと思っていたけれど……」
あれからしばらく同じように迷宮探索を続けていたが、目に見えるような変化が起きた感じはしない。
ようやく迷宮攻略の糸口になりそうな物を見つけたのに何もなかったせいか、エステル達は浮かない顔で落胆している。
が、地図アプリで迷宮全体を確認していた俺は、まだ確信は持てないけど変化が起きているのを感じ取っていた。
「うーん、何も起きていないって言い切れなさそうだぞ」
「普通に移動していただけでありますけど、何か気が付いたのでありますか?」
「ああ、精霊樹の根があった場所から一定範囲の構造が変わってなくて、あれから地図アプリも初期化されてないんだよ」
「あそこに行ってからも何度か揺れは起きていたわよね。今は私達も離れた場所にいるのに変動が起きていないなんて……」
「偶然という線は捨てきれませんが、グラリエさんがあの精霊樹の根に触れたおかげで変動が収まった可能性がありますね」
『私が精霊樹の力を後押しした影響で、一時的に迷宮からの侵食に抵抗できているのかもしれない。あの根だけではまたすぐに迷宮に押されてしまうだろうが、もし複数の根に力を集中させれば迷宮全体の力を弱められるはずだ』
相変わらず迷宮の変動自体は起きているのだが、精霊樹の根があった方面だけは揺れが起きても全く変化していない。
つまりグラリエさんが精霊樹の根に触れさえすれば、一定範囲内の変動を抑えられるってことだ。
もし同じような場所がまだあるのなら、同様のことをしていけば段々と迷宮が変動していかなくなる可能性はある。
そこに迷宮攻略のヒントを見出した俺達は、さっそく精霊樹の根がありそうな場所を探し始めた。
ただでさえ広大な迷宮なので移動は苦労するのだが、ディメンションホールを有効的に活用して直線的に進んでショートカットしていく。
途中何度かトレントの溜まり場にぶつかりそうになったけど、マルティナのゴーストに先行してもらって回避している。
やっぱりディメンションホールを通して移動しようとすると、空間を無理矢理捻じ曲げているせいで向こう側の気配をフリージア達も感じ取れないようだ。
擬態している魔物は地図アプリでも見つけられないから、この移動方法だと今のところマルティナのゴースト頼りになってしまっている。
本人は役立っていると喜んでいるご様子だが、今後のことも考えたらこの迷宮を探索し終えたら対策を何かしておかないと。
1人の能力頼りにしていたらいつか困る可能性もあるし、他の迷宮を見つけたらまた探索することになりそうだからな。
そう実感しながら2日目まで何の成果も得られなかったことが嘘のような速さで、俺達はどんどん迷宮を探索していく。
トレントの討伐もマルティナとの連携が上手く取れるようになってきたノール達によって一瞬で済んでいた。
最初の精霊樹の根を見つけてから数時間も立たずに、俺達はさらに2つ精霊樹の根を見つけて同様にグラリエさんに触れてもらい迷宮からの侵食に抵抗してもらう。
それに影響されてか構造変動が起きる頻度がかなり減って、既に大部分で地図アプリの初期化が起きなくなっている。
探索済みの部分もわかりやすくなり、雪だるま式に攻略スピードも上がっていく。
それからすぐに4つ目の精霊樹の根がある部屋を発見して入り口までやってきた。
「よし、これで4つ目か。ここもパパっと制圧して精霊樹の根を解放してやろう」
「1つ目を見つけてからはすぐ見つかるようになったねー」
「もう無駄な移動は嫌だ」
「精霊樹の根が抵抗力を上げたおかげで、迷宮構造の変動する頻度も治まってるから楽だわ。地図アプリが初期化される範囲も狭くなってるもの」
「トレントの繁殖力も解放した根のある方面はかなり下がっているでありますね。遭遇する頻度もだいぶ減ったのでありますよ」
精霊樹の根にグラリエさんが触れることで、大元の精霊樹から精気を供給してもらって一時的に迷宮からの侵食を跳ね返しているらしい。
1つの根に集められる力だけじゃその周辺の変動を抑える力しか発揮できないけど、2つ3つと数が増えるごとに迷宮全体にその影響が及び始めていた。
プレデタートレント達も最初に比べて増える数が減ってきているから、遭遇しても何の苦戦もせず殲滅している。
……俺としては数が少ないと魔石取得効率が減るから何とも言えない気分だけど。
という感じで、精霊樹の根を見つけるごとに攻略の難易度が下がっている。
この部屋の精霊樹の根にグラリエさんが触れればさらに攻略しやすくなるはずだ。
2つ目と3つ目は1つ目と同じくトレントの集団が潜伏していた。
だが、4つ目のここは少し様子が違っているみたいで、精霊樹の根に青色のぶっとい蔓が巻き付き壁や地面にも伸びて張り付いている。
まさかあれが待ち伏せしている魔物じゃないだろうなと思いつつ、マルティナのゴーストを先行させてみたのだが……案の定青い蔓が激しく動き出した。
触手のような先端がくぱっと左右に割れると、その中にはびっちりと鋭い牙が生えているのが見える。
地面や壁に張り付いていた蔓もウネウネと動き出して、口を開いた複数の触手が今にも俺達に襲い掛かってきそうだ。
「うおっ!? ここはトレントじゃないのか!?」
「太い蔓が動き出したのでありますよ!」
『あれはシルウァレクトルと同種の魔物だ! 強靭な表皮をしているから注意するんだ!』
シルウァレクトルと同種の魔物だと!? とりあえずステータスを見ておくか!
――――――
●イータープラント 種族:プラント
レベル:75
HP:10万5000
MP:4500
攻撃力:5800
防御力:6000
敏捷:180
魔法耐性:150
固有能力 擬態
スキル 精気吸収 束縛 鋼鉄化
――――――
同種なだけでシルウァレクトルじゃないのか……にしても結構強いぞこいつ!
地図アプリに赤い点は1つしか表示されていないから、恐らく精霊樹の根に巻き付いている蔓が本体ってところだな。
どうやって戦うか考えようとしたのだが、その前にマルティナがゴーストを向かわせてデバフをかけたみたいで、イータープラントの動きが鈍くなっていた。
そこに間髪をいれずにエステルがグリモワールを開きながら掛け声と共に杖を振る。
「えいっ!」
宙に現れた魔法陣から白い霧が噴出すると、向かってきていたイータープラントの触手と本体が丸ごとそれに包まれていく。
霧が晴れるとそこには、カチコチに凍って動かなくなったイータープラントの姿があった。
俺がどう戦うか考える前にあっという間に戦闘不能状態にしてるんですけど。
もう会話もせずにここまでの連携ができるようになっていたとは……この平八の目をもってしても見抜けなかったぞ!
それにしてもなんでわざわざ凍らせたのだろうかと思っていると、俺の疑問に答えるかのようにエステルは頬に手を添えながらグラリエさんに質問をしていた。
「シルウァレクトルってあれと同じような魔物なのね。一応倒さずに凍らせてみたけれど、あれからプルスアルクスって採れたりするの?」
『あっ……いや、見たところ別種で果実を宿してはいないようだが……』
「なら用はなさそうね、えい」
エステルが指パッチンすると同時に、凍っていたイータープラントがパリンと音を立ててバラバラに砕け散った。
それを見ていたノール達は震え上がっている。俺も震え上がっている。
「か、簡単に倒せたからいいでありますけど、容赦ないでありますね……」
「マルティナのおかげで魔法耐性の高い相手にも普通に魔法が通るから楽だわ。3つ目までの沢山トレントがいる部屋の方が処理が面倒だったもの」
「負の力も単体に集中させた方が効果を発揮するからね。僕の前ではあの程度の魔物なら裸同然さ!」
迷宮としては強い中ボス的な立ち位置でイータープラントを配置していそうだけど、数が減った方が楽とか言われて瞬殺されるのは可哀想になってくるな……。
1体だけだったおかげでマルティナのデバフも強烈になっていたみたいだから、魔法耐性をさらに下げられてあんな一瞬で芯まで凍っちまったのか。
もう単体の敵相手だったら俺達は敵なしなのでは?
とりあえずイータープラントを倒して部屋を制圧できたので、グラリエさんが精霊樹の根に触れて精気を集中させていく。
それに呼応するように迷宮が揺れ始めたがすぐに治まり、フリージアの足元で丸まって怯えるマルティナの声だけが響いていた。
「今までで1番凄い揺れでありましたね。また何か変化は起きているのでありますか?」
「……うん? 中央付近の表示が初期化されてるみたいだな」
「つまりそこで変動が起きたのかしら。今までにない変化みたいだから行ってみましょうよ」
「クククッ、盛り上がってきたじゃあないか! ……もう揺れないで」
うーん、地図アプリを見る限りこの迷宮は4区画に分かれていたっぽいから、これで全体の変動は治まった可能性がある。
だけど今の揺れと同時に地図アプリから迷宮の中心部分の表示が消えていた。
つまりそこで何か変化が起きたことになるのだが……。
そんな訳で急いで中心部分に向かってみると、そこには今までなかった穴が開いていた。
覗き込むと真っ暗闇で底が見えないぐらい深く、螺旋状の坂が下へ向かって続いている。
「下に降りる道が出てきたってことか」
「精霊樹の根の影響で隠していた道が現れたってところですかね」
『この先からは精気が一切感じられない。殆ど精気を吸収され精霊樹が完全に迷宮と化しているようだ』
「ここからが本番ってことだね! ワクワクしてきた!」
「くぅー、隠された場所を見つけるっていいね! 冒険している気がしてくるよ!」
「2人でワクワクするな……早くお家に帰りたい」
「楽しみな気持ちもわかる気がするでありますけど、ここからはもっと注意するのでありますよ」
迷宮攻略に向けて順調に進んでいるんだろうけど、真っ暗闇の穴の中に入っていくのはちょっと怖いな……。
一体この先にどんなものが待ち構えているのだろうか。
久しぶりにハクスラゲーをやってみましたがやはり楽しいです。
でもダンジョン探索中に死んで装備全ロスしました……平八達のように上手くはいきませんね。
 




