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モンスターハウス

 休憩を挟みながらの迷宮探索を続け丸2日経過した。

 迷宮内の変動に影響されない最初の休憩場所以外にもいくつか同じような場所を見つけたのだが、探索自体は殆ど進んでいないと言ってもいい。

 変動が起きる度に地図アプリがリセットされるのは想像以上に厄介で、表示範囲に入った休憩場所に行くのすら困難を極めている。

 今もちょうど地震と共に変動が起こり、表示されていた道がリセットされて進んでも行き止まりに変化していた。


「くそっ! また道が変わりやがった!」


「またなのでありますか……」


「ただでさえ回り道が多くて探索するのが大変なのに、目的の場所に着く前に構造が変わるのは辛いわね……」


 地図アプリは自分の通った場所を中心に一定範囲が表示されるから、壁の向こう側にある道や広間もわかる。

 迷宮内を歩き回ったおかげでいくつかまだ行ってない休憩場所を発見できたから向かっているのだが、そこに行く道がウネウネと曲がっていて行くまでかなり遠回りをさせられていた。

 その間に変動が起きて道が変化するもんだから、今みたいにさっきまで広間に繋がっていたはずの道が行き止まりになるのを何度も味わっている。

 それを嘆きながら皆でスマホの画面で地図アプリを確認していると、グラリエさんはある質問を投げかけてきた。


『それにしてもこの魔導具は凄いな。これほど正確に迷宮の内部構造を即座に把握できるとは、今の人間達はこのような魔導具を普通に使っているのか? 敵や味方の位置までわかるとは一体どういう仕組みなんだ……』


「いえ、これを持っているのは私達だけだと思いますよ。他の迷宮で手に入れた物ですから」


『なるほど、他の特殊な魔導具も迷宮で手に入れたという訳か。里にもこの迷宮から出土した魔導具が複数ある。このような物が出てくるとは迷宮は本当に未知の場所だ』


 迷宮探索をするとなればガチャ産アイテムを出し渋る訳にもいかないので、グラリエさんの前でもどんどん使うことは事前に話し合っていた。

 で、今みたいにどこで手に入れたのか聞かれた場合の言い訳として、他の迷宮で手に入れた物だと言えばいいと決めておいたのだ。

 言う必要ありますか? っと突っぱねることもできたけど、協力関係である以上は余計な不信感を与えたくないからな。

 王都の近くにあるハジノ迷宮でも魔導具的な物が落ちるから、この言い訳は誤魔化すのにちょうどいい。

 この精霊樹の迷宮でも手に入るみたいだし、グラリエさんも納得したといったご様子。

 だけどあまり深く聞かれるのもボロが出そうだからか、シスハが自然な形で別の話題に切り替えてくれた。


「これだけ探しても下の層に移動する道などは見当たりませんね。ボス的な存在も今のところ見当たりませんし、どこに向かえばいいのかわからないですよ」


「どこかに最深部があるんだろうけど、このまま闇雲に探していて見つかるのかしらね。未だにこの迷宮の全体像も見えてこないぐらい広いもの。入り口の位置が変更されないのだけは救いよね。地図アプリがなかったら帰ることすら困難な迷宮だわ」


 丸2日探索してわかったことは、まず表示が初期化されない休憩地点が何か所かあること。

 それと同じく入り口付近も変動しないのか、地図アプリの表示がリセットされないからいくら奥に進んでも見失うことはない。

 もし入り口の位置まで変動に巻き込まれていたら、普通にこの迷宮から逃げ帰るのすら困難だっただろう。

 まあ、俺達の場合はガチャ産の脱出装置とかがあるから、一生この中で閉じ込められる心配はないけどさ。


 探索しても初期化によって全く地図が埋まらない現状を歯がゆく思いながらも、とりあえず休憩地点を増やすべくそれっぽい場所をスマホに表示させた地図アプリを見て皆で意見を交わしている。


「おっ、ここにもちょっとした広場があるな。グラリエさん、この地点から精霊樹の気配は感じますか?」


『少し待ってくれ…………ああ、その方向から精霊樹の気配を強く感じる』


「むむむ……あっ、本当だ! 精霊樹の気配を感じるんだよ!」


「ありがとうございます。よし、これで新しい休憩地点を発見できそうだな」


 休憩地点になる変動しない場所の共通点として、その付近から精霊樹の気配を感じるそうだ。

 精霊術を使うグラリエさんは方向や距離さえ分かればある程度感じ取れるそうで、地図アプリで座標を見て距離を伝えて今のように調べてもらっている。

 うーむ、今回もそこそこ距離が離れているし道がウネウネして遠回りになってやがるぞ。

 これまでの傾向からして、向かっている間に確実に1回は変動がくる。


 直線距離ならそんなに離れてないんだけどなぁ。

 壁をぶち壊して進めればいいんだが……あっ、そうだ! あのアイテムがあるじゃあないか!

 さっそく黒い細長の棒をバッグから取り出す。


「また移動している最中に変動したら無駄足になるしこれを使うか」


「おお、ディメンションホールでありますか。でも、迷宮でそれを使えるのでありますか?」


「それは試してみないとわからないけど、ディメンションルームが使えるから使える可能性はあるだろ。間に道もないからこれが使えたら一気にショートカットできるぞ」


 海の洞窟で1度使ったけど迷宮でこれを使うのは初めてだ。

 ガチャ産のアイテムでさえ干渉を拒んでくる迷宮に通用するかわからないが、これが使えるのなら迷宮探索は飛躍的に効率が増すだろう。

 一応休憩場所でディメンションルームが機能するかだけ試して普通に使用できたから、これも使える可能性は高い。

 唾を飲み込み緊張しながら、目的地の方にある壁にディメンションホールを突き刺す。

 以前使った時に比べて少し抵抗感を覚えつつも、棒はズブブッと壁の中へ埋まっていく。

 ある程度突き刺してから手を離してみると……何も変化が起きず棒はただ壁に突き刺さっているだけだ。

 まさか使えないのか!? っと不安が過った瞬間、ゆっくりと棒の真下に縦長の穴が開いて向こう側の景色が見えてきた。

 よ、よかった……刺した時も抵抗感があったし、迷宮だから干渉に時間がかかったのか?

 なんにせよディメンションホールが無事に使えて安心したぞ。


「よし! 向こう側に行く道が開いたぞ!」


「これで移動を大幅に短縮できますね! もう攻略したも同然じゃありませんか!」


「ふむ、楽でいい」


『なにこれ……何をしても傷すら付かない迷宮の壁に穴を開けるって……。それに距離もおかしい! 気配からしてこんな近い場所じゃないでしょ!』


「ふふ、もう私達の使うアイテムが普通じゃないってわかったでしょ。これから何が来ても驚かないぐらいじゃないと持たないわ」


『ま、まだ何か持っているんですか……。あなた達は本当に何者なんですか……』


 グラリエさんは得体の知れない物を見る目でディメンションホールで開いた穴を見ている。

 いくら迷宮から魔導具を手に入れたと言っていても、こんなのがポンポンと出てきたら驚くよなぁ。

 目的地まで貫いた穴は空間を縮めているのか1歩分の距離しかないから、グラリエさんは自分の感じている位置と違い過ぎて混乱してるんだな。

 とにかく目的地である休憩場所はすぐ目の前、フリージアは喜々としてディメンションホールの穴に飛び込もうとしていた。


「わー、これ便利だよね! さっそく行ってみよ――」


「待って!」


「わわっ!? ど、どうしたのマルティナちゃん?」


 穴に入ろうとしたフリージアの前に、必死な形相でマルティナが滑り込んで制止をかける。

 あんな必死になって止めるなんてどうしたんだろうか。

 俺達が首を傾げていると、マルティナはあることを訴えかけてきた。


「先に僕の友達に調べさせてもらってもいいかな? 何か嫌な予感がするんだ」


「うん? それは構わないけど……何か気配を感じるのか?」


「いや、そういう訳じゃないんだけどね……」


「うーん、私も魔物の気配とかは感じないかな。でもマルティナちゃんが言うなら何かあるかもしれないんだよー」


 地図アプリで目的地を確認しても赤点はないし、フリージアも穴の向こう側をジッと見ているけど魔物が隠れている感じじゃない。

 でもマルティナは妙な危機察知能力を持っているから、その予感とやらもあれだけ必死になる確信がありそうだ。

 別に急いで入る必要もないので、提案を受け入れてマルティナの友達であるゴーストを向かわせる。


 そしてゴーストが穴を通って向こう側に入った瞬間、天井や地面や左右の壁からとんでもない数のイーターとプレデタートレントがボコボコと飛び出してきた。


「うおっ!? めちゃくちゃトレントが出てきやがったぞ!」


「早く閉めるのでありますよ! この数はやばいであります!」


 マルティナのゴーストを呼び戻してから、急いで壁に突き刺していたディメンションホールを引き抜いて穴を閉じた。

 地図アプリを見ると目的地だった広間は赤い点で埋め尽くされていて、おびただしい数のトレント達があの場にいるようだ。

 さすがにあの数のトレントが急に飛び出してくるのを見たからか、エステル達ですら青い顔をしながらも安堵している。


「あのまま入っていたらさすがに危なかったわね……」


「ある意味罠部屋でしたね……。フリージアさん達が気配を感じなかったのはどういうことでしょうか?」


「ディメンションホール越しだと気配を感じないのか、それとも別の理由があるのかわからないな。とにかく助かったぞ」


「クククッ、僕の勘も捨てたもんじゃないね」


「凄いんだよマルティナちゃん! 私は全く分からなかったもん!」


「待ち伏せされている時とあそこの雰囲気が似てたんだ。そういう所を通る時はいつも友達に先行してもらってたからさ。僕の経験が役に立ってよかったよ」


 マルティナは眩しい笑顔を浮かべて役立ったことを喜んでいるようだが、その話を聞いてエステル達は何とも言えない気まずい雰囲気をしていた。

 ある意味その経験のおかげで助かったのだが、あれを察知できるほどの待ち伏せってこいつはホントどういう生活を送ってきたんだよ……。


 とりあえずトレントの襲撃を回避した俺達は、目的地から少し離れた道にディメンションホールで移動。

 壁を貫通して最短距離を進めるからって、警戒もせず向こう側に行くのは危険だと学びを得た。

 今回みたいに待ち伏せされて敵のど真ん中に出ちゃう可能性もあるから、今後は入る前に十分注意しないとな。


 その後、目的地の近くまで移動してから道にエステルが魔法でトラップを仕掛け、マルティナがゴーストを飛ばして広間内に溢れかえっているトレント達を釣ってくる。

 マルティナのゴーストは偵察だけじゃなくて、ある程度強い魔物ならおびき寄せることもできるからかなり便利だな。

 エステルの用意したトラップは彼女の自由なタイミングで細長いレーザーみたいな光を出す魔法で、トレント達が来た瞬間蜘蛛の巣のようにそれを張り巡らせてバラバラに切断し処理するものだ。

 あっという間におびき寄せられたトレントはサイコロステーキの如くバラバラになって消滅していく。

 それを繰り返していき簡単に広間にいたトレント達は全滅した。


「うひょひょ、こりゃ待ち伏せ部屋も悪くないな! 今のだけで30個以上魔石が手に入ったぞ!」


「喜ぶのは良いでありますけど、最低でもイーターとプレデタートレントが30体以上いたってことでありますよね……」


「逆に私達が待ち構えられたから問題なかったけれど、まともに戦ったらちょっと危ない数だわ」


「希少種だけあってそれなりに強いですし、数の暴力は恐ろしいですからね」


 いやぁー、まともに相手をしていたら脅威なんてもんじゃないけど、こっちが待ち伏せする分には楽に倒せるからああいう罠部屋はありがたいな。

 おかげさまで魔石がウハウハだぜ! ……まあ、引っかかった場合は絶望しかないから進んで罠部屋に行くのは止めよう。


 トレントを一掃してから目的地だった広間に入ると、そこには壁から飛び出した巨大な木の根が壁から飛び出していた。

 さっきディメンションホールで穴を開けた時は位置的に見えなかったみたいだ。

 グラリエさんはその木の根を神妙な面持ちでじっと見つめている。


『あの根からは一際強い精霊樹の気配を感じる。迷宮からの侵食に強く反発しているようだ。あそこから干渉すればこの迷宮に何か影響を及ぼせるかもしれない』


「何か迷宮を攻略するためのきっかけになりそうでありますね」


「そうだな。グラリエさん、お願いしてもいいですか?」


『上手くできるかわからないがやってみよう』


 ここまで休憩場所しか発見できなかったけど、ようやく何かありそうな場所を発見できたぞ。

 グラリエさんは木の根に近づいて手を触れながら目を閉じ、しばらくそのままじっとしている。

 するとそれに合わせるようゴゴゴッと地響き鳴り始め、今まで以上に大きな揺れが発生。

 だが、その揺れはすぐに治まって何事もなかったかのように辺りは静かになる。


「あばばばば……この迷宮揺れ過ぎだぁぁ……」


「マルティナちゃん大丈夫? 凄い揺れだったんだよー。平八、何か変化あったの?」


「うーん、今のところ地図アプリに変化はないな」


「もう少し様子を見てみないとわからなそうね。他にも同じような場所がないか探してみましょうよ」


 目に見える変化はなかったけど、あれだけ揺れたとなれば何かしら意味があるに違いない。

 これがこの迷宮攻略のきっかけになってくれればいいのだが……。

今週の10月28日に漫画版6巻が発売になりますのでよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとう [気になる点] 2日間もディメンションホールを忘れてたこと [一言] マルティナ、キャラ盛り過ぎw いや……これ位、他のメンツも大概だったわ
[一言] この迷宮、平八達でもこれだけ苦戦するとか鬼畜ですね。モンスターハウスで戦う姿も見てみたいですね(笑)超近接戦闘だと、フリージアは前にガチャで出たガンソード使うのかしら?ノールと息の合った(妄…
[良い点] つまり『通り抜けフープ』ですな(笑) グラリエさん、彼が何者かって? 色々な道具を出してくれる平八えもんです!(笑) [一言] くすん、拙者は地図を見ても迷子になりやすい方向オンチなのでご…
2021/10/27 12:39 にゃんこ聖拳
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