精霊樹の迷宮
今月10月28日にコミカライズ版6巻が発売となります!
是非お読みいただけると嬉しいです!
活動報告の方にまたSSを投稿しましたので、詳細は後書きをご確認ください。
イータートレントを倒しながら精霊樹へ続く暗いトンネルを進んでいたのだが、途中で見えない何かに入った違和感を覚えつつ光る精霊石がちらほらと見受けられるようになった。
さっきまで大量にいたイータートレント達の姿もなく、グラリエさんに聞くと精霊樹の結界内に入ったみたいでここはまだ迷宮に侵食されていないようだ。
そのままトンネルを抜けると、そこはさっきまでと打って変わって緑溢れる森の中。
その中心には見上げるほど巨大な木がそびえ立ち圧倒的存在感を放っている。
青い葉で覆われた巨木が渦巻き状になった無数の根で支えられ、生命力が溢れているのが伝わってくるかのようだ。
『あれがこの森の中心を担っている精霊樹だ。広範囲に渡り根を張り巡らせ森を守っている』
グラリエさんは胸を張り誇らしげな顔で精霊樹を見て、どこか安堵している様子だ。
ここに来るまで森はめちゃくちゃになっていたけど、精霊樹はまだ無事だったから安心したのかな。
ノール達も巨大な精霊樹を見て感嘆の声を上げていた。
「あんな大きな木初めて見たのでありますよ! グランディスの比じゃないでありますね」
「そうね。私も前から興味はあったけれど見るのは初めてだわ。まさかこの世界で見ることになるなんてね」
「精霊樹がどこにあるかなんて調べてもわかりませんもんね。エルフの案内でもなければ見つかりませんし、普通は外部の者に案内はしませんから」
「とりあえず精霊樹はまだ無事みたいでよかったな」
そう俺も安心していたのだが、いつも真っ先に騒ぎだしそうなフリージアは難しい顔をして否定してきた。
「ううん、平八。あの精霊樹元気がないんだよ」
「地上は穏やかだけど妙な雰囲気がするね。地面の下から何か伸びてる気配があるよ」
『表面上見える部分はまだ侵食されていないようだ。だが、地面の下の根から精気を吸収し始めている』
「ふむ、なら迷宮は地面の下か?」
『いや、迷宮はもう少し離れた場所だ。精霊樹の根の一部に迷宮が出現し、あの一帯を私達は失われた森と呼んでいる』
俺の目には何の問題もなさそうに見えたけど、フリージアやマルティナ達は見破る力があるからか、精霊樹の根本が弱ってるのがわかるのか。
グラリエさんも精霊樹が深刻な状態になっていないのに安心しただけで、弱りつつあるのはわかっているみたいだ。
念のため精霊樹の状態を確認してから、俺達は迷宮があるという失われた森へと向かった。
精霊樹の根が伸びる方向へ進んでいき、結界の範囲外に出るとやはり他の場所と同じように草木が枯れ果てている。
しかしただ枯れ果てているだけじゃなくて、枯れ木は黒く染まっていて異様な雰囲気が漂っていた。
『精霊樹の方は破られた形跡はないが、やはり迷宮にあった結界は消失しているか……。失われた森の領域も広がっているようだ』
「今までも森が枯れていたけど、ここはちょっと様子が違うな」
「魔物が増えるかと思ったでありますが、逆にトレントが見当たらないでありますね」
「……友達に調べてもらったけど、近くにトレントは全くいないみたいだよ」
「迷宮に近い場所は外に魔物を出さないで中に溜め込んでるのかも。まるで迷宮自体が意思を持っているようだわ」
あれだけいたイータートレントが迷宮周辺には全くいないのは逆に不気味だな。
まるで迷宮に入って来てくださいと言わんばかりじゃないか。
何の妨害もされずグラリエさんの案内で進んでいくと、枯れ木すらなくなって開けた場所に出てきた。
そこにはまた巨木がそびえ立っていたのだが、見た目はさっきの精霊樹に似ていて全体が黒く染まっている。
さらには根本に中に入れるような巨大な穴が開いていた。
「なんだ? また精霊樹みたいなのがあるぞ」
「さっきの精霊樹に比べて小さいでありますが、真っ黒でなんか不気味でありますな」
『あれが精霊樹に憑りついた忌々しい迷宮の一部だ。あの地下に巨大な迷宮が形成されている』
あの黒い精霊樹が迷宮の入り口になっているとは……ホント迷宮ってどうやってでき上がるのか謎の存在だな。
警戒しつつも迷宮内に足を踏み入れ緩やかな坂の地下へ進むと、いつもと同じように中は緑色の光で照らされていた。
だが、地面や壁や階段などは木造のようになっていて、ここが木の内部なんだと実感させられる。
うーむ、迷宮だとしても木で出来ているなら壊せそうじゃ――。
「えい」
グリモワールを開いたエステルが突然壁に向かって火の球を放った。
軽く迷宮内が揺れる程の衝撃と爆発音がしたが、煙が晴れると壁は傷1つ付いていない。
「ダメね、ただの木のように見えるけど魔法抵抗が高過ぎるし吸収もされるわ。これを壊して進むのは無理そうね」
「いきなり物騒なことし始めないでほしいのでありますよ。まるで大倉殿なのであります」
「ふふ、お兄さんだったら絶対にこういう時破壊するか試すじゃない。だから先にやってみたのよ」
そう言いながらエステルは頬に片手を添え微笑みながら俺の方を見てきたので、何となく軽く頭を撫でておいた。
完全に思考を読まれているんですが……エステルさんはやはり恐ろしい。
にしてもやっぱり木造でも迷宮に違いないから、無理矢理破壊して突破するのは無理そうだなぁ。
結局正攻法で攻略するしかないみたいで、大人しく迷宮の探索を再開した。
地図アプリで見たところこの迷宮はかなりの大きさなのか、未だに全体像が見えてこない。
マルティナのゴースト達にも探索させているのだが……。
「マルティナ、そっちは何か見つかったか?」
「ううん、まだ目ぼしいものは見つからないね。友達が壁を通り抜けられないんだけど……この迷宮ってホント不思議な場所なんだね」
まさかゴースト対策までされているとは……こりゃ地道に地図アプリを見ながら進む先を探すしかなさそうだな。
そうやって探索している間にも、当然ながら魔物が襲ってきて何度も交戦していた。
ここに出てくるのは見た目がイータートレントなのだが、色が黒くて動きがさらに速いプレデタートレントという魔物だ。
――――――
●プレデタートレント 種族:トレント
レベル:75
HP:3万5000
MP:3000
攻撃力:3700
防御力:2300
敏捷:150
魔法耐性:90
固有能力 擬態
スキル 精気吸収 挿し木 播種
――――――
攻撃した部分の体がバラバラになって、中にある種がばら撒かれて迷宮の地面や壁に当たると、一気に種がイータートレントに成長して増えていく。
体の一部を突き刺して勝手に増えてもいくし、最初はこいつ1体しかいなかったのが倒し終わる頃には10体ぐらいのイータートレントの相手をさせられてしまう。
エステルの高威力の魔法かマルティナのデバフを入れてから一気に倒さないと延々と増えていく。
だから下手に攻撃できずにいたのだが、攻撃しないならしないで挿し木で勝手に増え始めるから放置もできない。
「やはりここにもトレントがいるんですね。外にいたのよりさらに厄介ですよあれ」
「むー、私の弓もあんまり効かないんだよー。バラバラにしても増えるんだもん!」
「前にも同じようなのと戦った。あれよりたちが悪い」
『外にいた魔物もそうだったが、迷宮内の魔物も私達が前に来たより強力になっているようだ。私達ではとても太刀打ちできない強さだ……』
そういえば海の洞窟でも同じように分裂する魔物と戦ったっけ。
だけどプレデタートレントはさらに上を行く厄介さ。戦闘にならないと増え始めないのだけは救いだぞ。
精気を吸って成長と分裂をしているみたいだから、この異常な速さの増え方はこの迷宮周辺だけなのかもなぁ。
……こいつら全部希少種扱いで魔石が手に入るから、リスクはあるものの俺としては結構嬉しいんだけどさ。
やはり捕獲して是非ともどこかで栽培してみたいが……ぐぬぬ、我慢しておこう。
そんな邪念を抱いていると、突然ゴゴゴと地響きが鳴り出して足元が揺れだした。
「な、なんだこの音!?」
「全体が揺れているのであります!」
「わー!? 崩れちゃうんだよ!」
倒れる程ではないが激しい揺れに、全員その場で固まって周囲の警戒をする。
が、しばらくすると何事もなかったかのように揺れは治まり迷宮内は静かになった。
「……治まったみたいね。何だったのかしら?」
「巨大な魔物が移動でもしたのでしょうか? 迷宮なら崩落はしないでしょうが、凄まじい揺れ方でしたね。誰も怪我などは……あれ、マルティナさんはどこに?」
「あそこだ」
ルーナが指差した先を見ると、マルティナが壁際で跪いて丸まりローブを頭から被って震えていた。
「何してるんだよ……」
「ぼぼぼ、ぼ、僕、揺れるのは苦手なんだ……。小屋が崩れて潰された思い出が……うっ」
「ホントどんな経験してきたのよこの子……」
「全く、これで迷宮探索なんてやっていけるんですかねぇ」
「あははははー、平気だよマルティナちゃん! 私達がいるから怖くないよ!」
暗殺者に狙われたり、崩れた小屋に潰されたりって……こいつは不幸属性でも付いているのだろうか。
涙目になりながらフリージアと手を繋いでマルティナが落ち着くと、グラリエさんが気になることを言い出した。
『今の揺れは迷宮の構造が変化したのが原因だろう。内部構造が変わるのは知っていたが、内部にいる時に遭遇するのは初めてだ』
「えっ……あっ、迷宮の地図がさっきと違うぞ!?」
地図アプリを見ると俺達が通って来た離れた場所の構造がガラリと変わっていた。
さっきまで通れた道が塞がっていて、代わりに別の場所に繋がる道が増えていたり、広間だったところも小さくなっていたりと全く別物だ。
「探索している間にも変化していくって、迷宮は一筋縄じゃいかないようね」
「これだとディメンションルームを使って休憩しても、外に出たら全く別の場所になっている可能性もある訳ですか。地味に厄介そうですよ」
「ディメンションルームが使えないと私が死んでしまう。ベッドで寝たい」
どれぐらいの頻度で内部構造が変わるのかわからないけど、これじゃ下手にディメンションルームは使えないな。
安全だと思って壁に突き刺して部屋を作っても、出てきた時に危険地帯になっている可能性もある。
地図アプリをよく確認して、この迷宮がどんな風に変動するか見極めるまではテントを使って野営するしかなさそうだな。
……はあ、やっぱり迷宮は簡単に攻略させてくれそうにないな。
前書きにも書きましたが10月28日にコミカライズ版6巻が発売しますのでよろしくお願いいたします!
それとまた活動報告の方にSSを投稿いたしました。
前回お読みいただけた方がいましたので、掲示板回の続きを書いてみました。
注意書きを確認してからお読みいただけると幸いです。




