迷宮に向けて
森のトレント討伐を始めてから数日経過して、今日も戦いを終えてエルフの里へ戻ってきた。
この数日間で数えきれないトレントを倒し、さらにはグランディスも15体倒している。
今の俺達なら簡単に倒せはするけど、あんな魔物がその辺にポンポンといる現状に不安が募っていく。
「ふー、マジで今回の異変はとんでもないな……」
「グランディスがあんなにいるなんて思わなかったわ。異変が進行するとこんな事態に発展するのね」
「もし異変が最後まで進んだらどうなるのでありましょうか。マリグナントの狙いはそれだったのでありますかね?」
「ロクでもないことには違いありませんよ。その内グランディス以上の魔物が出てきそうですね」
「面倒だ……さっさと迷宮を潰そう」
今までは異変が起きて比較的素早く対処できていたけど、今回はかなり進行した状況だと思う。
エルフの里と迷宮は結構離れているらしいのにここまで魔物がいるとなると、精霊樹のある場所は一体どうなっているのか。
グラリエさんですら精霊術を使っても、精霊樹の付近は侵食の影響で近づけなくて現状把握ができていないそうだ。
迷宮の中もどうなっているかわからないし、今回はかなり気を引き締めて挑まなくちゃならないな。
そう懸念を話し合っていると、話に置いてけぼり気味だったマルティナが質問をしてきた。
「そんな異変が起きる迷宮って何なのさ?」
「それを俺達に聞かれてもなぁ……。攻略するとスマホで報酬を貰えるのだけはわかってるぞ」
「じゃあそれと関係があるってなのかな? そもそもそのスマホって何なんだい?」
「……知らん。この世界に来る前から俺が持ってた物がいつの間にかこうなってた」
「一応少し調べてはみたけれど、魔導具と似た物になっているわね。どうやって作ったのかまるでわからないわ」
迷宮のこともだけど、達成して報酬が貰えるこのスマホもよくわからないよな。
異変を解決したりしても報酬が貰えるのは、一体何を基準に判断しているのだろうか。
表記とかないしゲームで言う隠しクエストみたいなもんなのかねぇ。
くっ、わかればそれを狙って積極的に解決、報酬ウハウハ状態になるのにさ。
そう考えながらもグラリエさんと今後のことについて話し合うのを待っている間、フリージアが里のエルフと戯れているのを眺めていた。
子供のエルフが複数人フリージアの周りに集まって声をかけている。
「お姉ちゃん! 弓を使ってるの見せて!」
「うん! いいよ! 一緒に遊ぼっか!」
「やったー!」
里に泊まりもしてないのに、行き帰りに立ち寄る短い時間でもうフリージアは子供達と仲良くなっているようだ。
俺達が近くにいると子供達は寄ってこないけど、離れるとすぐにああやって声をかけている。
「フリージアの奴すっかりと馴染んでやがるな。やっぱり同族だからか?」
「むー、どうでありましょうか。フリージアだからすぐ打ち解けたのかもしれないのでありますよ」
「それもあるでしょうけど、エルフ同士っていうのは大きいと思うわ。ノールだって同じぐらい接しやすいと思うけど、明らかに私達とフリージアで態度が違うもの」
「初対面だと種族の差っていうのはかなり大事な要素ですからね。まあ、私達もトレントを倒しているおかげか、最初の頃より警戒心は減っているようですが。ここまで警戒されるとは、人間からどんな仕打ちを受けたんですかねぇ」
グラリエさんや護衛のエルフ達からは声をかけられるけど、未だに里の住民達から声をかけられたことがないからなぁ。
敵視するような視線とかはなくなったが、目を合わせるとビクッとして逃げて行ってしまう。
ここまで人を恐れるとは一体何をされてきたんだか。
でも、子供のエルフ達は実際に人間に会ったことがなさそうなのに、それでも恐れている感じがするのは話で何か聞いているって感じかな。
エルフ達の様子を見てか、マルティナは遠くを眺めるような目をしながらなんか言い出した。
「少し追い回されただけでも、相手を信頼できなくなるものですよ。僕も殆ど人の町に近寄れなくなりました……」
「うむ、わかる。私も人の町には近づかなかった。元々外に出ないが」
「あー、ルーナ達も神官とかに追いかけ回されたんだっけか」
「ククッ、僕は神官以外にも追いかけ回されたよ。暗殺者みたいなのにも狙われたもん……」
「そんな相手を送り込まれるって、一体何をしたのでありますか?」
「ちょっと色々とあったんですよ……」
神官はわかるけど暗殺者って……ちょっと何かあったとかいうレベルの話じゃないと思うんだが。
マルティナのどよーんとした暗い空気にこれ以上聞けず、ノール達も何かを察したのか黙り込む。
なんとも言えない空気になっていると、ちょうどいいところにグラリエさんがやってきた。
「すまないな。里の皆もまだあなた方に慣れていないようだ」
「いえ、仕方がありませんよ。フリージアだけでも親しくして貰えるならありがたいです。あいつ人の町ではあんな気軽に出歩かせてませんから」
「それは良い判断をしているな。今はどうなっているのかわからないが、昔なら正体が露見すれば大変なことになった。下手をすれば王国騎士団も出張ってくるだろう」
「王国騎士団ですか……グラリエさん達は見たこととかあるんですか?」
「これも200年前の話ではあるが、騎士団が魔人と戦っているのを見たことがある。グランディス程度なら軽く倒せる実力者達だった」
「あら、それじゃあ私達と同じぐらいかしら? 魔人と戦えるのならかなりの強さよね」
「……あなた達は軽く倒すどころか、草花を摘み取るような感覚で倒してるから論外だ。その時戦っていた魔人もマリグナント程の強さではなかった。今も生き残っているのは魔人の中でもかなり力を持った者達のはずだ」
うーん、つまり王国騎士団とやらは俺達ほどの強さじゃないってことなのか?
それでもグランディスを軽く倒して魔人の相手もできるなら、俺達が今までこの世界で見たことのない実力者に違いない。
もしそんな相手に目を付けられたら堪ったもんじゃないし、フリージア達の存在はできるだけ隠した方がいいな。
それにしてもグラリエさんは、魔人に関しての知識もそれなりにあるみたいだ。
マリグナントから言質は取れているけど、仲間がいる可能性があるかどうか聞いてみよう。
今回の異変もマリグナントだけが起こしたとも限らないしな。
「マリグナントから仲間がいそうな発言を引き出したんですけど、グラリエさんは魔人の生き残りが他にもいると思いますか?」
「当然いるだろうな。あの戦争の終結も魔人の国が陥落し滅んだだけで、魔人が全滅した訳じゃない。だから戦争が終わった後も人間達は、生き延びた魔人を探して討伐していた。魔人は国を守らずにバラバラに戦っていたのも多かったらしい。奴らは元々仲間意識もそこまで高くなく、よく国を作れたと思っていたぐらいだ」
「いくら個人が強くても戦争だとあまり意味がないでありますからね。仲間との連携は重要なのであります。あれだけ強い魔人が戦争で負けたのも納得なのでありますよ」
俺もよく魔人との戦争で勝てたなと思っていたけど、そういう理由があったのか。
個々が好き勝手戦っていたせいで、自分達がやられる前に国が陥落して滅ぼされたとは……それならかなりの数の生き残りが各地に散っていそうだ。
マリグナントみたいな奴が多いんだったら、そりゃ協力して戦う姿も想像できない。
多分戦争が終わった後も各個撃破されて本当の全滅に近づいた感じだろう。
俺達とマリグナントが戦った時に、他に1人でも魔人がいたらどうなっていたか……。
魔人の話が終わると、グラリエさんは改まって今後の方針を切り出し始めた。
「あなた方が周辺のトレント達を倒してくれたおかげで里の結界も安定してきた。そろそろ迷宮に向かってもよさそうだ。申し訳ないが異変が完全に鎮まるまでは手伝ってもらいたい」
「当然そのつもりなので安心してください。迷宮を見つけたなら攻略しないなんてあり得ませんので!」
「……お兄さん、私達がここに来た目的がシルウァレクトルだってことを忘れないでね」
「あっ……わ、忘れてなんてないぞ! 当たり前じゃあないか!」
「完全に忘れていたでありますね。これだから大倉殿は……」
いかんいかん! 迷宮と聞いてすっかりそっちに考えが染まってしまった。
迷宮をクリアすれば魔石とアイテムも貰えて、ガチャのイベントまで来る可能性があるからな。
神魔硬貨を手に入れるのも重要な目的だ。話からして明日には迷宮攻略に向けて動き出しそうだし、しっかり準備をしておこう。
思いついてさらっと書いた小ネタです。
――――
「うーん、やっぱり俺の戦闘姿は不審者なのだろうか……」
今まで俺の戦闘時の姿を見て沢山の人から不審者と言われてきた。
実際に自分の部屋の鏡で改めて見てみると、確かにどこからどう見ても立派な不審者だ。
全身ゴツゴツの黒い鎧、同じ色の一本角の付いたフルフェイス、その上には帽子を着用。
肩には半球状の水晶、古ぼけたボロ布を纏い、両手には手袋に腕カバー、足はスニーカー。
極め付きには黄金に輝くバールのような物に鍋の蓋。
……我ながら本当にやばい奴だな。俺もそろそろ見た目を気にした方がいいのだろうか。
でも、性能的にこれが一番いいんだよなぁ……と、悩んでいたら、マルティナが突然現れた。
「ククッ、どうやらお困りのようだね」
「マルティナ!? いつの間に入って来たんだ!」
「服装のことでお困りなら僕にお任せだよ! 僕のようなカッコいい姿にチェンジさせてあげよう!」
「遠慮しておきます」
「なんでさ!?」
マルティナに任せたら間違いなく中二的な姿にさせられる。
だが、こいつのセンスはある意味俺のロマン心をくすぐられる部分もあった。
ここはひとつ任せてみるのもありなんじゃないだろうか。
そう思って任せてみたところ……銀色の鎧と黒いマントを着用したり、軍服のような物を着たりと色々と試してみた。
「いやー、俺にはあんまり似合わないなぁ。それに全部派手過ぎるぞ」
「僕からしたらまだ地味過ぎるね。腕に銀の腕輪とか巻くとかさ。武器や盾も立派なやつにしようよ」
「俺もそうしたいんだけど、今の装備が1番強いからなぁー」
「ちっち、甘いね。性能だけで装備を選ぶなんて安直だよ。見た目も同じぐらい気にしないと!」
そうなんだけど見た目よりも性能派の俺としては悩ましいところだ。
と、マルティナと議論していると、ギギギっと扉が開く音が聞こえてきた。
「あら、2人で随分と楽しそうなことしているのね」
振り向くとそこには、満面の笑みを浮かべるエステルさんの姿が。
ひぃ!? どうしてエステルさんがここに!?
「ふふ、お兄さんの着せ替えと聞いて来ちゃった」
「い、一体誰から聞いてきたんだよ……」
「お兄さんの部屋で起きていることを私が把握してない訳ないでしょ」
「えっ、何それ怖い」
「僕達以外誰もいなかったのに……監視されているのでは?」
「マルティナ、余計な詮索は誰も幸せにならないの、ね?」
「は、はい!」
突然真顔になったエステルに脅されてマルティナは青い顔になっている。
……まさか本当に俺の部屋って監視されてるんじゃないよな?




