冒険者マルティナ?
「マルティナちゃんこれで遊ぼうよ! 私の部屋行こう!」
「う、うん、いいよ」
フリージアはボードゲームを持ちながら、マルティナの手を引いて自分の部屋へ連れて行った。
そんな様子をエステルやノールは微笑ましそうに見送っている。
「ふふ、あの子達すっかり仲よしね。フリージアもいい遊び相手が出来てよかったじゃない」
「そうでありますなぁ。けど、マルティナが私と話す時妙に畏まるのは何なのでありますかね?」
「お前に憧れているみたいだぞ。正確には騎士に憧れているって話だが」
「えっ、そうなのでありますか! むふふ、照れちゃうでありますね!」
召喚してから数日経過し、マルティナもここでの生活に慣れてきたようだ。
ノールに対しては尊敬混じりに接していて、騎士としての話を聞いて凄く喜んでいた。
狩りの際にはエステルに色々と魔法を見せてもらって凄く興奮していた。
マルティナも魔力があるから魔法は使えるはずだが、教えてくれる人もいなくて全く使えないらしい。
そこでエステルが魔法を教えると言ってくれ、さらにはノールが近接戦闘に関して指導するとも言い出した。
そんなこんなでノール、エステル、ルーナ、フリージアと関係は良好なのだが……強情な神官様だけはそうはいかなかった。
今も頬杖を突いてブスッとしながら、酒瓶を片手で持ってがぶ飲みしている。
こいつがこんな飲み方するなんて、相当ご機嫌斜めみたいだな。
「ルーナも仲よくしてるみたいだし、シスハもそろそろ普通に接してやったらどうだ?」
「……そういう訳にもいきませんよ。ルーナさんが許しているんだから問題はないのはわかります。ですが、頭でわかっていても受け入れられないこともあるんです。マルティナさんだって私に苦手意識も持っているでしょうし、お互いもう少し時間が必要ですよ」
「シスハならすぐに受け入れると思っていたけど、意外とそうもいかないのね」
「エステルさん、想像してみてください。実際は無傷で済むとしても、目の前で大倉さんを同じように倒されていたらどう思いますか?」
「シスハの言い分はよくわかったわ。自分の気持ちに整理がつくまで今のままでいいと思うわよ」
「怖いぐらいの即答でありますね……」
話しながらもエステルは俺に近づいてきて、そのまま膝の上に乗っかってうんうんと頷いている。
最近はもう口で言わずにこうやって接触してくるのが多い。
というか、もはや普通になり過ぎて俺も深く考えずに受け入れちまっているぞ。
今の話でシスハの心中を察した……どころか、完全に同調しているようだな。
うーむ、こればかりは実際に経験してみないとよくわからない。
痛みはあるとしても、怪我を実際にする訳でもなかったんだし……まあ、俺もルーナを目の前でやられてモヤっとした気持ちは抱いた。
ルーナを溺愛しているシスハからしたら、やられた本人以上にショックを受けているのかもしれないな。
それにマルティナ側もフルボッコにされた恐怖が抜けていないみたいだし、しばらく距離を置いて正解か。
何だかんだ相手のことも考えているんだから、シスハも心の底から嫌っている訳ではないんだろう。
「マルティナの実力は大体把握できたし、俺達との連携も悪くなさそうだな」
「ええ、普段の狩りじゃデバフはあまり使わなそうだけど、強敵が相手の場合はいてくれたら凄く頼もしいわ」
「癪ですけど実力は本物ですからね。アンデッドを使えば守りもさらに硬くなりますから、大倉さんも前に出やすくなりますよ」
「うっ……タンク役には大体慣れてきたけど、前に出て戦うのはちょっとなぁ」
「何情けないこと言ってるんでありますか。これからは私とルーナと一緒に前に出るのでありますよ!」
「プレッシャーかかること言うんじゃあない。てかマルティナの方が俺より強いんじゃね?」
「アンデッドとデバフ込みならそうですけど、純粋な近接戦闘なら大倉さんじゃないですかね。エクスカリバールもありますし」
いやぁー、アンデッドとデバフ抜きでもマルティナと戦って勝てる気がしないぞ。
UR装備込みでごり押しなら何とかなりそうだが……やはりURユニットと俺では地力が違い過ぎる。
あの大鎌で首を刈り取られる姿しか想像できん。って、これは関係ない話だな。
「それはいいとしてだよ。マルティナを冒険者として登録しようか迷ってるんだがどう思う?」
「何! 僕を冒険者にしてくれるのか!」
「えー! いいないいな! 私も冒険者になりたいのに!」
フリージアとマルティナがタイミングよく居間に来たのか、2人してグイグイと話に加わってきた。
特にマルティナは机に手を突いて、目と鼻の先まで俺に顔を近づけて瞳を輝かせて興奮している。
「なあなあ! 本当に僕を冒険者にしてくれるのかい!」
「近い近い! まだ悩んでる最中だっての!」
「何を悩む必要があるんだ! 今すぐにでも冒険者になって構わないよ!」
ここまで冒険者に食いついてくるとはどういう理由だ?
エステル達もマルティナの異様な食いつきに首を傾げている。
「どうしてそんなに冒険者になりたいのかしら?」
「クックック、そんなの決まっているじゃあないか! 僕の実力なら、颯爽と現れた謎の美少女最強死霊術師として騒がれるに違いない! 瞬く間に最高ランクになってみせるよ! あっ……でも沢山の人に注目されると恥ずかしいかも」
「自分で謎の美少女最強死霊術師とか言い出したぞ……」
「随分と想像力が豊かな子なのね」
「はぁ、自信過剰なのも考え物ですね。もう少し謙虚な心構えを持ってほしいものです」
「それをシスハが言うのでありますか……」
「シスハちゃんもマルティナちゃんと似てるところあるよねー」
マルティナはシスハに負けず劣らずの自信家だな。
まあ、少しは恥じらいを持っているようだが。
だが、本人が乗り気だとしてもそう簡単に冒険者として登録はできない。
「実力は問題ない。種族的な問題もない。だけど死霊術師っていうのがなぁ」
「むぅ、それの何が問題なんだい?」
「この世界に死霊術師というか、アンデッドを操るネクロマンサー的な存在がいるのか知らないんだよ」
「そうね。冒険者として見たこともないし聞いたこともないわね。魔導師ですら見かけないから、死霊術師がいたとしても少数なのかも。それに不用意に人前でアンデッドを使ったら、魔人と疑われる可能性もあるわ」
「ま、魔人? 僕の友達は悪い存在じゃないよ! 皆いい奴なんだ!」
そう言いながら指パッチンして、紫色の光であるゴーストを何体も出し始めた。
馬鹿野郎! 急に出されたらビックリするだろうが!
確かに悪いアンデッドではないのかもしれないが、そんなの他人から見たらわからない。
もしこの世界に死霊術師がいなくて、スケルトンやゴーストを操っている姿を見られでもしたら……そう考えたら迂闊にマルティナを人前で戦わせられない。
正直なところ別に冒険者として登録する必要もないのだが、堂々と人前に出せる戦力は多い方がいいだろう。
でも、俺達のパーティとして冒険者登録するのも今はちょっとな。
「それにタイミングもあんまりよくない。丁度俺達もランクを昇格するか悩んでいたところだしさ」
「そういえばまだ決めてなかったでありますね。それなのに新しいメンバーを入れましたとなると、ちょっとややこしくなりそうでありますなぁ」
「君達は冒険者としてどのランクだったんだい?」
「Bランクよ。次で最高ランクのAに昇格できるのだけど、色々と問題があって保留中だったの」
「なっ!? 既に最高ランク間近!? くぅ、それじゃあ君達の紹介で冒険者になっても、皆驚いてくれないじゃないか!」
……こいつ、とにかく周りから驚いてほしいのか。本当に目立ちたがりな奴だな。
実力を考えたら冒険者として登録すれば、即座に昇格できるのは間違いない。
自分でもさっき言ってたが、見た目が美少女なのは事実だし尚更皆驚くと思う。
だが、俺達の関係者とわかれば、それぐらいの実力があっても不思議じゃないと思われるはず。
そう考えているのか、肩を落としてマルティナは落胆している。わかりやすい奴だ。
「とりあえず死霊術師みたいな存在がいるか調べてから、マルティナを冒険者にするか決めるか。それまではフリージアやルーナと大人しく留守番しててくれ。フリージア、ルーナとマルティナが一緒なら外出してもいいぞ」
「えっ、本当! やった!」
「ただし、ルーナとマルティナの言うことはちゃんと聞けよ。マルティナ、もしフリージアが暴走しそうだったらデバフを使ってでも取り押さえてくれ。人目に付かないようにも使えるんだろ?」
「それは出来るけど、そこまですることなのかい? フリージアさんはいい人なのに……」
「今は大分落ち着いたけど、興奮すると我を失うのよ。だから念の為ってところかしら」
「もう、心配し過ぎなんだよー。マルティナちゃん、留守番中は沢山遊ぼうね!」
「う、うん……それなら別に冒険者にならなくてもいいかな……」
フリージアに両手で握手をされて、マルティナは頬を赤く染めている。
いいのかよ! こいつ、目立つことよりも誰かと遊べる方が嬉しいんじゃないだろうな……。
マルティナの冒険者化はひとまず置いておくとして、一旦冒険者協会に話を聞きに行くとしよう。




