マルティナとの交流
マルティナの戦力確認を終えた日の夜、風呂を出て部屋に戻る途中ワイワイと騒ぐ声が聞こえた。
声の聞こえる場所はマルティナの部屋で、扉が開いていて丸聞こえだ。
「わー、マルティナちゃんの鎌カッコいいよね!」
「うむ、悪くない」
「クックックッ、そうだろうそうだろう! 君達は僕の同志だね!」
部屋の中を覗くとフリージアが鎌を持ってはしゃいでいた。
それをルーナは腕を組んで眺めて、マルティナは満面の笑みで喜びながら頷いている。
「何してるんだ?」
「あっ、平八! マルティナちゃんのお部屋に遊びに来てるんだよ!」
「フリージアに連れて来られた。仕方がないからいるだけだ」
「おいおい、まだ部屋も用意したばかりなのに押しかけるなよ。悪いなマルティナ」
「ベ、別にこのぐらい構わないさ。むしろ……その、僕を訪ねて来る人は久々で嬉しい」
フリージアとルーナをチラチラと見て、マルティナは顔を赤くしている。
うーん、久々っていうのは召喚される前のGCでの話なんだろうな。
俺はマルティナのキャラクターシナリオは一切知らないから、詳しい情報を持っていない。
今までの言動やURユニットバトル時の称号を考えると……ボッチだった可能性が非常に高いぞ。
でもこうやって召喚されて、フリージア達と仲よくしているのは良い傾向だな。
「それで3人で大鎌を見ていたのか」
「うん! マルティナちゃんカッコいいのが好きだから、専用装備もカッコいいよねって話してたの。私達の装備も見せ合いっこしてたんだー」
「言動はどうかと思う。が、趣向はそれなりに一致する」
「ヴァラドさんのマントや槍もカッコいいと思う。吸血鬼ってだけでも憧れちゃうよ」
「ふむ、そんなこと言われたことがない。やはり変わった奴だ。噛んで眷属にしてやろうか?」
「それはちょっと……でもなりたいような……」
「じょ、冗談だ」
マルティナにちょっと期待混じりの視線を向けられて、ルーナが若干引いている。
冗談で言ったのを真に受けられて困惑してやがるな。
しかしルーナに趣向が合うと言わせるとは、マルティナのセンスは悪くないってことなのか?
フリージアも自分の感想が聞きたいのか、自身を指差しながら騒いでいる。
「ねーねー! 私は私!」
「フリージアさんの弓と矢もカッコいいよ。何か不思議な力を宿ってる気もするし」
「えへへー、私のディバインルクスとディバインアローは精霊樹が使われてるからね! 精霊の加護が宿ってるんだよ!」
「精霊樹!? 本当に凄い武器じゃないか!」
おおー、UR装備だけあってとんでもない素材が使われているんだな。
ノールやエステル達の専用装備も、普通は手に入らないような貴重な物が使われていそうだ。
マルティナは一息吐いて落ち着いた素振りをすると、しみじみした雰囲気で語り始めた。
「ここにいる人達は皆凄いよね。吸血鬼、エルフ、魔導師、神官、憧れるような人達ばかりだよ。特に騎士様のファニャさん!」
「ん? 騎士様? あいつはそこまで言うような奴じゃないと思うが……ポンコツだし」
「そんなことないよ! 騎士と言えば皆の憧れ! 僕も昔は騎士になりたかったからね」
「ほお、それがどうして死霊術師をやってるんだ?」
「なりたくてなった訳じゃない……とは言わないけど、僕は死霊術師としての才能があったからね。自分なりに強くなろうとした結果だよ。おかげで友達も沢山できたからね」
「マルティナちゃん、その友達って……アンデッド達のこと?」
「ああ、皆僕と凄く仲よくしてくれるよ。ほら、今も一緒にいるからね」
「うひょ!?」
マルティナが指パッチンをすると、紫色の光が周囲にいくつも出現し始めた。
突然ゴースト出してくるんじゃねぇ! 驚いたじゃねーか!
意味深な笑みを浮かべているし、今の話からも凄く闇が深そうなんですが……。
死霊術師を目指すきっかけや、沢山出来た友達がアンデッドって言うのが気になり過ぎる。
「そういえばゾンビとかは出せないのか? スケルトンと同じぐらいアンデッドとしては代表的な存在だろ」
「うーん、出せるには出せるんだけどさ……カッコよさがないんだよ。それに見た目が怖いし……ボロボロなった人型を見たいかい?」
「そう言われると確かに見たくはないな……」
「死霊術師が怖がるな。……気持ちはわかるが」
ルーナがうんうんと首を縦に振って同意している。
俺の想像上のゾンビでも、ボロボロで筋肉の見えた皮膚、飛び出した目玉、千切れかけの四肢などなど……うん、積極的に見たいと思わない。
自分が死霊術師だったとしたら、スケルトン主体で使うのも理解できなくはないな。
フリージアも疑問があったのか、俺に続いてマルティナへ質問をしている。
「ゾンビとスケルトンってどっちが強いの?」
「強さは同じぐらいかな。ゾンビの方が魔法や打撃には比較的耐久力があるんだ。あとやられた後に肉体を消さないでおけば妨害もできる。体が半分になっても動けるから粘り強くもあるね。その代わり動きは凄く遅いよ」
「上位種のゾンビなら走ったりできるんじゃないのか? あと噛んだら何かに感染してゾンビになったりさ」
「グールなら走れるし戦士スケルトン並みの強さはあるかな。噛んでも相手がゾンビになったりはしないよ。僕の出すアンデッド達は核の霊魂は同じで、負の力で体を形成しているだけだからね。自然に湧く魔物とは少し違うよ」
つまりマルティナの使うアンデッドは、ゴースト的な存在を核として、別々の肉体を形成してアンデッドにしているのか?
だからURユニットバトルで戦った時、スケルトンを倒しても地面にゴーストが潜り込んで即復活してきた、と。
もしあの戦いでグールとかのゾンビ系を使われていたら、もっと苦戦させられていたかもなぁ。
倒れたゾンビに足を掴まれて噛まれでもしたら、間違いなく大パニックを起こす。
場合によってはゾンビ系の召喚も検討してもらうか。俺もあんまり見たくはないけどな……。
「それにしてもルーナともう普通に話せてるなら、シスハともすぐに打ち解けられそうだな。神官に憧れもあるんだろ?」
「うぐぅ……それはそうだけどさ……」
「シスハちゃん怖い時もあるけど優しいから大丈夫だよー」
「うむ、シスハは良い奴だ。吸血鬼の私が言うなら間違いない」
まさかマルティナの憧れの対象に神官が入ってるとは思わなかったな。
ルーナもURユニットバトルで倒された遺恨がないどころか、仲も良好そうだ。
しかしシスハの話になった途端、マルティナは俯いてもじもじしながら浮かない表情で語り出した。
「確かにあの時の戦いがトラウマで残ってるのもあるよ。けど、憧れてはいても元々神官のことは怖いんだよね……」
「神官が怖い? 死霊術師だからわからなくもないが、何かされたことがあるのか?」
「うっかり神官の前で死霊術師の力を使ったことがあってね。人に害を与えた訳じゃないけど、運悪く過激派の派閥だったみたいで……めちゃくちゃに追いかけ回されたんだ。あの時捕まっていたらどうなっていたかと思うと……」
「わかる。奴らは負の力を持つ者には問答無用で襲いかかって来る集団だ。こちらに敵対する意思があるかなど関係ない。だが、シスハはそうじゃないから安心しろ」
「ヴァラドさんがそう言うなら安心できるんだけどさぁ……もう少し時間が欲しいです」
うーむ、シスハに好かれていたルーナでさえ、神官ってだけで仲よくなるまで時間がかかっていたしなぁ。
色々と神官自体に闇を抱えていそうだから、ここはフリージアとルーナに慣れるまで任せるしかなさそうだな。




