新たな狩りに向けて
マルティナのスキルに再使用時間を書くのを忘れていたので追加しました。
マルティナを召喚してから色々と用意などをして少し慌ただしくなった翌日。
あれからハウス・エクステンションで個室を作ってやったら、マルティナはそれはもう凄く興奮していたなぁ。
どうしてあんなに喜んでいたかは謎だが、ウキウキでフリージア達と内装を買いに町へ繰り出していたぞ。
日が昇ってしばらく経っても居間に来ない彼女に用事があって、フリージアと一緒にマルティナの部屋を訪れたのだが……扉を叩いても返事がなかった。
「あれ? マルティナちゃんいないのかな?」
「いや、1人でどこかに行ったりは……うん?」
ルーナやシスハに色々とやられた経験があり、フリージアもいきなり他人の部屋を開けないように教育されていた。
どうしたものかと困っていたが、部屋の中からマルティナの声が聞こえてくる。
『うーん、こっちの方がいいかな? これもいいな? これか? これかぁ?』
「声が聞こえる! 中にいるんだよ!」
「あっ、おい」
制止も聞かずにフリージアが扉を開けると、マルティナは衣装鏡の前で謎のポーズを取っていた。
部屋に入った俺達の存在にも気が付かず、ビシッと何度もフォームを変えながら悩むような声を出している。
それを見てフリージアは怪訝な顔で首を傾げていたので、俺が代わりに声をかけた。
「おい」
「ひょぉ!?」
「鏡の前で何してやがるんだ?」
「クッ、クク……せっかく自分の部屋が手に入ったから、カッコいいポーズの練習をしていたのさ。決めポーズの探究はいつだって欠かせないよ」
「そ、そうか。とりあえず会議をするから居間に来てくれ」
自室を手に入れてやることがポーズ研究って……こいつは本当にカッコいいことへの拘りが強いんだな。
部屋の内装は全体的に黒で統一されていて、髑髏のクリスタルや自身の武器である大鎌などが飾られている。
まだ軽く揃えたばかりだから、今後王都とかに行けばさらに個性的な部屋になりそうだな。
そんなやりとりをしている内に正気に戻ったフリージアが、元気よく朝の挨拶をした。
「マルティナちゃんおはよう! いい朝なんだよ!」
「お、おはよう……君はいつも元気だね」
「えー、これぐらい普通だよ。マルティナちゃん朝はテンション低いんだね」
「別に低い訳じゃないよ……ただ、朝から誰かと会うって久々だからさ……」
さっきまでの威勢の良さが嘘のように消え去って、頬を赤くしておずおずとしながらフリージアを見ている。
うーん、恥ずかしがっているんだと思うんだが、ちょっと何かが違う気がするなぁ……。
ま、既にフリージアとはある程度打ち解けているみたいだし、その内馴染んでくるだろう。
さっそくマルティナを居間へ連れて行き、俺、ノール、エステル、フリージアの4人で会議を開いた。
ちなみにルーナは爆睡中で、シスハも添い寝中のようだ。
シスハがいるとマルティナが緊張しそうなのでこの場に呼んでいない。
「それでなんの会議をするんだい?」
「ああ、マルティナが来てくれたから、今後の方針とか色々決めないといけないから実際に狩りをしようと思ってな」
「クックック、この僕が理由とは君もわかっているじゃないか。僕ほどの戦力が加わったなら変化するのも仕方のないことだね」
「あれを知ってからも同じ反応ができるでありましょうか……」
「お兄さんロクでもないことを考えていそうだものね……」
「あまり酷かったら絶対止めるんだよぉ……」
おいおい、3人共何を不安そうな顔をしているんだい。
そんな反応をしていたら、せっかく自信に満ち溢れているマルティナが不審がるじゃあないか。
さてさて、会議とは言ったものの今回話し合う議題はマルティナの能力についてだ。
「マルティナ、今の状態でどれぐらいアンデッドを使役できるんだ?」
「使役って言うのは止めてほしいな。皆僕の友達で手伝ってくれてるだけだからね」
「そういえば戦っている時も言ってたけど、友達ってどういう意味なの?」
「そのまんまの意味じゃないか。友達は友達、それ以上でも以下でもない。僕は命令している訳じゃなくて、皆にお願いをしているんだ」
「な、なんだか雰囲気が怖いんだよ……」
「あまり踏み入れない方がよさそうでありますなぁ……」
マルティナの濁った光の消えた眼を見て、フリージアとノールが恐れを抱いている。俺もブルってる。
これは間違いなくマルティナにとって地雷話題のようだな……。
アンデッドが友達って言うのがよくわからないが、詳しい話は仲が深まってからじゃないと聞けなそうだ。
マルティナは腕を組んで悩みながら、現状操れるアンデッドの数を伝えてきた。
「うーん、今の力だとゴーストだけなら30、スケルトンは20、戦士スケルトンは10、メメントモリは3ってところかな。メメントモリ1体を戦わせたとすると、同時に出せる戦士スケルトンは6体って感じだね」
「結構多いな。スケルトンと戦士スケルトンは何が違うんだ?」
「単純に強さが違うだけだよ。剣を持っていたり鎧を纏っていたりね。普通のスケルトンだと軽く一撃貰うだけで体が崩れちゃうんだ。出す数を増やせば増やす程、単体の戦闘力も下がっちゃう」
「私達が戦った時、簡単に倒せていたのはスケルトンだったのかしら?」
「あの時はスケルトンと戦士スケルトンを混ぜてたかな。君達は強過ぎて戦士スケルトンでも相手にならなかったから、再生重視のゴーストとスケルトンの併用妨害に途中で切り替えてたよ」
「あれはなかなか突破できなかったでありますからねぇ。マルティナの強さをよく思い知ったのでありますよ」
「そ、そうかい? ファニャさんに言われると照れちゃうなぁ」
……おや? ノールに対して何故か下手に出ているな。何か思うところがあるのだろうか。
それにしてもアンデッドの数は、十分過ぎるぐらい出せるようだ。
これだけの数を狩りに導入できたとしたら、もはやガチャ回し放題レベルで魔石が手に入るんじゃないか!
しかし、出せるアンデッドの数で喜ぶのはまだ早い。狩りをするなら他にも考慮する点があるからな。
「出せるアンデッド達はどれだけ離れていても操れるのか?」
「いや、それは無理。僕の負の力を源にしているから、離れたら存在が維持できなくなるよ。ゴーストならある程度は平気だけどさ。同じ理由で僕から離れると、戦闘力も落ちちゃうし動ける数もどんどん減っちゃうね」
「……ふーむ、なるほどな。じゃあどれだけ離れたら魔物を倒せなくなるぐらい弱体化するか要検証だな。それとまだいくつか質問があるんだがいいか?」
「ククッ、そんなに僕のことを知りたいとはね。いいだろう、何だって教えてあげるよ!」
マルティナに狩りをしてもらうなら、まだまだどんな能力があるのか確認が必要だ。
まずアンデッドに疲労はあるのか聞いたところ、友達と呼ばれているアンデッド達は自己主張をあまりしてこないが、無茶な要求をすれば反応が鈍るらしい。
たとえばあまりに長時間戦闘を強いれば、どんどん戦闘力は落ちて最悪体を維持できなくなる。
それだけじゃなくてマルティナのお願いも聞きづらくなり、無理に命令しようとすれば負の力がかなり必要になって負担が増えてしまう。
そうなったら負の力が足りなくなって、多数のアンデッドを操れなくなる。
もう1つ確認したのは、マルティナが寝ている間もアンデッド達が戦ってくれるのか。
これは可能みたいだけど、寝ている間はアンデッドの戦闘力は下がって動きの精密さも欠けるようだ。
ゴブリンやオークなら問題なく倒せると思うが、どれぐらい弱体化するかも調べておかないとな。
うーむ、アンデッドに負担なくずっと狩りをさせられたらよかったけど、そう上手くはいかないか。
一応他にも能力があるか聞くと、アンデッドとの視界共有をマルティナと触れている人にも見せられるそうだ。
地図アプリがあるから使いどころは少なそうだけど、フリージアと協力すれば長距離狙撃ができるかもしれないぞ。
「ふふん、どうだい僕の力は! ……けど、なんで友達が長く戦えるかどうかばかり気にしてるんだい?」
「それはマルティナにできるだけ長時間狩りをしてもらいたいからだ。アンデッドの強さと継続力次第で魔石取得効率が圧倒的に変わるからな!」
「狩りと魔石取得率……?」
「一応お兄さんからの記憶で知識にあると思うけど、ガチャを回すのに必要な物なのよ。それをアンデッドを使って効率的に集められないかって話ね」
「そういうことか……それで、長時間ってどれぐらいを考えているのかな?」
「俺達はアットホームなパーティだからな。そんな無茶は言わないさ。普段は朝から昼までぐらいで、いけるなら夜までだな。緊急時は12時間以上狩りしてもらうかもしれない」
「じゅ、12時間!? そんな長時間狩りできる訳ないだろう!」
マルティナは得体の知れない物を見るような目を俺に向けている。
ノール達はそれを見て、あーって言いたそうな雰囲気だ。
「やっぱりそういう反応になるでありますよね……」
「でもでも、最近はちょっと改善されてたんだよー」
「そうね。実際に狩りをしてみてどうなるかだわ」
「わ、わかったよ……」
ノール達の反応を見て何かを察したのか、顔を引きつらせながらもマルティナは了承してくれた。
今後切羽詰まった時に困るから正直に言ったが、12時間狩りって聞いたらこうなるのも仕方がないよなぁ。
その分狩りで得た報酬はちゃんと配るし、ガチャアイテムが増えれば普段の生活や戦闘力だって向上するんだ。
人数も増えて来たから前みたいなデスマーチ狩りをすることもないから、普段からの狩りの負担も減っている。
とりあえずこれから狩りに行ってみて、マルティナに狩りをしてもらうのが1番かな。




