マルティナ召喚
マルティナを引いてガチャの目的を達成した途端、URユニットバトルの疲労感がどっと押し寄せてきた。
正直もっと出ると思っていたのだが、マルティナの召喚石2つと専用装備、それとルーナの召喚石が出たんだからよしとしよう。
ノールも腹が空いたと言うので食事にして、マルティナを召喚する前にひと休憩挟む。
するとその間にシスハのスキル反動時間が終わったのか、全身強く発光したかと思えば元の大人な姿に戻った。
シスハのスキルである回復上昇は、元々再使用時間が1時間と短いから反動もすぐに解除されるのか。
「ふぅ……やっと元に戻りましたか……。私だけスキルの反動大き過ぎませんかね」
「子供シスハちゃん可愛かったんだよー」
「うむ、また定期的になってほしい」
「うーん、ルーナさんが望むのでしたら考えなくもありませんね」
ルーナとフリージアは子供姿のシスハが名残惜しいようだ。
シスハとしてもルーナに可愛がってもらえたのは嬉しいようで、今後はもっと積極的にスキルを使うかもしれないな。
……俺からすると子供姿の方が、さらに凶暴性が増しているように見えたけどさ。
「さーて、ガチャも無事に引き終えて十分休憩もしたし、ついにマルティナとご対面か」
「ついにと言う割には、戦い終わってからあんまり時間が経っていないでありますけどね」
「召喚するのはいいけれど、コストの方は大丈夫なの?」
「ああ、何とか足りてるぞ」
俺の現在のレベルは97だから、使用できる総コストは初期値の15とレベル分の96を足した111。
現在の使用コストは93で、マルティナのコストは15。
合計で108コストが必要になるがギリギリ召喚可能だ。
今まで報酬とかで手に入れたSSRコストダウンが7個余ってるから、もう少しコストが高くても余裕はあった。
けど、次のユニットを召喚する時は今度こそコストが足りなくなりそうだな……。
あと3レベでGCのユニットのレベル上限である100に達するし、それ以上レベルが上げられるかも気になる。
GCだとプレイヤーレベルは100を超えたけど、ユニットとしてのステータスは100レベの状態で止まったままだった。
果たしてこの世界で100になったらどうなるのか気になるところ。
最近は魔物とのレベル差もあってあまり経験値が入らない。
もっと強い魔物を探さないとダメそうだな。
俺のレベルだけでも上限突破してくれないと使えるコストが増えないし、これは早急に検証する必要があるぞ。
下手すると100レベから上がらずに、神魔硬貨でSSRコストダウンを交換しなきゃ今後は召喚できなくなる可能性もある。
そうなったらさらに神魔硬貨の重要性が増してくるな……はぁ、次から次にやることが増えていくな。
とりあえず今はマルティナを召喚してみるとするか。
「それじゃあ召喚するぞ」
マルティナの召喚石を選択して、召喚を始めた。
スマホから光が溢れ出して人の形が形成されていく。
そしてカッと強く輝くと、光はマルティナの姿に変化した。
黒いフードを被った薄紫色の髪で、前髪は相変わらず長くて目が見えない。
一呼吸おいてからマルティナは口端を釣り上げて、バサリと黒いマントを翻して黒い大鎌を肩に背負う。
室内で危ないから振り回さないでほしいと思ったが、気にする素振りもせずマルティナは不敵な笑みを浮かべている。
「クックック、僕の名はマルティナ・エロディ! 深淵の主にして数多の死霊を操る最強死霊術師! 問う、この僕を盟約の契約にて呼び出したのは汝らか?」
決まった、と言いたそうに片手をビシッとこっちに向けてマルティナは決めポーズを取っている。
それをノール達は呆れ混じれな様子で眺めていた。
「相変わらず個性的な名乗りでありますなぁ」
「そうね。聞いているだけで体がムズムズしてくるわ」
「ああ……もっとビビりながら出てくる思ってたが意外だな」
ついさっき俺達にボコられたばかりなのにピンピンとしているな。
あの異空間だからマルティナにもダメージが少なかったってことか?
それにしては俺達の姿を見てもっと警戒しそうなものだが……。
そう疑問を抱いていると、フリージアが喜々としてマルティナに話しかけていた。
「わーい! マルティナちゃん! また会えたね!」
「な、なんだよお前! 馴れ馴れしいぞ!」
突然フレンドリーに声をかけられたせいか、マルティナは決めポーズを崩して慌てながら受け答えしていた。
だが、それだけじゃなくて全く知らない他人に声をかけられた雰囲気もある。
フリージアも違和感を覚えたのか、自分を指差しながら俺と同じ疑問をぶつけていた。
「私だよ私! さっき会ったばかりだよ!」
「さっき会ったばかり……? そういえばどこかで会ったような……」
マルティナは腕を組んで本当に悩んだ素振りをしている。
俺達のことを知らないような知ってるような、何とも曖昧な感じだ。
もしかしてURユニットバトルで戦ったことを覚えてないのか?
あそこで戦ったマルティナと、今ここにいるマルティナは全く別の可能性もあるな。
気になったのかルーナがずいっと前に出てきて、フリージアと同じように尋ねている。
「覚えはないか?」
「んん? 君もどこかで見たかも……」
マルティナの反応は、首を傾げてフリージアの時と同じものだ。
直接戦ってマルティナ自身の手で倒したルーナのことすら曖昧なのか。
でも少し覚えている感じはあるから、今いるのはあの時戦ったマルティナだと思う。
だけど戦った時のことをほぼ覚えていない感じだな。
うーん、これは良いことなのか悪いことなのか判断に悩みそうだ。
もしちゃんと覚えているなら、緊急召喚で一時的に召喚した相手は俺達を認識してくれる可能性も考えられた。
そうすれば少しは手加減をしてくれる……かは怪しいな。
そう思っていたのだが、次にマルティナに声をかけた人物によってそれは覆された。
悩むマルティナの後ろから肩に手を置いて、シスハが声をかけたのだ。
「また会ったな」
「えっ――ヒイイィィィィ!? やだ! やだ! アヒ、アヒ……」
ビクと体を震わせてギギギっと音が鳴りそうな動きでマルティナが振り向き、シスハを視認した瞬間に悲鳴を上げて飛び跳ねた。
すぐに腰を抜かしてその場で崩れ落ちて、壁際まで後退ると腕で顔を隠しながら過呼吸気味になっている。
その後すぐに床に顔を擦り付けてずっと謝り始めた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」
「めちゃくちゃ怯えてるのであります……。シスハ、脅すのはかわいそうでありますよ」
「いやー、普通に声をかけただけなんですけどね」
「明らかに敵意を含んだ声だったわよ。色々と気になることはあるけれど、シスハのことは完全にトラウマになっているみたいね」
あの反応、どうやらURユニットバトルの戦いを思い出したようだな。
ルーナとフリージアのことは朧気で、シスハのことはハッキリと覚えている。
つまりトラウマになるぐらい強烈な印象がなきゃ、相手として出てくるURユニットはあの時のことを思い出せないってことか?
考察している間に、怯えて縮こまっているマルティナの背中をフリージアが優しく撫でて声をかけている。
「マルティナちゃん大丈夫だよ。もう戦い終わったんだから」
「うむ、私達はこれから仲間。お互いに遺恨はなしだ」
「な、仲間……? 本当かい?」
「本当ですよ。あれだけの戦闘でしたから苦手意識を持たないのは無理かもしれませんが、私は危害を加えるつもりは全くありません。あの世界での戦いは模擬戦みたいなものでしたからね。驚かすようなことをしてすみませんでした」
シスハが頭を下げてマルティナに謝っている。
まさか肩に手を置いて声をかけるだけで、ここまで怯えると思わなかったんだろうな。
恐る恐るといった様子で顔を上げたマルティナは、目元を腕で拭うと立ち上がった。
泣くほどシスハを怖がるなんて、そこまでトラウマになっていたのか……。
フリージアに優しくされて落ち着いたのか、姿勢を整えてマルティナは改まって挨拶をしてきた。
「えっと、あの、その……マルティナ・エロディです。これからよろしくお願いします」
「お、おう、よろしくな」
「ちゃんとまともな話し方もできるのでありますね」
「もしかしてこっちが素なんじゃないの?」
「あっ、うん。いつもあの調子で話してると会話も成立しないことがあるからね。決め台詞を言うのはここぞって場面か戦闘中ぐらいにしてるんだ」
ずっとあの厨二的な話し方をするかと思っていたから、いきなりまともな挨拶をしてきて驚いたぞ。
元の世界でGCをやってた時、マルティナは持ってなかったからキャラの詳細は知らなかった。
意外とまともな奴かもしれないな。一応色々と確認をしてみるか。
「とりあえず聞きたいんだが、俺達と戦ったことは覚えているか?」
「うん、召喚された直後は全然記憶になかった。でも、今は君から貰った記憶を認識してハッキリしてきたよ。戦ったのは夢の出来事だと思ってたんだけど、僕達は実際に戦ったんだよね?」
「ああ、URユニットバトルってやつで、痛みはあるけど怪我のしない異空間で戦ったんだ」
「なるほどなぁ……鎌で斬っても血が出なかったし、僕もやられて怪我がないからてっきり夢だと思ってたよ。その割にめちゃくちゃ痛かったから、酷い悪夢だって感じてたんだ。特に爆破された顔が痛かった……」
あー、そういえば最後にシスハがマルティナをボコボコにした時、悪夢だーとか言ってたな。
そりゃ全身殴られてエクスカリバールで頭をフルスイングされて、止めに顔面爆破されるなんて悪夢以外の何物でもないわ。
消える間際のフリージアとの会話でも夢とか言ってたのは、そういうことだったのか。
「シスハの顔を見たショックで完全に思い出したかしら」
「ほお、私の顔を見てショックを受けるとは失礼な方ですね」
「いえ! 決してそんなことはありません! ただ……色々と印象に強く残っていたというか、その……」
「おほほほ、冗談ですよ冗談。これからは仲良くしましょうよ。私は神官ですから、誰にだって慈愛に満ちた対応をいたしますよ。たとえネクロマンサーの方でもです」
「は、はははは……それは光栄です。……神官怖い」
「何か言いましたか?」
「いえ! 何もございません!」
ニコニコと笑顔でシスハが手を差し出すと、マルティナは口元を引きつらせながらも握手をし返した。
……こりゃそう簡単に拭えそうにないトラウマを抱えていそうだな。
ただでさえ死霊術士と神官は対立してそうだから、余計にシスハを怖がりそうだ。
「マルティナちゃん怯えちゃってるんだよー。ちょっとかわいそうかも」
「うむ、召喚されたばかりならそんなものだ。あんな時期が私にもあった。その内慣れる」
「そうだねー。これから一杯仲よくしちゃうよ!」
まあ、ルーナも最初はシスハと違った形で敵対心剥き出しにしていたけど、今ではすっかり仲よしだもんなぁ。
しばらくシスハとマルティナのことも、暖かい目で見守るとしよう。




