拒絶反応
「はぁ……」
「ため息ばかりついてどうしたのでありますか?」
「お兄さんらしくないわね。何か悩み事でもあるのかしら。私達でよければ相談に乗るわよ?」
証明証を届け、無事にエステルはEランクに昇格した。これで全員Eランクだ。
もう日も暮れ始め、予定も今日は全部消化したので宿へと泊まることにした。
そして食事やお風呂などを終え、俺はベッドの上で悩んでいた。
「いやな、自分の力不足を感じてしまってな。新装備を手に入れたのに苦戦していただろう?」
「それは大倉殿に経験が無いだけなのでありますよ」
「そうね。私達は戦う為に呼び出されているけど、お兄さんは元々一般人だものね」
ワシ戦士長の戦いで、自分の力量の無さを痛感させられた。装備で2倍以上の速さになっているはずなのに、全く攻撃を当てられない。
もしスカルリングの効果が発動しなかったら、相当苦戦していただろう。彼女達は経験が無いからだと言うが、それでも悔しい。
まあそのことは一旦置いておいて、このため息には別の意味も込められている。
「それに最近あれしてないなって思ってさ」
「あれと言いますと?」
「ガチャだよガチャ」
そうガチャだ。前に引いたのはエステルを召喚する前。かなり期間が空いている。あれからろくに魔物を狩っていないので、魔石が現在4個しかないのだ。これはまずい。
今のままキャンペーン期間を迎えたら、またあのデスマーチをすることになる。
「エステル! 逃げるでありますよ!」
「えっ、何?」
俺の言葉に危機感を覚えたのか、エステルを脇に抱えてノールは扉へと走り出す。
逃げて一旦お茶を濁すつもりか。
そのまま彼女がドアノブに触れようとした瞬間、エステルと共に光の粒子になって消える。そしてすぐに俺の目の前に光が集まって2人が現れた。
「ピャー!? なんで、なんで大倉殿が目の前にいるんでありますか!?」
「ふ、こんなこともあろうかと事前にビーコンを仕込んでおいたのさ」
いきなり俺が目の前にいたことに驚いてノールは悲鳴を上げた。
逃げるのは予想済みだったので、念の為にビーコンをベッドの陰に布を掛けて設置していたのだ。
そして逃げ出した瞬間にスマホを操作し、あらかじめ用意しておいたビーコン画面の分隊移動でエステルとノールをここに移動させた。
「と言う訳でだ、そろそろ魔石集めを再開するぞ」
混乱しているノールを羽交い絞めにして、動けないようにする。エステルはいつの間にか脇から抜け出して俺の隣にいた。
彼女を拘束したまま、俺はベッドに座る。ノールも強制的に俺の膝の上に座らせ、足も絡めて動けないようにした。
「ちょ、な、何するでありますか!? はな、離すのでありますよ! やだ、嫌だー! もうあんな狩りやりたくないのでありますー!」
「ちょっとノール、落ち着きなさいよ。どうしたのそんなに慌てちゃって」
「だって、だって……もうやだぁ……おうちにかえるぅであります……」
彼女はじたばたと体を動かして俺の拘束から抜け出そうとする。しばらく暴れていたが、拘束が解けないと分かると次第に落ち着いてきた。
本当ならばノールに俺が勝つのは不可能だが、非武装状態の彼女ならば話は別だ。
寝る前のラフな格好をしているので、今の彼女は武器を持っていない。そして俺はパワーブレスレットを装備している。
こうなるのは想定範囲内。このタイミングで言ったのも初めから決まっていたのさ。
彼女がエステルに前回の狩りのことを話すと、エステルはジト目で俺の方を見つめてきた。
うっ、止めろ、そんな目で俺を見るな。なんか悪いことしている気分になるじゃないか。
「お兄さん、それはやり過ぎよ。私を出してくれたのは嬉しいけど、ノールがかわいそうじゃない」
「むぅ、あれは期間が無かったから無茶な狩りになっただけだ。今回は控え目にするので、ご安心ください」
「安心できないのでありますよ……。それよりも、もっと普通に強くなる努力をしてほしいのであります」
いや、強くなる努力はするつもりだよ? でも、ガチャを引くのも大切なんだ。
それに俺だって鬼ではないし、前回程の厳しい狩りをするつもりはない。
まず話し合う場を整える為だけに、ここまでのお膳立てをしただけだ。ガチャの話を出したら、間違いなく逃げると思ったからな。
「考えてみてほしい。レベルを上げながらできる魔石集めは素晴らしいとは思わないか? それとノール、お前はパーティの戦力を向上させたい場合はどうすればいいと考える?」
「素晴らしい……でありますか? えーと、私ならレベルを上げてステータスを上げるであります」
「ふむ、それも1つの選択として正しいな。次にエステル、お前はどう考える?」
「そうね、私なら仲間を増やして戦力を増強させるわ」
「それも正しいな。しかしだ、GCというゲームにはもう1つの選択肢があった。それは分かるか?」
俺が問いかけると、ノールとエステルはお互いに見合って首を傾げている。
確かに普通に考えたなら、戦力を増強させるためにレベルを上げ能力値を上げることをまず試すだろう。
今の俺達はガチャなど秘密が多過ぎるので今回の場合はできないが、仲間も新たに増やすことを考慮するのも普通だ。
「それはな、ガチャだ。強くなるにはどうするのかという質問はよくあった。そして回答には『ガチャを回して、強武器で武装すればいい』というのがベストアンサーだったんだ」
「おかしいであります! それ絶対におかしいのであります!」
GC内で強くなる近道は、ガチャを回して強武器を手に入れることだ。
確かに地道にレベルを上げてパーティを整える人も多く存在した。しかし、育成をするのにもスタミナ回復で魔石を要求される。
それをするならば、配布された魔石は全部ガチャにぶち込めというのがGC内の正義だ。幸い運営が魔石を程好くばら撒いてくれていたので、無課金ユーザー達も楽しめゲームをする人は多くいた。
「よく考えてみろ。強武器さえあれば敵も効率よく倒せてレベルも上がる。さらにガチャの副産物として運が良ければURユニットまで手に入る。これ程効率的なことがあるだろうか? レベルも上がり装備も整い仲間も増える。素敵じゃないか」
「うーん……確かに一理あるような気もするわね」
「エステル! しっかりしてほしいでありますよ! 大倉殿の効率を求める考えは、常軌を逸してるのであります! 止めるなら今なのでありますよ!」
それにこの世界ではGCとは違い、魔物を倒しながら魔石を入手できる。レベルを上げるという行動が、魔石を貯めることにもなるのだ。
ならばこの魔石集めはとても合理的。これ程幸福なことがあるだろうか?
「このガチャにはキャンペーン期間があることが判明している。今後迷宮という場所に潜るのならば、装備を整えるのは必須だと思うんだ。あんなワシ程度に苦戦しているようじゃ駄目だ」
「そうよね。私達の装備はURだけど、お兄さんはSSRまでだもの。かわいそうだわ」
おっ、エステルが乗ってきてくれたぞ。これは畳み掛けるチャンスかもしれない。
実際に今の戦力のままBランク以上でも苦戦すると言われている迷宮は不安だ。もしかしたらワシ戦士長みたいなのがうじゃうじゃいるかもしれない。
それに俺達のレベルもまだ低い。まず周辺地域で経験値効率が良い場所探し、レベル上げをしながらの魔石回収をする必要があるはずだ。
「もし魔石が無い時にキャンペーン期間が来たらそれは悲惨なことになるだろう」
「それは大倉殿のせいじゃ……」
「いいかノール、今行動しないのなら、次回はさらに過酷な魔石狩りを要求しなくてはならないんだ。それはお前も辛いだろ? 俺も辛い」
「うぅ……それは嫌なのであります。でも、なんだか騙されている気分でありますよ……」
俺だってあんな狩りはもうしたくない。今回はあそこまでやるつもりもない。
ガチャから始めた話題だが、レベルを上げるというのも重要な目的でもある。
そう、ガチャを引く為の行為が全ての道へと繋がっているのだ。
「だから今のうちに最効率で狩れる魔石発掘場所を探しだし、レベルを上げながら魔石を貯める。エステルがいる今、釣り範囲狩りが可能だしな」
「なんだかとっても嫌なネーミングが聞こえたのでありますが……」
王都には東西南北にそれぞれ主要な狩場があるそうだ。今日行ったワシ戦士長のいた森もその1つ。
なので、明日からその狩場に行って実際の狩り効率を確かめてみようと思う。
それにしても、彼女はとても不安そうな雰囲気を漂わせている。このまま不安な感情でいたら、寝れなくて明日に響くかもしれんな。
「ノール、お前疲れてるんだよ。エステル、眠らせてあげなさい」
「えぇ、そうね」
「え、ちょっと!? お2人とも正気を取り戻して……そ、そん……な」
エステルが指を振るうと、またあの黒い靄が発生してノールの顔に纏わり付く。彼女は俺に拘束されているので、身動きが取れず俺の上でそのまま眠りに落ちた。そして俺はノールを抱き抱えて、隣のベッドに寝かせる。
前背負った時は重かったけど、鎧が無いと軽いな。少しかわいそうな気はするが、強制的に眠ってもらうことにしよう。
「よっぽどトラウマになっているのね」
「うーむ、まさかここまで怯えるなんてな。まあ今回は控え目に……1日25個ぐらいとして、前回のを参考に狩るのは600体ぐらいでいいか」
「……え?」
「……ん?」
俺の考えを聞いたエステルが、信じられないと言う声を上げ唖然とした表情で見つめてくる。
あれ? 前回の半分程度とかなり控え目にしたつもりの考えだが……もしかしてアウトか?
「ねぇ、お兄さん……私と少しお話ししましょう、ね?」
「え、あの、エステルさん? ちょ、か、体が動かない……」
「ふふ、安心して。慣れれば気持ち良くなるわよ」
笑顔で彼女が指を振るうと、全身が麻痺したかのように動かなくなった。そしてそのまんま俺のベッドの方に押し倒され、腹の上辺りにエステルが馬乗りをしている。
ちょっと、待って! これまずいって! 慣れたら気持ち良いって何する気だよ、おい、ああぁぁァァ!?




