マルティナ、深淵に沈む
金色のオーラを纏ったシスハ、その圧倒的迫力に俺達は唖然としていた。
恐らくあれはシスハのスキル、回復上昇が発動した証。回復魔法を40%上昇させる効果のはずだけど……肌をピリピリと刺すこの感じからは全く回復強化のスキルと思えない。
そんなシスハに対峙し標的にされているマルティナは、さっきまでの威勢の良さが嘘のように近くのメメントモリにしがみ付いて震えている。
だが、すぐに頭をブルブルと左右に振ると、対抗するように1歩前に出て叫んだ。
「し、神官としちゃやるようだけど、漆黒のベールに包まれた今の僕の敵じゃない! いけ、僕の友よ! その神官をボコボコにしてしまえ!」
マルティナの合図で1体のメメントモリが動き出してシスハに襲いかかる。
しまった! と俺は動き出そうとしたが、その前にシスハの方から走って向かいだした。
あいつ!? ブチ切れて正気を失ってやがる! いくらスキルを発動しているからって無謀にも程があるぞ!
既に動き出したシスハを止められるはずもなく、ついに黒いオーラを纏うメメントモリと激突したのだが……。
「骨が動いてんじゃねぇぇぇぇ!」
雄叫びを上げながらシスハがアッパーカットを放つと、殴り上げられたメメントモリは黒いオーラを霧散させながら吹き飛んでいく。
地面を転がりながらも立ち上がったが、全身ヒビだらけで今にも崩れ落ちそうだ。
それで完全に怯んだのか、メメントモリ達は引き下がってマルティナのもとへ集まっていく。
俺達は慌ててシスハに駆け寄って彼女を落ち着かせることにした。
「シスハ! 落ち着け! 落ち着くんだ!」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ……すみません、興奮し過ぎました」
深呼吸をすると、白目だった目が普段の状態に戻って正気を取り戻したようだ。
おや、金色のオーラはそのままだけど、こんなすぐ落ち着くとは思わなかったぞ。
「こ、怖かったのでありますよ……」
「ええ……あんな迫力を感じたのは初めてだわ」
「あばばばば……カメラの時より怖いんだよ……」
まだ殺気立ってはいるが冷静になったシスハにノール達も安堵していた。
が、すぐにシスハは神妙な面持ちで口を開いた。
「……皆さん、お願いがあります」
「どうかしたのでありますか?」
「スキルを使ってしまった以上、早期決着をしなければならなくなりました」
「どういうことだ!?」
「スキルが切れたら私は戦闘不能になります。そうなればあいつの負の力に抵抗する術はありません。9割つい切れてスキルを使ってしまいましたが、1割はあいつの力に危機感を覚えたからですよ。あの骨を砕き切れなかったのは想定外です」
それ殆どブチ切れて衝動的に使っただけじゃねーか!
でも、ブチ切れたシスハがすぐに正気に戻ったのは、今のマルティナがそれぐらい脅威という証だ。
シスハのスキルは回復魔法を強化するものだが、言いようからして浄化の力も上がっているに違いない。
それなのにメメントモリを倒し切れなかったのは、スキルで強化されているからだと思う。
本体もルーナをあっという間に倒すぐらい強いのに、使役するアンデッドまで強化されるのは反則だろ。
シスハに気圧されていたマルティナだったが、殴られたメメントモリの様子を確認したのか、また威勢の良さを取り戻して笑い出した。
「クッ、クク……驚かせやがって! この地は僕の領域。いくら強い神官だったとしても、今の僕が負ける道理はない! 僕達は最強なんだ! いくぞ!」
マルティナは獣型のメメントモリに飛び乗ると、新たに黒い巨体の骸が地面から4体出てきた。
元々いた5体と合わせて計9体のメメントモリと共に、黒いオーラをばら撒きながらマルティナは動き出す。
くそ、考える暇さえ与えてくれないってことか。迷ってる場合じゃない。
「ノール! エステル! スキルを使え! 一気に畳みかけて終わらせるぞ!」
「了解! いくであります!」
「任せて! 全部消し飛ばしてあげるわ!」
「私もやるんだよ!」
「お前は止めろ!」
フリージアのスキルなんて使われたら、俺達もまとめて全滅するわ!
ノールは白銀のアウラ、エステルは大魔術を発動させ、こっちも仕掛けるようにメメントモリ達へ向かう。
シスハのスキルのおかげでマルティナの黒い霧もある程度晴れ動きやすい。
そしてついに黒い骨の集団と激突すると、先頭のノールが斬りかかった。
銀色のオーラを纏ったノールの剣は、鎧のような体を容易く斬り裂いてその巨体が揺らぐ。
すかさずエステルが魔法を放つが、他のメメントモリが割り込んでそれを防いだ。
高威力のエステルの攻撃を受けて、体の一部が消し飛びかなりのダメージを負っている。
シスハのスキルでマルティナのデバフが軽減している証拠だ。
9体居るメメントモリを突破するのは容易じゃなく、ダメージを負った個体を別の個体が守ってすぐに回復されてしまう。
マルティナの力で再生能力も上がっているのか、見てわかる速さで欠損した部分が修復されていく。
それでもスキルを発動したノールとエステルの猛攻、シスハのスキルで底上げされた浄化の力で数体倒すことができた。
この調子でどんどん倒していけば……と思った矢先、獣型のメメントモリに乗ったマルティナが集団を飛び越えて姿を現す。
しかし、特に攻撃をしてくる訳でもなく、ただ通り過ぎて黒いオーラをばら撒いた。
前に出て戦っていたノールはもろにそのオーラを浴び、ガクッと動きが鈍くなる。
そこにメメントモリが剣を振り下ろしてきたが、フリージアが矢を放って剣を弾いた。
その隙に全力で俺が走ってノールに近づき抱き抱え、シスハのところまで後退する。
マルティナにエステルが魔法で爆破したが、爆煙の中から飛び出して走り去っていく。
「ノールちゃん大丈夫!」
「くぅ、スキルを使っていても、マルティナに近づかれると力が抜けるのでありますよ……」
「シスハの力が効いてない範囲だと、私の魔法も防がれちゃうみたい。先にメメントモリを全部片づけるしかないのかしら?」
この数のメメントモリを無視してマルティナだけを狙うのは困難だ。
ノール達がスキルを使っていてもメメントモリを一撃で倒せないし、弱ればすぐ他の個体がカバーに入ってくる。
地道に倒していけばいつかマルティナを追い詰めることはできるけど……その前にスキル時間が切れる。
あっちが先にスキルを使ってきた以上こっちも使わざるを得なかったが、現状こっちが圧倒的に不利だ。
マルティナは間違いなく強化されているから、スキルが終わっても反動は少ない可能性が高い。
そうなればもう反撃する手段はなくなる。最悪相打ち覚悟でフリージアにスキルを使って貰う手もあるが……メメントモリがいたら防がれるだろうな。
このまま時間切れまで粘られると不安が過る中、シスハが決意に満ちた表情で切り出してきた。
「私に考えがあります。皆さん、力を貸してくれませんか?」
そう言ってシスハは手短にその考えを説明してきた。
「このままではスキル切れまで粘られます。もうこの手しか残されていません」
「……そうね。どちらにしてもスキル切れになれば私達の負け。やってみる価値はあるわ」
「シスハが危ないので反対したいでありますが、他にいい考えが浮かばないでありますね……」
「私はシスハちゃんを信じるよ!」
正直あまり乗り気はしないが、ゴリ押しするよりはシスハの案に乗った方がいいだろうな。
マルティナも最初のように逃げ一辺倒な戦い方じゃないから、自分から攻めてきている今があいつを倒す唯一のチャンスだ。
シスハの目を見ればとても力強く、ルーナの無念を晴らしたいという決意に満ちている。
そんな顔をされちゃ俺も信じるしかないじゃあないか。
「よし、シスハに全てを任せよう」
シスハの作戦に全員賛成し、メメントモリと戦いながらも実行するチャンスをうかがう。
そして、遂にその時が訪れた。
獣型の骨に乗ったマルティナが集団を飛び越えて、俺達の頭上からデバフをばら撒こうとしている。
「フリージア、いくわよ」
「うん!」
フリージアが宙にいるマルティナとメメントモリ目がけて矢を射り注意を逸らした。
そこにエステルが爆発魔法を叩き込み爆炎が上がる。
案の定マルティナ達は爆煙から無傷で飛び出してきた。
「クックッ、無駄無駄ぁ! その程度の攻撃じゃビクとも――」
「おりゃあああああぁぁぁぁ!」
エステルの風魔法で加速しながら跳び上がったシスハが、黒いオーラを打ち消しながらマルティナを捉えてメメントモリの上から蹴り飛ばす。
そして俺は着地してきた獣型のメメントモリを手で捕まえ、首根っこを押さえて壁に押し付け動かないようにその場に固定した。
ノール達も即座に動いて、シスハ達の方へ行かせないよう立ちふさがっている。
シスハの提案した作戦、それは彼女とマルティナで1対1の戦いに持ち込むことだ。
集団から離れた場所に着地したマルティナとシスハは、距離を取って対峙している。
「貴様はこのシスハ・アルヴィが始末する。そう決めた」
「ククッ、僕を始末するぅ? 君がぁ? 確かにちょっとばかし驚かされたけど、神官が深淵の主であるこの僕と単独で対峙するなんて正気かい? さっきの吸血鬼と同じ目に遭いたいのかな?」
「ッ、ルーナさんのことかぁぁぁぁ!」
再び白目を剥き金色のオーラを激しくさせたシスハは、叫びながら駆け出した。
その速さはさっきメメントモリに向かった時の比じゃなく、マルティナはギリギリのところで反応して鎌を振る。
その一振りはシスハを捉えず、一瞬で姿を消して背後に回り込んでいた。
シスハは手に持った金色の物体を振り下ろしたが、何とか振り返ったマルティナは鎌で受け止める。
振り下ろした物体、それは黄金に輝くバールのようなもの。そう、俺の武器であるエクスカリバールだ。
マルティナがエステルの爆炎に包まれた際に、シスハに投げ渡していた。
専用装備じゃなく現状で最強の武器であるエクスカリバールなら、神官のシスハでも圧倒できるはず。
デバフを完全に無効化できるシスハとエクスカリバールを使い、メメントモリを俺達が抑えている間にマルティナを一気にぶちのめす。
その作戦は見事に的中したのか、エクスカリバールの行動速度上昇を得たシスハはマルティナを翻弄していた。
鎌でなんとか受け流しているものの、1発受けるごとに体が大きく仰け反っている。
攻撃力も最強クラスのエクスカリバールなら、強化されていると思われるあの大鎌とも互角に渡り合えるようだ。
ただ、それでも強化による素のステータス差は覆せないはずなんだけど……若干マルティナの動きが鈍い気がする。
本人も自覚しているのか、焦った様子で色々と叫んでいた。
「ちょ、はや!? なんだそのヘンテコな武器! 何か体も重い気が――はっ!? まさかあの吸血鬼!」
吸血鬼……そうか! あいつの動きが鈍いのはルーナのおかげだ!
やられる時、最後っ屁でマルティナに噛みついていた。
ルーナは噛みついた相手に麻痺などの状態異常をかけられる。
一噛みした程度だから完全に動けなくするほどじゃないけど、動きは確実に鈍い。
デバフを打ち消すシスハの神官としての力、エクスカリバールの性能、極めつけにルーナの状態異常。
それが合わさったおかげなのか、シスハがマルティナの鎌を大きく弾いて攻撃する隙が出来た。
「まずは1発」
「へっ――おえっ!?」
下から打ち上げるような拳がマルティナを捉えて、ドスンと音を立てて体が地面から浮き上がるほどの威力の腹パンが直撃。
「これはルーナさんの分!」
「ひでっぶ!?」
浮き上がったマルティナの腹に蹴りを入れて、背後の石柱に叩き付ける。
「これもこれもルーナさんの分!」
「げぇっ!?」
反動で返ってきたマルティナの全身を、シスハは拳で何度も殴りつけた。
「これもルーナさんの分だぁぁぁぁ!」
「ぐぎゃあああああぁぁぁぁ!?」
最後のトドメだと言わんばかりに、両手で構えたエクスカリバールで頭を思いっきりフルスイングした。
石柱が砕け散ってマルティナは地面を転がり、遂に持っていた大鎌が手から離れて遠くへ飛んでいく。
そんな彼女と連動するようにメメントモリ達も抵抗が弱まっていた。
だが、負けてないと言わんばかりにマルティナは這いずって、地面に落ちた大鎌に手を伸ばしている。
「ま、まだだ……まだ終わって――」
「まだ生きてやがる。くたばれ!」
「ヒィ!? やだ、止め――ぐひぃぃぃぃぃ!」
シスハは倒れたマルティナの顔面を片手で鷲掴みにして持ち上げると、プロミネンスフィンガーで爆破する。
手を放すとマルティナは足から崩れ落ちて、また地面に伏せて完全に動きを止めた。
い、いくら何でも無慈悲過ぎるんじゃないんだろうか……。まあ、油断して何かされても困るから、確実にトドメを刺すのが正解だな。
この場を覆っていた黒いオーラが全て消え失せて、メメントモリ達も動きを止めてサラサラと砂のように崩れ去っていく。
「終わった、のでありますか?」
「見て、あの子の体が光になっていくわ。メメントモリも消えちゃったしHPが尽きたのね」
「わーい! 私達の勝利なんだよ!」
マルティナの体は発光し始めて徐々に薄くなっている。ルーナの時と同じく完全に倒されたってことだ。
だが、マルティナは顔だけ動かしてこっちを見ると笑い声を上げ始めた。
「クッ、クク……僕なんて深淵の序の口に過ぎない。深淵を覗く時、深淵もまたこっちを――」
「黙れ」
「はいぃぃ……うぅ、負け惜しみぐらい言わせてくれよぉ……悪夢、これは悪夢だ……」
シスハがパキポキと拳を鳴らして脅すと、肩を震わせてマルティナは泣いている。
この姿を見るとさすがに憐れむ気持ちが湧いてくるぞ。
「容赦なさ過ぎるだろ……」
「それ程怒っているのでありますね……」
「ルーナを倒されたんだから当然だわ」
確かにルーナを倒されて俺も頭にきていたけど、俺達だってマルティナを倒そうとしていた。
相手からすればこっちを倒すのは当たり前のことで、勝負が着いた今これ以上責めるのはあんまりだろう。
フリージアも何か思うところがあったのか、倒れたマルティナの体を起こして笑顔で話しかけていた。
「ルーナちゃんを倒されてムカムカしたけど、いい戦いだった! マルティナちゃん、ナイスファイトだよ!」
「う、うぅ……お前いい奴だな……」
「えへへー、マルティナちゃん、また会おうね!」
「……はは、会ったこともない奴にまた会おうって言われるなんて、本当に変な夢だなぁ。君と実際に会えたら――」
フリージアに励まされて軽く微笑んだマルティナは、全部言い終わる前に光の粒子になって完全に姿を消す。
それと同時に俺の視界も光に包まれて、目の前が真っ白に染まった。
●
光が収まると自宅に戻っていて、椅子に座っていたルーナが声をかけてきた。
「お疲れ」
「おう、ルーナ、すまなかったな。大丈夫だったか?」
「大丈夫じゃない。死ぬほど痛かった。というか死んだ」
「HPが全損したってことは、ある意味死んだようなものだものね……」
「無事でよかったんだよー。マルティナちゃん凄く強かったねぇ」
「そうでありますなぁ。自分の未熟さを思い知らされたのでありますよ」
「うむ、判断を間違えた。これからは注意しよう」
「中級だと思って甘く見ていたな。上級に挑まなくて本当によかったぞ」
ネクロマンサーのマルティナ相手で中級だからもっと余裕だと思っていたが、想像以上の難易度だった。
もし上級のマルグリアに挑んでいたらと思うと……恐ろし過ぎる。
だが、あんな強敵と戦う機会なんて滅多にないから、URユニットバトルはいい戦闘経験になりそうだな。
怪我をする心配もなく戦えるのは大きい。攻撃されたらマジで死ぬほど痛いけど。
無事にURユニットバトルを終えたからか、緊張が解れたようにエステル達は談笑に浸っている。
「もし私達が対象に選ばれていたら、どの難易度になるか気になるわね」
「あー、それ気になる! 私はどれぐらいなんだろー」
「むふふ、私はきっと修羅級でありますね! 騎士でありますから!」
「ノールの相手はしたくない。むしろこの中の誰とも戦いたくない。もうURユニットと戦うのはこりごりだ」
ノール達がもしURユニットバトルに選ばれたらどの難易度に当てはまるのか、確かに気になるぞ。
今回選ばれた傾向的に、支援枠は初級から中級、火力枠は上級から超級、特殊能力持ちが修羅以上って感じだな。
俺の予想だとシスハが初級か中級、エステルは上級、ノールとフリージアが上級か超級、ルーナが超級か修羅級辺りか?
敵として対峙するのを考えたら、ノール達と絶対に戦いたくないな……。
シスハが初級だったとして怖過ぎて挑戦する気にもならん。
……あれ? こんな話題になれば喜々として話しそうなシスハがいないぞ。部屋を見渡してみても姿が見当たらない。
「シスハはどこに行ったんだ?」
「そういえば姿を見てないでありますね。どこに行ったのでありましょうか?」
「あっ、部屋の扉が開いてるよ! 中にいるのかも!」
そう言ってフリージアはシスハの部屋へと入っていったのだが……直後、大きな叫び声が聞こえた。
『えっ……ええええ!? 誰――』
『勝手に入ってくるな!』
『ぐへっ!?』
フリージアの悲鳴が聞こえたかと思えば、その後シスハの部屋は物音1つなく静かになった。
い、一体何が起きたんだ? シスハらしき声も聞こえたけど、なんかいつもと違うような……。
恐る恐る近づいていって、部屋の中に入らず声をかけてみた。
「おーい、シスハ、中にいるのか?」
『……入ってくるな』
「どうしちゃったのでありますかね? 何だか様子がおかしいような……」
「もしかしてスキルの反動かしら? 私もスキルを使ったから体が少し怠いわ」
URユニットバトルの空間でもスキルを使えば反動があるのか。
声がおかしいだけじゃなくて、口調もなんか変だぞ。
フリージアが驚く声を上げる程の反動が、シスハの身に起こっているのか?
俺と同じことを考えたのか、いつもは感情を表に出さないルーナも心配そうな表情でシスハに声をかけている。
「シスハ、大丈夫か? 姿を見せてくれ」
『ル、ルーナ、さん……の頼みでもそれは……』
「ダメなのか?」
『ッ――わ、わかった……りました』
何ともぎこちない喋り方をしながらも、シスハは部屋から出てきたのだが……その姿を見て俺は絶句した。
部屋から出てきたのは、どことなくシスハの面影を感じさせる……子供だ。
見下ろすぐらい背は低く、ずりずりと床を引きずるブカブカの服、髪は短くて顔は幼いけど、整っていて男にも女にも見える。
「は? えっ……誰?」
「シスハだ……です」
「ち、小さくなっているのでありますよ!?」
「小さくなっているというか、子供になっているわよね……。もしかしてそれが反動なの?」
「……はい、これがスキルの反動だ……です。ぐっ、口調もこの頃に引っ張られやがる……ますね」
おいおいおいおい、どうなってやがるんだ! スキルを使った反動が子供になるだと!?
ノールやエステル達に比べて、今までで1番やばいじゃねーか!
俺やノール達は子供になったシスハを見て戸惑っていたが、ルーナは目を輝かせていた。
自分よりも小さくなったシスハの頭を撫でて、ちょっと興奮気味なご様子。
「うむ、うむうむうむ!」
「ル、ルーナさん? どうしたんだ、です?」
「シスハが私より小さい……可愛い。抱っこさせてくれ」
「ルーナさんがおれ――私を!? ぜ、是非頼む!」
シスハは頬を赤くしながらも、ルーナに抱っこされて幸せそうな顔をしている。
子供になってもそういうところは変わらないんだな……。
というか、さっきから口調というか言葉遣いがめちゃくちゃ気になるんだが。
普段は常に丁寧口調だったのに、子供の頃はこんな男っぽい感じだったのか?
俺とか言いかけてたし……一体子供時代はどんな設定になっているんだ。
「スキルの反動で子供の姿になるとか、こいつはどんだけ属性盛るつもりなんだよ……」
「確かに反動がこれじゃ戦えなくなるでありますよね……」
「今までずっと使ってこなかったのも納得ね……」
ただでさえ頭を抱えるような言動しやがるのに、そこにスキルを使ったら子供になるとか特大の爆弾ぶち込んできやがった。
シスハがスキルを使うのは今回が初めてだけど、そりゃこんな姿になるんじゃよっぽどのことが起きなきゃ使わないわな。
呆然としながら子供になったシスハとルーナのやり取りを眺めていると、スマホが振動した。
あっ、そういえばURユニットバトルをクリアしたんだから、その報酬のガチャが発生するはずだ。
ワクワクしながらスマホの画面を覗くと、俺の期待通りの表示がされていた。
【URユニットバトル『中級:マルティナ・エロディ』クリア! 初回達成報酬:魔石50個、SSRコストダウン 】
【PU・フェス発生クエスト達成! URユニットフェスガチャ開催! URユニット排出率アップ&『URマルティナ・エロディ』ピックアップ!】
プリ〇ネの最新ダンジョンをようやくクリアしました……。
難易度の高いクエストなどをクリアすると、やはり達成感がありますね。
平八達もマルティナを倒してきっと達成感を得ているはず!




