脱落者
マルティナを取り逃がし、それからしばらくスケルトン達と戦い続けていた。
こちらがやられるほどじゃないが、無駄に耐久力が高く何度も復活してくるスケルトンにノール達も参っているようだ。
「いくら倒してもキリがないのでありますよ!」
「弱いがウザい。教えてくれ、あと何回倒せばいい」
「けど、確実に数は減ってきているわ。動きにも慣れてきたし、倒し切るのも時間の問題ね」
「霊体が出るタイミングもわかりましたから、確実に削っていきましょう。スケルトンを完全に倒せば、少なからずマルティナさんの体力も消耗させられますからね」
ノール達もパターンに慣れてきたのか、スケルトンを倒して即座にシスハが紫に光る頭蓋骨を浄化の光で消滅させる。
追加で地面から出てくるスケルトンもいたが、だんだんと数も減っていき包囲網が緩まっていく。
その間も壁の上にいるフリージアが、逃げ隠れするマルティナを弓で射続けて休む暇を与えていない。
今もマルティナを見つけたフリージアが矢を放っているけど、どうやら外れたみたいだ。
「あー! また外れた! 避けたら当たらないんだよ!」
もう十数回は撃ったはずだけど、マルティナは1発も当たらずにフリージアの攻撃を避け続けている。
隠れた壁ごと粉砕して撃ち抜いてもギリギリ避けて、逃げる背中に向けて矢を射ってもスゥーと移動して上手く避けられてしまう。
「フリージアがあれだけ撃ち続けてるのに外すなんて妙だな。シスハの近くにいるからデバフもかかってないだろ?」
「確かにネクロマンサーがあれを避け続けるのは、偶然と思えないわね。あっちだって見えないはずなのに、まるでどこからいつ撃たれるのかわかっているみたいだもの」
『くっくっく、ここは我が領域。貴様らの動きなど全て丸っとお見通し――』
「エステルちゃんあそこ!」
「えいっ!」
フリージアが指差したところに向けてエステルが杖を振るうと、壁のあった場所が大爆発を起こして爆風と共にマルティナが転がり出てくる。
そこを狙うようにさらにエステルが魔法の爆発をお見舞いするが、マルティナはまた爆炎の中からゴロゴロと転がりながら出てきた。
よく見ればあいつの体には紫色に光る頭蓋骨が纏わりついていて、その内の1つがスゥーと消えていく。
そして何事もなかったかのように、マルティナはそそくさと闇の中へ逃げていった。
フリージアの矢による攻撃だけじゃなく、こうやって何度もエステルの魔法でも攻撃しているのだが、全くダメージを受けているように見えない。
「あの様子だとまた無傷みたいだな。どうやって防いでやがるんだ」
「体に纏わりついてる光る頭蓋骨のせいね。多分霊体だと思うけど、あれが身代わりになって魔法を防いでいるんじゃないかしら。同じような力がこの一帯に染み付いているみたいで、魔法自体威力が落ちているわ。土魔法とかも上手く機能しないもの」
エステルが地面に杖を突くと俺達の周辺の土がちょっと盛り上がったが、ある程度離れた途端バチバチって紫の光が走って止まってしまう。
……スケルトンは地面から出てくるし、もしかして下にあの霊体がうようよいるんじゃないだろうな?
エステルの魔法にまで干渉してくるとか……マジでURユニットって反則過ぎるだろ!
しかもフリージアの攻撃を避けて、エステルの魔法を使うタイミングを完全にわかっていやがる。一体どうなってやがるんだ?
そう疑問を感じていると、突然シスハが叫び出した。
「そこです! おりゃああああぁぁぁぁ!」
気合の雄叫びと共に右ストレートを繰り出すと、拳から眩い光線が放たれて1体のスケルトンに直撃。
スケルトンは全身青い光に包まれて煙を上げて蒸発し始めた。
マルティナに撃つのかと思っていたけど、彼女の逃げた方とは真逆の全く別方向だ。
何をしているんだこいつと呆れそうになった直後、辺りに悲鳴が響き渡った。
「ああああぁぁぁぁ!? 目が、目がぁぁぁぁ!?」
声がした方を見ると逃げていたはずのマルティナが、目を手で抑えて足をジタバタとさせ地面を転がっていた。
「な、何が起きたんだ?」
「アンデッドの視界を通してこちらを見ていたようです。なので、視界を共有していたアンデッドに対して浄化の光を放ちました。その結果本人もダメージを受けたようです」
「どのアンデッドと視界共有しているかわかるのでありますか!」
「当たり前じゃないですか。私は神官ですからね」
な、なるほどな……物陰に隠れて逃げ回っていたマルティナが、正確に俺達の動きを把握していたのはそういうカラクリか。
考えてみれば使役したアンデッドに指示を出しているのはあいつだから、視界共有ぐらいしていても不思議じゃあない。
見えているならフリージアやエステルが攻撃するタイミングもわかるし、ネクロマンサーのあいつでも避けられたのも納得だ。
マルティナが無様に地面を転げ回っているせいか、俺達を囲んでいたスケルトンの動きが鈍くなった。
その隙を逃がさずにルーナが跳び上がってマルティナ目がけて槍を投擲し、フリージアもまた矢を射る。
このまま抵抗する素振りすらないマルティナに命中するかと思いきや……また黒い骨の手が出てきてそれを弾く。
その間にスケルトンがマルティナのローブを掴み、ズルズルと引き摺って暗闇の中へと逃げて行った。
「あっ! 防がれた! 逃げていくんだよ!」
「ち、厄介な骨だ」
「スケルトンに引きずられてるのはシュールだな……。けど、視界共有をしていたのは確定か。これで1つ手の内は封じたも同然だな」
「うふふふ、さっきの悲鳴からしてマルティナさんに相当なダメージがあったみたいですからね。また視界共有を始めたら、すぐに浄化の光をぶっ放してやりますよ。神の世界への引導を渡してあげましょう!」
確かにこれで視界共有は封じたも同然だ。
隠れたらフリージアの狙撃で今度こそ逃がすことなく仕留められる。
もし視界共有を使って避けたとしても、シスハの浄化の光を当ててダメージを与えもだえ苦しんでる間に止めを刺す。
どちらにしても次の一手でこの勝負も俺達の勝ちで決着がつくな。
ふぅ、中級にしては難易度が高いと思ったけど、クリアできないほどじゃあなかったな。
既にスケルトン達の数も減り、すぐに逃げたマルティナを探し出してぶちのめそうと指示を出そうとしたその時、物陰から黒い影が飛び出すのが視界に入った。
「なっ――うおおおおお!?」
目を向けると既に目前に刃が迫っていて、それはシスハを狙っていた。
慌てて割り込んで鍋の蓋で防ぐと、鈍い音を立てて火花を散らしながら蓋の表面を刃が滑り俺のヘルムを掠って通り抜けた。
あ、危なかった……防がなかったらシスハの首を刈り取られていたぞ。
振り向けば四足歩行の獣型スケルトンに乗ったマルティナの姿があり、禍々しい紫色のオーラを放ちながら鎌を構えて息を荒くしていた。
「ふー、ふー……ぜ、絶対に許さない、絶対に! 泣かせてやるからな! 覚悟しろよ! 特に神官!」
マルティナは鎌をシスハに向けながら凄い剣幕で叫んでいる。
さっきの一撃も完全にシスハを狙っていたし、浄化の光を食らったのがよっぽど頭にきたようだ。
「不意打ちで首を狙ってくるとかあいつ殺意高過ぎだろ。シスハ、お前めっちゃ恨まれてるぞ」
「あらら、完全に怒ってますねぇ。逆恨みは止めてほしいです。本気出してきちゃいましたか」
「獣みたいなスケルトンに乗っているのでありますね。人型だけじゃなくて、獣型のアンデッドも操れるのでありますか」
「ネクロマンサーならそれぐらいはできるわよね。どうやら逃げるのは止めたみたいだけれど……あら」
やっと逃げずに戦う気になったのかと身構えると、マルティナを覆う紫色のオーラがさらに増して地響きが鳴り始めた。
鈍い俺でも肌がビリビリとして凄みを感じる。ま、まさかあれを呼ぶんじゃ……。
俺の嫌な予感が的中するように、マルティナは鎌を掲げて高らかにある名前を叫んだ。
「出でよ! 僕の最強の友、メメントモリ! 狼藉者達に死の鉄槌を下せ!」
俺達を取り囲んでいたスケルトン達の体が崩れ落ちて、紫に光る頭蓋骨が飛び出してマルティナの鎌に集まっていく。
そして鎌を地面に突き刺すと紫の光が地面へ広がっていき、巨大な黒い骨の手が複数飛び出す。
それだけで終わることなく、巨大な黒い骨は地面を隆起させながら這い出てきてその姿を現した。
俺の背丈の倍以上ある巨体で全身黒い骨で形成され、頭や胴体、下半身は鎧を装着したような形でその姿はまさに骨の鎧だ。
目に紫色の強い光を宿して、全身からも同じ色のオーラをまき散らしている。
手には体と同じ色の剣と盾を装備して、あれも恐らく骨で作られている物だ。
それが計5体出てきて、さらに四足歩行の巨大な獣型も現れマルティナはその上に飛び乗った。
あれが本来マルティナが操る彼女特有のアンデッド、メメントモリだ。
俺が知る限り獣型のメメントモリなんていなかったはずなんだが……強化されている影響なのか?
この感じる圧力、魔人の墓場で戦ったデスバーサーカーよりも強く思えるぞ。
ノール達もメメントモリから感じる不気味な雰囲気に気圧されているのか、強敵を目の前にした緊張感ある面持ちをしている。
「ついに出てきやがったぞ。とんでもない迫力だな……」
「あれが黒い手の正体でありますか。強そうなのでありますよ」
「ここからが本番って訳ね。他のスケルトンは退いたみたいだから、あの子も逃げずに戦う気満々って感じだわ」
「最初からそうしろ。これで仕留められる」
「もう追いかけっこはお終いなんだー。ちょっと楽しかったのにー」
マルティナからもう逃げる気配は微塵も感じず、鎌からねっとりとした紫色のオーラを放っている。
まさかあれがスキル……って訳でもなさそうだな。強化された固有能力が漏れ出しているのかもしれない。
なんにせよあの紫のオーラに触れたらデバフがかかるだろうから、不用意に近づくのは避けよう。
……そもそもあのメメントモリがいる以上、もう簡単に近づけなさそうだけどさ。
さっきまで怒り心頭だったマルティナだったが、俺達の様子を見て気をよくしたのかまたあれな言動を始めた。
「さあ、君達の悲鳴で鎮魂のレクイエムを奏でよう! 混沌の闇の力にて、罪人達を煉獄にいざなわん!」
マルティナが指パッチンをすると同時にメメントモリ達が動き出した。
まず様子見でエステルが魔法の爆発で攻撃するが、全く効いていないかのように煙の中からほぼ無傷でメメントモリが駆け出てくる。
フリージアが矢を射っても鎧のような腕で弾かれ、接近を許す前にノールが前に出て剣で斬り付けた。
メメントモリも合わせるように剣を振り、両者激しく斬り合っている。
それが1体だけじゃなく5体もいて、すぐに2体目、3体目と戦いに加わってきて、こちらもルーナが加わって何とか前線を維持。
エステルとフリージアもメメントモリへ攻撃し、残りの2体が来ないように何とか足止めをしているがそれもいつまでも持ちそうにない。
このままじゃまずいと思っている中、ノール達とメメントモリの中を1つの影が飛び越えてきた。
それは獣型のメメントモリに乗ったマルティナで、俺達の後方を塞ぐように立ちはだかる。
「クックックッ、どうやら僕の友、メメントモリの前に手も足も出ないようだね! そろそろ狩らせてもらう!」
こいつメメントモリを出したからって調子に乗り始めやがったぞ!
メメントモリに乗るマルティナは俺達の方に突っ込んでくると、すれ違い様に鎌の刃を引くように当ててくる。
それを俺が鍋の蓋で何とか弾くが、鎌に触れる度に体の力が抜けて動きが鈍くなっていく。
ついには捌き切れずに押し負けて、鎌の刃が体を掠ると鋭い痛みが走り叫ぶのを堪えた。
斬られた箇所を見ると傷はなく、この異空間で実際に怪我をしないのは本当のようだ。死ぬほど痛いけどな!
くっそ、パワーダウンだと……やっぱりあの鎌から発しているのはデバフのオーラか。
まるで全身誰かに引っ張られているような感覚がして気持ち悪い。
ノール達に来てもらおうにも、前方から迫るメメントモリの相手で手一杯。
獣のメメントモリに乗り縦横無尽に駆け巡るマルティナの対処は厳しい。
フリージアが何とか狙撃して遠ざけてはいるが、かなり足が速く隙を見ては鎌を振り回しながら突撃を仕掛けてくる。
その際に紫色のデバフオーラをばら撒いていきやがるから、エステルやフリージア達も力が抜けているようだ。
シスハが何とか浄化の光で対抗しているものの徐々に押されつつある。
最初逃げ回っていたのが嘘だったような攻め方に焦る中、またマルティナが突撃をしてきた。
鎌を防ごうと身構えたのだが、マルティナは鎌を構えることなく獣のメメントモリが真っ直ぐに突っ込んでくる。
まさか!? と思った瞬間、メメントモリが俺にのしかかってきて押し倒され、乗っていたマルティナはその上から跳んだ。
「もらったぁ!」
「しまっ――シスハ!」
標的は俺達の中心にいたシスハで、跳躍して俺を抜いたマルティナは着地すると鎌を構えて駆け出した。
俺の上に乗りかかっているメメントモリを払いのけようとしたが、身に纏っている紫のオーラのせいで上手く力が出せず拮抗する。
くそ! メメントモリからもデバフが出てるとか反則過ぎるだろ!
他のメメントモリの対処をしていたフリージアとエステルも反応が遅れ、既に間に合わないほどシスハへの接近を許してしまった。
シスハがやられてしまえば、もうデバフへの対抗手段がなくなり全滅は必至だ。
それをわかっているからマルティナもシスハを狙っているに違いない。
俺達も当然わかっていたからシスハを中心に置いて守っていたのに、まさか突破されるなんて……。
メメントモリを押し退けることもできず、自身のふがいなさを覚えながらシスハが襲われるのを見ていることしかできない。
そしてとうとう、マルティナが鎌を振り上げてその凶刃がシスハに振り下ろされたのだが……彼女は太ももに付けたホルスターから筒を手に取り、光り輝く刃を形成してその鎌を受け止めた。あれはシスハに持たせているマジックブレードだ。
マルティナの鎌を覆う紫のオーラと、シスハの持つマジックブレードの光が激しく競り合っている。
「へっ?」
「私をただの神官だと見くびりましたね」
「な、何を――むぐっ!?」
腑抜けた声を出したマルティナに対して、シスハは鎌を上に弾くと同時にマジックブレードを手放して、その手でマルティナの顔面を鷲掴みにした。
その手にはグローブの見た目をしたSRの装備、プロミネンスフィンガーが装着されている。
シスハの手は眩く輝いて爆発を起こし、マルティナは悲鳴を上げて吹き飛んだ。
「ギャアアアアァァァァ!?」
マルティナは顔から煙を上げて地面に倒れ落ちて、打ち上げられた魚のように体をビクンビクン跳ねさせながら、顔を手で押さえてもだえ苦しんでいる。
それと同時に俺にのしかかっていたメメントモリの力が緩み、すかさず殴りつけて払い退けた。
ふぅ、シスハが武闘派で助かったぞ。まさか神官が反撃してくるとは思ってなかったんだろうな。
デバフも神官の力で無力化してるようだし、ある意味1番有利に戦えるのかもしれない。
多分マルティナも俺達同様実際に怪我はしないはずだが、顔面を爆破された痛みを想像するとブルっちまう。
1度退くか、このまま倒れたマルティナに追撃するか、周りの状況を見て判断しようと思っていたが……前で戦っていたルーナがマルティナに向かって駆け出していた。
俺にのしかかっていたのと同様に、他のメメントモリの動きが鈍くなったからマルティナに止めを刺しに向かったのか!
「待てルーナ! 迂闊に近づいちゃ――」
俺の制止する声は間に合わず、ルーナの持つ槍に赤い光が纏いつく。
スキルのカズィクルを発動させたようで、確実に仕留められるようにか直接届く範囲まで近づくと、倒れて悶え苦しむマルティナ目がけて槍を突き出した。
物凄い速さで繰り出された槍が直撃するように見えたが、マルティナの体から黒いオーラが溢れ出す。
それに呼応するように地面からメメントモリの手が飛び出し、ルーナの槍を防ぐように立ちはだかる。
が、手は槍に貫かれてバラバラに砕け散り、容赦なくマルティナへ向かう。
しかし、それで僅かに勢いが削がれたのか、マルティナが倒れながら振った鎌で弾かれてしまった。
「何!?」
「遊びはここまでだ!」
鎌を振った勢いで起き上がったマルティナが、鎌を回転させるように振り回してルーナを攻撃していく。
ルーナも槍と血染めの黒衣を操って応戦しているけど圧倒されている。
すぐに俺も駆けて向かうが、獣型のメメントモリが俺の目の前に立ちはだかって飛びかかってきた。
メメントモリも同調するように黒いオーラを放っていて、メメントモリの爪による攻撃を受け止めたがさっきよりも強さが増していた。
ノール達のところにも活発に動き出したメメントモリが襲いかかっていて、ルーナに近寄れないよう孤立させている。
さらにはマルティナから放たれる黒いオーラに包まれ、ルーナの動きが明らかに鈍い。
かなり強力なデバフを受けている証拠、あの黒いオーラはスキルによるものなのか?
どちらにせよまずい状況に変わりはない。何とか助けに行きたいけど、獣型メメントモリの相手で俺は手一杯だ。
ちょっとでも余計な素振りをしたら、また押し倒されて今度こそ動けなくされちまう。
「ルーナさん!」
シスハが必死に向かおうとしていたがエステル達に止められていた。
ここでシスハが不用意に動けば、あっという間に全滅させられてしまう。
だが、このままルーナを見捨てる訳には……そう一瞬の思考をしている間に決着してしまった。
回転させながら鎌を振り回すマルティナの刃が、ルーナの槍を手から弾き飛ばして体を斬り裂く。
怪我はないようだけど、痛みはあるせいかルーナは苦痛の表情に顔を歪ませている。
それでもルーナは怯まずにマントを動かし反撃に出たが、続けざまにまた鎌で斬られた。
2回目の攻撃を受けたルーナが後退ると、彼女の体は輝き出して光の粒子が漏れてその姿がだんだんと透けていく。
やられた、あのルーナがこんなに呆気なくやられちまった!? 嘘だろおい、2回斬られただけだぞ!
ルーナは自分の手を見る仕草をして、やられたのを悟ったみたいだ。
だが、赤く発光する目はまだ死んでおらず、勝ち誇るように鎌を肩に担いで決めポーズを取っていたマルティナに飛びかかった。
「なっ!? お、お前――ギャアアアア!?」
油断していたマルティナに抱き付くと、口を大きく開けて首筋に牙を突き立てている。
マルティナが悲鳴を上げると同時に、ルーナの姿は完全に光の粒子になって消えてしまった。
最後に一矢報いたってところか……さすがはルーナ、ただじゃやられはしないか。
マルティナは噛まれた首を押さえてかなり痛がっていた。
俺と対峙していた獣型メメントモリがマルティナの方に駆けていき、その上に彼女は飛び乗る。
「くそ……か、噛んできやがった……あいつ吸血鬼か! だがこれで1人仕留めた! すぐに君達も同じ場所へ送ってやる!」
メメントモリに乗りながら未だにスキルの黒いオーラを放ち、マルティナは口端を釣り上げて自信満々にそう宣言している。
ルーナは倒されてこの場から消えたが、観戦所に送られただけだ。
でも、味方がやられるのを見るのは気分がいいものじゃない。
理不尽かもしれないけど、目の前でドヤってるあいつが非常に腹立たしい。ぶちのめしたい。
全員そんな思いなのか、ノールとエステルとフリージアからも殺気立っている雰囲気を感じる。
そしてルーナがやられたことで1番怒りくるうであろう人物は……虚無っていた。
顔から表情が抜け落ちて、目はうつろになって今にも消えてしまいそうだ。
しかし、マルティナの誇るような宣言を聞いた途端に、言葉で表すことのできない般若のような表情に変貌し、こめかみから血を噴き出しながら白目を剥いて叫び出した。
「よくも……よくもルーナさんを! ウオオオオォォォォォ!」
雄叫びを上げると共にシスハの全身から光が溢れ出して、それは天に向かって突き抜けていく。
彼女の長い髪が光によって激しく波打ち、荒ぶる金色のオーラを身に纏っている。
シスハが1歩足を前に踏み出すと、この場を覆っていたマルティナの紫色のオーラが瞬く間に立ち消えた。
そして白目を剥いたままのシスハがマルティナを指差して、静かだが何故かよく通る声が聞こえた。
「覚悟しろよ。魂の一片も残さずこの世から旅立たせてやる」
更新が遅くなり申し訳ありません。
次回はもう少し早く更新できればと……。
先月3月27日に漫画版5巻が発売となりました。
興味がある方は是非お読みいただけると嬉しいです!
更新間隔が空いてしまっていますが、新作の投稿もしていますのでお読みいただけると嬉しいです。
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