URユニットバトル
いつもお読みくださりありがとうございます。
漫画版に関してのお知らせがございますので、興味のある方は後書きをお読みいただけると幸いです。
ノール達に各URユニットの情報を話しつつ、悩みに悩んだ末にどのユニットと戦うのか決めた。
「よし、今回は中級のマルティナにしよう」
「理由を聞いてみてもいいでありましょうか?」
「ああ、まず理由を挙げるなら当然勝てそうな相手だからだ。上級のマルグリアまでなら恐らく勝てるけど、超級のエルスからはどうなるか予想もつかん。それに、持ち込めないアイテムや装備、どんな場所で戦うかの確認もしたい。実際に戦う相手が俺の知識とどれぐらい違うかも見てみたい。それを考慮した上で、今回は中級を選ぶのが無難だろう」
「そうね。今回はお試しの意味合いが強いから、あまり無理に高難易度を選択する必要はないと思うわ。相手が強過ぎると確認する暇もなくなりそうだしね」
一応説明はされているけど、このURユニットバトルはまだまだ未知の部分が多い。
ならば今回は安全策を取って、難易度が低い相手と戦って色々と試しておきたい。
中級なら他の難易度で勝利した際のピックアップ率とかも、ある程度予想もできるはずだ。
そう考えていたが、シスハは少し不満そうに意見を口にし始めた。
「確実に勝てそうな相手がマルグリアさんまでというのは、ちょっと納得いきませんね。英雄オルベリスとカロンさんならわかりますが、エルスって方にも私達で勝てるかわからないのですか? 砲撃手のユニットだそうですけど、遠距離ならこちらもフリージアさんとエステルさん、ルーナさんだっていらっしゃいますよ」
「遠距離って言っても度合いが違い過ぎるからな。GCだとマップの端から端まで大砲飛ばしてくるような奴だぞ。実際に戦うとどうなるのかわからんが、下手すりゃ射程が数十キロメートルあると想定してもいいぐらいだ」
「そ、そんなに離れてたら私の矢じゃ届かないかも……けど、エルスちゃんだってこっちが見えないだろうし、距離もあったら当たらないよね?」
「相手がエルスだけならいいが、観測手が潜んでいたら位置を予想して撃ち込んでくるぞ。あいつの大砲は魔導砲でしかもUR装備だ。1回の攻撃で3連射して、1発がクレーターができる威力だって描写があった。戦う場所次第じゃ一方的に攻撃されて詰むぞ」
「そこまでくると個人というより、戦争やるための戦力ね……」
「実際GCじゃ攻城戦みたいな拠点攻めでしか使わなかったからな。ある意味俺達には過剰戦力だろ。大討伐なら1人で殲滅できるからいいだろうけど、普段戦わせるのは難しい」
マルグリアも確実とは言えないが、今の俺達でも十分勝機は望めるはずだ。
魔法の鋼線を使って戦うキャラクターでトリッキーな性能をしていて、場所次第で負ける不安要素があるから今回は止めておく。
だが、エルスからは話が完全に変わってくる。GCと実体化の差を考えたら、あいつの砲撃は脅威過ぎるからだ。
ゲーム中でもどんな理屈か知らんが、明らかに見えてない距離にいる相手に砲撃を飛ばしていた。
ただのゲーム内での仕様だと言えばそれまでだが、もしちゃんと理屈があるとしたら実体化して戦う際に同じことが起きる可能性は十分あるだろう。
そうなったら俺達が見えない距離から、バカスカ砲弾が飛んでくる事態になりかねない。
それに勝ってガチャで引けたとしても、扱いにかなり困るだろうからな。
安易に戦わせなんてしたら、エステルの比じゃないレベルで狩場が崩壊しちまう。
「話を戻すが、マルティナを選んだ理由は役割的にも最適だからだ。今の俺達は純粋なバフ役はいなくとも、俺とノールのステータスバフに、エステルとシスハの支援魔法もある。火力も十分あるとなれば、この中で選ぶならデバフ役が1番だろ」
「デバフと言っても、具体的にどんな能力を下げられるのでありますか?」
「うーん、GCの話になるけど、攻撃力低下、防御力低下、魔法耐性低下、行動速度低下、移動速度低下、状態異常抵抗低下ってところだな。対策なしで戦うと恐慌状態で行動不能になって、マルティナ本人に即死させられることもある」
「エグ過ぎる。そいつ、本当にネクロマンサーなのか?」
「そりゃURユニットだからなぁ。最上位のネクロマンサーならそれぐらいの能力はあるさ。デバフ能力はおまけみたいなもんで、本来の役割であるネクロマンサーとしても強い。マルティナの出すアンデッドは、下手なタンク役より硬かったからなぁ。この前の墓地で戦った、デスガーディアンぐらいの強さはあるかもしれないぞ。しかも複数呼び出せる」
「私達なら簡単に倒せるでありますが、あれを複数体自由に使役できるなら脅威でありますね」
「ネクロマンサーに会ったことないけど、聞いてるだけでも凄そうなんだよー」
マルティナ本人は大して強くないとは言ったものの、それはノール達のような生粋の戦闘職に比べたらの話だ。
上手くデバフと使役するアンデッドを使えば、十分戦闘職を倒せる程度の強さはある。
継続時間はそれなりのものの、アンデッドで足止めしつつデバフを重ねると下限近くまで能力値を下げることもできた。
その状態でマルティナの攻撃を食らえば、ほぼ即死すると思う。俺達が戦う時もその点は注意が必要だ。
けど、マルティナとの戦いに勝てる絶対的な勝算が俺にはあった。それはシスハの存在だ。
「ダメ押しに一言加えると、相手が複数いてもアンデッドならシスハの力で即撃退できるだろ? 使役しているアンデッドさえ倒しちまえば、戦闘力は半減以下。本体を全員で袋にしてボコるぞ」
「これから仲間になってもらうつもりの相手に対して、酷過ぎる気がするのでありますが……」
「ガチャのピックアップがかかってるんだぞ? これぐらいやるのは当然、まさに獅子搏兎の精神だ」
「勝てそうな相手を選んだ上で、徹底的に負ける要素すら摘んでいくのはなかなかの外道ですね。それでこそ大倉さんです」
「うむ、まさに外道」
「助平八なだけじゃなくて、外道なんだねー」
うるせぇ! 外道はいいにしても助平八は余計だろ!
全く、万全の状態で勝てるように考えているというのになんて扱いなんだ。
そんな不満を抱きつつもクエストに向けて準備をしていると、ルーナがシスハに気になることを聞いているのが耳に入った。
「ネクロマンサーといえば神官の敵対者の一部。もし仲間になっても平気か?」
「うふふー、心配してくださってありがとうございます。けど、大丈夫ですよ。ネクロマンサーだからって一概に敵視したりしませんからね。ですが、もし死者を苦しめているような輩でしたら……大倉さん、マルティナさんはどのような方ですか?」
「あ、ああ……死者を弄ぶような奴ではないはずだぞ。ちょっと変わった奴かもしれないが……」
「なら問題ありませんね。どんな方なのか楽しみですよ」
マルティナは個性的な一面はあるものの、俺の知る限りはそういう悪意のある奴ではなかったはずだ。
もしそうだったら俺だって仲間の候補にはしないからな。
今回の対象に含まれていたオルベリスは、そういう意味じゃ少し仲間にしにくいのもあった。
称号にも狂英雄とか入ってたからな……あいつに比べたらマルティナは全然仲間にするのに問題はないと思う。
全員準備も終わりスマホでURユニットバトルを選択し、画面に【中級:マルティナ・エロディに挑戦しますか? Yes、No】と表示される。
「それじゃあ行くぞ。いざ、URユニットバトルだ!」
Yesを選択するとスマホの画面が眩しく輝き始めて、目の前が光で埋め尽くされた。
●
光が収まると、そこは自宅ではなく全く見覚えのない場所になっていた。
昼間だったはずなのに月明かりが辺りを照らす夜になっていて、周囲には墓石のような長細い石が沢山並び立っている。
ここがマルティナと戦う為に用意された異次元空間……。
「想像通りというか、死霊術師がいそうなイメージ通りの場所だな」
「魔人の墓地に続いて、また同じような場所でありますねぇ」
「自分達で選んだとはいえ、最近は墓地と縁でもあるのかしら。やっぱり相手の有利な場所での戦いになるのね」
「邪気はありませんが、かなり濃密な魂の気配を感じますね……。これを全て束ねているのでしたら、相当強力なネクロマンサーですよ」
うーむ、俺は何も感じないけど、シスハからすると相当な力を感じ取っているのか冷汗を流している。
まだ姿も見せてないのにあのシスハがここまでの反応を示すなんて、やはり相手がURユニットなだけあるな。
さっそく状況を確認しようと思ったのだが、その前にフリージアが指摘をしてきた。
「あれれ? 平八、ボロ布どうしたの?」
「え? ……あっ!? 聖骸布がないぞ!」
「忘れてきたのでありますか?」
「んな訳ないだろ! どういうことなんだ……あっ、女神の聖域もねぇ!?」
「あっ! 私のラインの乙女もないのでありますよ!」
「……あら、私のグリモワールもないわ。もしかしてUR装備は禁止ってこと?」
「でもでも、私の弓と矢はあるんだよ?」
「私達が元々持っているUR装備は使ってもいいみたいですね。これが持ち込み制限のある装備ってことですか」
おいおい、禁止装備ってURのことだったのかよ!
俺達が今持っていたURは【聖骸布】、【女神の聖域】、【サイコホーン】、【センチターブラ】、【グリモワール『セプテム・ペッカータ』】、【ラインの乙女】の6つだ。
クエスト開始前は確かに装備していたのに、中に入った途端消えるなんて……。
ノール達の専用装備は持ち込めているから、専用装備じゃないUR系はダメなのか。
他にも使えない物があるか試してみると、SSR系の装備やアイテムは問題なく持ち込めていた。
けど、スマホのアプリは起動せず、地図アプリやビーコンなども選択できない。
「地図アプリも使えないみたいだな。スマホのアプリ系も使用禁止か」
「つまり相手のステータスを見たり、ビーコンも使えないってことですか」
「SSRまでの装備とかは使えるからまだ優しい方かもね」
「ある程度実力で勝ち取れってことでありますか。その方がやり応えがあるでありますよ!」
うーん、参ったなぁ。ステータスが見られないと強さの見当もつかない。
称号付きなら間違いなく凸状態だから、俺の知っている強さじゃないはずだ。
強化された固有能力やスキルを使ってくる可能性を考えたら、慎重に戦わないとな。
それに地図アプリが使えなくて位置がわからないと、相手から先制攻撃されるかもしれない。
くっ、今まで先手を取って戦うことが多かったけど、URユニットバトルはそう甘くないのか。
未だにマルティナの姿は見当たらず、フリージアがきょろきょろと辺りを見渡している。
「ねーねー、マルティナちゃんはどこにいるのかな?」
「地図アプリが使えないからとにかく探すしかないだろ。皆周囲に注意するんだぞ」
壁がちらほらとあるけど墓石が見渡す限り広がっていて、この墓地は結構広そうだ。
俺達に見えないように息を潜めて隠れているのか?
不用意に探していたら不意打ちされる危険性があるから、迂闊に動けないな。
戦いは既に始まっているということか……。
と、生唾を飲み込んだのだが、ずっと黙っていたルーナがジト目で呆れたような声をあげた。
「さっきからいるあれじゃないか?」
「え?」
ルーナが指差した方を見ると、墓石の脇から顔を覗かせていた黒い影がびくりと動いた。
それはフードを被った薄紫色の髪をした少女で、長い前髪で覆われて両目が見えない。
俺達が存在に気が付いたのを察知して、彼女はその場から飛び上がってスタッと少し高い壁の上に降り立つ。
全身を覆う黒いローブを身に纏って、俺の背丈よりも遥かにでかい大鎌を携えている。
バサリとローブを振り払うと、ショートキャミソールに短パン姿の露出度のある服装が見えた。
そんな少女は顔を片手で覆って決めポーズをしながら、わざとらしく笑い始めた。
「クッ、クククク、どうやら見つかってしまったようだね。カッコよく登場したかったのに……」
肩を落としてしょんぼりしながら何か呟いたが、すぐに気を取り直したのか再びバサリとローブを翻した。
すると、俺達の周囲にボワッと紫色の光が次々と現れ始め、堂々と彼女は名乗りを上げる。
「僕の名はマルティナ・エロディ! 深淵を統べる者! 僕と相対したこと、神の不在を嘆くといい!」
いつもお読みくださりありがとうございます。
今月3月27日に漫画版5巻が発売となります。
表紙には可愛いエステルとモフットが!
コミックス版独自の展開などもございますので、是非お読みいただけると嬉しいです。
ついでに新作の投稿もしていますので、お読みいただけると嬉しいです。
↓にリンクを張ってあります。
 




