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慰霊碑

 デスバーサーカーとの戦闘を終え最深部へ進んだ俺達の前に、驚くべき光景が待ち構えていた。


「うおっ!? な、なんだよここ!」


 狭い部屋の中は紫色に輝く魔法陣が床に描かれていて、その中にデスバーサーカーと似た巨大な鎧姿の戦士がいた。

 全部で9体いる戦士はどれも座り込んで力尽きた風貌で、近くに巨大な斧や槍が置かれている。

 この光景にさすがのノール達もギョッとしたようで、息を呑んで部屋に足を踏み入れずにいた。


「まさに埋葬場でありますね……あれが全て魔人の遺体なのでありましょうか」


「こ、怖いんだよぉ……動いたりしないよね?」


「不吉なことを言うな。フラグが立つ」


「さっきのデスバーサーカーと違って、邪気は残っていないようです。今のところは動き出す様子はないですね」


 そう言われても、魔法陣まであるし何が起きるかわからないからなぁ……。

 さすがにデスバーサーカーが9体も一斉に襲ってきたら、たまったもんじゃないぞ。

 だが、部屋に入らない訳にもいかないし、何があってもいいように用心して進むしかない。


 俺が先頭に立って部屋の中に足を踏み入れた。

 戦士の遺体が動き出さないかビクビクしながら魔法陣へと近づいて、何もないのを確認してからエステルに魔法陣へ干渉してもらう。


「これで魔法陣の機能は停止したわ」


「部屋に入っても何も起きなかったけど、これは何の魔法陣だったんだ?」


「うーん、召喚系のものとはまた違った感じかしら。詳しく調べないとわからないわね。けど、ここにある遺体と関係がありそうだわ」


 魔法陣の中に全部入るように戦士の遺体があるもんなぁ。

 とりあえず動き出してデスバーサーカー化しなかったから安心したぞ。

 

 改めて部屋の中を見てみると、奥の方に縦長の巨大な石が鎮座していた。

 石には見たことのない模様が刻まれていて、よくわからないがまるで文字のような配列だ。

 ……うん? 読める、読めるぞこの文字!


「何々……荒ぶる戦士達の魂ここに眠る、か。これは慰霊碑なのか?」


「大倉殿、読めるのでありますか?」


「ああ、普通にわかるけど……ノール達はわからないのか?」


「この文字はわからないわね。魔人の使っている言語なのかしら」


「うーん、この世界に来た時に言語の書ってガチャのアイテムを使ったから、それでわかるのかもしれないな」


「私達も召喚される際にある程度知識を得られるようですが、魔人の言語までは含まれていなかったようですね」


 ある意味ノール達からしてもこの世界は別世界って感じだけど、文字とか読めるしその他諸々の知識も持ってるもんな。

 そんなノール達でも魔人の言語に関しての知識はないようだ。

 言語の書のおかげで俺が魔人の言語がわかるのは朗報かもしれないぞ。

 もし魔人達が作った資料とかを見つけられたら、俺が解読できるってことだからな。

 ……まあ、今のところ魔人達の残した手記とかは見つかってないけどさ。

 

 慰霊碑をじっくり観察している間に、フリージアは部屋の中を漁っていたのか残念そうな声を上げていた。


「むむー、ここには他に何もないんだね。神魔硬貨が1枚も見つからないよぉ」


「奥まで来て無駄足か。もう疲れた……」


「実験場に見えて、ただの埋葬場だったのかしら」


「あんなのがいるのにただの埋葬場だったら、恐ろしいでありますけどね……」


 侵入者の撃退用だったとして、ただの埋葬場にデスバーサーカーが配置されてたら驚くわ。

 でも、地図アプリを見てもこの部屋の中に隠された物はなさそうだし、ここには本当にこれ以上何もない。

 ぐぬぬ、既に6枚神魔硬貨を手に入れているけど、最深部に何もありませんでしたとか徒労感が半端じゃないぞ。


 がっかりして肩を落としていると、顎に手を当ててジーっと慰霊碑を見つめているシスハの様子に気が付いた。


「ふーむ……」


「どうかしたのか?」


「いえ、この慰霊碑からちょっと感じる物がありまして。未練といいますか、残留思念といいますか」


「俺には何も感じないけど、神官だけ感じる何かがあるのかもな」


「気になってしまいますから、たとえ魔人のものだったとしてもお祈りだけでもしておきましょう。私は神官ですからね」


 うわ!? あのシスハがまともなこと言ってやがる! ちゃんとした意味で神官ですからねって言うの久々に聞いたぞ!

 ノール達もシスハの言葉に呆然とした様子をしていて、俺達は黙って両手を合わせて慰霊碑に祈りを捧げる彼女を見守る。

 すると、慰霊碑が突然発光し始めて、縦にヒビが入り真っ二つに割れて左右に倒れた。

 さらに背後でガシャンと大きな音がして振り返ると、戦士達の遺体がデスバーサーカーと同じようの灰になって崩れ始め、纏っていた鎧のみがその場に残っている。

 こ、こいつやりやがったぞ!? 慰霊碑と戦士の遺体まとめて破壊しやがった!


「おい! 何がお祈りだ! お前慰霊碑壊しやがったな! 戦士の遺体まで灰に……ついに念力で壊せるようになったのか!」


「そ、そんな訳ないじゃないですか! 本当にただ祈って……あれ? 慰霊碑の中に何か入っていますよ」


 割れた慰霊碑を見てみると、その中に複数の神魔硬貨が入っていた。


「神魔硬貨だぞ! なんで石の中にこれが入ってるんだ?」


「あっ、見て! 慰霊碑が光ってるよ!」


 割れた慰霊碑がまた光り始めると、書かれていた文字が変形していく。

 な、何が起きているんだ? まるで誰かが書き換えているかのようだけど……やだ、怖い。


「おいおい……文字が書き変わったぞ」


「なんて書いてあるのでありますか?」


「……聖女の祈り、感謝する、だとよ」


「うふふふふ、どうやら魔人にも話のわかる方がいたんですね。私の聖女力を感じ取れるとは、無事に昇天してくれたはずです」


「シスハちゃん凄いんだよ! よ、聖女様!」


 ま、まさか、本当に魔人の魂がここに存在していたっていうのか?

 その魂が慰霊碑に宿っていて、シスハの祈りで成仏したと……マジかよ。

 これじゃシスハが本当に聖女みたいじゃないか!


 そんな不思議体験がありながらも、慰霊碑の中にあった神魔硬貨の枚数を確認した。


「全部で10枚か。これってここにある遺体の数と、さっき戦ったデスバーサーカーを含んだ数だよな」


「1人につき1枚神魔硬貨を持っていたのかもね。魔人にとってこの硬貨は、やっぱり何か意味のあるものなのよ」


「むー、本当に不思議な硬貨でありますね。話のできる魔人でもいれば、これが何なのか聞けそうでありますのに……」


 戦士の遺体の数と同じ枚数の神魔硬貨が、慰霊碑に入っていたのは無関係と思えない。

 やはりこの硬貨には意味があって、何か特殊な力があるに違いない。

 そうじゃなきゃ俺のスマホが反応して、アイテムと交換なんてできないはずだ。

 ……ん? スマホに通知が……えっ!?


【『荒ぶる魔人達の鎮魂』達成! :報酬・魔石300個・SSRコストダウン・SSR神魔硬貨探知アプリ】


「なぬ!?」


「どうしたのでありますか?」


「よくわからんがクエスト的なものを達成したらしい! それで神魔硬貨探知アプリとかいうのが貰えたぞ!」


「えっ、アプリでありますか!」


 おいおい、まさかこの場所もガチャと関係があったっていうのか?

 表記を見ると魔人達の鎮魂って書いてあるが……しかも割と報酬が豪華だぞ。

 その中でも特に気になるのは神魔硬貨探知アプリってやつだ。


 ――――――

●神魔硬貨探知アプリ

 一定範囲内に存在する神魔硬貨の大よその位置を地図アプリに表示する。

 硬貨との距離を音で知らせる機能付き。

 ――――――


 さっそく地図を見てみると、墓地のある場所の上に大きくコインが表示されていて、ここに神魔硬貨があるってアピールしているようだ。

 地図を拡大しても詳細な位置は表示されず、この辺りのどこかにありますよって結構曖昧な表記になっている。

 音の機能はオンオフがあるようで、試しにオンにして手に入れた神魔硬貨をスマホに近づけてみると、ピピピピピピ! って激しい音がなった。

 遠ざけるとピッ、ピッ、って音の鳴る速さが遅くなって、本当に探知機のようだ。


「随分と都合がいい気がするけれど、神魔硬貨を入手し始めたからかしら?」


「この報酬というのも、まるで私達の状況に連動しているかのようですね。神魔硬貨の入手が関係しているのか気になるところです」


 確かに都合がよすぎるな……まるで神魔硬貨を集めるのです! って促されているようだぞ。

 でも、神魔硬貨を見つけたのは本当につい最近だし、今回のクエスト的な物で条件が達成されたってことか?

 まるでソシャゲとかの追加要素な感じが……スマホのガチャの元はGCだから、機能がアップデートされて追加要素があったりしてな。

 

 神魔硬貨と達成報酬を手に入れたので、もうここに用もないから帰ることに。

 だが、その帰り道で地下墓地にある異変が起きていた。

 さっきまで徘徊していたデッドスピリットやデスガーディアンが1体も見当たらないのだ。


「あれれ? 盾を持ったスケルトンがいないね?」


「ゴーストも襲ってこない。楽でいい」


「地図アプリ上でも範囲内に魔物が1体もいないな」


「妙でありますね……。帰るまで気を引き締めないといけないのでありますよ」


 魔物が出てこないのはありがたいけど、帰り道で一切いなくなっていたら逆に怖いんですが。

 こういうのって何か起きるフラグだったりしないよな……。

 と、そんな不安も杞憂に終わって、何事も起きずに俺達は地下墓地の外へ出られた。

 地下墓地の外にもゴーストは見当たらなくて、地図アプリで見ても1体も表示がない。


「あれ? 外にも魔物がいないぞ。入る前はあんなにいたのにな……」


「シスハちゃんが慰霊碑に祈ったおかげかも! ここで眠ってた人達が成仏したんだよ!」


「ふふふ、そうに違いありませんね! 私の神官力によって墓場が浄化されたのですよ!」


「シスハのおかげっていうのも、あながち間違いじゃないかもね。あと、最深部にあった魔法陣も影響がありそうだわ」


 シスハが魔人の魂を鎮めたおかげで、この地に宿っていた怨念が消えた……なんてな。

 最深部の魔法陣を停止させたから、ゴースト達が湧かなくなったって方があり得るか。

 だが、聖女の祈りで魔物がいなくなったって方がロマンは感じるぞ。

 ……シスハは似非聖女だと思うけどな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] シスハが戦闘力だけで無い魅力の表現 [一言] 音による位置の特定が便利 只、視覚や探知魔法に反応しない場所にあることも示唆。 今回はシスハの祈りで慰霊碑の中から硬貨をゲットできましたが、 …
[良い点] 荒ぶる戦士の魂を静めたのが荒ぶる聖職者の祈りとは [気になる点] 出来れば良い機会なのでダンジョンスライムのネタをダイジェストで良いので回収してほしいです。 疑問なんですがアンデットは消…
[一言] まさかシズハの祈りだけで魔人の魂が鎮めたとは流石に驚いた、やっぱり聖女は本当に居たんですね
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