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狂戦士

 グリムリーパーを倒してからも探索を続けていると、同じような場所をさらに2か所発見した。

 今度はグリムリーパーを発生させないように、近づく前に魔法陣の周囲にシスハが結界を張りゴーストが入るのをガード。

 その隙にエステルが魔法陣を無効化して、大した苦労もせずに制圧。

 しかも各部屋に神魔硬貨が2枚ずつ置かれていて、計6枚見つけられた。


「うひょひょひょ! 6枚も手に入っちまったぞ!」


「こんなに神魔硬貨が見つかるとは、幸先がいいでありますね」


「むー、簡単に見つかり過ぎて拍子抜けなんだよー」


「残念がるな。楽でいい」


 素晴らしい、実に素晴らしいぞ! この墓地に来たのは正解だったな!

 もっと苦戦するかと思ったのに、もうこんなに神魔硬貨が入手できたぞ!

 順調に事が進んでご機嫌な笑い声を上げていたが、そんな俺とは対照的にシスハとエステルが真剣な表情をしていた。


「それにしてもゴーストの合体する魔法陣がある場所に、神魔硬貨が2枚ずつ配置されているなんて妙な気がしますね」


「ただの罠だろ。神魔硬貨をあそこに置いておけば取られる心配もないしな」


「そうとも限らないんじゃない? 罠以外の意図があってやってる可能性もあるわよ」


「罠以外か……グリムリーパーって魔物を大量発生させて、侵入者を撃退するとかか?」


「うーん、正直私にもわからないわ。ただ、それが目的ならグリムリーパーの数が少ないと思うのよね。侵入者がいないと魔法陣に、デッドスピリットが近づかないのもありそうけど」


 ここまでの探索の道中で、新たに3体のグリムリーパーと戦闘になった。

 だから他にも魔法陣があるんじゃないかと勘付いて、グリムリーパーのやってくる方向に進んで探索したのだ。

 最初の1体は除くとして、3体しかグリムリーパーが徘徊してないのは確かに変な気がするな。

 この場所を守るならもっといてもおかしくないはずだ。

 

 違和感を覚えつつもさらに探索を進めると、ついに迷路のように入り組んだ場所を抜けて広い部屋があるのを地図アプリ上で見つけた。

 その向こう側に小部屋もあって、明らかにそこが最深部ですと主張しているかのようだ。


「おっ、最深部っぽい部屋があるな。ここにも神魔硬貨がありそうだし、それを回収して帰るとするか」


「海の洞窟に比べたら、今回は凄くあっさりとした探索でありましたね」


「部屋数は多いけど地図アプリで迷うこともないからな。地図アプリがなかったらかなり面倒な場所だと思うぞ。ゴーストやデスガーディアンを処理してくれるシスハにも感謝だな」


「ふっふっふ、大倉さんが素直に褒めてくるなんて珍しいですね。もっと崇め奉ってくださっていいんですよ」


「それは遠慮しておく」


「けっ、つれないですねー」


 人が素直に感謝した途端にこれだもんなぁ。

 だが、実際シスハがいなかったらここの探索はかなり辛かったから、いてくれて本当に助かっている。

 何しろ出てくる魔物がどれも一撃で殆ど戦う必要がなく、方向さえ伝えれば先制攻撃で片付く。

 普段から物理的にも武闘家みたいなのに、ちゃんと神官としてアンデッド相手にも強いんだからもう笑うしかない。

 性格以外はマジで完璧超人だな、性格以外は。


 大体探索もし尽くしたから、最後に最深部を調べて終わりにしようと向かいだした。

 そしてその場所が見えてきたのだが……あまりにもおぞましい物体が見えて思わず足が止まる。

 かなり広い部屋の中心に、巨大な人の形をした物体があったからだ。

 マント付きの甲冑を着込んでいて、片膝を突き大剣を地面に刺し支えにしているように見える。

 あっちこっちに傷があって、貫録を感じさせる風貌だ。


「おい……なんだあれ」


「魔物だと思うでありますけど、戦いの末に力尽きた戦士に見えるでありますよ……」


 見た目はデスナイトに似ているけど、圧倒的存在感があって部屋の中に入る気がしないぞ。

 観察したところ動く様子はなく、地図アプリでも赤い点の表示はされていない。

 本当に力尽きた戦士の遺体のように見えてきたが、シスハが気になることを言いだした。


「あの遺体、邪気で満ち溢れていますね。今まで感じたことがない強さですよ」


「邪気で満ちてるって……それ絶対動きだす奴だろ」


「よし、帰ろう。めんどうだ」


「えー! つまんない! せっかくだから戦おうよ! 奥にある部屋も気になるもん!」


「確かにあの奥に何があるか気になりますねぇ。神魔硬貨が沢山置かれているかもしれませんし」


「とりあえずステータスを見てみたら? 戦うかそれから判断してもいいじゃない」


「ああ、そうだな」


 動く様子もないから、部屋に入らないでステータスを見てみるか。

 もしあれが魔物ならステータスを見れるだろうし、それで勝てそうなら倒して終わりだ。

 そう考えてスマホのカメラで映してみたのだが……ステータスアプリは反応しない。


「ステータスが表示されないぞ? つまり本当に遺体のままか、アプリを阻害する能力持ちってことになるが……」


「どうしましょうか。このまま帰るか、それとも奥の部屋に行くか」


 ステータスを見れないと強さがわからないが、だからってこのまま逃げ帰るのもなぁ。

 ……よし、奥まで行こう。それにあれが魔物で強かったとしても、今ならアドバンテージがある。


「どうせこの後冒険者協会にこの場所は報告する気だし、誰か来る前に奥を確認したい。主に神魔硬貨目当てだけど。最悪逃げようと思えば逃げられるしな。今なら動かないから、先制攻撃であの遺体消し飛ばしちまえばいい」


「本当に大倉さんは欲望に忠実で恐ろしい発想しますねぇ。私としても奥にお宝があるなら、みすみす逃すのは惜しいですし賛成です」


「先制攻撃するのは悪い気がしてくるでありますが、襲ってきそうなら仕方がないでありますね」


 多分あれは部屋に入るか攻撃されるまで動かないタイプだ。

 なら、最初の一撃に総攻撃を仕掛けて倒してしまえばいい。

 俺達の最高火力をぶつければ、倒せないにしても大ダメージは不可避。

 そのままごり押ししちゃえば楽勝だぜ。


「いくぞ!」


 かけ声に合わせて、力尽きた戦士に対して総攻撃が開始された。

 俺は黄金の一撃を発動させて、ディメンションブレスレットで腕を飛ばして直接殴る。

 エステルはグリモワールを開いて、3倍魔法を使って光の光線を放つ。

 シスハは雄叫びと共に右ストレートで青い浄化の光を。

 ルーナはカズィクルを使い深紅の槍を投擲。

 フリージアは普通に複数の矢を。

 ノールは雰囲気に合わせて叫んでるだけ。


 全ての攻撃が部屋の中央で跪く戦士に直撃すると、部屋の中が眩い光で満たされる。

 だが、直接攻撃した俺には妙な違和感を覚えていた。

 殴るには殴ったのだが、一瞬何かに阻まれるような感触がしたからだ。


 光が収まって部屋の中を見ると、鎧の戦士の姿は無傷。

 全身が黒いオーラで覆われて、ゆっくりと動きだした。

 地面に突き刺さった大剣を引き抜くと、マントをひるがえしてヘルムから赤い光を覗かせている。

 なにぃ!? あの総攻撃を受けてダメージがないのかよ!

 今ならステータスを見れるはず!


――――――

●デスバーサーカー 種族:スケルトン

 レベル:80

 HP:22万

 MP:0

 攻撃力:6800

 防御力:2300

 敏捷:125

 魔法耐性:50

 固有能力 狂戦士の魂【ストック44】

 スキル バーサーク デススラッシュ 魂魄鎧 スーパーアーマー

――――――


 おう、やっぱり強いじゃねーか! バーサーカーって名前がピッタリの見た目で納得だよ!

 固有能力の狂戦士の魂の横にあるストックって数字は何なんだ?

 スキルもスーパーアーマー以外は全く知らない。

 予想だが今俺達の攻撃を防いだのは魂魄鎧ってやつだろうな。


「こいつ、攻撃を防ぐスキルを持っているぞ。敏捷と攻撃力も高いから注意しろ。部屋の中で戦うぞ」


「了解であります! 私も盾役をするのでありますよ!」


 敏捷が高い奴相手に、わざわざ狭い通路や部屋へ戻るのは悪手だ。

 デッドスピリットやデスガーディアンがいるのに、こんな奴に追いかけ回されたらとんでもないことになる。

 なら、この広い部屋の中で戦うのが無難だ。幸い倒せないステータスじゃない。

 俺とノールが先頭に立って部屋に入ると、デスバーサーカーは雄叫びを上げて駆け出す。

 その勢いで巨大な大剣を片手で振り回してきて、攻撃を鍋の蓋で防ぐとかなりの衝撃を受けた。


「うおっ!?」


 は、速い上に攻撃が重いぞ! だが、防げない程じゃない!

 狂ったようにブンブンと振り回される大剣を防ぎながら、ノールが隙を見て斬り付け動きを鈍くさせる。

 そこをシスハが青い光を放つと、全身から煙を上げてデスバーサーカーは苦しんでいる。

 が、それで消滅はせず、問題ないといわんばかりにまた大剣を振り回した。

 シスハに向かおうとするが間に入り込んで、何度も火花を散らしながら攻撃を防ぐ。


「ちっ、私のアセッションアンデッドでも消滅しないとはなかなかお強いですね!」


「言ってる場合か! 攻撃が激し過ぎるぞ!」


 バーサーカーの名に相応しい攻撃の嵐に、じわじわと腕が痛くなってきた。

 ノールと盾役を代わり代わりに交代しつつ、シスハに回復魔法をしてもらい耐える。

 その間にエステルとルーナとフリージアが攻撃を加えているが、あまりダメージを受けているように思えない。

 エステルの3倍魔法や、シスハのアセッションアンデッドの攻撃を受けそうになると、途端に黒いオーラがデスバーサーカーを覆う。

 それだけじゃなく、大剣に黒い光を纏う攻撃をしてきて、防いでも体が吹き飛ばされるんじゃないかってぐらい腕にダメージを受けた。

 ぐぅ、俺が鍋の蓋の上からダメージを受けるとは、とんでもない攻撃力だぞ。

 せめてあの攻撃を防ぐオーラさえなければ……エステルの魔法まで無傷で防ぐとか異常だぞ。

 あんな強力なスキルを発動させられるなんて、何かカラクリがあるはずだ。

 ステータスに表示されていた固有能力の数値が関係しているかもしれない。変化があるか見てみよう。


 ――――――

●デスバーサーカー 種族:スケルトン

 レベル:80

 HP:22万

 MP:0

 攻撃力:6800

 防御力:3000

 敏捷:120

 魔法耐性:50

 固有能力 狂戦士の魂【ストック22】

 スキル バーサーク デススラッシュ 魂魄鎧 スーパーアーマー

――――――


 固有能力の数値が減ってる!? ……もしかして、スキルを使う度に減少するのか?

 エステルやシスハの攻撃を無傷で防ぐほどのスキルを、あんなポンポン発動できるなんておかしいもんな。

 狂戦士の魂にストック……まさか、こいつ複数の魂でも貯め込んでやがるのか?

 それを消費しているのなら、あれだけ強力なスキルを発動できるのも納得だ。


「こいつ、貯め込んだ魂の分だけスキルを発動できるんだ! それで攻撃を防いでやがる!」


「なら、防げなくなるまで攻撃すればいいじゃない! えいっ!」


 そう言ってエステルは続け様にと3倍魔法を放っていき、デスバーサーカーは黒いオーラで防いでいる。

 何発も食らって耐えていたが、デスバーサーカーが雄叫びを上げると一際強いオーラを発して突撃してきた。

 もう狂っているとしか言えない猛攻に、反撃する隙もなく俺とノールで必死に防ぐ。

 だが、防いでいる間にも徐々にデスバーサーカーの黒いオーラは弱っていき、攻撃の手も緩まってくる。

 そこをノールが攻撃に合わせて盾で弾き飛ばして転倒させると、すかさずシスハがアセッションアンデッドを浴びせた。

 全身から煙を上げてもがき苦しむと、ついに力尽きたのか大剣を落としてそのまま動かなくなった。


「ハァ……ハァ……な、何とか無事に倒せたのか?」


「私と大倉殿で盾役をしなかったら危なかったのでありますよ。恐ろしい敵でありましたね」


 動きが単調だったとはいえ、俺の背よりもデカい大剣をあんなブンブンと振り回されたら怖いわ。

 それでもノールと一緒に真正面から防げたのは、俺も成長してるということかな。

 力尽きたであろうデスバーサーカーを見ていると、いつものように光の粒子にならずに、足元から徐々に体が崩れだした。


「光にならないで灰になっちゃったんだよ。普通の魔物じゃなかったのかな?」


「どう見ても普通じゃない。しぶとい奴だった」


「もしかしたらあの魔物、遺体を利用した魔物だったのかも」


「えっ、どういうことだ?」


「さっき魂を貯め込んでいるって言ったわよね?」


「ああ、固有能力に表示されていたストックって数値が減っていたからな。デスバーサーカーがスキルを使う度に、消費されてたんだと思う」


「あの魔物は貯め込んだ魂で戦っていたのでありますか……あっ」


 ノールが何かに気が付いたような声を上げると、続けてエステルがある予想を言い始めた。


「グリムリーパーを生み出していた魔法陣は、これの試作だったんじゃない? 最終的にデスバーサーカーを生み出して、戦わせるつもりだったのよ。デスバーサーカーの強さを考えたら、入っていたのはグリムリーパーだったかもしれないわね」


「えっ、じゃあステータスに表示されていた狂戦士の魂の残数は、あいつの中に入ったグリムリーパーの数だったのか?」


「その可能性が高いわね、光の粒子にならないで体が崩れたから、ただの魔物じゃないはずよ。ここは力尽きた戦士にグリムリーパーを吹き込んで、デスバーサーカー化させるための実験場だったのかも。200年前の戦争で戦力を増やすために、魔人が試していたのかしら。あの遺体も魔人だったりしてね」


「うぅ、怖い人達もいるんだね。死んだ後も戦わされるなんて、かわいそうなんだよ」


「ふむ、卑劣な考えだ」


「あの遺体に強い邪気が宿っていたのも納得ですね。恨みつらみが凝縮されて突き動かされていたんでしょう。全く、とんでもないこと考える連中がいるものですよ」


「魔法陣の部屋に神魔硬貨が置かれていたのは、それに関わる力を宿している可能性もあるんじゃない? お兄さんのスマホでアイテムと交換できるぐらいだもの」


 おいおい、何か思ってた以上にとんでもない場所だったな。

 戦場で遺体をデスバーサーカーにできるんだったら、戦力として凄まじいと思う。

 俺達が総がかりで戦ってここまで苦戦させられたんだ。

 戦場の混乱に乗じてあんなのが出てきたら、かなりの被害だ出るだろうな。

 最終的にこの実験が成功していたのかわからないけど、あんまり関わりたくはないが……神魔硬貨が絡んでいる可能性を考えると、今後同じようなことがあるかもしれない。

 

 やはり簡単に集めさせてくれなさそうだな。

 まあいいか、さっさと最深部の部屋を確認して、こんな場所からおさらばしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 確かに神魔硬貨の名の通り、魔人側もユニットの召喚強化は出来て当然か。 魔人にも平八の心の友のようなガチャ大好きが居そうだ。
[一言] 30章のガチャマンガを読んで質問があります。 最後のページにスマホを持った男が登場。 しかし、彼は物語のウェブとライトノベルの章に登場したことはありません。 マンガはライトノベルやウェブ小説…
[一言] ふぅ、この作品連載やめます。かと思って焦りました。 ずっと待ってますので新作の合間にちょこちょこお願いします!
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