地下墓地
元気よく入っていくフリージアに続いて、地下への階段に全員足を踏み入れた。
その直後、背後で何かが動く音。振り向くと退かした巨石が宙に浮かんで、入り口に覆いかぶさるように動いている。
「なっ!? 石が勝手に動いてるぞ!」
「閉じ込められたのでありますか!? 罠なのでありますよ!」
「皆気を付けろ!」
何もいないのに動くとか、ポルターガイストってやつか!?
ええい! 地下に入る瞬間の隙を突いてくるなんて!
巨石で完全に入り口が塞がれて暗くなったけど、すぐにエステルが光魔法で明るくする。
何か起きるかと警戒してその場で待ったが……何も起きる様子はない。
「な、何も起こらないぞ?」
「巨石と壁に魔法が施されているようね。周囲にいる人が全員中に入ったら動く仕組みになっているわ」
「ふむ、勝手に閉まる扉の役割か。便利だ。覚えておこう」
エステルが調べてる壁を見ると魔法陣が描かれていた。
巨石の底にも同じ魔法陣が描かれていて、これが連動して動いていたようだ。
よかった……ポルターガイストじゃなかったんだな。驚かせやがって。
ルーナがマジマジと魔法陣を確認しているが……部屋のあっちこっちに使いそうだな。
罠じゃないとわかって先へ進み長い階段が終わると、そこは台の上で燃える紫色の炎で照らされていた。
中は綺麗な白い石の壁で作られていて、とても墓の下にある場所とは思えない。
フリージアがキョロキョロとあっちこっちを見回して、感嘆の声を上げているぐらいだ。
「わー、地下なのに綺麗な場所だね。明かりまであるんだよー」
「でも、墓地の地下が紫色の火で照らされていると、妙な雰囲気があるでありますよ」
「火が点いてるってことは、誰かがここに出入りしてるのか?」
「……いえ、あれは炎じゃないわ。光魔法で炎のように見せているみたい。ほら、魔法陣が台座に描かれているもの。魔素を吸収してずっと発動する仕組みのようね」
あれが光魔法なのか……わざわざ明かりを紫の炎にするとは、ここを作った奴は雰囲気を出そうとしてたのか?
地図アプリを見るとこの中はかなり広いようで、通路や部屋が入り組んでいて迷路みたいだ。
「誰かの墓とは思えないな」
「やはり隠し拠点のようですね。墓地の下に作るとは考えたものです。ゴーストなどが湧いているのは、意図的な物なのかわかりませんけどね」
「魔人は潜るのが好きらしい。どこも私にとって居心地がよさそうだ」
地図アプリを見たシスハ達も俺と同意見のようだ。
墓の可能性もなくはないが、ここは拠点と思った方がいいだろう。
そうじゃなきゃわざわざ墓の入り口に、自動で閉まる魔法なんて用意しないはずだ。
拠点だとしたら罠があると想定した方がいい。
それに魔物だって……と考えている間にも、地図アプリに赤い点が表示された。
赤い点は壁などを無視して真っ直ぐこっちに向かって来ている。
「壁を突き抜けて魔物が近寄ってきてるぞ!」
壁を抜けるとなれば、この魔物はゴースト系に違いない。
方向を全員に伝えて戦闘態勢で待ち構えると、壁から青色のゴーストが飛び出してきた。
――――――
●デッドスピリット 種族:ゴースト
レベル:60
HP:2万
MP:500
攻撃力:800
防御力:200
敏捷:50
魔法耐性:60
固有能力 透過
スキル 念力 エナジードレイン
――――――
こいつがゴーストの上位種か。壁の中をすり抜けてくるなんて厄介な魔物だな。
地図アプリで常に警戒しておかないと、不意打ちを受けそうだ。
そんなデッドスピリットだが、出てきた瞬間シスハから放たれた光線によって、悲鳴を上げながら即蒸発してしまった。
「ふっ、上位種だとしてもゴーストはゴースト。私の敵ではありませんね」
「今までで1番シスハが神官だって思えてきたのでありますよ……」
「何を仰っているのですか。これまでも私は立派な神官じゃあありませんでしたか。これからもですけどね!」
親指を立てて今日1番のどや顔を浮かべてやがる。こいつがゴースト系相手にここまで頼りになるとはな……。
シスハに呆れながらも頼りにしつつ、探索開始だ。
ここより地下はなさそうだが、沢山の部屋同士が通路で繋がっていた。
四角く区切られた部屋は木箱や机が置かれている程度で、どの部屋も同じように見える。
ちゃんと確認せずに探索をしていたら、グルグルと同じところを回って迷いそうだ。
俺達は地図アプリのおかげで、今まで通った道にマーキング出来て現在地もまるわかりだから迷う心配はない。
だが、各部屋や通路にはゴースト以外の魔物もいた。
見た目はデスナイトと同じで2メートルはある黒い甲冑を着た骸骨で、両手には緑色の大盾を1つずつ持っている。
――――――
●デスガーディアン 種族:スケルトン
レベル:60
HP:4万
MP:100
攻撃力:300
防御力:4000
敏捷:20
魔法耐性:90
固有能力 不屈の魂
スキル 絶対防御
――――――
守護するように立ちはだかるデスガーディアンが、部屋を繋ぐ通路で待ち構えている。
ステータスからして完全に進路を妨害するためだけの魔物だな。
ただでさえ壁をすり抜けてデッドスピリットが襲ってくる場所での足止め、嫌らしいことこの上ない。
となるはずなんだけど、デスガーディアンですらシスハに殴られると一撃でバラバラに砕け散ってしまう。
不屈の魂や絶対防御はどうしたんだと……シスハの神官力には太刀打ちできなかったのか。
もう全部こいつだけでいいんじゃね、感が俺達の中で漂っている。
けど、シスハがいなかったらここの探索も一筋縄じゃいかなかったのも事実だ。
「デスガーディアンまでいるし、随分と厳重に守られた場所だな」
「ここにもお宝あるのかな! 奥まで行ってみようよ!」
「荒らされた形跡もないから、冒険者として入ったのは私達が初めてなのかも。ここが魔人関連の場所だったら、神魔硬貨を見つけられる期待が持てるわね」
机や木箱は動かされた様子もなく埃が積もっているから、誰かがここに入って戦闘を行った形跡はない。
俺達はシスハによって瞬殺できているけど、デッドスピリットやデスガーディアンを相手にしたら普通はかなりの戦闘になるはずだ。
木箱の中身は錆びた武器や防具などで、殆どガラクタばかりだった。200年前の戦争で使った物だったりするのか?
つまりここは200年前からある場所な訳で……秘密の前線基地だったのかねぇ。
エステルが言うように魔人の拠点だったとしたら、神魔硬貨を見つけられるかもしれない。
そんな期待を持ちつつ探索していたが、行き止まりの気になる部屋にぶち当たった。
床には魔法陣がデカデカと描かれていて、ここに何かありますよと主張している。
「なんかそれっぽい部屋が出てきたが……どうするよ?」
「入ったら絶対に何か起きるでありますよ」
「あからさまに魔法陣が描かれていますからね。いつものパターンで考えたら、ボス的な存在が出てくるのか、それともどこかに飛ばされるかのどちらかですね」
「うーん……魔法陣の構成からして、恐らく前者の何か出てくるタイプね」
「わかるのか?」
「ええ、海の洞窟の魔法陣を調べてある程度構成は把握できたの。こうやって目に見える形で描かれていればわかるわ」
おお、さすがエステルさん。写真に撮った海の洞窟の魔法陣を解析して、もうそこまでわかるようになったのか。
やっぱりこういう魔法陣にも、何か法則があって読み取れるものなのかね。やはり天才じゃったか。
エステルの話も聞いて中に入るか悩んでいると、フリージアが駆け出して部屋の中へ入ろうとしたから、慌てて首根っこを掴んで止めた。
「おいコラ! 何中へ入ろうとしてやがんだ!」
「えー! だって何が出てくるか気になるもん! 入ってみようよ!」
「罠に飛び込む奴がいるか。これだからポンコツは困る」
フリージアは頬を膨らませて不満そうにしている。
全く、困った奴だな。こいつはいつもピンポイントで問題を起こそうとしやがる。
「それで、どうするのでありますか?」
「んー、罠だってわかってるのに入るのも……ん?」
地図アプリを見ていると、赤い点が複数壁をすり抜けてこっちに向かってきていた。
「ゴーストが複数体来てるぞ。俺達に釣られてるのか?」
「霊体だけあってしつこい。私達の敵ではないがな」
「やれやれ、私の神官力でまた浄化するとしますかね」
探索中何度も何度もデッドスピリットに襲われているからなぁ。
シスハが瞬殺してくれるからいいけど、しつこいにも程がある。
どうせまたシスハが倒してくれる……と思ったのだが、デッドスピリットは驚くべき行動を見せた。
俺達の方へ向かってこないで、途中で向きを変え直接魔法陣のある部屋へ入ってきたのだ。
6体やってきたデッドスピリットは、吸い込まれるように魔法陣の中へ次々と入っていく。
「なっ!? 魔法陣の中に入りやがったぞ!」
「へぇー、そうやって発動する仕組みだったのね。ホント色々と考えられてるじゃない」
「感心してる場合じゃないだろ!」
デッドスピリットが入った魔法陣は発光し始めて、だんだんと光が強まっていく。
そして一際強い光を放つと、魔法陣の中心から黒い煙が上がってゴーストの形になった。
赤い目を持つ黒いゴーストは、両手で巨大な鎌を持っている。まるで死神を連想させる姿だ。
こいつは強そうだな……ステータスを見てみるか。
――――――
●グリムリーパー 種族:ゴースト
レベル:70
HP:6万
MP:5000
攻撃力:4800
防御力:0
敏捷:250
魔法耐性:80
固有能力 透過 物理攻撃無効
スキル 念力 断罪の鎌
――――――
おいおい、デットスピリットより遥かに強いぞ! あの魔法陣の効果はまさか……。
「合体した、のか?」
「霊体だからできることね。デスナイト以上に強そうだわ」
「厄介そうなゴーストになったでありますよ! 皆、準備は――」
ノールがそう言った途端、俺達の背後から雄叫びと共に光線が飛んでいった。
「どりゃああああぁぁぁぁ」
部屋を全てを埋め尽くすほどの光線がグリムリーパーに直撃すると、持っていた鎌を落としてもだえ苦しむように悲鳴を上げている。
体から煙を上げながらみるみる薄くなっていき、最後には光の粒子になって消えてしまった。
振り返ると、突き出した右腕から青い光を迸らせたシスハの姿。
「ふっ、ゴーストはゴースト、それ以上でも以下でもありません。例外なくイチコロですよ」
「せっかくバーン!って登場したのに、かわいそうなんだよ」
「楽でいい。さすがシスハだ」
ルーナがパチパチと拍手を送ると、シスハは丁寧にお辞儀している。
こ、こいつ、今日相手した魔物全部一撃じゃねーか!
グリムリーパーなんて6万もHPあったんだが……今更になってシスハがアンデッド相手にここまで強いのが判明しやがったぞ。
魔法陣にまたデッドスピリットが入る前に、部屋の中に入ってエステルが魔法陣が発動しないように手を加えた。
とりあえずこれでグリムリーパーは、この魔法陣からは出てこない。
出てくる瞬間を目の当たりにしてすぐ倒せたからいいけど、不意打ちでこいつが出てきたら脅威なんてもんじゃないぞ。
固有能力に透過があるから壁もすり抜けてくるし、攻撃力も敏捷も高い。
この魔法陣が1度しか発動しないとも限らないから、今使えなくできたのは僥倖だな。
既にグリムリーパーが発生している可能性はあるけど、これ以上増えないはずだ。
こいつの存在を知れたのも大きいし、他にもいる前提で警戒はしておかないと。
そう留意して魔法陣のあった部屋を調べ始めたのだが……部屋の隅に置かれた小箱の中に2枚の神魔硬貨を発見した。
「おおっ! 神魔硬貨が2枚も入ってたぞ!」
「この場所が魔人の拠点で確定だと思ってもよさそうね」
「なら、問題なく物を貰っていってもよさそうですね! 探し尽くして根こそぎ持ちだしましょうか!」
「すぐその発想になるのはどうかと思うのでありますが……神魔硬貨は期待できそうでありますね」
へへっ、探索し始めてさっそくの大収穫だぞ! 未探索の部屋が沢山あるから、全体を調べたらいくつ出てくるんだろうか。
まだまだ探索は始まったばかりだぞ!




