メリットとデメリット
「うーむ、完全に依頼完了にはなったけど、また悩ましい問題が盛沢山だな」
冒険者協会から帰ってきた後、協会長からの話を聞いてこれからどうするか考えていた。
が、そんな俺を尻目にシスハは分配した報酬金を眺めて顔をにやけさせ、エステルが呆れたようにそれを見ている。
「うふふ、私はこれをどう使おうか考えるのが楽しみで、夜しか寝れそうにありませんよ」
「大金ではあるけれど、別に普段からお金に困ってはいないじゃない」
「それはそうですが、こうドバッと収入があると豪遊したくなるじゃありませんか。何日も続けて豪遊です! 酒屋巡りをしてお酒を吟味しましょうかね」
「結局酒かよ! っていうか、酒ならガチャの高級酒でよくないか?」
「ちっちっ、甘いですね。多種多様なお酒を揃えてこそ、日々の晩酌のお供選びを楽しめるんじゃあありませんか。それに気分によっては普通のお酒も飲みたくなるんですよ」
確かにいくら美味しいからって、高級なものばかり飲んでいたら飽きてくるかもしれないな。
だが、報酬を分配してすぐに酒のことを考えてにやけているのはどうかと思うぞ。
今回の報酬は全員に2000万Gずつ分配して、残りは共同の貯蓄に回しておいた。
フリージアはあの性格だし金銭感覚もないみたいで危なっかしかったから、一部俺が預かってノールにも普段から注意してもらうよう頼んだ。
エルフの里じゃあんまり金銭は使わなかったらしく、勉強のためにも今はノールと一緒に町へ出かけている。
そして俺はというと、協会の件で話し合う為に、まともな意見の出そうなシスハとエステルと自宅の居間に集まっていた。
「それはいいとしてだ。Aランク昇格に関してどう思う?」
「想定通りってところね。国や貴族から依頼がくるのはお兄さんだって想像はできたでしょ。未開拓の場所の探索っていうのも、そんなおかしなことでもないもの」
「探索はまさに冒険者って感じがしますけど、依頼の方は余計なしがらみが多そうですね」
十分想定の範囲内だったけど、実際に協会長から言われると重みが増した気がするぞ。
どういう依頼なのかはわからないが、国や貴族からの依頼なんて一筋縄じゃいかないものが多そうだ。
エステル達もそのことを考えているのか、眉をひそめて浮かない顔をしている。
だけどAランクになるのは悪いことばかりでもないと思う。
「前にも考えた魔石狩りのグループを作るとしたら、Aランクになった方がいいだろうな。けど、金で冒険者を雇えるなら今のままでもよさそうだ。とりあえずAランクになるメリットとデメリットを考えてみるか」
悪い点ばかりに注目していても仕方がないし、ここはしっかりといい点も見つけ出してどちらがいいか考えてみよう。
もしメリットがデメリットを上回るようなら、多少理不尽なことや不自由になったとしてもAランクに昇格する価値はある。
エステルが頬に手を添え軽く考える仕草をしながら、意見を口にし始めた。
「メリットを挙げるとしたら、まずは絶対的な信用を得られるってことね。Aランク冒険者だって分かれば、殆どの相手から無下にされないと思うわ。情報も得られやすくなるし、神魔硬貨を持っているコレクターと交渉するのにも役立つかもね。未開拓の狩場を優先的に探索できるのも私達にとってはいいことだわ。報酬が高額になるのは、そこまでメリットに感じなかったかも」
「地位や名誉を得たい人達ならAランクは魅力的でしょうね。国や貴族から指名されるということは、認知されているってことですから。大倉さんにはそういう欲はなさそうですけど」
「そりゃな。むしろ国や貴族に認知なんてされたくないな。評価されるのは嬉しいと思うけどさ。名誉なんかよりガチャを思う存分回せる方が嬉しいぞ。そういうシスハは名誉とか欲しいのか?」
「当たり前じゃあありませんか! 誉れ高いのは結構なことですよ! 私は私を評価してくれる人は大歓迎です! この世界にシスハ・アルヴィの名を轟かせたいぐらいですからね!」
「ある意味シスハらしいわね……。私は地位や名誉よりも、お兄さんと一緒にいる時間が欲しいわ。依頼も終わって余裕が出てきたものね」
そう言ってエステルがジッと俺の方を見て微笑んでいる。
うっ、まさかこの話の流れから構ってほしいオーラを出してくるとは……実際しばらく依頼を受けるつもりもないし、魔石狩りだけじゃなくてエステル達と出かけたりでもしてみるかな。
そんなエステルとしばらく見つめ合っていると、シスハが咳払いをして話を再開し始めた。
「こほん……まあ、今回ばかりは遠慮しておきたいですね。国や貴族から認知されるのが、私達にとってはデメリットになり得ます。私は今の生活が気に入っていますから、依頼で引っ張りだこにされるのは好ましくないですね。権力争いなどに巻き込まれても嫌ですし」
「えっ、そんなことに巻き込まれることなんてあるのか?」
「相手が国や貴族ならないとは言い切れないわね。私達が知らない内に関わっちゃう可能性もあるもの。冒険者協会が注意してくれればいいけど、内々で何か頼まれるのも考えられるわ。安請け合いは絶対にしないことね」
ヒェ、国や貴族の権力争いとか聞くだけでも怖過ぎるんですけど。
確かに何回か依頼をこなして親しくなったら、冒険者協会を挟まずに引き受けちゃう可能性は十分考えられる。
そういう部分もAランクとしての自覚というか、責任があるのを理解しておかないといけないのか。
俺が思っていた以上に、貴族とかと関わるのは恐ろしい世界なのかもしれない。
何にせよ、今の話をまとめるとデメリットの方が大きく思えてくるぞ。
「うーん、現状を考慮するなら、Aランク冒険者になるメリットがあんまりないな。指名依頼されるようになったら、王都から好き勝手に移動できなくなりそうだし」
「どこか行くなら事前に連絡して、町にいる時も居場所は知らせないといけなくなるかも。今までのように気まぐれに依頼を受けながら、あっちこっち行ったりするのは難しいと思うわ」
「大倉さんが1番危惧しているであろう、魔石狩りをする機会が減るのは間違いありませんね。普通なら他にもメリットはあるでしょうけど、やはり私達にとってはデメリットの要素が多いですよ」
俺達は元々ガチャアイテムのおかげで特殊な状況だからなぁ。
高ランクなら強い武器や防具、便利な魔導具を手に入れやすかったりしそうだけど、俺達はガチャがあるからそれもメリットにならない。
ガチャのアイテムをあまり知られたくないから他人との関わりも薄いし、俺達のパーティー内でほぼ完結してしまっている。
それで地位や名誉にも興味がないとくれば、デメリットの方が勝るのは仕方のないことか。
Aランク昇格に消極的な気分になっていると、エステルがパンと手を叩いてさらに意見を口にした。
「でも、そんなすぐに結論付ける必要もないんだから、もう少し考えてみましょうか。今後Aランクになる必要が出てくるかもしれないわ」
「期限はあるけど色々と聞いて考えてみるか。俺達の想定外のことだってあるだろうからな」
そうすぐに決めることでもないか。協会長もじっくり考えろって言ってたし、これから昇格へ前向きになる何かがあるかもしれない。
あまり時間をかける訳にもいかないけど、この件に関してはもうちょっと話し合ってみるとしよう。
それよりも、今1番気になっているのは神魔硬貨だ。
「それにしても神魔硬貨が1枚1000万とかとんでもない金額だったなぁ」
「それでも1億で10枚と考えたら、URの装備やアイテムチケットも狙おうと思えば狙えますよね」
「今は冒険者協会の依頼で稼いでいるけど、他にも収入を増やして硬貨を買う方法も選択肢になりそうね。問題は持っている人がどのぐらいいて、総量がどのぐらいあるのかだけれど」
「ガチャ産のアイテムと交換するのも考えられますよ。SSRだと悩みますが、SRなら十分交換の選択肢には入ります」
「前に出た極大金塊とかもあるものね。沢山硬貨を持つ人がいれば、あれ1つで何十枚も交換してくれるかもしれないわ」
ほほぉ、金で買うことばかり考えていたけど、ガチャから出る物と交換するって選択肢もあったのか。
武器や防具やアイテムだと下手に出回さない方がいいのもあるが、極大金塊のような物なら神魔硬貨と交換しても問題ない。
……いやまあ、あんな巨大な金塊が出回ったらとんでもない騒ぎになる可能性はあるけどさ。
この世界なら金を落とす魔物だって存在しそうだし、ポンポンと交換し回らなきゃ平気かな。
「今後の方針としてはしばらく魔石集めと資金作りをしつつ、神魔硬貨を自分達でも集めていくのがいいか」
「神魔硬貨を集めると言っても、コレクターの人を探す以外に何か当てはあるんですか?」
「ふふふ、この平八を舐めてもらっては困る。実は既に硬貨がありそうな場所を協会長から聞いておいたぞ」
「ホントこういう時だけは行動力があるわよねぇ」
冒険者協会から出る前に、クリストフさんから王都周辺の目ぼしい場所を聞いて地図アプリにチェックしておいたのだ!
魔人と関係のありそうな噂のある場所、過去に神魔硬貨が発掘された場所、どちらかの条件を満たしているところを教えてもらった。
協会長から交渉できそうなコレクターを紹介してもらう他に、自分達でも探索を進めるとしよう。




