硬貨の入手法
新たなスマホ関連の取集物である神魔硬貨を発見してから数日後。
俺、ノール、エステル、シスハの4人で、王都シュティングの冒険者協会を訪れていた。
協会の中へ入ると、俺達の姿に気が付いた人達がざわざわと騒ぎ出して視線が集まる。
そして受付へ行くと、以前からお世話になっていた受付嬢のウィッジちゃんが、俺達に気が付いて声を上げた。
「大倉さん! お久しぶりです!」
「どうも、お久しぶりです。ウィッジさんがお元気そうで何よりです」
「セヴァリアを発ったと聞いて、いつお越しになるかと心待ちにしていたんですよ。お話は聞いていますので、協会長の部屋にご案内いたしますね」
予想通り協会長であるクリストフさんと直接話すことになり、さっそく部屋へと連れて行かれた。
突然の訪問でもすぐに対応してもらえ、クリストフさんと対面する形で席に着く。
「大倉君、まずは長期の依頼ご苦労だった。君達の働きには協会長としてとても感謝している。本当にありがとう」
「いえ、私達はやるべきことをやっただけですので」
「そうね。私達も色々と収穫はあったから、協会長さんがそんなに気負う必要もないわ」
「そう言ってもらえると助かるよ。私の想定以上の異変が起きて、君達には本当に苦労をかけてしまった」
いやぁー、本当に想像以上の異変だったからなぁ。
ディアボルスを発見したからセヴァリアへ調査にー、って向かってみれば、大規模な異変に巻き込まれて魔人とも戦う羽目になった。思い返してみてもどっと疲れてくるぐらいだ。
用意してもらったお茶を飲みつつ、セヴァリアの冒険者協会で報告したのと同じことをクリストフさんに話していく。
異変の原因は魔人、守護神の加護の消滅による町の襲撃、そして加護の復活。
当然守護神様が復活したことは伏せて話すと、クリストフさんは納得したように頷いている。
「ふむ、セヴァリアの協会からの報告通りのようだ。まさか魔人がそこまでの異変を引き起こすとは……」
「神殿で話を聞きましたが、セヴァリアと魔人は昔からの因縁があったようですよ。セヴァリアを壊滅させることで力を誇示したかったのかもしれません」
「あのまま魔人の企みが成功していたら、危なかったのでありますよ」
「私もセヴァリアには何度も訪れているが、守護神の加護が本当にそれほど重要な役割を果たしていたのは知らなかったよ。君達が阻止してくれてこの国が救われたようなものだ」
「あはは……それは大袈裟だと思いますよ」
いくらなんでも、国が救われたは言い過ぎだよなぁ。復活したテストゥード様を放置していたらマジでヤバかったと思うけど、その件は伏せている訳だし。
少し笑いつつ話していたクリストフさんだったが、真面目な顔つきで改まってある話を切り出してきた。
「ベンスから既に話は聞いていると思うが、これだけの規模の異変を解決した君達をAランクに推薦しようと考えている。そこで君達はAランク昇格について、どう考えているのか聞いておきたい」
「それをわざわざ聞いてくるってことは、昇格するのはいいことばかりじゃないってことかしら?」
「その通りだ。Aランク冒険者を普段見かけないのは君達も分かっていると思うが、それは今回のような長期の遠征が多いからだ。行く場所や理由は様々だが、基本的に未探索の危険地帯になる。彼らがもたらしてくれた情報を頼りにして、Bランクや他の冒険者に依頼することも多い」
「つまりAランク冒険者は、真っ先に危険な場所へ行って他の冒険者が安全に探索できるようにしているのでありますね」
「未知というのは想像以上に危険なものだ。Aランク冒険者ですら時には重傷を負うこともある。戦闘力だけではなく、豊富な経験がないとそういう場所で長く活動することはできない。彼らに探索してもらっているのは、その中でも特に危険な場所ばかりだ」
確かにAランク冒険者を見たことは1回しかないな。一体どこにいるのか疑問だったけど、今回の俺達みたいに遠くへ出払っているのか。
その上で誰も行ったことがない未知の危険地帯となれば、そりゃ実力者じゃないと危険だろう。
全部の狩場の情報がある訳じゃないけど、ある程度情報が揃っているのはAランク冒険者達のおかげなのか。
それに初見で戦う魔物と遭遇する可能性も高いだろうから、尚更実力が求められる、と。
俺達が行こうか検討している海を渡った先の大陸も、そんな感じの場所に違いない。
「それともう1つ言っておかねばならないのは、資産家や貴族、時には国から直接指名の依頼が来ることだ」
「国、ですか」
「うむ、国からの依頼となれば、基本的に失敗しないことが前提だ。もし失敗すれば冒険者ランクは降格され、再びAランクになるのは難しい。勿論予想外の出来事で達成困難となれば考慮はされるがね」
「要するに冒険者協会は、そういう依頼を確実にこなせる人だけをAランク冒険者にしているってことね。失敗すれば協会だって信用を大きく失うもの」
エステルの言葉にクリストフさんは無言で頷いている。
冒険者の頂点であるAランクに頼むのは実力が高いのもあるが、1番はやっぱり信用されているのが大きそうだな。
それなのに依頼を失敗でもすれば、貴族や国から冒険者協会自体が信用が落ちると。
そりゃ冒険者協会としてもAランク冒険者を決めるのに慎重になる訳だ。
聞けば聞くほどランクを昇格するのが怖くなってくるぞ。
「まあ、簡単に言えばAランクには相応の責任が伴うということだ。その代わりに報酬は今までより高額で、冒険者協会以外にも融通が利くようになる。普通なら断られる相手との取引も可能だろう」
「物や情報を集めるのならAランクの方が当然いいでしょうね。Bランクでもある程度信用はあると思いますが、Aランクならさらに重要な情報だって聞けそうですし」
ぐぬぬ、確かにシスハの言う通り、これから情報などを集めるならAランクの方が断然有利だ。
けど、さっきクリストフさんが言っていた責任が増える点もある。
危険地帯に行く依頼なら問題なさそうだけど、貴族や国からの指名依頼は負担になりそうだ。
……よし、ここは今すぐ返事をするのは止めておこう。
「Aランク昇格の話ですが、一旦保留するのは可能ですか?」
「当然問題ない。本人達が納得していないのに昇格しても意味がない。今までの依頼に比べると責任が重くなるから、Bランクのままでいたい気持ちもわからなくはないからね。重要な話だ、パーティでよく話し合ってから決めてほしい。ただ、あまり期間を空け過ぎると、議題に上げても簡単に通らなくなる可能性があることは覚えておいてくれ」
「わかりました。ありがとうございます」
ふぅ、この件に関しては後でエステル達と詳しく話し合うことにしておこう。
Aランクなんて勢いでなるもんじゃないし、メリットがどのぐらいあるか考えてからにしないと。
あくまで俺達の目的はガチャ。1番やるべきことの魔石集めに支障をきたすようであれば大問題だ。
さて、一応依頼報告も果たしたし、ここに来たもう1つの目的も聞いておくとするか。
カバンからこの前の洞窟探索で手に入れた、金貨と神魔硬貨を取り出して机の上に置いた。
「冒険者とは関係ない話なんですけど、この硬貨について何かご存じありませんか?」
「硬貨? ふむ……金貨と……こ、これは!?」
クリストフさんは神魔硬貨を手に取って、目を見開いて驚いている。
えっ、このリアクション、まさか知っているのか!
ぐへへ、ダメ元で聞いてみたのにやったぜ!
「大倉君! 一体これをどこで見つけたんだ!」
「セヴァリアにある引き潮で現れる洞窟の中で見つけました。地面や壁に魔法で埋められて巧妙に隠されていたんです。金貨は100枚以上ありましたよ」
「……なるほど、あの洞窟にこれが隠されていたとは。ということは、あそこは魔人が拠点にしていた場所だったのかもしれない」
「どういうことなのでありますか?」
「魔人が200年前に戦いに敗れ、それと同時にアーウルムと呼ばれた魔人の国も滅びた。この黒い硬貨はかつてその国で通貨として使われていた、神魔硬貨と呼ばれる物だ」
これが魔人の国の硬貨!? えっ、どうしてそんな物があそこに……というか、それが何でガチャに関わってくるんだ?
突然の情報に混乱しつつ、クリストフさんの続く話を聞いていく。
「と言っても、詳しいところはわかっていないのだがね。神魔硬貨に関しては、今でも時々発掘されるが材質などもまるでわかっていない。本当に通貨として使われていたかも怪しい。一説には功績を称える勲章だったという話もある」
「でも魔人関連の物だってことに変わりはないのね」
「うむ、それにこの金貨に刻まれている模様。これはアーウルムで使われていた紋章だ。溶かして他国の金貨として作り直された物も多いが、未だにこの金貨を見かけることはある。セヴァリアの周辺には魔人の痕跡が昔から発見されていた。これも古くに隠されて発見されなかった内の1つだろうね」
洞窟の奥に黒い魔光石があった時点で魔人との関連性を疑っていたけど、この金貨がモロに魔人の物だったんだな。
あんな場所で何をしていたのか今はもう知る手段はなさそうだが、中の様子からして大昔に使われて放置された場所だろう。
むしろセヴァリア周辺に魔人の痕跡が多いって話の方が興味ある。
つまり魔人の痕跡のある場所をもっと探していけば、神魔硬貨がさらに手に入る可能性があるってことだ。
そうだ、詳しそうだしクリストフさんに聞いてみよう。
「神魔硬貨を手に入れる手段ってご存じでしょうか?」
「うーん、入手する方法もなくはないが……」
「本当ですか!? 一体どこに行けば手に入りますか!」
「お、落ち着きたまえ大倉君! そんなに興奮してどうしたんだ!」
「もう、お兄さんったら……少し落ち着いて」
おっと、いかんいかん。いつも冷静沈着な俺が、つい興奮してしまったではないか。
机に身を乗り出していたが、エステルにグイグイと服を引っ張られ大人しく着席した。
「すみませんでした」
「落ち着いたようで何よりだ。それで神魔硬貨についてだが、欲しいのならコレクターと交渉するのが1番だろう」
「コレクター、でありますか?」
「神魔硬貨は素材も不明な物だが、その造りはとても素晴らしい物だ。一般的に鑑賞品という形で扱われている。今は少ないが昔はそこそこ市場に流通していた。資産家や貴族達がそれに価値を見出して収集したという訳だ」
「それはまた交渉のしづらそうな相手ですね。相場がどの程度か協会長はご存じなのでしょうか?」
「ふむ……実を言うと私も1枚持っているのだが、参考として言うなら10年ほど前に700万G程度だったはずだ」
「1枚で700万G!?」
「それも私は友人から譲ってもらったもので、相場より多少低い可能性も考えられる。昔に比べると遥かに流通も減っているから、今では最低でも1000万Gは必要かもしれない」
「1枚1000万G……とんでもない金額でありますね」
「確かに高いけれど、お金で手放してくれるならまだいい方ね。鑑賞品ってことは、最悪いくら積まれても手放さない人だっているわ」
おいおい嘘だろ……700万Gどころか1000万G?
これ1枚で俺達が今住んでるブルンネの家買えちまうぞ。
どうしてよりにもよって鑑賞品扱いされてるんだよ!
話を聞いて買えるかもーって期待した途端、どん底に叩き落とされた気分だよ!
買えるならまだしも、エステルが言うように絶対手放さない人だっているはずだ。
こりゃ人から譲ってもらうのは諦めて、地道に探索して集めるしかなさそうだな。
「神魔硬貨に興味を持つとは、大倉君達も鑑賞品として集めたいのかね? それとも何か他の用途に使える方法を見つけた、なんてことはないだろうね」
「えっ!? あー、まあ、ちょっと興味が湧いただけですよ。あの洞窟に隠されていた物ですので、入手法がわかれば何か魔人の手がかりにならないかなーっと」
「ほお、そこまで考えているとはさすが大倉君だ。確かに未だに材質もわからず、魔導師達が研究しているという話もある。発見場所も少なからず魔人の痕跡が残った場所が多いから、その考えはあながち間違いじゃないかもしれない」
……パッと思いついた言い訳だったけど、何か感心されてしまったのだが。
というか、神魔硬貨を魔導師が調べているのか。この硬貨は一体何で作られているんだろうな。
「そうだ、金銭の話といえば、今回の依頼の報酬を用意しておいた。これもベンスから話を聞いていたと思うが、報酬は3億Gだ」
「ほ、本当に3億Gもいただけるんですね」
「勿論だとも。正直なところ私個人としてはそれでも足りてないと思っているが、協会として話し合った結果の額だ。その代わりに私にできる範囲でなら、色々と口添えをするから何かあれば頼ってほしい。先ほどの神魔硬貨の件も、必要があれば私の方で持ち主を探して交渉できないか話をしておこう」
「本当ですか! 是非お願いしたいです!」
「う、うむ……何とも凄い食いつき方だ。それ程にまで魔人に関しての情報を集めようとするとは、やはり君達にはAランク冒険者になってほしいものだな」
「熱意があるのは間違いないでありますが、そんなに感心できることでもないのでありますよ……」
「本当にしょうがないお兄さんね」
「うふふ、だからこそ大倉さんは見ていて面白いんですけどねぇ」
そんなこんなで報酬である3億Gを受け取り、今回の報告を終えた。
ふぅ、Aランク昇格は保留しているけど、これでしばらくは自由に活動ができる。
魔石狩りや神魔硬貨の件もあるし、この間に色々とやっていくとするかな。




