閑話 ハロウィンガチャ
ハッピーハロウィン!
という訳で、ギリギリですがハロウィンガチャのお話です。
この回の時期、魔石、ガチャの排出物は本編と関係ありません。
「はぁー、この前まで暑い思いをしていたでありますが、もうすっかり涼しいでありますよ」
「そうね。このぐらいの季節が一番過ごしやすいわ」
異世界も暑い日々が終わり過ごしやすい涼しい季節がやってきた。
今日は依頼も狩りも休みにしていて、のんびりと自宅で過ごしている。
そんな中、1人外出していたシスハが帰って来たのだが……。
「ただいま帰りましたー」
「おっ、おか――うおっ!? な、何だその荷物は!」
「いやー、日頃のお礼だと沢山お土産を頂いてしまいましたよ。これも日頃の人徳というやつですね!」
自分で人徳とか言うなよ……まあ、確かにシスハは日頃から町の人達に色々やってあげているようだが。
以前にも町で遭遇した時マッサージをしていたけど、凄まじい評判のようで他の村や町にも受けたいと言う人がいるぐらいだ。
既に金を取れるレベルだと思うが、未だに無償でやっているもんなぁ。これぐらい感謝されていても不思議じゃないか。
シスハが背負っていた荷包みを机に広げると、その中は大量のお菓子や果物などだった。
「美味しそうでありますよぉ。羨ましいであります」
「良かったらノールさん達もどうぞ。こんなに沢山、私だけじゃ食べきれませんので」
「いいのか?」
「はい。この量だと大倉さん達の分も含まれているのかもしれません」
「あら、それじゃあ今度私達もお返しをしないとね」
そんな訳でシスハに分けて貰ったお菓子を食べようとしたのだが、突然スマホが振動した。
「む、このタイミングで通知が来るのか……」
「まさかガチャが来たのかしら?」
「今度は一体どんなガチャがきたんですか?」
「むぅー、ガチャはいいでありますから、早く食べましょうでありますよ!」
何もやってないのにスマホが振動したとなれば、ガチャしかありえない!
おいおい、ゲリラでまたガチャが来ちゃったのか?
今回はどんなガチャじゃろなっと!
【ハッピーハロウィン! ハロウィン限定ガチャ開催!】
「あー、ハロウィンガチャかぁ」
「ハロウィン……ってなんでありますか?」
「簡単に言うと子供達にお菓子をあげるイベントだな」
「それがガチャとどう関係があるのですか?」
「お菓子を貰う際に魔女やお化けに仮装して、トリックオアトリート、お菓子をくれないとヒャッハーするぞ! って言う習慣があるんだ。あっ、一応言っておくとヒャッハーは悪戯な。お菓子を渡すか悪戯されるか、好きな方を選べって感じだ」
「へぇー、ちょっと面白そうね。つまりその仮装っていうのが、ガチャの対象になっていたりするってこと?」
「おお、鋭いな。大体そんな感じだ」
エステル達も色々なガチャを経験してきて、察しがよくなってきているな。
ハロウィンガチャとなれば、大体仮装した限定衣装のキャラクターが目玉だ。
今回も例に漏れずノール達のハロウィン衣装が手に入るガチャに違いない。
話を聞きながらお菓子を食べていたノールは、口に含んでいた食べ物を飲み込んでから興奮気味に叫び出した。
「むぐ、んっ……なるほど! つまり大倉殿にそれを言えば、お菓子を貰えるのでありますね!」
「どうしてそう発想が飛躍するんだ……まあ、回した後なら構わないけど」
「やったであります! ささ、早くガチャを回すでありますよ!」
こいつ、お菓子って聞いて興奮しているな。やれやれ、食べ物が関わるとこれだから困る。
さてさて、それよりもハロウィンガチャだ!
さっそくガチャ11連タップすると、画面に宝箱が表示される。
宝箱は、銀、金、白、虹。虹で止まった。うひょぉ!?
「おおい! またURだぞ!」
「いつも通りなら誰かの衣装かしら」
「ハロウィン限定衣装ですか。また私のものが出ませんかねぇ」
「むー、それよりもお菓子! お菓子が気になるのであります!」
今までエステル、シスハ、ノールの限定衣装が出ていたからなぁ。
次は一体誰になるのか。それじゃあ見てみるとしよう。
【Rジャック・オー・ランタン、R着ぐるみ、Rお菓子セット、Rパンプキン仮面、Rオオカミコスチューム、Rパンプキンハット、Rナース服、SR高級お菓子セット、R小悪魔コスチューム、Rパンプキンバッグ、SSRハロウィンダンジョンキット、UR『マジカルヴァンプ』ルーナ・ヴァラド】
――――――
●『マジカルヴァンプ』ルーナ・ヴァラド
ハロウィン仕様の衣装に切り替わり、称号が付加される。
――――――
「おっ、ルーナの衣装だな」
「ルーナさんの限定衣装!? 早く、早く着させてあげましょう! 間違いなく確定的で絶対に可愛いに違いありません! ウェヒヒ、どんな衣装になるんですかねぇ!」
「お前な……とりあえずルーナ達を呼ぶか」
パンパンと手を叩くと、家の奥からドタドタと走る音が聞こえてくる。
そしてバンと扉が開いて、ルーナを脇に抱えたフリージアがやってきた。
「はいはーい! 呼んだ!」
「放せ、何故私も運ぶ」
「ルーナちゃん1人にするのはかわいそうだもん!」
「相変わらず手を叩くだけですぐ来るのね……」
ルーナはフリージアと一緒にいたから、呼べばこうやって連れてくるだろうと思っていた。
限定衣装が出たことを当人に伝えると、ジト目で気だるい雰囲気のままだが少し嬉しそうにしている。
「ふむ、私の限定衣装か」
「ああ、さっそく着替えてみようぜ」
「……平八、心なしかニヤけているのは気のせいか?」
「えっ!? ……はっはっ、そんな訳ないだろ! そんなことより着替えさせるぞ!」
まずい、顔に出ていたか? マジカルなんて名前に付いているんだから、衣装は間違いなくあれだと思うが……。
訝しげな表情でルーナが見てくるが誤魔化して、スマホでルーナの称号をマジカルヴァンプに変更した。
スマホから光が溢れ出し、彼女の体に纏わり付き一際大きな光を放つ。
光が収まるとそこには、魔法少女マジカルルーナの姿が。
黒いレオタードを基本にして、腰の両脇にスカートのような布を備え付け、黒いマントを身に纏っている。普段の衣装を魔改造したかのようだ。
部屋にある鏡で自分の今の姿を見たルーナは、ギロリと俺を睨みつけてきた。
「おい」
「いや、待て、落ち着け! 俺は悪くねぇぞ!」
「……まあいい、今回は見逃そう」
おや、恥ずかしそうにしているが意外と気に入っているご様子。
格好自体は限定衣装だけあって、ルーナによく似合っているからなぁ。
……うん? こんな姿を見たらシスハが騒ぎそうなもんだが大人しい。
そう思いシスハの方を見たら、片腕を上げながら目を見開いて棒立ちをしていた。
目の前で手を振ってみてもまるで反応がない。
「こ、こいつ!? 立ったまま気絶してやがるぞ!」
「ルーナの恰好を見て興奮し過ぎたようね。見てみなさいよこの表情」
「わー、凄く幸せそうな顔だねー」
「さすがはシスハでありますね……どうして腕を上げているのでありましょうか」
我が人生に一片の悔いもなしと言わんばかりに満足げだな……怖いけど。
そんなシスハを放置して、エステル達もルーナを見て仮装をしてみたいと言い出した。
「それじゃあ私達も着替えましょうか。ハロウィン衣装も可愛いのが多そうだもの」
「ルーナちゃんの服も可愛いもんね! 私も着てみたい!」
「面白そうでありますし、今回もそのハロウィンとやらをやってみるでありますか」
そう言ってエステル達は俺のスマホを持って別室へと移動した。
ついでに気絶中のシスハも連れて行く。
少ししてまずエステルが戻って来た。
三叉槍を持って背中に小さな黒い羽を着けた、小悪魔コスチュームだ。
「ふふ、お兄さん、どうかしら?」
「おう、可愛いな。エステルは小悪魔か。魔法使いの恰好するかと思ってたぞ」
「それじゃあいつも通りでつまらないでしょ。これでお兄さんのハートを射止めちゃうんだからね」
片目でウィンクをして可愛らしい。水着も小悪魔って称号だったしよく似合っているな。
お次はシスハで、上下とも白いミニスカートのナース服だった。
胸元を大きく開いてわざと見せつけてきている感がある。
「よくナース服を選んだな。神官ならある意味合っているのか?」
「うふふ、白衣の天使ってやつですよ。神官たる私に似合っていて当然です」
「お前に看病されたらロクな目に遭いそうにないけどな」
「……おや? 大倉さん、お顔が優れませんね。このお注射しておきましょう」
「おい馬鹿止めろ! そんなもんで刺されたら死ぬ!」
両手で抱えるぐらいデカイ注射器を出してきやがった! あんなので刺されたら風穴が空くわ!
注射器を仕舞わせて次に出てきたのは、獣耳と尻尾を付けたフリージア。
両手両足に獣をイメージした大きな手袋を着けている。
「フリージアはオオカミの恰好か」
「わんわん、なんだよー」
「それは犬じゃないかしら……」
「ふむ、確かにお似合いだ。色々な意味で」
「わーい! それほどでもあるよ!」
喜んでいるがそれは褒められているのだろうか。
最後に残ったのはノールだが……嫌な予感しかしない。
そんな予想が的中し、次に戻ってきたのはカボチャの被り物をした人物だった。
「うおっ!? お前何被ってやがるんだ!」
「被り物があったからこれにしたでありますよ。でも、これも仮装でありますよね?」
「そ、そうだけどさ……」
「せっかくなんですから、素顔の方がいいとは言ったんですけどねぇ」
「私はこれでいいのでありますよ! 素顔じゃ恥ずかしくて、逆に楽しめないであります!」
う、うーむ、やはり自分で選ばせるとこうなったか。
ある意味ノールらしくはあるのだが、素顔が可愛いだけに残念だ。
モフットも一緒におめかししたようで、頭に小さな黒い帽子を被ってプーと鳴いていた。ハロウィン仕様モフットだな。
全員の着替えも終わり、とりあえずハロウィンっぽいことを始めることにした。
「着替えたことだし、お兄さんがさっき言ってたことをやってみようかしら」
「おう、ガチャ産のだけどお菓子は用意しておいたぞ」
「それじゃあ、トリックオアトリート、お菓子はいいから悪戯させて?」
「おい! おかしを要求しろよ!」
「ぶー、私はお菓子よりお兄さんに悪戯をさせてほしいわ」
お菓子よりも悪戯を優先するんじゃあない!
エステルは頬をふくらませて不満そうにしていたが、お菓子を受け取らせる。
その様子を見ていたシスハは、不敵な笑みを浮かべながら俺の前に立った。
「ちっちっち、甘いですねエステルさん。トリックオアトリート、お菓子も渡して悪戯もさせてください」
「ふざけんな!」
両方要求してくるな! 神官なのに強欲過ぎるだろ!
シスハにもお菓子を渡して、次はノールの番だ。
「トリックオアトリート、お菓子を渡すのであります! 1つや2つじゃなく全部であります!」
「お前もいい加減しろよ! ほら、受け取りやがれ!」
こ、こいつら……揃いも揃ってツッコミたくなるような要求をしてきやがる。
と、疲れ始めつつも、次はフリージアとルーナが一緒にやってきた。
「トリックオアトリート! お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうよ!」
「トリックオアトリート、お菓子くれ」
「ああ……これだよこれ、これが普通のやつだよ。ほら、受け取ってくれ」
2人共お菓子を渡してやると素直に喜んでいた。
毎度ながらこの2人は、こういう時は普通にしてくれるから助かる。
渡したお菓子を食べながら、フリージアは次に何をしたらいいか聞いてきた。
「それでそれで! 他にはどんなことするの!」
「うーん、そう言われてもなぁ。後は適当にワイワイするぐらいしか思いつかないぞ」
「あら、今回のガチャから出たアイテムに面白そうな物があるじゃない。これをやってみましょうよ」
「ん?」
エステルがスマホを操作してそのアイテムを見せてきた。
――――――
【ハロウィンダンジョンキット】
ハロウィン専用のダンジョンが作成される。
妨害者と探索者に分かれて勝負をし、勝者は極上お菓子をプレゼント。
『勝利条件』
・妨害者 探索者を30分間足止めする。
・探索者 30分以内にダンジョン最深部への到達。
※妨害者は一定以上の被ダメージで待機所に移動。
このダンジョン内で肉体へのダメージはありません。
――――――
「わぁー、面白そう! やってみようよ!」
「極上お菓子……絶対にやるのでありますよ!」
「ほほぉ、探索者も妨害者もどちらも面白そうですね」
「……ふむ、悪戯側がいい。別に怖い訳じゃないぞ?」
ハロウィンダンジョンか。確かにこのまま他にやることもないし、やってみるのもありだな。
満場一致の賛成でやることになり、俺がアイテムを選択してYesを押すと、スマホの画面が発光して目の前が光で埋め尽くされた。
●
「こりゃまた本格的な館だな……」
気が付けば目の前の光景が一変していて、大きな館の目の前に立っていた。
空は暗く雷が鳴り響き、コウモリも飛び回って不気味な演出だ。
館の周囲にはカボチャのランタンが置かれて、ハロウィンっぽい雰囲気がある。
あれはジャック・オー・ランタンってやつか。
そう周囲を観察していると、後ろから不意に声をかけられた。
「むっ、平八」
「ルーナか。ってことは、俺達が探索者側か」
「何ということだ……悪戯側がよかった。驚かされるのは嫌だ」
ルーナは暗い表情で露骨に嫌そうだ。
そういえばアイテムを使う直前も悪戯側がいいとか言ってたな。驚かされるのが苦手なのかもしれない。
さっそく館に入ろうとしたが、門の前には準備中の看板が立っていた。
ノール達が中で用意をしているのだろうか。
しばらくその場で待っていると、看板が光の粒子になって消えていき門が開いた。
館の中へ入ってみると、室内も真っ暗でランタンの明かりだけで照らされている。
ハロウィンっぽいBGMまで流れ、ダンジョンというよりはアトラクションのようだ。
「ハロウィンといえばお化けだけど、まさか屋敷のダンジョンとは……幽霊とか出てきそうで怖いぞ」
「幽霊が怖いのか」
「ルーナは幽霊とか怖がりそうにないよな。お前達の認識だと幽霊なんて倒せるから当然か」
「ふむ、幽霊よりも生者の方がよっぽど恐ろしい。特に聖職者だ。……うっ、追いかけ回された記憶が」
ルーナは本当に嫌なことを思い出すかのように顔をしかめている。
召喚された直後にシスハに対して凄い敵対心を持っていたが、トラウマを植え付けられるぐらい聖職者に追いかけられたのだろうか。
そんな話をしながらも屋敷の中を進むと、デカデカとした屋敷の地図が壁に貼られていた。
順路は決まっていて、この屋敷は全部で4階まであるようだ。
そして俺達が目指すべきゴールは、最上階である4階の一番奥。
「地図があるのは親切だな。最上階がゴールか」
「通り道が決まっている。ノール達はそこにいるのか」
「ああ、間違いなく待ち伏せしてるぞ。うーん、制限時間以内にゴールするのは大変そうだな」
4階まで上がらないといけない上に、ノール達からの妨害もある。
30分しかないのに果たして辿り着けるのだろうか。
迷っていても仕方がないので、スマホで地図を撮影して進み始めた。
ほのかに照らされた廊下を歩いていると、クイっと服の端を引っ張られる。
それはルーナで周りをキョロキョロと見ながら、俺から離れないようにぴったりとくっついてきていた。
「どうしたんだルーナ。怖くないんじゃなかったのか?」
「べ、別に怖くなどない。警戒しているだけ――きゃあ!?」
バコン、とどこかで壁を叩くような音が聞こえ、それに反応してルーナが可愛らしい悲鳴を上げた。
その後にハッとして頬を赤らめて俺から顔を逸らしている。
ははは、あのルーナでも可愛らしい反応をしてくれるんだな。
魔法少女の衣装と相まって物凄く可愛らしく思える。
と、妙にほっこりとしていたが、突然叫び声が館に響いた。
『ぬぅああああぁぁぁぁ!』
絶叫が聞こえたと同時に、ドタドタという駆け足、壁を叩き壊すような破砕音が聞こえてくる。
だんだんと音は近づいてきて、こっちへ向かってきていた。
「な、なんだ!?」
「凄い雄叫びだ……何か来る」
ルーナが赤い槍を取り出して身構えると、ついに近くの壁が壊れて何かが飛び出して来る。
ゴロゴロと床を転がって立ち上がったそれは、ナース服のシスハだった。
「大倉さん! なんてうらやまけしからんことをしているのですか! 許せません!」
「いや知らねーよ! 壁ぶち破って出てくるな!」
「驚かそうとずっと後をつけていたんです! くぅ、ルーナさんのあんな可愛らしい悲鳴を聞いてしまったら出てこない訳には――ぐは!?」
シスハは高速で接近したルーナに槍で貫かれた。
槍を引き抜いて振り返ったルーナは、それは茹でダコのように真っ赤な顔をしている。
さっきの悲鳴をシスハに聞かれたのがとんでもなく恥ずかしいのか。
この串刺しは照れ隠しを意味しているのかもしれない。……随分と恐ろしい照れ隠しではあるが。
貫かれたシスハに傷はないが、その場で両膝から崩れ落ち悟ったかのような表情だ。
「あぁ……私としたことが、冷静さを欠いてしまいましたね。ルーナさんの愛、しかと受け止めました。後はあちらで観戦させていただきますよ」
満足げにそう呟くと、シスハは光の粒子となって消えていく。
あいつ、ロクな妨害もせずに勝手に満足して退場していきやがった……。
一体何がしたかったんだよ! 本気で妨害されたら手強いだろうからありがたいけどさ!
シスハを退場させたことであっさりと1階を突破し、俺達は2階へと上がった。
そしてまた通路を歩いていると、物陰からオオカミ姿のフリージアが飛び出してきた。
「がおー! オオカミなんだよー!」
「お次はフリージアか」
「あれ、驚いてくれないの?」
「ただ出てきただけじゃ驚かん」
両手を上げて威嚇してきたがまるで怖くない。むしろ恰好からして微笑ましいだけじゃないだろうか。
俺達の反応にフリージアは凄く不満そうにしている。そんな彼女を他所に突然ルーナが槍で突き出す。
フリージアは慌ててその場から飛び退いて槍を回避した。さすがの反応速度だな。
「わっ!? 何するの!」
「ちっ、避けたか。大人しくやられろ」
「嫌だ! もっと沢山遊びたいもん!」
足を踏み鳴らしてフリージアはやる気満々のようだ。
ルーナの攻撃すら回避してくるから、このまま相手をしても倒せそうにないな。
……いや、待てよ? 別に相手をする必要もないんじゃないか?
俺達の勝利条件はゴールに辿り着けばいいだけだ。わざわざ倒すこともない。
「フリージアはスルーして先に進むか。残しておいてもそんな妨害はしてこないだろ」
「うむ、そうしよう」
「ふっふー、そうはいかないよ! これを見て!」
そう言ってフリージアは1本の鍵を見せてきた。
「次の階に行くにはこの鍵が必要だよ! エステルちゃんにこれを持って逃げればいいって言われたんだ―」
「くっ、さすがエステル。俺達がスルーすると考えて対策をしてきてたか」
「黙っていればいいものを。このまま行っていたら二度手間だった」
「ふふん! 私は絶対に捕まらないもん! それじゃあ――あう!?」
後ろを向いてこの場から逃げ出そうとしたが、突然フリージアはその場でへたり込んだ。
よく見るとルーナの影が伸びて、フリージアの足元に絡みついている。
何かやったみたいだな。
「か、体から力が抜けてるぅ……逃げるのがめんどくさくなってきたぁ」
「何をしたんだ?」
「魔法少女ルーナの新たな力だ。私の影に触れた相手は怠けたくなる。卑怯とは言うまいな」
「そんなの卑怯なんだよー」
そう叫びながらも動けなくなったフリージアは、ルーナの槍に刺されて待機所送りになった。
通常のルーナにこんな能力はなかったが、やはり限定衣装の称号だと他の能力が追加されるんだな。
というか、相手を怠けさせる能力とは一体……ルーナの怠けっぷりが移るのだろうか。
フリージアが消えて残された鍵を拾い、奥にあった扉を開けて3階へと上がった。
「さて、残すは3階と最上階か。その相手を怠惰にする魔法があれば楽勝だな」
「だといいが。私の力を上回る意志を持っていたら効くかわからん」
「はは、ルーナの怠けっぷりを超える意志なんてそういないんだろ」
「私から言い出したことだが、妙に腹立たしく聞こえる」
そんな軽口を叩きながら通路を進み始めたが、俺達の前に途轍もなく恐ろしい存在が立ち塞がってきた。
カボチャの被り物をし手に剣を持った不審者がこっちへ向かってきている。
目の部分が青く発光し、めちゃくちゃ不気味だ。被り物の上にはモフットも乗っていて、呆れたようにブーと鳴いていた。
ノールは俺達の存在に気が付くと、叫びながら走り出した。
「お菓子! お菓子を寄こすのでありますよ! トリックオアトリートなのでありますぅ!」
「やべぇ! やべぇ奴が出てきたぞ! ルーナ!」
「うむ」
ルーナの足元の影が伸び、向かってきていたノールの足に絡みついた。
一瞬ノールの勢いは衰えたが、ドンッと足踏みをすると絡みついていたルーナの影が弾かれる。
嘘だろおい!?
「何なのでありますかぁ、今のはぁ?」
「おい! 効いてないぞ!」
「ダメだ、執念と欲望が強過ぎる」
「覚悟するのであります!」
向かってくるノールを迎え撃つためにルーナは槍を構えたが、俺達はあっさりノールに叩き切られて光の粒子に包まれた。
痛みはなく視界は光に包まれて、気が付けば3階の入り口に俺とルーナは立っていた。
「なるほど、俺達は攻撃されても退場にならない代わり、その階の入り口に戻されるのか」
「ノールから逃げて次の階を目指そう。鍵を持っていたら詰みだ」
「あの状態のノールと正面から戦っても、勝ち目がなさそうだからなぁ」
ルーナですらロクに抵抗できずにやられていたからな……。
お菓子がかかっているから、とんでもない力を発揮してやがるぞ。
これは順路から外れて、ノールと遭遇しないルートを探して進むしかなさそうだな。
まるでスニーキングミッションだ。
それから音と気配を殺しながら、俺とルーナは階段のある場所まで進みだした。
ノールの足音やプーというモフットの鳴き声が聞こえたら、即座に道を戻り他の場所から進んだりしていく。
そしてようやく4階への階段が見えてきたのだが……ノールが階段の目の前に陣取って待機していた。
「むっふふ、このまま大倉殿達が来なければ私達の勝ちでありますよ! モフット、お菓子はいただいたのであります!」
もうお菓子が手に入ったのを確信しているのか、ノールはモフットを撫でながら嬉しそうに笑っている。
「ちっ、ノールのくせに頭が回るじゃねーか。これじゃ上に行けないぞ」
「ふむ、なら私の魔法で誘導しよう」
物陰に隠れながらルーナが槍を振るうと、魔法陣が現れてコウモリの形をした複数の黒い影が出てきた。
彼女がそれに指示を送ると、パタパタと大きな音を上げながらコウモリ達は通路の奥へと飛んでいく。
マジカルヴァンプの称号のおかげか、魔法を操る練度が上がっているのか?
まるでエステルさんのように魔法を使いこなしているぞ。
「来たでありますか! ここは通さないのでありますよ!」
まんまとルーナの魔法による囮に引っかかり、ノールは通路の奥へと走って行く。
その隙に俺達は階段へと向かい、幸い扉はなく鍵も必要なく4階へと上がったのだが……。
到着した直後、エステルさんがすぐ目の前で待ち構えていた。
「いらっしゃい。ここまで来るなんてさすがお兄さんとルーナね」
「このダンジョンのボスはエステルってところか。出迎えてくれるとは随分と余裕があるじゃあないか」
「そうでもないわよ。一応準備はしていたけれど、ノールが止めてくれるのを期待していたもの。残り10分ぐらいはあるから、このままじゃ負けちゃうわね」
「ただの遊びだ。このまま大人しく負けてくれ」
「遊びとはいえ勝負は勝負、負けるのは悔しいわ。だから抵抗はさせてもらうわね」
そう言うとエステルの姿は薄れていきその場から消えた。
どうやら目の前にいたのは本人じゃなかったようだ。
「幻影か。この階層、エステルの支配下になっているぞ」
「全く、意外そうに言ってた割に俺達がここまで来るのを完全に想定していたな」
「ここから小細工は通用しない。真っ向からの勝負だ」
エステルの支配下ってことは、俺達の行動も全部知られていそうだな。
隠れて近づいてゴールに飛び込むのは無理か。
だが、エステルもまだノールが健在なんだから、呼ぼうと思えば呼べたはずだ。
それでも呼ばずにこのまま進ませるってことは、よっぽど自信があるに違いない。
ここは慎重に進んでいくとしよう。
4階は他の階と比べて、霧のようなものが漂ってひんやりとして不気味さが増している。
その中を進んでいると、突然壁から白い物体が飛び出してきた。
布のカーテンが浮かんだような姿で、一般的に想像する幽霊に見える。
それが何体も出て一瞬ドキッとしたが、俺達の周囲を飛び回るだけで何もしてこない。
手を出しても触れることができず、ケケケっと笑い声を上げている。
「これも幻なのか?」
「うむ、エステルが作り出したものだ。幻影とわかっていれば怖くはない。この程度じゃ足止めにもならん」
不気味ではあるが全くの無害だ。これなら進むのにまるで影響がない。
ルーナも怖くないといいつつ、がっちりと俺の服の裾を掴んでいた。
これじゃあ俺が幽霊を怖がってなんていられないな。
エステル産の幽霊に囲まれながらも先へと進んだ。
それから5分程度早歩きで進んでいたのだが……おかしい。
ずっと直線を進んでいるはずなのに、まるで終わりが見えない。
それにさっきから周囲の扉や物の配置が全く同じ気がする。
「なあ、この廊下長過ぎないか? 進んでるのに辿り着く気配がないぞ」
「ふむ……いや、待て。これは魔法だ」
ルーナが槍を振ると、パリン、と音が鳴り響いて空間に亀裂が走って割れた。
すると霧が晴れて周囲を漂っていた幽霊の姿も消える。
「やはりか。あのお化けの幻影はダミー。ループする通路の方が本命だ」
「同じ場所を歩かされていたのか……気が付かなかったらこのまま時間切れだったな」
進んでいるようで全く進んでいなかったんだな。
最初にエステルの幻影が待ち構えていたのも、俺達をこの罠にはめるための仕掛けだったのか。
ループする通路を突破し、今度こそ奥へ向かって進みだす。
既に時間をかなり使っているので駆け足になりつつも警戒をする。
だが、これ以上の妨害もなく、最深部へと到達。
そこには当然エステルもいて、俺達の姿を見て微笑んでいた。
「あら、バレちゃったのね」
「随分とあっさりここまで通してくれたな。もっと何かしてくるかと思ったぞ」
「幽霊の幻影にビクビクするお兄さんを見れただけで十分だもの。ルーナも怖がっていたのは意外だったわね」
「別に怖がってなどいない。嘘じゃないぞ」
「ふふ、そうね。それじゃあノールには悪いけど、ゴールして終わりにしましょうか」
なるほど、負けるのは悔しいと言いつつ、勝敗はそこまで気にしていなかったのか。
実際さらに妨害されたら完全に負けていた。本当にギリギリだったな。
エステルに促されて奥まで進むと、ハッピーハロウィンと描かれた扉があった。
そこへ俺とルーナが入ると、また視界が光で満たされた。
●
こうしてハロウィンダンジョンは俺とルーナの勝利に終わり、自宅へと全員で戻ってきた。
「うぅー、悔しいのであります! いつの間に大倉殿達は最上階に行ったのでありますか!」
「はっはっは、ルーナが魔法でコウモリを出して誘導した時さ」
「あの時でありましたか……通りで誰もいなかったのであります」
「興奮して冷静じゃなくなっていた。もっと警戒するべきだった」
「私もルーナちゃんにやられちゃったんだよ……あんなのズルい!」
「不意打ちを受ける方が悪い」
「勝負には負けましたが、ルーナさんの可愛らしい姿を見られたので満足ですよ。これに勝る幸福はございません」
ノールとフリージアは凄く悔しそうにし、シスハは思い返すように微笑んで満足げだ。
ちなみに勝者の報酬である極上お菓子は、戻って来たら机の上に山積みになっていた。
「さて、報酬のお菓子は皆で分けるとするか」
「えっ! いいのでありますか!」
「当たり前だろ。別にお菓子を分けちゃダメって訳じゃないからな。ルーナもそれでいいだろ?」
「うむ、私達だけ食べるのも気まずい」
「わーい! ルーナちゃん優しいんだよ!」
「この量だと全員で十分に食べられそうですね。このイベント、元々こうなるのを想定していたのかもしれませんね」
「ふふ、よかったわね。それじゃあ皆でいただきましょうか」
せっかくのハロウィン気分だからな。
皆で分け合った方が気分がいいし楽しいはず。
お菓子を食べながらもワイワイ騒ぐ中、俺はルーナに声をかけた。
「ルーナ、たまには皆でこういうことするのもいいもんだろ」
「たまには、な。こういうのも悪くない」
ルーナはそう言って微笑んでいた。また別の季節イベントが来た時、こうやって騒げたらいいな。




