海の洞窟
いつもお読みくださりありがとうございます。
8月31日に小説書籍版9巻&コミックス版4巻が発売となります。
詳細は後書きに掲載いたしますので、ご興味のある方はお読みいただけると幸いです。
モフットが進化し新しい狩場も見つけ、次のガチャへ向けて期待に胸をふくらませながら魔石集めをする日々。
サハギン狩りにも慣れ始めて、湧き場所から効率的に誘導し処理できる立ち位置などもだんだんと把握できた。
2人の釣り役と殲滅役のエステルさん、護衛役としてフリージアを動員して半日で魔石約50個の狩り効率だ。
11連ガチャ分の魔石が半日で手に入ると考えれば上出来だろう。ここからさらに効率を突き詰めてタイムロスを減らしていけば60個も夢じゃない! ……まあ、やり過ぎたら後が怖いので程々にしておくけど。
といった感じで色々と試しながらも、現在の魔石は1780個まで貯められた。天井ガチャで使った1000個を取り戻す日も近い。
そんな魔石狩りの毎日だったが、そろそろフリージアが不満をぶちまけそうになっていたので、息抜きとして普通の探索をすることにした。
今回探索の対象としたのは、セヴァリアで噂を聞いた満潮時に沈む海の洞窟だ。
引き潮の時期をセヴァリアの漁師さんに聞き、そのタイミングを狙って洞窟があるという場所に訪れている。
水の引いた岩場へ降りて断崖絶壁で囲われた入り江まで行くと、崖の下の部分に広い穴があった。
中を覗くと入り口部分から上へ坂道が続いていて、奥へ進むと今度は下り道で地下へと進めるようだ。
勿論光源がなく真っ暗闇だが、シュトガル鉱山の坑道の時のようにエステルさんの魔法で中を照らしている。
「ほほう、ここが引き潮で現れる洞窟か。全然水が入ってないな」
「海に沈んでも上手く水が奥に入らないようになっているわね。人の手で掘られた場所なのかしら?」
「作るとしたら隠れ家的なものでしょうか。昔に海賊などがいてお宝を隠していたりしませんかね。金銀財宝ザックザクですよ!」
「ザックザク! 絶対にお宝見つけようね!」
シスハはぐへへとにやけ顔を晒し、フリージアは目を輝かせている。
……何だろう、邪な奴と純粋な奴の対比を見た気がするぞ。
それはいいとして、この洞窟、明らかに人の手が入ったものだ。
一見自然に作られた感があるけど、地図アプリで見てみると洞窟の奥はアリの巣のようにいくつもの部屋に分かれている。
まあ、この洞窟の話を聞いた時からそれはわかっていたのだが。
漁師さんに話を聞いた時、もう散々冒険者達が探索しちまってるだろうけどな、ガハハ! なんて笑ってたし。
グレットさん達もここに来てそうだから話を聞けただろうけど、別れの挨拶をしに探したのだが依頼で外に出てしまい町にいなかった。
自分達で未知を既知にするのも探索の醍醐味だろうし、今回はこれでよかったのかもしれない。
「既に認知された洞窟でお宝なんて残っているのでありますかね?」
「聞いた感じだとある程度探索されているみたいだぞ。宝があったって話はなかったけど……実際にあったら誰にも言わずに皆貰っていくだろ。今じゃ魔物も中にいるとかって話だ」
「だが、称号がある。いつもの探索よりは楽だ」
そう、探索済みなのに何故ここに来たのか。それはテステゥード様から貰った海の守護神の称号があるからだ。
これさえあれば海洋系の魔物から先制で襲われる心配はない。
つまり魔物がいる場所でも安全かつじっくりと探索し尽くせる訳だ。
冒険者でも見落としている部分が絶対にあるはず。
フリージアも探索で満足してくれるだろうし、丁度いい感じになるだろう。
魔物がいるところはかなり下の方みたいだから、今はとりあえず探索し尽くされたであろう場所を見ていくか。
「シュトガル鉱山の坑道にも魔物がいたでありますが、ここも後から魔物が発生したのでありますかね?」
「うーん、地面とか掘って魔物が湧いてくる場所でも掘り当てちまったんじゃないか? そもそも魔物が発生する仕組み自体よくわからないし」
「基本的に魔物がいる場所の魔素は濃いわ。この洞窟にもかなりの魔素があるから、魔物が発生する原因に魔素が関わっているのかもね」
「ここやシュトガル鉱山の坑道を探索すれば何か見つかりそうですね。私も多少興味はありますけど、今はこの洞窟にお宝があるかの方が気になります!」
「神官の癖に物欲に塗れ過ぎだろ……」
「いやぁ、別に金銀財宝は欲しくありませんよ? 神官たるこの私がそんな物欲に塗れてる訳ないじゃないですかぁ。隠されたお宝を探すのが楽しいのです。ね、フリージアさん」
「うん! 平八やノールちゃん達とお宝探しできるのが楽しみだよ!」
フリージアはお宝そのものより、探す行為自体を楽しんでいるんだな。純粋じゃあないか。
一方シスハは満面の笑みを浮かべているが、まるで張り付けたような作り笑いで逆に不気味だ。
間違いなく財宝狙いだぞこいつ。物欲塗れじゃねーか!
……俺としても財宝があるなら欲しいけどさ。魔石集めの資金の一部として流用しちゃうぞ。
そんな邪な考えをしつつ、洞窟内を探索していく。
洞窟内にはボロボロになった木製の箱や縄など、その他にも色々と落ちていた。
生活感というか、人がいた名残が残っている。冒険者とかが持ち込んだものもありそうだが、放棄された場所って感じだな。
それに酷く物が散乱しているところもあって、明らかに漁られた形跡がある。
「思ったより広そうでありますね。色々な残骸もあるでありますし、本当に隠れ家だったのでありましょうか?」
「見たところかなり昔からあるようね。かなり荒れているから、探索者もそれなりにいたみたい」
「これではお宝は期待できそうにないですねぇ。魔物がいるところを積極的に探せば、まだ未探索の可能性もありますか」
「むー、本当に何もないね。隠し部屋とかないのかな?」
隠し部屋か……そういえば地図アプリに隔離されたような空間がちらほらと表示されているな。
今調べている部屋の近くにもそういう空間があり、この部屋の下の細い道と繋がっていた。
その道を辿って繋がっている地面を見ると、その上にはごつごつのデカい岩が置かれている。
だが、岩の周辺には引き摺ったような跡があり、試しに岩を掴んで横に力を入れるとズズっと滑るように動き地面に穴が空いていた。
「隠し通路を見つけたが動かした跡があるな。隠し部屋も探索されているぞ」
「抜け目ないでありますね。というか、こんな洞窟の中で隠し部屋まで作られているのでありますか」
「ああ、人為的に作られた場所だろうな。とりあえず隠し部屋も調べてみるか」
この穴に潜って隠し部屋まで行ってもいいが結構な距離があるし、1人がやっと入れるスペースだ。
普通に行けなくもないけど、今はこういう時に便利なアイテムを持っている。今がその使い時!
俺はバッグから黒い細長の棒を取り出した。これは大分前に出たディメンションホールというアイテムだ。
これを壁に突き刺せば、壁の向こう側まで穴が空く。さっそく壁に突き刺すとズブズブっと奥まで入っていき、手を放したら棒の真下に縦長の穴が開いた。
「凄い! 壁に穴ができた! 向こう側が見えるよ!」
「ディメンションホールを初めてちゃんと使ったわね。隣の部屋とどのぐらい離れているの?」
「10メートルってところだな。距離とか関係なく向こう側の壁をぶち抜くのか」
「これはよいものだ。あまり動かなくて済む」
立体地図アプリには現在地と目的地の距離まで表示されていて、ここから隠し部屋まで10メートルはあった。
だが、ディメンションホールで開いた穴は一歩分程度の距離しかなく、向こう側の壁まで単純に穴を開けている訳じゃないようだ。
異次元空間になっているようだが、これは一種のワープみたいなものか。
ルーナが物凄く欲しそうな目でこっちを見ているぞ。
さっそく穴を通って隠し部屋に入ってみたものの、やはり既に物色された形跡があり特に目新しい物は見当たらない。
シスハが壁をコンコンと叩くと、一部がパコっと外れて隠し棚を発見した。
が、そこも既に見つけられた後のようで中には何も入っておらず、シスハは舌打ちしている。
「ちっ、完全にやられてますね。隠し棚も根こそぎ持っていかれてますか」
「お前よく俺が言う前からそこに空間あるのわかったな」
「これぐらいの物色は朝飯前ですよ。神官ですからね」
……まあいいか、何にせよこの隠し部屋に何も残ってないようだな。
それから他の隠し部屋も探索して回ってみたが、どこも既に物色され尽くしていて何の成果も得られなかった。
「どの隠し部屋も全滅か。魔物がいないところは安心して調べられるけど、やっぱり何も残ってないな」
「もう調べ尽くされているわね。隠し部屋を全部見つけているなんて、優秀な探索者が来ていたのかしら。ここから先は魔物がいる場所を探索するしかなさそうよ」
俺達は立体地図アプリで全て丸っとお見通しだが、魔物がいない範囲の隠し部屋は全部探索し尽くされている。
グレットさん達みたいな人が来ていたのなら、隠し部屋を全部見つけていても不思議じゃない。
というか、グレットさん達もこの洞窟を探索しているだろうし、元々望み薄だったか。
だが、諦めるにはまだ早い。ここから先は魔物のいる領域、未探索の場所だってきっとあるはずだ。
そう希望を抱いて俺達は探索を続けるのだった。
ここまでお読みくださり誠にありがとうございます。
前書きの通り、8月31日に小説書籍版9巻&コミックス版4巻が発売となります。
小説書籍版に関しましては9巻で完結となります。
web版とは異なる展開となっており、書き下ろし部分がとても多いです。
私的に書きたかった話を入れられたので、是非お読みいただけると幸いです。
アンケート特典として【Girls corps ノール編】を予定しております。
ルーナ編やフリージア編と同程度の長さになると思います。
アンケートにお答えいただきお読みいただけると嬉しいです。
web版に関しましては、これからも連載は続けていくつもりです。
引き続きお読みいただければ嬉しいです。
コミカライズ版4巻も同時に発売ですのでよろしくお願いいたします!
晴野しゅー先生の描く漫画がとても素晴らしく……手に取ってくださった際はカバー裏まで是非見ていただきたいです!
長い間応援してくださった読者の皆様、本当にありがとうございました。




