王都で初依頼
「さて、今日はエステルのEランク昇格依頼でも受けるか」
「あら、ようやく私もお兄さん達と同じランクになれるのね」
装備の整理を終え、俺達は冒険者協会に来ている。目的はエステルのEランク昇格だ。MP切れしたノールにはMPポーションを飲ませておいた。
早速中に入ると、冒険者達が俺達の方を見るがすぐに視線を外す。うーん、ディウス戦でやり過ぎたせいかな?
「できれば遠くに行くのは避けたいんだが……」
「あっ、これなんてどうでありますか? 王都付近の討伐と納品依頼でありますよ」
依頼掲示板の方へと向かうと、冒険者達が俺達を避け一直線に道が出来る。おいおい、ビビリ過ぎだろ!?
貼り付けられた紙を見てみるが、どれも村に行く依頼ばかりだ。王都ならば周辺地域の討伐依頼も有るだろうと思ったが案外少ないのか?
色々と見ていると、ノールが1枚の依頼書を持ってきた。
「うーむ、討伐ランクBか。しかも報酬が低いな」
「私は上がればなんでもいいわよ」
Bランク討伐対象、ワシ戦士長。納品、ワシ戦士長のクチバシ。と依頼書には記載されている。
本当なら納品での依頼だが、Bランク討伐対象のドロップアイテムなので討伐依頼も適用されているみたいだ。
問題無く狩ることができるだろうが、達成報酬が安い。討伐と納品併せて5000G。誰も受けずに残った不味い依頼だなこれ。
依頼主が居る依頼は、報酬も依頼主が決める。この依頼主のように低い金額にしてしまうといつまでも残るんだな。
まあエステルが上がれればいいし丁度いいか。
「すみません、この依頼を受けたいのですが」
「あっ、はい。少々お待ちを……って、Bランク!? あっ、も、申し訳ございません!」
受付に持っていくと、今まで見かけなかった女性が受付をしていた。水色の長髪をした若い女性だ。豊満なお胸をしている女性なので、1度見ているのなら忘れることはないだろう。新しく入ってきた人か?
その人に依頼書を渡すと、Bランク依頼というのと俺達のプレートを見て驚いている。
「あの、申し訳ございませんがこちらはBランクの討伐です。Eランクである冒険者様の受けられるような依頼じゃ……」
「あっ、ちょっとウィッジ。その人達は大丈夫な人達だから」
「えっ、でも……」
困惑している女性に、いつもの受付の女性が声を掛けた。どうやらこの巨乳娘はウィッジちゃんと言うみたいだ。覚えておこう。
それにしても大丈夫な人達ってなんだ。一体どんな認識がこの冒険者協会に広がっているんだ。
「申し訳ございません大倉様。この娘は他の協会まで行っておりまして、昨日帰ってきたばかりで色々と事情を知らないんです」
「いえいえ、大丈夫ですよ。お気になさらないでください」
新人じゃなくて他の所に居ただけか。昨日がディウスとの戦いだったが、この娘は帰ってきたばかりで見れなかったと。
「こ、この人達がディウス様に勝ったっていう大倉さんなんですか! はわわ!」
「ははは……」
彼女は顔を赤くして、恥ずかしそうに慌てている。
それにしてもディウス様か。くっ、この娘もあいつのファンみたいだな。
●
ワシ戦士長は王都の南にある森に生息するようだ。早速南の門から出て、森へ向かうことにした。
人気が無い近くの茂みにビーコンを隠し帰りの準備もしておく。それにしても、いつもこの作業をするのはめんどくさいな。そろそろ倉庫でもいいから街の中に安心してビーコンを置ける場所が欲しい。
「よし、今日はこれに乗って移動するぞ」
「おぉ、浮いてるのでありますよ」
「本当にこれ乗れるのかしら?」
徒歩で森へ行くのもめんどうくさいので、俺は新たにスマホからアイテムを取り出した。
――――――
●魔法のカーペット
魔法の施されたカーペット。
自由自在に動かすことが可能。調子に乗って不運と踊らないように注意しよう。
――――――
SSR魔法のカーペット。一畳程のサイズ絨毯だ。取り出して地面に置くと、俺の膝下程まで浮かび始めた。
エステルの言う通り、こんなぺらっぺらの絨毯本当に乗れるのか怖いがSSRだし平気だろう。
「目立ちそうだけどいいの?」
「あぁ、一応MAPを見て人が居たら回避するけどな」
浮かんでいるし、少し街道から離れても進行に問題は無さそうだ。見られたら面倒くさいかもしれないが、MAPを最大限に広げて注意しておけば平気だろう。
「よし、それじゃ出発だ」
早速3人で乗り込み、カーペットを発進させる。操作は持ち主である俺に依存しているみたいで、俺が進みたいと思う方向に進むようだ。
一応車の免許も持っていたから運転などはしていたが、久々の運転だ。なんだか気分が昂ぶってきたな。
「は、速いなこれ……」
「きゃ、お兄さん、怖いわ」
「ちょ、抱き付くなって」
調子に乗り少し速度を上げた。感覚的に50km程の速さのはずだが、生身が剥き出しのせいかやけに速く感じる。
やっぱり速度を落とそうかと思ったのだが、後ろからエステルが抱き付いてきた。嬉しいけど、なんだか最近ボディタッチが増えている気がするぞ。
「ノールは酔ったりしてないか?」
「平気なのでありますよ~。もっとガンガン飛ばしてもらっても構わないであります!」
乗り心地も悪くは無い。浮かんでいるので揺れなども少なく快適だ。馬車の地獄を味わった後だと天国みたいに感じるぞ。
●
数十分程で目的の場所へと到着した。人と遭遇する事も無かったのでラッキーだ。
もし徒歩で移動となったら大分掛かっていたし、ガチャ産アイテムはやっぱり便利だわ。
「ここが討伐対象が居るっていう所か」
「早速だけど魔物がうろちょろしているわね」
「うじゃうじゃと居るでありますな」
森は見渡す限り広がっており、ブルンネにあった森より遥かに広い。森の付近には中から出てきた、人間サイズのワシみたいな顔をした魔物が歩いている。
全身青い羽に覆われ、二足歩行で鎧を纏い手には片手剣と盾を装備。足は鳥のように細く4本指だ。移動速度も速そうだな。
とりあえずいつも通りステータスを見ておくか。
――――――
●種族:ワシ戦士
レベル:45
HP:1万2000
MP:0
攻撃力:350
防御力:100
敏捷:90
魔法耐性:0
固有能力 無し
スキル 無し
――――――
うおっ、雑魚敵でこのステータスだと!? Cランクだったオーガよりは弱いけれど、軽く数十匹は居る。
1体1体は大した事ないが、この数は流石にやばい。普通の冒険者だったら死ねるな。こりゃ依頼受けない訳だ。
「おっ、あれが例のBランク討伐対象か」
「随伴も結構居るでありますね」
その中でも一際デカく赤い羽に覆われたワシ戦士が居た。その周囲には十数匹のワシ戦士が異様に密集している。
あれが今回の標的のワシ戦士長か。こいつもステータスを見ておこう。
――――――
●ワシ戦士長 種族:ワシ戦士
レベル:60
HP:2万4000
MP:0
攻撃力:900
防御力:150
敏捷:180
魔法耐性:0
固有能力 無し
スキル 神速
――――――
あっ、これやばい奴だ。普通に相手したくないレベルだな。支援とバフが無かったらとてもじゃないがやる気がしない。
敏捷がノールの倍近くあるし。俺とノールは平気だけど、エステルは狙われるとまずいな。
「エステル、まずは強化魔法をくれ。あとあいつら範囲魔法でダメージを与えられるか? ノールはエステルが範囲魔法を撃った後、敵から守ってやってくれ」
「了解でありますよ」
「ふふ、お安い御用よ」
とりあえず周囲の敵を殲滅して、戦士長単体にするか。あいつらは敏捷が高く動きが速いはず。それに敵からのヘイトを稼いだエステルがまず狙われる。
俺よりも敏捷が高いノールに守らせた方が無難だろう。それに今の俺は攻撃力も2000を超え攻撃速度と移動速度も倍近い。ノール程戦闘慣れしてはいないが、こいつ程度なら狩れるはずだ。
「それじゃいくわよ、えいっ!」
エステルからまず強化魔法を施して貰う。
さらに杖を振るい、戦士長を中心に魔法陣が展開される。ワシ戦士達はそれに気が付くと、周囲を見渡し俺達を発見すると走り出した。
そして魔法陣が輝くと、中心に小さな火の球が出現する。それが徐々に大きくなり始め、ある程度の大きさになった後爆発した。
俺とノールが前に出て鍋の蓋と盾を構え、爆発の余波から身を守る。途轍もない爆発だ、見渡す限り爆煙が広がっていく。
GC時には魔法攻撃は単発ダメージだったが、この世界では多段ヒット扱いのようで攻撃力以上のダメージを与えるようだ。
「やったか!?」
「あの爆発……まず生きてはいないはずなのであります!」
あの爆発なら一撃で死んでいてもおかしくない。そう思ったが爆煙の中から1匹のワシ戦士が飛び出す。
赤い羽のワシ戦士長だ。雄叫びを上げながらこっちに向かい走ってきた。僅かながらノールみたいに赤いオーラを纏っている。
他のワシ戦士も生き残った個体がおり、遅れながらエステルに向かい走ってきた。爆発の範囲から逃れた個体も一気に向かってきている。
一番に俺達の所まで到達したワシ戦士長を止める為に、俺は走り出す。
「っ!? こ、こいつ速いぞ!」
「大倉殿! 落ち着くであります! 大倉殿なら十分対処できるはずなのでありますよ!」
振り下ろされた片手剣を蓋で受け止め、反撃にバールを振る。しかし、俺の攻撃速度をもってしても当てる前に避けられてしまった。
その後も何度か交戦をするが、奴の攻撃は俺の鎧を掠めていくのに俺の攻撃は寸前で全て回避される。風魔法を使い地味にダメージを与えているが、決定打にはならない。
何故だ、俺の方が攻撃速度では上回っているはずだ。
ノールが周りから走ってくるワシ戦士を処理しながら、叫ぶ。落ち着けと言われても……。
戦士長をなんとか引きつけてはいるが、彼女のスキル使用時のように残像を赤い軌跡にして動き回っている。もし途中でエステルを狙われたら、ノールでも対処できるかわからない。
また戦士長が俺に向かって走ってきた。普通に追い掛けて攻撃を当てるのは不可能か。
ならばと今度は剣が蓋に当たる瞬間に押し出し、弾き返した。予想外だったのか、戦士長はよろめいて動きが少し止まった。
その隙に俺がバールで腹の部分を突き刺すと悲鳴を上げる。さらに赤いオーラが消え、速度が目に見えて落ちた。
俺のスカルリングが発動してスキルを封印したようだ。スキルの無いワシ戦士長は、俺でも十分捉えられる速さだったのでバールを何回も突き刺す。
そしてHPが無くなったのか倒れ、光の粒子になりドロップアイテムへと変化した。
「はぁ……はぁ……図体がデカい方が迫力はあるけど、人間サイズの奴の方がやばいな」
「お疲れ様なのでありますよ。私達の方も無事片付いたのであります」
「ふふ、お兄さんも頑張ったわね。少し格好良かったわよ」
ノールとエステルもワシ戦士を片付け終わっていたようで、周りにはワシ戦士のドロップアイテムである剣とクチバシが散乱している。
はぁ~、やばいと思っていたのは俺だけでこの2人はいつも通りか。褒めて貰えたのは嬉しかったけれど、俺ももっと強くならないと駄目みたいだ。




