スーパー平八
天井ガチャを回した次の日から、それはそれは大忙しな毎日だ。
冒険者協会に今回の件の報告を当然したのだが、支部長であるベンスさんの反応は物凄かった。
予想通り魔人が異変を起こしていてその場で倒したこと、セヴァリアにあった守護神の加護がなくなったせいで町が襲撃されたこと、そして現在その加護は戻っている。
要約すると伝えたのはこの3つ。この3つだけでもかなり衝撃的なことだけど、本当ならここに守護神であるテストゥード様が復活したのも入る。
だが、今回その件は伏せていた。
ただでさえ今も混乱した状態なのに、ここで守護神様のことを伝えたら大混乱間違いなしだ。
それだけじゃなく今は神殿の人達、特にイリーナさんとかは協会に来られないみたいで、その話を勝手にする訳にもいかない。
加護を戻すのにテストゥード様が力をかなり使っていたから、まだ衰弱していてそれどころの話じゃないんだろうな。
詳しい話は後日イリーナさんとかを交えて伝えようと、エステル達と相談して決めている。
各地の異変は魔人のせいだったってことは最重要だから、それを王都の協会長に伝えて色々と対応して貰うことで話はまとまった。
報酬なども詳しい情報がわかってからとなったが、魔人の情報が本当なら相当な額になるらしい。
ぐへへ、これは期待してもよさそうだな!
それとその間にこの前の報酬でもらったスキルアップを使い、エステル達のスキルの強化も行った。
議論に議論を重ねた結果、ルーナ、エステル、フリージアのスキルを1ずつ上げることに。
既に☆2のノールを☆5に強化する選択肢もあったのだが、全員平均的に上げた方が色々と対処できるとなりこの選択だ。
――――――
【カズィクル☆2】
1撃のみ総攻撃力の4.2倍。防御力、魔法耐性を無視する。 再使用時間:4分
【大魔術☆2】
一定時間魔法の威力を110%上昇させ、相手全体の魔法耐性を90下げる。再使用時間:10時間
【インベルサギッタ☆2】
攻撃力1.2倍し、広範囲に持続する同時攻撃をする。 再使用時間:22時間
――――――
やっぱりスキルが1つ上がっただけでもかなり効果が上昇するな。
まだルーナとフリージアはスキルが第一段階だけど、これでスキルが変化したら一体どれだけ強化されるんだろうか。
なお、強化対象から外れた神官様が床を転がって愚図っていたが、今までスキルを1度も使ったことがないから仕方ない。
元々回復能力が高いから、スキルを使ってまで回復するような状況がなかったからなぁ。
反動で何が起きるか気になるし、今度試してもらおうか。
そんなこんなで色々とあったのだが、神殿で話を聞くのを待つ間、協会経由で町の復興依頼も引き受けている。
他の冒険者達も殆ど協力していて、数少ない俺やグレットさんのようなBランク冒険者は町の周辺などで見回りをしつつその場その場で手伝いをしていた。
もう魔物が来るとは思えないけど万が一に備えての対応だ。
今の状況で魔物に襲撃されたら大被害が出てしまう。
既に10日程経って、徐々にではあるが町は落ち着きを取り戻していた。
今はノールとエステルと共に港の見回りと修復作業に来ている。
シスハは怪我人などの治療で冒険者協会などに出張中で、フリージアとルーナは2人で適当に町の見回りを頼んでおいた。
「やっと町も落ち着いてきたみたいだな」
「魔物の襲撃もないみたいでありますし、これで一安心なのでありますよ」
港の瓦礫の撤去作業もほぼ終わり、今は大々的に港全体の修復作業を行っている。
そこで大活躍中なのが我らのエステルさんだ。
魔物の襲撃で破壊された地面や壁が彼女の魔法で次々と直っていく。
港にいた魔導師達も一緒に手伝ってはいたのだが、エステルの魔法を見て口をあんぐりと開けて驚いていた。
どういう理屈で直しているのかわからないけど、えいって掛け声と共に杖を一振りするだけで、欠けてボロボロになった地面がみるみる盛り上がって修復されていく。
その規模やスピードは凄まじく、殆ど1人で直している。
詠唱すらせずグリモワールもなしなのに一瞬でこれだからな……凄過ぎる。
そんなエステルの修復作業を遠巻きに見つつ荷物などをノールと運んでいると、顔見知りの漁師であるローエンさんに声を掛けられた。
「おう、見回りだけじゃなくて片付けまで手伝ってくれてありがとな」
「いえいえ、皆さん大変そうなのに見ている訳にもいきませんので」
「漁師さん達も皆無事でよかったのでありますよ!」
港にいた人達は魔物の襲撃をいち早く察知して、常駐していた軍人や魔導師はすぐに迎撃し、漁師さん達は港から避難して町の住民や冒険者などに伝えて回っていたそうだ。
お陰で魔物が上陸する前に港近くにいた人達は逃げ出せて、住民達に人的被害は驚くほどなかった。
どうやらあの魔物達も神殿に向かうのが優先だったようで、足止めされた奴ら以外は人を無視して建物などを破壊しつつ進むばかりだったらしい。
積極的に人を襲う奴らじゃなくて本当によかったなぁ。
その分神殿にめちゃくちゃ溜まっていたけどさ。
「とはいえ、これじゃあしばらく漁に出れそうもねーな。泊めてあった船が殆どやられちまったからよ。代わりの船が用意できるまで素潜りでもやるしかなさそうだ」
「私達がもっと早く来られればよかったのでありますが……」
「おいおい、駆けつけてくれただけでもありがたいぐらいなんだ。港も無事だし船が壊れたぐらいどうってことないぜ。セヴァリアの漁師はこの程度なんのそのってな!」
腕まくりをして力こぶを作り笑うローケンさん。
もう残骸は撤去されたけど、港に停泊していた漁師さん達の漁船は魔物の上陸時に壊されて残っていない。
魔物が直接船を攻撃した訳じゃないが、竜巻を発生させるトルネードシャークが原因だそうだ。
空飛ぶ鮫って時点でめちゃくちゃ怖いのに、船までぶっ壊れる竜巻を発生させるとか危険極まりない魔物だな。
空元気にも見えるローケンさんにどう返事をしたらいいか困っていると、彼は苦笑しつつ話を続けた。
「まあそう心配するなって。領主様や市長も港の修復や船の用意も支援もしてくれるって話だからよ。冒険者協会や商人からもそういう話が来てるらしいしな」
「それだけこの町の港は重要な場所なんですね。何かあれば私達も協力いたしますので、遠慮なく言ってください」
「何でもお手伝いはするのでありますよ! セヴァリアのお魚や貝は美味しいでありますからね!」
「ははは、そうか! それじゃあ期待に応えてまた漁に出れるように頑張らないとな! 見守ってくれてる守護神様に情けないところは見せられないぜ!」
領主や市長やらも支援してくれるなら、確かにそこまで悲観的にならなくてもよさそうだ。
それとこうやって前向きに考えられるのも、ある意味守護神様のお陰でもあるのか。
テストゥード様がセヴァリアに加護を復活させた時、町全体に空から光が降り注いでいたからなぁ。
町の片付け中に噂を耳にしたが、あれは守護神様が放った光だって広まっているようだ。実際そうなんだけどさ。
「そうですね。こういう時こそ守護神様を信じるべきですよね」
「ああ。魔物に襲撃されて危ないところを救ってもらったからな」
「それって空で散っていった光でありますよね?」
「そっちもそうだがまた別の話だ。お前さん達は知らないのか?」
うん? 何だか話の雲行きが怪しいんだが……あの光じゃないだと?
興奮気味に語るローケンさんの続く話を聞くと、住民を避難させようと町を走り回っていたら、ばったりと魔物と出くわしてしまったそうだ。
運悪くその魔物に目を付けられて攻撃されそうになったが、空から矢が飛んできて助けられたという。
……矢だと? 凄く嫌な予感がするんですが。
「あのマーフォークを一撃で倒しちまったんだ。しかも地面に刺さった緑色の矢はすぐにその場から消えちまった! あんなことができるのは守護神様以外あり得ないだろ!」
「あっ、そうかもしれませんね。ちなみに他にも噂とかは……」
「俺は見ちゃいねーが、天から赤い槍が飛んできて魔物を貫いたって話もあったぞ。そっちも壁に刺さったけどすぐ消えちまったらしい。それがあっちこっちで起こってたんだってよ。おかげで町じゃ守護神様はいたんだと持ち切りだぜ」
あばば、ばばばば! 守護神様の話をよく聞くと思ったらそういう訳か!
どう考えてもやったのルーナとフリージアだ! 守護神様と勘違いされてるぞ!
あいつらに姿を見せず住民達を助けろって言ったし、視界に入らないよう姿が見えないところから遠距離攻撃していたはず。
そして2人の槍と矢には自動回収が付加されている。
傍から見たらどこかから槍と矢が魔物を貫いて、自動回収ですぐに消えていく光景……うん、何も知らなきゃ守護神様の仕業だと思っても仕方ないな。
絶対に2人が槍と弓を持っている姿を見せないようにしないと。
「ただ、感謝を伝えようと神殿に行っても今は中に入れねーらしい。あそこもかなり魔物に襲われたって話だ。地面があっちこっち抉れて港より酷い状態だってよ。一体どんな化け物が暴れてたんだろうな」
現在神殿は参拝禁止になっているみたいで、入り口で用件を聞いてもらえるけど中には入れなくなっている。
……うん、その神殿で暴れてクレーターとか作ったのカロンちゃんですわ。
神殿に入れるようになったら俺達で修復しに行かなければ。
ローケンさんとの話が終わると、ちょうど修復作業をしていたエステルが戻ってきた。
「ふぅ、やっと終わったわ」
「お疲れ。1人で任せちゃって悪いな」
「すぐに直せるのが私だけなんだからしょうがないもの。これでしばらくは大丈夫なはずよ。新しく作った足場や壁はフリージアやルーナの攻撃だって弾いちゃうんだから」
「それは丈夫過ぎる気がするのでありますが……綺麗な港に戻ってよかったのでありますよ」
軽くぱぱっと修復してそれとは、本当にエステルさんは頼りになるなぁ。
もしまた同じように魔物の襲撃があってもビクともしなそうだ。
これですっかり港も綺麗になったし、後は徐々に活気を取り戻してほしい。
「色々と心配だったけど、もうセヴァリアが襲撃されそうな雰囲気はなさそうだな」
「マリグナントも倒されたし神殿にはテストゥード様もいるもの。もし仲間がいたとしても迂闊に襲撃はしてこないんじゃないかしら」
「そうだといいのでありますが。本当に仲間がまだいるのでありますかね?」
「元々複数犯の可能性は考えてたし、あいつの口振りからして間違いなくいるだろ。まあ、あんまり仲良くなさそうだったけどな」
「あの魔人は性格悪そうでありましたからねぇ。おかげで私達は助かったでありますけど」
「慎重なようで格下だと思って慢心したのかもね。でも、誰かしらの手は借りていたみたいだからこれからも油断はできないわ」
マリグナントは最後まで腹立たしい奴だったからなぁ。同族の魔人から嫌われていてもおかしくない。
けど、あいつ自身はあんまり魔法は得意じゃなさそうだった。魔物を発生させる魔光石を作れる奴に協力してもらっていた可能性がある。
ファルスス・テストゥードを召喚したのだってあいつ1人で準備できると思えない。誰かしら協力者はいたはずだ。
今後マリグナントの仇を! なんて仲間が襲ってくるかもしれないし、どこかで異変が起きないか今後も注意しておこう。
俺達も待つだけじゃなく、魔人の情報を積極的に集めておいた方がよさそうだ。
日も暮れ始め今日の作業は終わり、シスハ達と合流した。
そのまま宿へ直行はせず、町の外に出て人気のない場所に移動する。
だいぶ町も落ち着いてきたので、そろそろ天井ガチャで出た装備の性能を確認する為だ。
「さて、今日やることも終わったしちょいとガチャのアイテムを試すとするか」
「一体どれをお試しになるんですか?」
「そりゃ勿論1番気になってるサイコホーンだよ。これが説明文の通り思考が読めるんだったらかなり凄いアイテムだぞ」
「ふぇ? この前私の考えわかってたよ!」
「私の考えもお見通しされていたのでありますよ!」
「ノールとフリージアは参考にならん。今日は外に長く出れて嬉しい、ご飯食べたい。今そう思っている」
「どうしてわかるの!? ルーナちゃんえすぱーだ!」
「ルーナにそんな能力があったのでありますか!」
2人の反応を見てルーナはジト目で呆れ顔になっている。
こいつらもしかして、いつも同じようなことばかり考えているんじゃ……。
やっぱり参考にならないから別の方法で試すしかないな。
とりあえずサイコホーンをヘルムに装着してっと。
「さて、まずは軽く試してみようか――ん?」
背後から何かくる、そう感じ取った俺は振り向かずに片手を上げて背中に回した。
するとパシッと音がして何かを受け止めたみたいだ。
振り向くとシスハがすぐ近くにいて、彼女の手刀を俺は手で止めていた。
「おっ、完全に不意を突いたつもりだったのですが」
「何しやがる!」
「実験ですよ実験。やるとわかって反応したら本当に効果があるかわからないじゃないですか。大倉さんが普段なら反応できないことをすればわかるかと。まさか本当に防がれるとは思いませんでした。悔しいですね」
だからっていきなり背後から手刀しようとする奴がいるか! って攻撃がくる!?
文句を言う暇もなくシスハから右ストレートが放たれたが、事前に察知したおかげでそれも手で受け止めた。
おや? シスハの攻撃をこんな簡単に受け止められるとは……ちょろいな。
「ふっ」
「あっ、馬鹿にしましたね!」
鼻で笑った瞬間、シスハはバックステップで距離を取って完全にやる気モードですと言わんばかりに両手を拳にして構え始めた。
そしてステップを刻みながら次々とジャブが飛んでくる。
左、左、右、右と見せかけてこれは左。おっ、上段回し蹴りから足払いするつもりか。
……凄い、シスハの考えが直に伝わってきてパンチは受け止めて蹴りは回避できたぞ。
「おおー、大倉殿が完全にシスハの攻撃を防いでいるのでありますよ」
「2人共凄いんだよ! 両方がんばれー!」
「フェイントまで見破ってる。平八とは思えない」
「あの装備、もしかするとかなり凄いものかもしれないわよ」
ノール達が驚愕する中、しつこいシスハの攻撃を受け止めて避け続けた。
痛くはないから本気の攻撃じゃないようだが、絶対に俺から有効打を取ろうという強い意思を感じる。
しかし今の俺にはシスハの動きや考えが手に取るようにわかるのだ。
動きが速くて目で追うことはできないが、背後に回られても位置がわかるしどこを攻撃しようとするかもわかってしまう。
受け止めるのを止めひょいひょいと全部避け始めると、シスハは顔色を変えてその場で膝を突いて泣き声を上げた。
「そ、そんな……このシスハ・アルヴィが手も足も出ないなんて……うっ、うぅ」
「はっはっは! お前の考えは手の平で転がすようにわかるぞ! 今の俺はスーパー平八とでも呼んでもらおうか!」
「また変なことを言って……何故かお店のような名前に聞こえるでありますね」
「安売りしていそうだ」
失敬な、スーパーマーケットじゃなくて超って意味だ――ん?
俺が後ろを向いたと同時にシスハから動きを察知し、肩に付けていた水晶から銀の液体、センチターブラを射出。
四つん這いの状態から飛び上がったシスハの上から銀の液体をぶっかけた。
「――なっ!?」
シスハは液体をぶっ掛けられ驚きの声を上げたが、問答無用で体に絡み付いているセンチターブラをガチガチに固めて捕獲した。
上半身を腕ごと拘束して、ついでにそのまま宙に浮かべてやると足をバタバタと動かしてもがいている。
「うぐぅ……これも見破られるとは……」
「無駄無駄ぁ! 嘘泣きして隙を突こうとしても無駄だぞ!」
「シスハが捕まっちゃうなんて。泣き真似までして結構本気だったわよね」
「今の平八凄いよ! まるで隙がない!」
泣き真似しても考えはお見通しだから、油断した瞬間飛び上がって襲ってくるのもわかっていた。
だからこっちもセンチターブラをすぐ射出できるように準備していたのだ。
捕まって完全に身動きが取れなくなったシスハだが、頬を引きつらせつつもまだ強気な発言をしてきた。
「う、うふふ、忘れたようですね。大倉さんのセンチターブラで私は拘束できませんよ!」
「……果たしてそうかな? やれるもんならやってみるといい」
「言いましたね! またあの時みたいにほえ面をかかせてあげますよ!」
腕を組んで余裕な態度をアピールすると、ブチッとシスハから幻聴が聞こえ体に力を入れ始めた。
「はあああぁぁぁぁぁぁ! ああああぁぁぁぁ! ……あ、あれ?」
雄叫びを上げてセンチターブラをぶち壊そうと頑張っているが、拘束している銀の塊はヒビすら入らずビクともしない。
それからしばらくシスハは足掻き続けたが、1ミリも拘束を緩められず時間だけが過ぎていく。
「ちょ、これどうなってるんですか! 全く壊せる気配がありませんよ!」
「ははは、今の俺は平八を超えた平八、スーパー平八だと言っただろ。今までとは比べ物にならないぐらい頑丈になってるはずだ。どうだ? 大人しく負けを認めるなら解除してやるぞ」
ぐぬぬと言いたそうな顔をしつつも、俺の提案を聞いてシスハは無言で首を縦に振っている。
……あっ、こいつ降参する気さらさらねーぞ。頷いたけど降参するとは一言も言ってませんからね! とか考えてやがる! ホント最低な奴だな!
「おい、首縦に振っておいて拘束解除した途端襲ってくるつもりだろ」
「ちっ、全てお見通しなんですね。降参、降参です。本当に降参しますからー」
ジタバタもがくのを止めシスハは大人しくなった。
サイコホーンで思考読み取ってみても、本当に負けを認めたのか降参の意思が伝わってくる。ようやく諦めたようだな。
地面に下ろしてからセンチターブラを解除してやると、はぁー、と盛大に溜め息を吐いてシスハはうなだれた。
うーむ、今の感じだとサイコホーンは装備者に対して、何かしようしている奴の思考がはっきりと流れ込んでくるのか。
それと一定範囲内だったら視線も向けずに何があるのかもわかる。
今なら死角から矢とか飛んできても反応して受け止められる自信があるぞ。
「まさか装備1つでここまで変わるとは思わなかったでありますね」
「威力は抜いて速さだけは割と本気だったんですけどねー。動く前にもう行動読まれてるんですよ。正直途中で無理だって悟りました」
「うむ、シスハの動きはよかった。が、完全に動きを読んでいた。あの角の効果か」
「それだけじゃなくてセンチターブラまで強化されてるみたいだけれど、どういう仕組みなの?」
「あー、センチターブラを動かす感覚も強くなってるみたいでさ。軽く念じただけで強度が増してるらしい。試しに何個か同時に使ってみるか」
何となくいけると感じてセンチターブラを使ってみたのだが、明らかに以前より性能が上がっている。
これもサイコホーンを付けている影響なのか?
こうやって動け! って強く念じなくても、まるで手足のようにセンチターブラを操れた。
前は拘束しても簡単にシスハが砕いていたが、強度も桁違いに上がっている。
複数同時運用もできそうだからこの際試してみよう。
まず2個目を出してみると、全く問題なく2つ動かせた。
別々の動きをさせて形状も異なる状態にしてみたが、それでもスムーズに動かせる。
次に3個目出してみても同じで、さらに4個目を出せたが問題なくクリア。
ついに最大数である5個目も射出してみると……なんとこれも問題なく全て同時に操作できた。
ちょっと操作の難しさは上がったけど、宙に浮かせてそれぞれ高低差や速さに変化をつけて自由自在に動かせる。
おお、夢のセンチターブラ5つ運用が実現できたぞ!
「凄い凄い! 5個出てるの初めて見た!」
「これが感覚の強化された影響でありますか。動きも明らかに違うのでありますよ」
「硬さも全く違いますからね……。あれが5個同時に襲ってくるとか悪夢ですよ」
「2つのURが組み合わさって能力を十分に発揮できるようになったのね。よかったわねお兄さん」
「ああ! これからはスーパー平八として活躍してやるぜ!」
やばい、サイコホーンのおかげでついにこの平八の時代が到来したか!
シスハの攻撃も難なく捌き、センチターブラまで5個同時に操れる。
これはもしかしちゃうとなかなかの強さになっちゃったのではないか?
と、内心浮かれ気味にしていると、腕を組んで小難しい顔をしたルーナが気になる発言をし始めた。
「ふむ……だが、これだけ力を使ってリスクなしとは思えない」
「えっ、どういうことですかルーナさん?」
「私のマントもそうだが、慣れていても念で物を動かすと精神的に疲れる。他人の思考も読んでさらに物体を動かす。負荷がないはずがない」
「そう言われても特に負担は感じないが……うっ」
な、なんだ、目の前がグルグルして気持ちが悪く……吐き気がしてきた。
あまりに気分が悪くなり慌ててヘルムを脱ぎ捨てたが、俺はその場で倒れ込んだ。
う、動けん! 景色がグルグルと回って浮遊感がする!
おろろろろ……今にもリバースしそう。
「わっ!? 平八が倒れた!」
「どうしたのお兄さん!」
「どこか具合が悪いのでありますか!」
「ぎ、ぎもぢわるい……」
「やはりか」
「あー、やっぱり頭に負担かかってたんですか。いくらURでもそれはどうにもなりませんね。ほら、治療してあげますよ」
「うぅ、すまない……」
うごぉ……まさかこれはサイコホーンの反動なの?
ルーナが言ってたように頭への負荷が凄そうだし、慣れてもないのに調子に乗って使い過ぎたのか……。
結局吐き気が取れなくてしばらく立ち上がれず、シスハに回復魔法をかけ続けてもらいようやく収まった。
サイコホーンの性能に浮かれた結果シスハのお世話になってしまうとは……調子に乗ってすみませんでした!
いつもお読みくださりありがとうございます。
コミカライズ版3巻が12月26日に発売となります。
コミックライド様のツイッターを是非見ていただけると嬉しいです!
ノールの中の人が出ています!




