ガチャの産物
「あ~ん。むふ~、美味しいでありますよ」
「本当によく食べるのね」
「私は育ち盛りでありますからな」
「もう十分に育ってるじゃない」
ディウスとの勝負を終え翌日。俺達は宿に泊まりのんびりとしている。何故かまた同じ部屋に全員居るのだが、もう気にしないようにした。
今はノールとエステルにガチャの食料を渡して、朝食を食べさせている。この世界の料理も悪くはないのだが、ガチャ産の方が美味い。なので祝いとしてだ。
それにしても育ち盛りか。エステルが恨めしそうにノールの胸を見ている。これ以上大きくなるのだろうか。
「お兄さん遅いわね。いつまでトイレに行ってるのかしら」
会話に参加していない俺だが、それには訳が有る。ふふ、今彼女達に俺は見えていないのだ。
そろそろ整理するかと思い、ようやくガチャ産装備を試すことにした。今使っているのはSSRインビジブルマント。
――――――
●インビジブルマント
纏うことで透明になることができる。
攻撃をした場合一定時間解除されるので要注意。
――――――
これを身に付けると名前通りに透明になるようだ。トイレに行くと言い席を外し、あらかじめセットしたビーコンで部屋に戻り試している。
この2人が気が付かないようならば、これは十分使える。しかしここまで気付かれないと悪戯したくなるな……。
「あぁ!?」
「どうしたの?」
「私のパンが、パンが無いのでありますよ!」
「そんな大袈裟に騒いじゃって。さて……」
ふふふ、慌てているな。隙を見てノールのパンを奪い取ってみた。我ながら見事な手際だな。
悪戯が成功してとても満足していたのだが、突然エステルが指を振るうと軽い衝撃波が部屋中に放たれた。
「お帰りなさい、お兄さん。何やってるの」
「よ、よくぞ見破った。褒美としてこれ食べる権利をやろう」
「あぁー! 私のパン返すでありますよ!」
衝撃波でマントを引っぺがされた。姿を見せた俺に、エステルは微笑む。やだ、いつからバレていたんだ。
咄嗟に奪い取っていたパンをどうぞと差し出すと、ノールが横から掻っ攫っていった。
「それで、何をしていたの?」
「いやぁ~、ガチャ産のアイテムを色々試したくなってな。今日は外で整理しようと思うんだがいいか?」
「えぇ、私は構わないわ」
「私も見てみたいので大丈夫でありますよ!」
2人も特に不満は無いようなので、今日は外で実際に装備を試すことにした。
●
「改めて整理してみたが色々有るな」
「SR以上となると案外少ないでありますな」
「あら、お兄さん。こんな立派な剣があるなら変えたらどう?」
「あぁ、それな。俺も使おうかと思ったが今は性能的にバールの方が上なんだよ」
王都の外へ行き、地面に布を引いてその上にアイテムを実体化させていく。実体化させるのはSR以上だ。Rは数も多いし使えそうにもないので今回は出す気は無い。
ディウスと戦う前に整理しておけば、もっと安心した戦いが出来ていたかもしれないな。戦うことばかりに気を取られていて、装備整理をすっかり忘れていた。
エステルがシートに置かれた装備の中から、黄色に黒が混ざったような色をした刃の剣を手に取る。これはSRエクリプスソードなのだが、残念なことにエクスカリバールより今は使えない。
――――――
●エクリプスソード
攻撃+400
敵攻-20%
――――――
敵の攻撃力を下げられるのは魅力的だが、6回重ねたエクスカリバールと比べると微妙だな。
「ん~、とりあえずエステルにはこれをやろう」
「これは何?」
「可愛いだろ?」
「え……」
とりあえず恒例のぬいぐるみをエステルにプレゼントした。今度のは丸く青いまんじゅうのような物だ。
やはり可愛いだろ、と聞くとそれを手に乗せ眺めて言葉を失っている。
「むぅ~、羨ましいであります」
「欲しい?」
「いいんでありますか! わ~い」
物欲しそうにそれを見つめていたノールが、エステルから受け取るととても喜んでいた。
言う気は無いけど、変わった趣味しているんだな。エステルも信じられないような物を見る目でノールを見ている。
「冗談はここまでにしてこれをやろう」
「あら、ありがとう。ふふ、綺麗ね。効果はどうなの?」
「あぁ、魔法攻撃+20%、MP上昇、MP回復速度上昇だな」
次に3cm程の細長い透き通った赤色の石に、紐を通した首飾りをエステルに渡した。
――――――
●賢者の石
魔法攻撃+20% MP+300 MP回復速度上昇
――――――
これはSR賢者の石。魔法系職用の装飾系装備だ。魔法系の職業ならば1つは持っておきたい装備だな。
「ノールにはこっちだな」
「私にもあるんでありますか! 嬉しいでありますよ! えへへ、ありがとうございますなのであります」
「これはHP上昇とHP回復速度上昇だ」
今度は賢者の石と同じサイズの青色の玉の首飾りをノールに渡す。
――――――
●命の宝玉
HP+600 HP回復速度上昇
――――――
これはSR命の宝玉。近接職用の装飾系装備だ。これがあるだけで近接職の生存率はグッと上がる。いつも先頭で切り込む彼女には必要だろう。
「それとこれも2人に渡しておこう」
さらに2つの指輪を取り出し、青い方をノール、赤い方をエステルに手渡す。
青色の宝石がSR守護の指輪、赤色の宝石がSR幸福の指輪だ。
――――――
●守護の指輪
防御力+300
●幸福の指輪
25%の確率で攻撃を無効化
――――――
本当は俺が付けても良かったんだが、俺は別の奴が有るので彼女達にも渡す事にした。
――――――
●スカルリング
攻撃時25%の確率でスキル封印
――――――
このリングと速度上昇のエクスカリバールを付けている俺は相性が良いはず。それに名前通りドクロのデザインが施された指輪だ。女の子にあげるのはちょっとな。
「お兄さんったら、控え目に見えて案外がっつりと来るのね。いきなり婚約指輪を渡すなんて」
「ぶっ、何言ってんだ。おい、薬指につけるなって!」
「こ、婚約指輪でありますか!? お、大倉殿、こういうのはもう少しお互いを理解し合ってから……きゃっ! であります」
普通に喜ぶのかと思っていたが、想像していた反応と違う。エステルは頬を染めて恥ずかしそうに頬に手を当てている。
ノールは婚約指輪と聞いて体をもじもじさせながら、最後には声を上げ恥ずかしそうに頬を両手で押さえた。
さらにエステルはわざわざ左手の薬指に指輪をはめた。おい、ちょっと待て。
「あら、いいじゃないの。私達お兄さん一筋だもの、ね?」
「そ、そうでありますな。な、なら私も薬指に……」
嬉しいこと言ってくれてはいるが、俺はどう反応したらいいんだ。ノールも便乗して左手薬指に指輪をはめている。
からかっているのか、本気なのかわからんぞ。
……まあいいか。彼女達がそれでいいのならいいだろう。次行こう次。
2名はしばらく興奮状態だったので放置して、新たに2つのブレスレットを俺は両腕にはめた。
緑色のと赤色のだ。緑色のはSSRウィンドブレスレット、赤色のはSSRパワーブレスレット。
――――――
●ウィンドブレスレット
風属性攻撃付加 風属性抵抗+50% 攻撃速度+20% 移動速度+20%
●パワーブレスレット
攻撃力+800 HP+500 HP回復速度上昇
――――――
「ふふふどうだ、ハイカラな感じがするだろう?」
「ハイ……カラ?」
「あー、似合っているでありますよ、はい」
なんだ、随分と反応が薄いぞ。赤と緑の腕輪がアクセントになって最高にイカした格好になった気がしたのだが。
エステルは固まり、ノールは棒読みになっているぞ。
さて、装備したので早速とウィンドブレスレットの効果を試してみるか。風属性攻撃付加ということは、エステルみたいな風の刃みたいなのを飛ばせるのか?
とりあえずバールを取り出し、離れた木に向かい思いっ切り振りかぶる。するとバールで突き刺したような傷が木に出来た。
おぉ、風魔法みたいな遠距離攻撃ができるんだなこれ。でも若干体から力が抜ける。魔法という事はMPでも消費してるのか?
その後も何回か木に向かい素振りをしてみた。何も考えず振ると何も起こらず、使うぞ! って意識して使うと風魔法が発動する。
どうやら意識することで発動できるようになっているんだな。
「これでついに俺も魔導師の仲間入りか?」
「ふふ、良かったじゃない。魔法のことに関してなら、私が手取り足取り教えてあげるわよ」
手取り足取りと言ったところで舌舐めずりをしている。一体何を教える気でいるんだ。
気を取り直し次にSRプロミネンスロッドを手に取る。赤い宝石が先端に付いた杖だ。名前からして炎系か。
――――――
●プロミネンスロッド
MP+300
攻撃力+350
火魔法+40%
――――――
しかしこれいらないな。エステルには既に賢者の杖が有るし。
どうしようかなーと考えながら、軽く杖を振るっていたら突然先端から小さな火が飛び出した。
「おぉ、これ誰でも使えるのか。でもエステルがいるならあんまり必要無さそうだな」
「魔導師以外でも魔法が使えるのは便利だと思うわ」
確かに便利なんだけどな。それでもしばらくは使いそうにないので、仕舞おうかと思ったのだが妙に視線を感じた。
視線がする方を向いてみると、なんだかそわそわと手足を動かしているノールが杖を見ている。
「ノール、どうかしたか?」
「私も魔法、使ってみたいのであります」
あぁ、そういうことか。魔法に憧れるっていうのもなんだか可愛らしいな。
「はい、どうぞどうぞ」
「随分と嬉しそうね」
「むふふ、私も一度は魔法を使ってみたかったのでありますよ。それでは、えい!」
プロミネンスロッドを手渡してやると、凄く嬉しそうにしている。それをエステルと一緒になんだかほんわかと眺めていた。
ノールが魔法を使おうと大袈裟に杖を振るう。そして先端から魔法が――出る前に手からすっぽ抜けて勢いよく杖が飛んでいく。
手を離れた杖が離れた位置にあった大岩に当たった瞬間、杖が岩に突き刺さり中から爆発して岩が砕け散った。
「……ノール、杖は投擲武器じゃないんだぞ」
「派手にやったわね」
「て、手が滑っただけでありますよ! あれれ……なんだか力が……」
「MPを一気に使い果たしたみたいね。ノールは魔法のコントロールが苦手なのかしら」
投擲を終えたノールは力なく座り込む。MP切れになるとこうなるみたいだ。
力を込めるのと一緒にMPまで全部使い切ったのか……。
とんでもない爆発音を響かせたせいで、人が来る可能性が出てきたのこの辺りで実験は止めることにした。
今後はノールに魔法を使わせるのは止めよう。