力の収束
振り下ろされた一撃は、ファルスス・テストゥードの甲羅のヒビを的確に捉えた。
ビキビキと音を鳴らしながら甲羅のヒビは全体に広がっていき、エクスカリバールの黄金の輝きがそこから漏れ出す。
甲羅にこもっていたファルスス・テストゥードは頭と手足を出し、苦しそうに叫んでジタバタともがいている。
そしてついに、カロンが攻撃した部分の甲羅が砕けて、黄金の輝きが空に伸びて雲を割いた。
「やったぞ! 甲羅が割れ……っておいおい!?」
甲羅を砕くだけで終わらず、黄金の輝きはファルスス・テストゥードの体の下まで貫通している。
地響きと共に黄金の輝きが地面を走り、中心から島を真っ二つに割ってしまった。
「島が割れちゃったのでありますよ!?」
「ついに島ごとやっちゃいましたか……エクスカリバール、恐ろしいですね」
「凄いんだよカロンちゃん! さすが龍神だね!」
凄いとか言ってる場合か! やり過ぎだろ!
だけどちゃんとテストゥードは仕留められたみたいだな。
頭は力なく地面に垂れ下がり、手足もピクピクさせて動く様子はない。
割れた甲羅の部分からは僅かだが黒い光が漏れ出している。
ダメージを与える役目を終えたカロンは、満足げな様子で俺達のところへ戻ってきた。
全身を覆っていた黒いオーラが消えている。ちょうどスキルが切れたのか。
「はっはっは! このカロンちゃんのスキル切れまで耐え切るとはやるではないか! なかなか楽しめたぞ!」
「お疲れ」
「うむうむ、労いの言葉を口にするとは愛い奴め」
「……手を乗せるな」
笑うカロンに軽く頭をポンポンと叩かれ、ルーナは煩わしそうにしている。
そして今度はこっちを見ると、持っていたエクスカリバールを渡してきた。
「ほれ、お前様よ」
「おう、役立ったみたいでよかったぞ」
「よくすぐに武器だってわかったでありますね」
「龍神にかかれば全てマルッとお見通しだ。変てこな武器なのに強力ではないか。お前様はいい物を持っているな」
「褒められるのは嬉しいけど複雑な気分だな……」
「ある意味ガチャの外れ集大成だものね」
カロンに太鼓判を押される性能なのは喜ばしいが、それがSRの積み重ねというのが悲しいところ。
俺の中でも外れなのか当たりなのかわからなくなってきたぐらいだ。
次にカロンは小さなテストゥード様に声をかけた。
「して守護神とやら、役目を果たしたと思ってよいか」
『うむ、あれだけ損傷すれば力を保っていられないだろう。甲羅から漏れ出ている黒い光、あれが我が分体を形作っている力だ』
「それが漏れてるってことは、後はこのまま放置していても消滅するってことかしら?」
『いや、それでは駄目だ。このまま我が力が散ってしまえば、この地から完全に力が失われる』
「そんな! それでは街が魔物に……テストゥード様、どうすればいいのですか!」
『我が分体から力を散らしつつ取り込めばいいのだ。そうすればまたセヴァリアに力を分け与えられる』
なるほど、甲羅が割れさえすればテストゥード様が分体から力を吸いだせる、と。
それを一旦自身の体に貯め込んで、再び神殿から各地に行き渡らせるってところかな。
しかし、続くテストゥード様の話はそう簡単なものではなかった。
『だが、あのまま取り込めば我もまた暴走するだろう。その前に浄化する必要がある。イリーナよ、あの悪意の浄化を頼めるか』
「た、頼むなんて恐れ多いです! 喜んでやらせていただきます! シスハさん、どうかご協力お願いします!」
「お任せください。カロンさんにばかりにいい格好させられませんからね! 私も張り切っちゃいますよ!」
「頼もしいではないか。頑張るのだぞー」
カロンは役目を終えたとばかりに脱力し切っている。
そんな彼女に声援を送られながら、イリーナさんとシスハが女神の聖域の外に出た。
万が一に備えて俺達も一緒に出ると、地面に降ろされたテストゥード様は輝き始める。
それに呼応するように、ファルスス・テストゥードの甲羅から僅かに漏れ出ていた黒い光が一気に溢れ出した。
そのまま霧散することなく黒い光は小さなテストゥード様目がけて飛んでくる。
イリーナさんとシスハは前に出て祈るように両手を胸の前で合わせると、眩い光が辺りを包んだ。
その光に黒い光が触れると一瞬で真っ白くなり、浄化された光が小さなテストゥード様の体に吸い込まれる。
そして力を吸い出されているファルスス・テストゥードは、徐々にだが体が薄くなっていく。
「おぉ……分体が消えていくのでありますよ」
「これで一件落着ってところかしら。カロンのおかげで助かったわ」
「そうだね! カロンちゃんじゃなきゃ、きっとテストゥード様を倒せなかった! 龍神様は凄いんだよ!」
「はっはっは! そうだろうそうだろう! このカロンちゃんを褒め称えるといい!」
「うるさい。調子に乗り過ぎだ」
フリージアの尊敬するようなキラキラした眼差しを受けて、カロンはご機嫌な笑い声を上げている。
全く、フリージアとある意味相性が良いみたいだな……あれ? そういえばおかしいぞ。
スキル発動後だっていうのにカロンに何の変化もない。
普通なら何かしらの反動があるはずなんだが。
「カロン、スキルの反動はないのか?」
「そんなものはないぞ。この通りピンピンしている」
「ええ!? いいないいな! どうしてなのカロンちゃん! 教えてほしいんだよ!」
「ふっふー、それはカロンちゃんだからだ!」
あー、なるほど……って、答えになってないじゃねーか! なんだよカロンちゃんだからだって!
あまりにも堂々と言うもんだから一瞬納得しかけたぞ!
「まあ冗談はさておき、今の私はお主らより強化されているからな。そのおかげだろう」
「つ、つまり私達の反動も同じぐらい強化されたら、なくなるのでありますか……」
「あら、それはいい情報を聞いたわね。けど、同程度に強化するって先が長そうね」
「ふええ……気絶しなくて済むようになると思ったのに、しばらく駄目そうなんだよ……」
「私は比較的軽いからどうでもいい」
「はっはっは、主様よ。同胞達の要望に応えて頑張るのだな」
「お、おう……」
ノール達から期待するような視線を感じるんだが……全員今のカロン並に強化するとなると、凄まじく遠い道のりになるぞ。
一体どれほど魔石を使えばこれだけの強化を……!
……へへっ、ある意味ガチャを回す口実が増えちまったじゃねぇか。
そんな会話をしている間にも浄化と吸出しは進み、ついにファルスス・テストゥードの姿が完全に消滅した。
イリーナさんはその場で膝を突き、肩を上下させるほど呼吸を荒くしている。
「ハァ……ハァ……こ、これで終わりでしょうか?」
『うむ、イリーナよ。よくぞやってくれた。甲珠の浄化も含め、改めて礼を言おう』
「い、いえ! 勿体なきお言葉です!」
『そなたにも礼を言わせてもらおう。イリーナだけでは浄化をし切れなかった。誠に感謝する』
「いえいえ、当然のことをしたまでですよ。私は神官ですからね」
おほほと口元に手を当ててシスハは笑っている。
イリーナさんがあれほど疲れているのに、全然余裕がありそうにしているな……。
これだけ神官として優秀なんだから、普段からもっとちゃんとしてくれよ!
力の吸収も無事に終わりホッとしていると、フリージアがしゃがんでテストゥード様に質問をしているのが耳に入った。
「テストゥード様、力を取り戻したんだよね? なのに小さいままなんだね」
『この状態で姿を固定しているのだ。今はこの方が都合がいいのでな』
「そうなんだ。ババーンと大きくなるんだって期待していたんだよー」
あれだけ巨大だったファルスス・テストゥードの力を全て吸収しても、姿を小さく保ったままにできるんだな。
こういうところも暴走状態と理性のある状態の差なのかね。
今の姿ならイリーナさんに抱いてもらって移動も出来るし、これから神殿に向かうならその方が確かに都合がいい。
「これで後はセヴァリアの神殿に行くだけか。ふぅー、今回の異変は疲れちまったな」
「そうでありますねぇ……。けど、これで無事終わりでありますよ」
「ほほぉ、私の召喚時間にもまだ余裕がある。ここは一つ軽く宴をしたいところだ! 美味い酒でもご馳走になりたいぞい」
「おお! カロンさんもいける口ですか! じゃあ時間になるまで心行くまで楽しみましょう!」
「うむうむ、お主とはいい酒が飲めそうだ。カロンちゃん秘蔵の一品をご馳走してやろう」
シスハとカロンがお互いにビッと親指を立てて、何やら共感しているご様子。
おいおい、フリージアだけじゃなくてシスハとも気が合うのかよカロンちゃん!
どうして俺達の中でも特に問題起こす2人と意気投合しちゃうのぉ!
もしこれで今後ガチャから召喚石を手に入れてカロンが加わったら、一体どうなってしまうのだろうか……。
異変が解決したと気の抜けた会話をしていたが、その空気はすぐにテストゥード様によって壊された。
『盛り上がっているところで悪いが、まだ終わりではない。急ぎセヴァリアへ戻るのだ。我が力が消えている間に、街へ魔物が向かっているはずだ』
「ど、どうしてなのでありますか!?」
『単純に人間を襲う為なのもあるが、それ以上に神殿を狙う為だ。神殿にある我が身の一部が力を失っている今、長きに渡って奴らを遠ざけてきたあれを破壊しようとするだろう。恐らく力を各地に分けていた祠も既に破壊されている』
何……だと。まだ終わってないのぉ!?
セヴァリアの街に魔物が向かっているって……急いで戻らないとやばいじゃないか!




