龍神カロン
『Girls Corps』最強のユニット、カロン。
俺が待ちに待ち焦がれた彼女が今、目前に降臨なされている。
……うっそーん、まさかまさかのカロンちゃんきちゃったよ!
この大一番できてくれたのは凄く助かるけど、何でガチャできてくれないの!
「この私を前にして何を呆けておる。お前様が呼んだのだろう」
「あっ、は、はい! 私があなたを呼びました! 大倉平八です!」
「何とも冴えない奴だのぉ。それにへんてこな格好をしおって。このカロンちゃんを呼んだのならビシッとせい」
カロンは不機嫌そうに黒いオーラを纏いながら、あぐらをかいて空中に座り、頬杖をつき短い黒髪を弄りながら俺を見下ろしている。
今まで俺のフルアーマー状態の姿を見た奴は大体は驚いていたが、さすがは龍神、微動だにしていないぞ。
それにしてもどうやって空中で座っているんだ。纏っている黒いオーラが関係してるのか?
そんなカロンの姿を見て、ノール達まで気圧されているご様子。
「カロン……大倉殿がよく言っていた子なのでありますか」
「何ともいえない凄みを感じますね……カロンさん、凄く頼りになりそうですよ」
「そうね。これでどうにかできる希望が出てきたわ。頼りにしているからね」
「はっはっー、同胞に頼りにされるのはいい気分だ。私のことはカロンちゃんと呼ぶがいいぞ」
ノール達の言葉に腕を組んで満足そうに踏ん反り返って笑い声を上げている。
しかもカロンちゃん呼びまでさせようとしてやがるぞ。
GCプレイヤーの間でもこれでカロンちゃん呼びが定着していたからなぁ。
カロンはさっきの召喚時みたいな威厳がある物言いをする時があるけど、基本的にはこういうお調子者らしい。
らしいというのは俺がカロンちゃんを持ってなかったから、詳しいキャラシナリオとかは知らないからだ。
ノール達も俺もカロンのノリに気圧される中、ルーナはいつもと変わらず……いや、張り合うように腕を組んでカロンを見上げていた。
「随分と偉そうな奴だ」
「はっはっはっ、私は尊く気高き存在だからな! この私がきたからには安心するがいい!」
「おお! 心強いよカロンちゃん! 期待してるんだよ!」
「うむうむ、そういう素直な反応は好ましいぞ。この私が全力で協力してやろう!」
フリージアからパチパチと拍手を受け、カロンは後ろにひっくり返るんじゃないかってぐらい後ろに踏ん反り返っている。
……フリージアと合わさったらこれまた手が付けられそうにないな。
カロンとノール達が会話しているのに気を取られていたが、カロンを召喚する瞬間を見ていたイリーナさんとテストゥード様が唖然としているのが目に入った。
そしてイリーナさんが恐る恐るといった様子で、カロンを見ながら俺に声をかけてくる。
「こ、この方は一体……大倉さんの持っていた物から出てこられたように見えたのですが……」
『龍人ではないか!? 何故龍人がこのような場所に! それにこの力は……』
「ほほぉ、言葉を話す亀か。随分と小さいが神妙な力を感じるのぅ。ほれほれ」
カロンは空中に座るのをやめて飛び降りると、イリーナさんが抱き抱えていたテストゥード様の甲羅を指で軽く突っついている。
守護神様相手に何しちゃってるのぉぉぉぉ!?
『こら、やめ、やめろ! 突っつくな!』
「テストゥード様になんてことを! やめてください! 不敬です!」
「はっはっー、よいではないかよいではないかー」
「お、おい! それ以上はやめろ!」
「ちょっと遊んだだけではないかー。うるさい奴だのぉ」
ふぅ、何とか止めさせたけど、イリーナさんがテストゥード様を抱き締めてめちゃくちゃ警戒しているぞ。
守護神様相手に悪ふざけをするとは、龍神だけあってカロンは怖いもの知らずだな……。
これ以上ちょっかい出されても困るから、早く本題に入るとしよう。
カロンはふてくされたように軽く頬を膨らませていたが、察してくれたのかすぐに真面目な表情になって話を聞いてくれた。
「してお前様よ。大体の事情はわかっておるが、とにかくあのデカブツを倒せばいいのだろう?」
「そうなります。とりあえずステータスを見てから作戦を考えたいのですが……」
「そんなことせずとも私1人で十分だが……まあよい。確認するといい」
さてさて、カロンは元々GCで最強のユニットだったが、この世界ではどんな能力になっているのだろうか。
正直いくらカロンでも、あのレイドボスのようなテストゥード様を相手するのは厳しそうだけど……ここは信じるしかないな。
さあ、ステータスオープン!
――――――
●【神世の龍王】カロン 種族:エンシェントドラゴン
レベル:100
HP:3万2600
MP:1万5300
攻撃力:1万1600
防御力:5250
敏捷:750
魔法耐性:50
コスト:75
固有能力『龍神の息吹』
一定範囲内の敵の攻撃力、敏捷を30%低下させ、味方ユニットに自動回復を付加。
スキル『竜魂解放☆5』
一定時間攻撃力、防御力を6倍にし、間合い延長【大】付加、敵防御力を半減させる。再使用時間【5分】
――――――
!? はっ!? なんだよこれ! 俺の知ってるカロンのステータスじゃないぞ!
GC内最強だからってステータスが高過ぎだ! それもスキルまで全く知らないものに変わってやがるぞ!
ノール達にも見せると全員驚いた表情で画面を凝視している。
……例の機能は当然切っておいた。
「こ、このステータスは異常だろ……」
「いくらなんでもこれは……強化された状態なのでありますかね?」
「スキルに星が付いているからそうかもしれないわね。これなら十分あの魔物を倒せそうだわ」
「凄まじいなんてものじゃありませんよ。アイテムによる期限付きの召喚だからでしょうか?」
確かにスキルの横に☆5ってマークが付いている。これはノールのスキルである『白銀のオーラ☆2』と同じだ。
つまりカロンは既に4回スキルを強化された状態ってことか?
それに名前の横に【神世の龍王】って称号も追加されている。
これは1段階強化されたノールの【戦乙女】とエステルの【大魔導少女】と同じ表記。
何段階かわからないけどカロン自身も強化されている可能性が高い。
緊急召喚石を使った場合は助っ人ユニットみたいなものだから、最初からある程度強いってことなのか?
カロンのステータスについてノール達と話し合っていたが、同じくステータスを見たルーナ達はカロンと話をしていた。
「ふむ、偉そうなだけあって本当に強いのだな」
「カロンちゃんすっごく強そうなんだよ! 戦うの見るのが楽しみ!」
「はっはっはっ、よくわかっているではないか! エルフの女、お主のこと気に入ったぞ!」
「わーい! 気に入られちゃった!」
フリージアは打ち解けるのが早いな……というか、カロンにまでエルフだってバレてやがる。
テストゥード様もそうだったけど、同じような強者の前じゃ誤魔化しは効かないってことなのか?
まあいいや、次はUR装備の確認だ。こっちもステータスと同じようにぶっ壊れてそうな予感がするけど……。
――――――
●ティーアマト☆5
攻撃力+1万3000
攻撃力+50%
行動速度+50%
間合い延長【大】
●原初の混沌☆5
防御力+9500
防御力+50%
ダメージ吸収
攻撃回避【大】
――――――
「UR装備まで強化された状態なのかよ!? だけど武器はどこにあるんだ?」
「それなら先程から見せているぞ。お前様の目の前にあるだろう」
目の前にあるって言われても……どこだ?
確かカロンは黒い大剣を振り回して攻撃していたはずだけど、今はその剣はどこにも持っていない。
キョロキョロと周囲を見渡して俺が探していると、カロンは愉快そうにニヤっと笑った。
すると彼女が纏っていた黒いオーラが体から離れて、俺の背丈よりもデカイ真っ黒な大剣の形になる。
そのオーラが武器だったのか!?
「さっきから浮いていたのはそれを使っていたのでありますか!」
「そうともさ。これは私の意志で自由自在に形を変える。宙で座る程度造作もないぞ」
「大倉さんのセンチターブラの上位互換に思えますね」
「これが攻撃力1万以上の武器になるなんて、考えただけでも恐ろしいわね」
自由自在に形を変える武器だと……GCで大剣を振ると黒いエフェクトが出て広範囲にダメージが入っていたけど、あれは大剣その物が伸びていたのか。
カロンが戦略兵器と呼ばれる所以は、物理による広範囲の超火力でみるみる相手のユニットが溶けていくからだ。
防御特化である重装鎧ですらスキルなしだと防御の上から即叩き潰される。
しかもHPも防御も高くて魔法耐性もあり、移動速度もかなり速い。
スキル発動時なんて下手な遠距離ユニットより遠くの敵を攻撃できたからな……あんなの絶対おかしいよ。
せっかくいい陣形を保てていたのに、いきなり突っ込んできてこっちのユニットが壊滅していく様はトラウマものだ。
高コストで総ユニット数が少なくなるとしても、十分過ぎる程の性能を誇っていた。
武器であるティーアマトを見せたカロンは、今度は自分のドレスの裾を掴んでヒラヒラとさせている。
「そしてもう1つが私の着ているこれだ。創世の闇を宿した絶品だぞ。はっはっー、凄かろう?」
「創世の闇とはまた壮大な雰囲気がするでありますね。私の装備だって負けていないのでありますよ!」
「ノールは妙なところで負けず嫌いなのね。だけどカロンのその服は、見ているだけでも吸い込まれそうに思えるぐらいだわ」
創世の闇……? 思っていた以上にヤバそうな代物なんですが。
特に目立ったところのないシンプルな黒いミニドレスだけど、言葉にできない不思議なものを感じるぞ。
ノール達のUR装備も十分に凄い物だけど、カロンのはさらにその上をいってそうだ。
ルーナは闇という部分に反応したのか、興味深そうにじーっとカロンの服を見ている。
「ふむ、闇その物が服の形をしている。心地のよい黒さだ。羨ましい」
「吸血鬼の小娘にしては素直ではないか。慧眼があるようで感心感心」
「むぅ、小娘扱いするな。貴様も小さい」
「はっはっはっ、お主よりは大きいぞ! カロンちゃんより大きくなれるよう精進するのだな!」
「……話してて疲れる」
豪快に笑うカロンに頭をポンポンと撫でられ、ルーナはげっそりとしている。
う、うむぅ……まさかここまでテンション高くて傲岸不遜だとは。
「それで、これで確認は終わりか? 会話を楽しむのもよいが、そろそろ呼ばれた責務を果たさなければな。まだまだ時間はあるとはいえ、そうゆっくりはできぬぞ」
「あっ、はい。それじゃあ主な攻撃はカロンに任せて、後は俺達で色々と援護する、って感じでいいか?」
「私達じゃあのテストゥード様にダメージを与えられそうにないものね。カロンが戦いやすいように私達で補助するのが1番かしら」
「カロンさんにお任せするだけなのは悔しいですが、それが妥当でしょうか。カロンさんでしたら私とエステルさんの支援魔法もかなり効果的だと思います」
ファルスス・テストゥードのステータスを考えると、現状カロンぐらいしか太刀打ちできない。
女神の聖域から出た瞬間俺達はやられてしまうから、戦闘はカロンに任せるしかない。
エステルとシスハの支援魔法、それに加えて俺とノールのバフもある。
後は戦いの流れを見ながら、カロンが有利に戦えるように援護していこう。
情けない話ではあるが、今はもうカロンに全てを託すのみ。
「さあて、それでは大亀退治に興じるとしよう」
カロンはそう口にすると、全身から黒いオーラが溢れ出した。
闇のようなオーラは形を変えていき、背中には翼、両手両足は鋭い爪が形成されていく。
それと同時に短かった髪の毛が伸びて長髪に変わり、金色の瞳も神々しく輝いている。
その姿はまるで小型のドラゴンだ。
これがカロンのスキルである竜魂解放か……一体これからどんな戦いが始まってしまうのだろうか。




