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テストゥード降臨

 全身が黒く、禍々しいオーラを放つ大亀。

 まるで大地が悲鳴を上げているかのように、ビリビリとした空気が周囲に流れている。

 あまりの威圧感に動けずにいたが、その空気の中でマリグナントは高笑いを上げていた。


「フハハハハハハ! 素晴らしい、素晴らしいぞ! 実験は成功だ!」


 全身ボロボロで今にも息絶えそうな状態なのに、まるで気にしていないかのように笑っている。

 それほどこの怪物を召喚できたことに歓喜しているようだ。

 一方、ようやく事態を飲み込めた俺達は戸惑いを隠せなかった。


「あ、あれは何なのでありますか!?」


「テストゥードって叫んでいたけど……まさか本物なの?」


「凄まじい力を感じますね……今まで戦ってきた魔物とは桁が違いますよ」


「ふむ、あれは不味い。勝てないぞ」


「あわわ……逃げた方がいいかもなんだよ……」


 ノール達ですらこの反応。マジであれが守護神なのか……ヤバイって雰囲気を肌でビンビンと感じるぞ!

 だけど、見た目からはまるで守護神とは思えない。

 もっとこう、温厚そうなものだとばかり思っていたのに、今目の前にいるテストゥード様は凶悪な存在にしか見えない。

 というか牙が飛び出て目が赤いから怖いです。


 そんな騒ぐ俺達と違って、イリーナさんは巨大な亀を見て呆然と立ち尽くして呟いていた。


「あれが……テストゥード様……」


 喜びとも悲しみとも取れない、何とも複雑な表情をしている。

 あの巨大な亀が本当にテストゥード様だとしたら、信仰しているイリーナさんとしてはどのように感じているのか。

 戸惑った様子のイリーナさんを見て、愉快そうに声色でマリグナントが声を投げかけてきた。


「ええ、これこそがあなた方が守護神と呼んでいた魔物、テストゥードです。その証拠に御覧なさい、島を覆っていた霧が晴れているでしょう?」


 あっ、本当に島を覆っていた霧がなくなってやがるぞ!? 何が起きたんだよ!


「一体何をしたんだ!」


「セヴァリア全域に広がっていた奴の力を集中させたんですよ。最も、早まったせいで完全とまではいかなかったようですが。今頃奴の加護が消えて街は大騒ぎしているかもしれませんね」


 力を集中させた? あの亀が現れる前に周囲から引き寄せられていた光はそれだったのか?

 ……いや、それよりもこいつ今気になることを言ったぞ。

 加護が消えて街が大騒ぎ? まさかこの亀だけじゃなくて、セヴァリア中でも何か起こっているっていうのか!

 俺がさらに問いただそうとしたが、その前に奴はイリーナさんを見て話しかけた。


「これも全てあなたが持っていたこの宝石のおかげですよ。これには特に強い力の残滓が残っていましたから。これがなければすぐに呼び出せたりはしませんでしたね。わざわざ持ってきてくださってありがとうございます」


「そ、そんな……わ、私のせいでテストゥード様が……」


 マリグナントの言葉にイリーナさんは顔を青くしている。

 こいつ、わざわざイリーナさんが罪悪感を抱くようなことを言いやがって!


「イリーナさんのせいなんかじゃありませんよ。あれがなければ私達もこの島に来れませんでしたし、時間をかければどちらにせよ同じような結果になったはずです。むしろ今私達がここに居るだけマシかもしれません」


「大倉さん……」


「フハハハハハハ! お前達がいるだけマシだと! これは傑作だ! この状況でよくそのような強がりが言えたものだな! そのおめでたい頭だけは褒めてあげますよ!」


 ぐっ、さっきまで必死で逃げ回っていやがったのに、立場が逆転した途端また挑発してきやがる。

 だけど、実際に今の状況はとてもよろしくない。

 完全に主導権を握られていて、俺達がどうなるかはあいつの言動で全て決まってしまう。

 ひとしきり笑い終えたマリグナントは、一呼吸置いて俺達を見据えた。


「さて、不完全とはいえお前達を倒すには十分。この私をこんな目に遭わせてくれた代償はお前らの命で償ってもらうぞ。やれ、テストゥードよ! 奴らを消し飛ばしてしまえ!」


 マリグナントが残っている片手で俺達を指差し叫んだ。

 ついにその時がきた! と、急いで女神の聖域を発動させようとしたのだが……命令されたはずの巨大亀はこっちを見る素振りもせず、その目はどこを眺めているのかわからない。

 うん? 何やら様子がおかしいぞ。

 マリグナントもその反応は予想外だったのか、見るからにうろたえ始めた。


「ど、どうした? 何故動かない! やれ、早くやれと言ってるんだ! ええい、早くしろ!」


 何度も俺達と巨大亀を交互に見て、必死にこっちを指差して焦っている。

 何が起きているのかわからず、とりあえず黙って様子を窺っていると、ついに巨大亀が動きを見せた。

 ただし、それは俺達に向けられた物ではなく、目の前で騒ぎ立てているマリグナントに対してだ。

 ギョロリと赤い瞳で見つめられたマリグナントは、何かを察したのか恐怖に怯えた声を上げた。


「ま、まさかお前!? やめ、止めろ! 待て、待って! ひぃ――」


 情けない声を出したマリグナントは、俺達に背を向けてその場から飛び去る。

 が、それを追うように巨大亀は奴の方を向き、その巨大な口を開いた。

 口内から眩い真っ黒な光が迸ると、咆哮が辺りに響き渡り閃光が放たれる。

 ビリビリと周囲に衝撃を撒き散らしながら、赤色の混じる真っ黒い極太な光は、上空にいたマリグナントを飲み込んで遥か上空まで突き抜けていく。

 そしてその攻撃が終わると、やはりマリグナントの姿は影も形もない。

 奴が完全に消滅したのを証明するかのように、イリーナさんから奪った甲珠だけが空から落ちて俺達の近くに転がる。

 その様子を見て、俺はただ立ち尽くして唖然とするしかなかった。


「な、何なんだ? あいつが操っていたんじゃないのかよ?」


「自分でもコントロールできない程強い魔物を召喚しちゃったのかも。自滅してくれて助かったわね」


「そうでありますね……。これで黒幕もいなくなったでありますし、一件落着――ってこっち見てるでありますよ!」


 ノールが叫ぶのを聞いて巨大亀の方を見ると、マリグナントを殺ったのと同じようにこっちを見て口を開いていた。

 ヤバイヤバイ! さっき撃ったビームみたいなのを俺達にも撃とうとしてやがるぞ!

 マリグナントがやられて安心していたのにこれかよ!

 

 慌てて女神の聖域を発動させようとしたのだが、イリーナさんがいつの間にか俺達から離れたところにいるのに気が付いた。

 その胸にはさっき落ちてきた甲珠が抱き抱えられている。


「イリーナさん! 早くこっちへ!」


「は、はい!」


 俺達もイリーナさんの方に駆け寄って、何とか女神の聖域を展開するのに間に合った。

 案の定巨大亀からさっきと同じ閃光が放たれ、俺達は黒い光に飲み込まれる。

 それでも女神の聖域はビクともせず、閃光を割るように立ちはだかってくれた。

 ギリギリ助かって一安心だけど、聖域に弾かれている凄まじい攻撃を見ると肝が冷えるぞ。


 攻撃が止むと周囲に草木は一切残っておらず、左右の地面も深く抉れてその威力を物語っている。

 巨大亀は俺達の姿を見ると、その図体に似合わず首を傾げて不思議そうにしていた。

 何でお前ら生きてるんだ? とでも言わんばかりだ。何と傲慢な。


「危なかった……あんなのまともに喰らったらひとたまりもなかったぞ」


「女神の聖域があって本当に良かったですね……。なかったら今の一撃で私達全滅でしたよ」


「ま、周りが更地になってるよ……」


「そう怯えるな。この中に入れば安全だ。……気分は悪いが」


 ルーナがぐったりとしているけど、外に出る訳にもいかないから仕方がない。

 ……さて、助かったのはいいがこれからどう動けばいいのだろうか。


「どうするでありますか? 一応異変を起こしていた本人は倒せたでありますが、あの亀が残っているのでありますよ」


「召喚者が消えても召喚された魔物は残るみたいね。あれが守護神と呼ばれている存在なら害はなさそうだけれど……」


「私達を攻撃してきましたからね……。テストゥード様にお仕えしているイリーナさんも巻き込んでいましたし、意思の疎通ができる相手ではなさそうです」


 確かに理性のある相手には見えないな。

 何かの勘違いで俺達を攻撃した訳でもなさそうだし、ただの魔物にしか見えない。

 テストゥード様が元々そういう魔物だって可能性もあるけど、まだ判断するには情報が少な過ぎる。

 倒した方がよさそうな相手ではあるが……まずは様子見だな。

 チラリと話の上がったイリーナさんを見てみると、その顔は青ざめていて体が震えている。


「イリーナさん、大丈夫ですか? 先程から顔色が優れませんけど」


「……大丈夫、とは言えないかもしれません。まさかテストゥード様が目の前で降臨されるとは思いませんでしたので……あれは本当にテストゥード様なんですよね?」


「マリグナントはそう言っていましたが……確認してみますね」


 まだあれがテストゥード様だって決まった訳じゃないからな。

 ここは信頼と実績のあるステータスアプリで見るとしよう。


 ――――――

●ファルスス・テストゥード 種族:?

 レベル:100

 HP:120万4800

 MP:80万6500

 攻撃力:5万8000

 防御力:9万5000

 敏捷:50

 魔法耐性:250

 固有能力 海域の支配者 守護の堅甲 幻惑の霧 自己再生 状態異常耐性【大】

 スキル カラミティブラスト シェルジェット シェルフォートレス

 ――――――


 ……わーお、何これ? もしかしてステータスアプリがバグったのかな? こんな数値ありえないでしょ。

 うん、不具合に違いない。再起動してもう1度確認だ。


 ――――――

●ファルスス・テストゥード 種族:?

 レベル:100

 HP:120万4800

 MP:80万6500

 攻撃力:5万8000

 防御力:9万5000

 敏捷:50

 魔法耐性:250

 固有能力 海域の支配者 守護の堅甲 幻惑の霧 自己再生 状態異常耐性【大】

 スキル カラミティブラスト シェルジェット シェルフォートレス

 ――――――

 

 ……うん、わかっていたけど現実は非情過ぎる。もう無理でしょこれ! 勝てる訳ないだろ! どうしろっていうんだよ!


「どうしたのでありますか?」


「これ、見てみろよ……」


「むっ――ぶっ!? な、何でありますかこれは! ステータスアプリ壊れたでありますか!」


 うん、そう思いたくなるよね。だけどこれが正常なんだよ……。

 シスハ達にもステータスアプリの画面を見せると、全員眉をひそめて同じような表情をしている。


「感じるだけじゃなくて実際に数値として見ると凄まじいの一言ですね。まともに戦って勝てる相手じゃありませんよ」


「ふむ、お手上げだ。私のスキルでも微々たるダメージしか与えられそうにない」


「名前的にも正真正銘の守護神様じゃないみたいだけれど、倒した方がいいのかしら。倒すにしても、私のスキルはもう切れちゃったわね……」


「でもでも、守護神様倒して大丈夫なの? さっきの魔人? みたいなのが力を集めたとか言ってたよ。倒しちゃったらそれもなくなっちゃうかもだよ?」


 エステルは既にスキルの効果時間が終わり、白いオーラが消えていた。

 反動で少し気分が悪そうにしているが、強化されたおかげで大分楽になってはいるようだ。

 うーむ、倒すにしても今の状態だとかなり厳しいぞ。万全な状態でも大分怪しくはあるのだが……。

 それにフリージアが言っていることも気がかりだ。

 一体どうすればいいのだろうか。

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