総力戦
大変長らくお待たせいたしました。
6月は更新ができず誠に申し訳ございませんでした。
ルーナのブラドブルグに貫かれたマリグナントは、胸から生えた真紅の槍を掴んで背後にいるルーナを見て叫んだ。
「お、お前! 一体どこから!」
「歩いて背後に回っただけだ。間抜けめ」
「クッ、やれぇぇぇぇ!」
マリグナントが叫ぶと同時に、周囲にいたディアボルス達がルーナに向けて一斉に槍を投げる体勢に入った。
が、直後にフリージアの矢に射られ、複数のディアボルス達が消し飛んで光の粒子になって消滅。
それにより一瞬ディアボルス達が怯んだが、マリグナントだけは意にも介さず尻尾に光を帯びさせて振り抜く。
ルーナは槍から手を離して飛び退いてそれを回避すると、再びその場から姿を消した。
インビジブルマントは攻撃すると透明化が解除されるけど、それも一瞬でこうやって攻撃した後にまた姿を隠せる。
マリグナントの胸に刺さっていたブラドブルグは既に消えているから、自動回収で既にルーナの手元にあるはずだ。
フリージアの攻撃には動揺しなかったマリグナントも、ルーナが姿を消したのには驚いたのか動きが止まった。
その隙を俺達が見逃す手はない。
ルーナが姿を見せた瞬間に走り出していたノールが、マリグナントに斬りかかった。
マリグナントはすぐ反応して剣を腕で防いだが、ギンッと鈍い音と火花が散って腕から青い血が噴出す。
ノールはそのまま止まることなく、レギ・エリトラの行動速度低下も合わさって次々とマリグナントを斬り刻む。
その間にもルーナが姿を見せて、風穴が開いたマリグナントの胸に槍を投擲して傷口を広げていく。
マリグナントも必死にノール達の猛攻に尻尾などで反撃しているが、二人の連携と行動速度低下のせいで上手く動けないようだ。
そんなマリグナントを助けようとディアボルス達も慌ててノールに狙いを定めようとするが、フリージアとエステルの遠距離攻撃によって瞬く間に壊滅。
さっきまでの余裕がまるでなくなったマリグナントは雄叫びを上げている。
「こ、この俺がこんな奴らにぃぃぃぃ! こんなはずじゃ――がっ!?」
ディアボルスもいなくなり、ノールとルーナだけじゃなくフリージアの矢まで的確なタイミングで飛んできてあっちこっちに刺さってやがる。
油断していたとはいえここまで一方的な戦いになるとは……だけど、ノール達相手に2対1でまだ戦えている。
ここはあいつを反面教師にしてこっちは油断せずに仕留めたい。
そう思っていたが、マリグナントと攻防を繰り広げていたノールの真横に黒い魔法陣が突然現れた。
次の瞬間、鋭い鎌が中心から出てきてノールを襲う。
だが、その鎌は彼女に届くことなく銀色の壁によって阻まれた。
何かあってもこうやってフォローできるように、俺がセンチターブラをノール達の周囲に展開させておいたのだ。
鎌が当たると一撃でセンチターブラは砕け散って光の粒子になってしまったが、その隙にノールは後ろに飛び退いて攻撃を回避できた。
「ノール! 大丈夫か!」
「平気なのであります。一気に仕留めたかったでありますが、そう簡単にはいかないみたいでありますね」
「ノール、お兄さん。どうやらディアボルスを召喚されちゃったみたいよ」
ノールが無事でホッとしたのもつかの間。
エステルに言われてマリグナントを見ると、周囲にはさらに複数の黒い魔法陣が展開されていた。
そして姿を現したのは、鎌を持った4体の赤いディアボルス。
こいつはこの前リシュナル湖で見かけた奴だ。
それで終わり――ではなく、さらに通常のディアボルスが20体、緑色のディアボルスが1体出てきた。
おいおい、全滅させたと思ったらさっきより増えないでくれませんかね……。
さすがにあの数は不味いと思っていると、ルーナも俺達の傍に戻ってきていた。
「すまん、仕留めそこなった。無理にでも頭を貫くべきだった」
「いや、攻撃する瞬間に反応していたから、頭を狙っていたら避けられていたかもしれない。あれで十分だ」
「ルーナさんに胸を貫かれてもあんなに動けるなんて、ただの魔物じゃなさそうですね」
「あいつの体力は43万もあるからな。それだけ丈夫みたいだ」
逃げ腰だったとはいえ、まさか胸を貫かれた状態でノール達の攻撃を防ぎ切るとは。
HPが高いと致命傷と思えるダメージでも普通に耐えてきやがるのか。
だけど胸から血をボタボタと垂らして息を荒くしているから、相当なダメージだったはずだ。
そんな満身創痍になっているマリグナントは俺達を睨みつけて叫ぶ。
「お前ら、この俺に向かってよくもふざけた真似をしてくれたな! タダでは済まさんぞ!」
「あれー、さっきまで私とか言ってたのに俺になってますよー。大丈夫ですかー?」
「ぐっ、バカにしやがって……。そこのガキと剣士を始末したら次はお前だ!」
ダンッ、と尻尾を叩き付けて地面にめり込ませて、わなわなと拳を握り締めている。
こういう状況でも煽るとは、さすがシスハだな。とても真似できないぞ。
シスハによって気が逸れている間に、新たに現れたディアボルスの確認だ。
――――――
●ディアボルス・アサルト 種族:ディアボルス 【状態】眷属
レベル:80
HP:8万
MP:400
攻撃力:5500
防御力:1500
敏捷:180
魔法耐性:50
固有能力 思考共有 危険感知
スキル デスサイズ
●ディアボルス・メディック 種族:ディアボルス 【状態】眷属
レベル:80
HP:3万
MP:1万5000
攻撃力:100
防御力:500
敏捷:80
魔法耐性:50
固有能力 思考共有 魔法耐性向上
スキル ファーストエイド リジェネレイト
――――――
「赤い奴は攻撃、緑のは回復特化のディアボルスみたいだ。赤い方は攻撃力が5500もあるぞ」
「そ、そこまで高いのでありますか!? さっき私を攻撃してきたのは赤い方……かなり危なかったのであります」
「色々な役割のディアボルスがいるのね。数も多いし相手するのが大変そうだわ」
スカウトだけじゃなく、アサルトにメディック。
それぞれ何か特化した役割を持つディアボルスがいるんだな。
通常の黒いディアボルスに比べると数は少ないから、こいつらを召喚するのは制限があるのか?
新たに出てきたディアボルスのステータスを確認したところで、マリグナントが指示を出したのかディアボルス達が動き出した。
それを見てルーナは舌打ちして槍を構える。
「チッ、来る。ノール、行くぞ」
「了解であります! 背中は任せるのでありますよ!」
「うむ、任された」
向かって来るディアボルスの群れにノールとルーナが迎撃に出る。
当然ディアボルス達は槍を投擲して攻撃してきたが、フリージアが矢で槍を撃ち落していく。
ディアボルス側は先頭に3体の赤いディアボルス・アサルト、そして多数の黒いディアボルスを引き連れている。
そして先頭を飛ぶアサルトとノール達がかち合うと、お互いに激しい打ち合いが始まった。
アサルトの攻撃力は今まで相手した魔物の中でもトップクラスだ。
ノールはアサルトを真っ先に狙い、他のディアボルスには目もくれずに戦う。
ルーナはそれをサポートするように周りのディアボルスを捌いて近寄らせないようにしている。
マリグナントを追い詰めた時といい、2人共かなり連携が取れるようになっているようだ。
しかし、通常のディアボルスの動きがさっきよりも速くかなり苦戦している。
フリージアとエステルの援護、さらに俺のセンチターブラで槍を弾いているが攻撃がかなり激しい。
時折攻撃を受けてしまっているけど、シスハとイリーナさんが回復魔法を飛ばしているから問題ないようだ。
よく見れば通常のディアボルス達の体に、黒い光が纏わり付いているのに気が付いた。
まさか、あれはマリグナントの眷属強化ってやつか?
フリージアの矢で撃たれても怯んでないし倒しきれていない。
ここでさらにマリグナントが加わってきたら不味いと思っていたが、奴は神殿の前に鎮座していた。
隣にはディアボルス・メディックがいて、緑色の光を放ってマリグナントの傷を癒している。
やらせるかよぉ! とディメンションブレスレットでエクスカリバールを持つ手を飛ばし、ディアボルス・メディックを襲った。
が、マリグナントの近くに残っていたアサルトが割り込んできて鎌で受け止められる。
それを見てマリグナントが愉快そうに笑い声を上げた。
「フハハハハ! 無駄無駄! お前のやることなどお見通しだ! このまま押し潰してやろう!」
ぐぬぬ、さっきのお返しとばかりに笑いやがって!
「ちっ、防がれた。アサルトがいたままじゃ狙えそうにないぞ」
「奇襲されるのを見越してあの赤いディアボルスを残していたみたいね。一度やられたから用心深くなったのかしら」
どうして1体だけ残していたのか疑問だったが、その為に近くに置いていたのか。
確かステータスの固有能力に危険感知ってのがあったはずだ。
それでどこから攻撃がくるのか予想ができるっていうのか?
くそが! 厄介過ぎるぞ!
「私とイリーナさんが回復しているので間に合っていますけど、あまり長期戦になるのは避けたいですね」
「まとめて一気に殲滅できればいいんだが……あっ、フリージア! 後ろから来てるぞ!」
「了解!」
いつの間にか通常のディアボルスが背後に回り込んできていたが、地図アプリで動きは丸見えだ。
ディアボルスの奇襲は成功することなくフリージアに撃ち落とされた。
マリグナントの奴、余裕ぶって笑っていた癖に奇襲をしかけてくるとは、内心結構焦っているんじゃあないか?
今のところはギリギリ拮抗しているけど、マリグナントの回復が終わったらどうなるかわからない。
俺達も奥の手は色々と残しているとはいえ、あっちだってそれは同じはず。
どうにか回復が終わる前に攻勢に出たいところなのだが……。
すると俺と同じことを考えていたのか、エステルがある提案をしてきた。
「あの魔人っぽいのが後どれだけ召喚できるかわからないし、このままじゃジリ貧になりそうね。私のスキルで一掃しちゃいましょうか」
エステルのスキルを使うか……確かにそれなら一気にあの数でも殲滅可能だ。
ディアボルスもマリグナントも魔法耐性は高いけど、スキル込みのエステルならその魔法耐性は0どころかマイナスまで下がる。
今の彼女の魔法なら瞬く間にディアボルス達は蒸発するはずだ。
ノールのスキルでも状況は打破できるかもしれないが、後のことを考えるとノールは動けるようにしておきたい。
よし、ここはエステルにお願いしよう。
「わかった、やってくれ」
「ふふ、任せて。まとめて消し炭にしてあげるわ」
活き活きとしながら光のグリモワールを開いて杖を掲げている。
……うん、任せたはいいけど、絶対にこの島無事じゃ済まないよね。
だけどマリグナント達の強さを考えるとそれも仕方がない。
「イリーナさん、先に謝っておきます。これから行う攻撃でこの島と神殿にかなり被害が出るかもしれません」
「……このままあのような輩の好きにはさせられません。きっと何があってもテストゥード様ならお許しになってくださるはずです」
凄く申し訳ないけどイリーナさんの許可もいただいた。
これで思う存分エステルに実力を発揮してもらえるぞ。
そんな訳で前に出て戦っていたノール達を呼び戻した。
「ノール、ルーナ! 一旦退け!」
センチターブラでアサルト達が追ってくるのを邪魔して、さらにガチャ産のアイテムである閃光玉を放り投げる。
そして直視しないようにセンチターブラを引き伸ばして壁にすると、空中で閃光玉は炸裂し眩い光が辺りを照らした。
それを合図にエステルのスキルが始まる。
「それじゃあいくわよ!」
エステルの全身から白いオーラが立ち上り、足元に魔法陣が出現した。
彼女が杖を空に掲げると、さらに複数の魔法陣が展開されて光が収束していく。
以前リシュナル湖で見た滅びの光と同じように、ドクンと脈打つ光の球体が形成される。
その速度は以前の比ではなく、5秒程度で上空に10個の巨大な光の塊が。
そして閃光玉で視界を奪われて行動不能に陥っているディアボルスに向けて、無慈悲に杖が振り下ろされた。
「――えいっ!」
掛け声と共に繋ぎ止められていた光の塊が解き放たれる。
女神の聖域の実験やリシュナル湖の時と違い、一筋の光ではなく壁が音もなく俺達の目の前に現れた。
ディアボルス達の悲鳴は聞こえることなく、さっきまで奴らがいた場所は全て光の壁に飲み込まれている。
あまりの光景に俺もノール達も唖然としてそれを見守っていた。
エステルさん、強化されてスキルまでとんでもないことになっているな……。
この攻撃ならさすがのマリグナントも終わり――と思っていたのだが。
「平八! 来るよ!」
フリージアがいち早く気が付いて光の壁の1点を見て弓を構えた。
俺も地図アプリで状況を確認すると、なんと1つ赤い点がこの光の壁の中を猛スピードで移動している。
そして光の壁を突っ切って、雄叫びを上げるマリグナントが姿を現した。
「グアアァァぁぁぁぁ!」
鎧のような皮膚はあっちこっちひび割れ、翼はボロボロになり、尻尾も皮膚が溶けて赤い肌が露出していた。
しかし満身創痍な見た目からは想像できない速さで向かってきている。
エステルが滅びの光を撃つのを止めて火球をいくつか撃ち込んだが避けられ、フリージアの矢をいくつか体に受けながらも一直線に突っ込んできた。
その勢いでエステルに攻撃してくるのかと鍋の蓋を構えて待ち構えたが、予想外にもマリグナントは俺とエステルの脇を通り過ぎる。
ノールとルーナがすぐに反応し攻撃を加えるが、ノールに腕と尻尾を斬り落とされ、ルーナに腹を貫かれても勢いは止まらない。
そこまでして向かう奴の先には、一番後ろにいたイリーナさんの姿が。
しまった!? 奴の狙いはイリーナさんなのか!
慌てて俺も後を追いかけるが間に合う訳もなく、マリグナントはイリーナさんに迫ると片手を伸ばす。
が、それを阻むようにダラが間に入った。
「邪魔だァァ!」
マリグナントが叫びながら赤い目を光らせると、浮いて行く手を遮っていたダラが地面に落ちた。
しまった、このままじゃイリーナさんが! やらせてなるものかぁぁ!
そう俺が強くエクスカリバールを握りながら念じると、エクスカリバールは黄金に輝いた。
これはエクスカリバールに付加されたスキル、黄金の一撃。発動したと同時に一気に体からMPが抜けていくのがわかる。
俺はディメンションブレスレットを使い、マリグナントの背中目がけて黄金に輝くエクスカリバールを突き刺した。
「――ぐおぉぉぉぉ!?」
黄金に輝くエクスカリバールが突き刺さったマリグナントは、前のめりになるように膝から崩れ落ちた。
しかし、それと同時にイリーナさんが悲鳴を上げる。
「きゃあ!」
ギリギリ届いたのかマリグナントの腕はイリーナさんが持っていた緑の宝石を掴んでいて、そのまま力任せに奪い取ると脱兎の如く神殿の方へと逃げていく。
「イリーナさん! 大丈夫ですか!」
「え、えぇ……で、ですが甲珠が奪われて……あっ、それよりもダラは!」
「ご安心ください。既に私が治しておきましたよ」
一瞬だが地面に落ちたダラは、何の問題もなさそうにまた浮いていた。
イリーナさんはそれを見て安堵したのかホッと胸を撫で下ろしている。
さっきのあれはマリグナントの固有能力の支配の魔眼か?
何にせよシスハの魔法で解除されているなら問題ない。
イリーナさんに怪我もなくホッとしたところで、逃げたマリグナントに視線を移した。
神殿の前はエステルの滅びの光により大穴が出来上がっていて、その上をマリグナントは飛んでいる。
片腕と尻尾を失い、翼も見る影もなく、さらには胸と腹に大穴が開いて血だらけだ。
あんな状態でも動けるなんてしぶといってレベルじゃないぞ。
しかし、最後っ屁でイリーナさんを狙ったみたいだがそれも潰えた。
完全に俺達の勝利、のはずなのだが。
マリグナント息も絶え絶えになりながらも、勝ち誇ったように口元を歪めている。
「ハァ……ハァ……み、認めてやろう。まさかここまで冒険者如きが戦えるとは思わなかった。だが、これでもう終わりだ」
イリーナさんから奪った甲珠を持って腕を掲げた。
緑色だった宝石は黒く濁り始め、そこから光を発して神殿の方へと向かっていく。
すぐに光が治まると、ゴゴゴッと地響き鳴って地面が揺れだした。
「な、何をしたのでありますか!」
「ククッ、予定より少し早いが仕方ない。その女の持っていたこの宝石で補うとしよう。お前らが守護神と呼ぶ存在を見せてやる!」
そうマリグナントが高らかに宣言すると、俺の真横を光が横切った。
何事から周囲を見渡せば、あらゆる方向から光の粒子が飛んできていて、神殿の中へ次々と吸い込まれていく。
今まで魔物が発生する時に見てきた光だが、ここまでの量が集まっているのは見たことがない。
「――さあ、姿を現せ! テストゥードよ!」
マリグナントは叫ぶと同時に、カッと神殿の中が輝いて建物が弾け飛んだ。
そして俺達の目の前に、山のように巨大な亀が姿を現した。
今月は更新を頑張れる……はず(希望的観測)
はい、可能な限り頑張る所存です!




