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濃霧の中へ

 ディアボルス達を全滅させてから数時間後、俺達の目前にはとんでもない光景が広がっていた。


「おお! 何か凄いのが見えてきたんだよ!」


「あれが小島を覆っている霧でありますか。全く中が見えないのでありますよ」


 上空まで届く程分厚い真っ白な霧が壁のように海上を覆っていた。

 まるで雲がそのまま落ちてきたみたいだ。

 その遥か上からダラに乗って俺達は霧を見下ろしていたが、水平線の先まで続いていてどれだけ広がっているのかわからない。

 これは濃霧とかいうレベルじゃないぞ。中に入ったら1m先でも見えるか怪しい。

 シスハ達もこの霧には驚いているのか、唖然とした表情をしている。


「あそこまで濃い霧となると案内なしで進むのは無謀ですね。空を飛べたとしても辿り着ける気がしませんよ」


「そうね。もし案内がなかったら私があの霧を魔法で消し飛ばすしかなかったかも」


 エステルさんはまた物騒な考えを……時々こういう発想するから怖いです。

 だけど魔法だったら確かに霧は消し飛ばせそうだ。

 なんて考えているとルーナが腕を組みながらそれを否定した。


「あの霧から妙な気配を感じる。そう簡単に消せると思えない」


「あら、やっぱりあの霧も普通じゃないのね。あれも守護神と関係あるのかしら? お姉さんが一緒に来てくれて本当によかったわね」


 言われてみるとぴったりと綺麗に霧は縦に伸びていて、まるで境界線のようになっている。

 どう考えても自然に発生したものじゃなさそうだし、簡単に消せるものじゃなさそうだ。

 もし神殿から許可が下りずイリーナさんが来てくれなかったら、この霧を突破するのは無理だったかも。


「あの中に聖地と呼ばれている小島があるんですか」


「はい、聖地はあの霧によって守られているのです。霧を抜けるにはテストゥード様から賜った甲珠がなければ不可能のはずなのですが……」


「むむっ、小島に何かいるとしたら、一体どうやって霧を突破したのでありますかね」


 この先にディアボルスを操る黒幕がいるとしたら、そいつはどんな方法を使ったんだろうか。

 エステルの魔法でさえ簡単に消せそうにないのに、この霧の中に入って移動する島を探し当てる。そんな芸当が本当に可能なのだろうか?

 実はまだ小島に到着していないなんていうのは……ディアボルスがあんなにいた時点でその線は薄いな。


 ダラが霧の間近まで迫ると、イリーナさんは持っていた箱の中から緑の宝石、甲珠を取り出した。

 それを彼女は大事そうに両手で持った途端、甲珠は輝き出して霧に向かって光を放つ。

 すると光が当たった部分の霧が一瞬で消えて、濃霧の中に一本の道ができ上がった。

 それを見てフリージアがパチパチと手を叩いて感激している。


「霧がなくなった! その宝石凄いんだね!」


「これがテストゥード様の甲珠のお力です」


 おお、アイテムを使って道ができていくとはまるでファンタジーじゃないか! ……既に十分この世界はファンタジーだった。

 ノール達のゴリ押しの印象が強くて、こういう正当な手段を使うのが稀な気がする。半分ぐらい俺が原因かもしれないけど。

 でき上がった霧の道に入ると、中はまさに白一色といった感じだ。もしこの霧に包まれていたら、上下左右の感覚すらなくなりそう。

 後ろを見ると俺達が通り過ぎた途端、すぐに背後の道が濃霧によって閉じていく。

 本当に甲珠を持つ人じゃないと通す気がないんだな。セキュリティーも完璧じゃあないか。

 その光景を眺めていると、シスハもきょろきょろと周囲を見て興味深そうにしている。


「中はこれまた凄いですね。もし甲珠なしで中に入っていたら、自分がどっちにいるかもわからなくなりそうです」


「でもお前達って暗闇でも平然と動いてるよな。この霧だって平気なんじゃないか?」


「いえ、この霧はルーナさんが言ったように特別な物みたいです。この領域に入ってから位置感覚が掴めません。大倉さんの方でも何か異常はありませんか?」


「……あっ、本当だ」


 地図アプリを確認してみると、画面が真っ白になって自分達の位置さえ表示されていない。

 ガチャ産のアイテムですら妨害されるとは……やっぱりこの霧は普通じゃないな。

 これじゃビーコンも使えるか怪しいし、ルーナ達をそのまま連れてきたのは正解だった。

 そんな俺達の会話を聞いていたのか、エステルが不安そうな表情で声をかけてくる。


「これじゃ魔物が近くにいてもわからないからちょっと怖いわね。あの魔物が襲ってくるかもしれないもの」


「大丈夫じゃないか? あいつらだってこの霧じゃ俺達の場所はわからないだろ」


「だといいのだけれど。一応警戒はしておいた方がいいと思うわ」


 うーむ、確かにディアボルスを操る黒幕が小島にいるとしたら、この霧を突破する術を持っているってことだ。

 そうなればこの濃霧を利用しない手はない。俺だったら絶対にここで待ち伏せさせて敵を叩きにいくぞ。

 この霧の中なら襲われないだろうなんて安易な考えはせず、ちゃんと警戒はしておかないとな。

 そう気持ちを引き締めていると、ノールが気になる質問をイリーナさんにしていた。


「もし間違って漁師さんがこの霧に入ったらどうなるのでありますかね?」


「悪意を持たぬ者でしたら、陸地に向かって霧の中から出されるだけです。漁師の方々の間では、この付近で遭難したら霧を目指せと言われているそうです」


「それじゃあ悪意を持って入ってきたらどうなるの?」


「その者達の姿を見ることは2度とありませんね。この霧の中にはテストゥード様の眷属もいらっしゃるので、そういう不届き者には神罰が下ります」


 おう、イリーナさんが微笑みながら凄く怖いこと言っているんですが。

 ……ん? それより気になること言ってなかったか。

 テストゥード様の眷属がこの霧の中にいるだと?


「ダラのようなまも……ゴホン、眷属が他にもいるんですか?」


 あぶねぇ、魔物って言い掛けた途端ギョロリとした目でイリーナさんに見られたぞ……。

 眷属って言い直したらまた微笑んでくれたけど、本当にこの人怖いな。


「はい、テストゥード様にはダラの他にも眷属がいらっしゃります。例えばですね……この子とかがそうです」


 笑顔でそう答えたイリーナさんが片手を上げると、霧の中から何かが飛び出してきた。

 そしてダラと並走する形で飛んでいるのだが……それを見て俺はギョッとして心臓がバクバクと鳴り出す。

 飛び出してきた魔物、それは以前俺達を襲ったスカイフィッシュだ。


「あっ、その魔物って私達がたお――むぐっ!?」


「黙ろうな!」


 スカイフィッシュを指出してフリージアがヤバイことを言い出しので慌てて口を塞いだ。

 ヤバイ、ヤバイよこれ、ヤバ過ぎる! スカイフィッシュがテストゥード様の眷属だっていうのか!

 前に襲われて倒しちまってるぞ……知られたらどうなるかわかったもんじゃない。

 チラリとエステル達を見ると、エステルは血の気の引いた顔をしていた。ノールは顔が見えないが同様の雰囲気。

 シスハとルーナはよくわかっていないのか、そんな俺達の様子を見て首を傾げている。

 俺は恐る恐るイリーナさんに質問を始めた。


「そ、その眷属って一般的には知られていないんですか?」


「そうですね。この子達は沢山いるようですが、この霧の中以外では殆ど姿を見せませんので。ですが海の近くにある祠に何か異変があると、すぐに察知して向かうようです」


「も、もし冒険者とかが祠に近付いて襲われて、間違って倒したらどうなるのでありましょうか?」


「……ふふふふ、今までそのようなことはありませんでしたので、私にもわかりません」


 ヒェ――イリーナさんの目から光が消えている。

 い、一体眷属を倒してしまったらどうなるのだろうか。

 実は既に俺達がスカイフィッシュを倒したの知っていたり……こっちを見ている視線が怖い!


 だけど、祠に異変があったら向かう習性があるようだが、あの時どうして俺達は襲われたんだ?

 確かに祠に近付きはしたが手は出していない。強いて言えばフリージアが何かに向かって攻撃したぐらいだが……あの時点で何かしらの異変があったのだろうか?

 駄目だ、考えても全くわからん。

 思考という名の現実逃避しながらも、目の前のイリーナさんにビクビクとしていると、彼女は苦笑を浮かべて話を始めた。


「実際のところは私達も眷属の方々の動向はわかっておりませんから、もし殺められてしまってもわからないのです。その場合はテストゥード様から直々に神罰が下るかもしれませんね」


「そ、そうでしたか……」


 よかった……いや、よかったのか?

 とりあえずイリーナさんにスカイフィッシュを倒したことはバレていないようだ。

 テストゥード様から直々の神罰が下るというのは怖いのだが……。

 襲われたから仕方がなかったとはいえ、精一杯償うからお許しください!

 心の中で懺悔していると、イリーナさんにシスハが質問をしていた。


「それにしてもまるで眷属を呼んだかのようでしたが、イリーナさんはダラさん以外の眷属とも交流できるのですか?」


「はい。と言っても、言葉などを交わすことはできません。聖地の近くでしたら、呼びかけると傍に来てくださるんです」


「あら、それならお姉さんを守ってくれる眷族がここには多いのかしら? それなら心強いわね」


「……そうですね。ですが、あまり眷属の方々を頼るのは不敬ですので……」


 イリーナさんはダラ以外でもテストゥード様の眷属なら、ある程度お願いしたりできるのか。

 スカイフィッシュまで戦力として加わってくれるなら非常に心強いのだが……イリーナさんはあまり乗り気じゃなさそうだ。

 他の眷属に頼るのは状況次第として、可能な限り俺達だけで終えられるよう頑張らないとな。

 そう意気込み霧の中を進んでいる間に、俺はルーナにある物を手渡した。


「ルーナ、島に着く前にこれを使っておいてくれ」


「む?」


 取り出したのはインビジブルマントと俺の血の入った複数の小瓶だ。


「……うむ、これで不意打ちすればいいのだな」


「おっ、渡しただけでよく察してくれたな」


「平八の考えそうなことはわかる。この前もそうだった。相変わらず卑怯な奴だ」


 祠の戦いでもインビジブルマントを使った闇討ちをしたし、完全に俺の戦法は理解しているようだな。

 卑怯呼ばわりされてはいるが少し笑っているから悪くは思ってなさそうだ。

 この中じゃ一撃の威力はルーナが1番あるからな。不意打ちするのに凄く相性がいい。


 それから魔物に襲われることなく霧の中を進んでいると、ようやく霧がなくなり視界が開けた。


「見えてきました。あれが我らの聖地――テスタです」

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