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海上戦

 3体のディアボルスを倒してから、少しして案の定地図アプリに2つ赤い点が表示された。

 恐らく増援できたディアボルスだ。俺達がさっきまでいた場所へ向かっている。

 だが、単純に向かう訳じゃなく倒された地点にあまり近寄らず周囲を警戒しているようだ。

 同じ場所にそのまま行ってもやられるって考えているのか?

 やはり一瞬でやられたにしても、ある程度の情報は共有されているみたいだな。

 とにかく今は俺達の姿を確認したいって感じの動きをしている。

 

 しかし、それはこっちも想定済み。

 既に3体のディアボルスを倒した場所から離れて、反応が現れてからすぐにフリージアの弓の射程圏内まで移動した。

 ディアボルスの姿を確認した後、最初と同じようにフリージアによる遠距離からの狙撃。

 回避する暇も与えずにディアボルス達は矢に貫かれ光の粒子になり消滅していく。

 それから同じようなことが3回続き、全て別々の場所から飛んできた計6体のディアボルスがフリージアによって葬りさられた。


「へへっ、よーしよし。順調に数を減らせているぞ。フリージア、お前は凄く頼りになるな」


「うん! 力になれて嬉しいんだよ! ドンドン撃ち落すよ!」


 まさかここまで上手くいくなんて、フリージアを連れて来て正解だったな!

 何の被害もなく9体もディアボルスを倒せたのは大戦果だ。既に祠の時にいた数を超えている。

 まともに戦っていたらかなり苦戦していたはずだが……これもフリージアの力をフルに発揮しているおかげか。

 相手にこちらの位置を悟らせず、遠距離からの先制攻撃で確実に息の根を止める。

 そしてすぐに場所を移動して、新たにやって来た奴を同じように仕留めていく。

 我ながら素晴らしい戦い方じゃあないか!


「相変わらず大倉殿の作戦はエグイでありますね。ちょっぴり魔物に同情してくるのでありますよ」


「遠距離から一方的に攻撃しているものね。こういう戦い方に関しては、お兄さんが1番頭が回って頼もしいわ」


「うむ、戦わずに済んで楽だ」


「戦いとは非情なものですからね。私達の力を最大限に活用してくださっていますし、大倉さんの卑怯な戦法にはいつも舌を巻きますよ」


「お前喧嘩売ってるだろ?」


「うふふ、褒めているんですよ」


 この俺を卑怯だと! ……まあ、卑怯な戦法だって自覚は多少しているのだが。

 しかし、魔物相手にわざわざ正々堂々戦う必要なんてない。

 安全かつお手軽に倒せるならそれを実行するべきだ。

 今回は特に相手の数の方が多いんだから、卑怯で卑劣な手だとしてもどんどん使っていくぞ。

 シスハの褒めているのかわからない物言いに続いて、イリーナさんも声をかけてきた。


「私も大倉さんの考えられた作戦は素晴らしいと思います。そのおかげでこうして私達は無事にいられるのですから」


 ニッコリと彼女は笑みを浮かべ、俺のことを素直に肯定してくれる。

 あぁ、なんて良い人なんだ。シスハにもこのぐらい愛嬌があってくれても……と思ったのだが、続くイリーナさんの発言に肝を冷す。


「それに聖地を荒らす輩など報いを受けて当然です。大倉さんが悪く思うことなど1つもございません。きっとテストゥード様もお喜びになられていますよ」


「あ、ありがとうございます」


「色々な意味で怖いでありますね……」


 イリーナさんがめちゃくちゃいい笑顔をしているんですが……やっぱりシスハぐらい冗談交じりの会話してくる方が俺にはあってました。

 そんな緊張を紛らわすやり取りをした後も、さらにディアボルスがやってくるか警戒を続ける。

 しかし、俺の予想と違いしばらく待っても地図アプリに新たな反応が現れることはなかった。


「うーん、もうこないみたいだな。あれでこの周囲を警戒していた奴らは全滅したのか?」


「9体もいるなんて相手もかなり力を入れているみたいね。だけどこれで戦力はかなり削れていそうだわ」


「あの魔物が9体いるだけでも相当な脅威でありますよ。それを島に着く前に倒せたでありますし、大倉殿の読みは正解でありましたね」


 祠ですら6体しかいなかったのに、今回は見張りだけで9体もディアボルスを投入している。

 ここまで力を入れているってことは、離れ小島に黒幕がいる可能性はかなり高くなってきた。

 もしあそこで無視して島に向かっていたら、この数も後で相手にしないといけなかったと思うぞゾッとするな。

 各個撃破する案にして本当によかった。


「それにしても色々な方向から魔物がやってきましたよね。それほど分散させていたってことでしょうか?」


「この広い海域をカバーするならそれなりの数がいるだろうな。だけど9体も倒したから残っていてもだいぶ少ないと思うぞ」


「後は島に行くだけ。今回は私が働くことなく終わりそうだ」


 ルーナがいつも以上に嬉しそうにしている。

 全部フリージア任せにしていたから、俺達は何もすることがなかったなぁ。

 ノール達との話の区切りがいいところで、イリーナさんが俺に出発の確認をしてきた。

 

「それでは一刻も早く聖地に向かいましょう。大倉さん、それでよろしいでしょうか?」


「うーん、そうですね……」


 もうディアボルスが来るようには思えない。

 警戒している奴もほぼ壊滅したと思っていいだろうし、後は島に行くだけ……だけど、何か引っかかることがあるんだよなぁ。

 1回ならわかるけど、3回も2体ずつに分けてわざわざやられた場所に送ってくるだろうか。

 一瞬でやられたってわかっているんだから、6体同時にこの場所に送った方がまだ俺達を発見できるし見つけた後も戦える。

 それなのにわざわざ個別に送ってきたのは、何だか妙な違和感を覚えるのだが……。

 このまま島に向かうか迷っていると、突然フリージアが声をあげた。


「むむっ? 平八、あそこに何かいる」


「えっ?」


 いつもなら大声を出すフリージアが小声で呟いた。

 彼女がチラチラと見る後方を俺も確認してみたが、そこには何もいない。

 ノール達も同じように確認しているけど、発見できないみたいだ。


「何もいないでありますが……」


「海にも魔物がいるようには見えないわね」


「地図アプリにも何も映っていないぞ。前にも同じようなこと言ってたよな」


 フリージアは前に断崖絶壁にあった祠のところでも同じようなことを言っていた。

 しかもその後スカイフィッシュに襲われた訳だが……まさか今回も同じようなことが?

 空は勿論、海にも魔物がいるようには見えない。地図アプリにも反応はない。

 だけどフリージアがいると言うなら間違いなく何かがいるはずだ。


「絶対にいるんだよ。撃ち落すから見てて」


 フリージアは弓に矢を番え、虚空目がけて矢を放つ。

 すると――矢は空中に突き刺さる。

 直後、何もいなかった空間から1体の青い魔物が悲鳴を上げながら姿を見せた。


「なっ!?」


「急に現れたのでありますよ!」


 フリージアの矢が突き刺さり現れた魔物、それは青いディアボルスだ。

 な、何なんだこいつは! 一体どうやってここまで近付いたんだ!

 慌ててイリーナさんを体で遮るように守りながら、こいつのステータスを確認した。


 ――――――

●ディアボルス・スカウト 種族:ディアボルス 【状態】眷属

 レベル:80

 HP:3万5000

 MP:1500

 攻撃力:300

 防御力:700

 敏捷:320

 魔法耐性:70

 固有能力 気配探知 思考共有

 スキル ハイド コーリング

――――――


 スカウト……こいつはディアボルスの上位種なのか?

 それにこの固有能力とスキルは……待て、コーリングってまさか!


「フリージア! 早く始末するんだ!」


 俺が叫ぶとフリージアは返事をすることなく弓を構える。

 青いディアボルスは最初の一撃で腹に矢が刺さって苦しんでいたが、フリージアが動いたのを見て逃げようと……はしなかった。

 そのまま何も行動させることなくフリージアは矢を放ったが、着弾する前に青いディアボルスは叫ぶ。

 フリージアの矢が頭に突き刺さると同時に異変は起きた。

 青いディアボルスはそのまま光の粒子になって散ったが、その周囲に大量のディアボルスが姿を現したのだ。


 それに驚く暇も与えてくれず、現れたディアボルス達は一斉にこっち目がけて手に持っていた三叉槍を投げ付けてきた。

 ノール達はすぐさま状況を把握したのか、向かってくる槍を迎撃しようと動く。

 1番に動いたのはフリージアで、今までにない速さで次々矢を放っている。

 フリージアの矢が当たった槍は矢の威力に負けてへし折れて、矢は止まることなく槍を投げたディアボルス達に刺さっていく。


 エステルも風魔法で迎撃しているのか、えいえいとかけ声と共に杖を振って槍を撃ち落としている。

 ノールはレギ・エリトラではなく蛇腹剣を手に持ち、剣を振ると刃が鞭のようにしなって自由自在に動く。

 それでフリージア達が撃ち漏らした槍を払い落としている。

 最後にルーナが出発前に使った影のような魔法を使って、ダラの周囲に展開させて警戒している。

 俺もセンチターブラを展開して、イリーナさんに万が一のことがないように守りに徹した。

 ノール達の活躍で第一波を防ぎ切ったと判断し、俺はすぐにイリーナさんにダラを動かすよう頼んだ。


「イリーナさん! 距離を取ってください!」


「は、はい!」


 突然のことに動揺していたイリーナさんは、俺の言葉に反応してダラにディアボルス達から離れるように指示を出す。

 さっきのディアボルス・スカウトが使ったスキル、間違いなくコーリングだ。

 GCでは使うと離れた場所にいる仲間を呼ぶスキルだった。

 そしてハイドは体を透明にして身を隠すものだ。

 この2つを組み合わせて隠れたまま近付いて、一気に味方を呼んで襲撃するのがディアボルス・スカウトの役割に違いない。


 ステータスもそれに特化しているのか、敏捷が極端に高くそれ以外が通常のディアボルスに比べると低い。

 普通のディアボルスが偵察をする役割だと思っていたけど、まさかこんな奴までいるなんて……リシュナル湖で見た赤いディアボルスもこの系統の上位種なのか?

 どちらにせよ、今はコーリングで呼ばれたディアボルスをなんとかしないと。

 

 振り返って追いかけてくるディアボルスの数は15体。9体で全部だと思っていたのは甘かったみたいだ。

 わざわざ2体ずつディアボルスがこっちに来ていたのは、俺達の位置確認とスカウトが近付くのを悟らせないようにか?

 くっ、完全に油断していたな。


 ダラの方がディアボルスより速いから追いつかれはしないが、後ろから追いかけてくる奴らは三叉槍を投げてくる。

 それをフリージアが迎撃しつつ、隙を見てディアボルス達を撃ち落とす。

 さすがに余裕がないのか、何も言わず真剣な表情で次々矢を放っている。

 それでも10体以上のディアボルスからの攻撃は防ぎ切れず、ノール達の攻撃もくぐり抜けて槍がダラの体を掠めていく。

 それを見たのかイリーナさんがダラの名前を叫んだ。


「ダラ!」


「ご安心ください! 私が支援魔法と回復魔法を掛けていますから、今のダラさんはこのぐらいじゃビクともしません!」


「お姉さんのことも私達が守るから安心してダラに指示を出してちょうだい」


「シスハさん、エステルさん……ありがとうございます!」


 シスハは攻撃手段がないからか、完全に守りに徹しているようだ。

 ダラは元々ステータスも高いし、シスハの回復魔法も合わさればいくら攻撃されてもビクともしないはず。

 エステルも槍を迎撃しつつもディアボルスに反撃できる程度に余裕が出来たようだ。

 ディアボルスの数も徐々に減ってきているし、このまま反撃に転じて……!

 そんな現状打破を思い浮かべた瞬間、黙って矢を射っていたフリージアが叫んだ。


「平八! 見えないのが近くにいるよ!」


「なにぃぃぃぃ!? 呼んだ中に混じってやがったのか! 撃ち落してくれ!」


「あっ! ダラの下に潜り込んじゃって撃てない!」


 おいぃぃ! まだディアボルス・スカウトがいるのかよ!

 普通のディアボルスじゃ追いつけないから、またコーリングして呼び寄せるつもりか!


「エステル! ダラの下を爆破できるか!」


「ええ、任せて! ――えいっ!」


 エステルのかけ声と共に、ダラの真下の空中で爆発が起きた。

 その爆発に巻き込まれたのか、煙が晴れるとハイドが解除されその場で止まっている青いディアボルスを発見。

 爆破と同時に投下しておいたセンチターブラを飛ばし、動き出す前に捕獲する。

 俺のセンチターブラに翼ごと拘束されたディアボルス・スカウトは海に向かって落下していく。


「よし! やれ、フリージア!」


「うん! 任せて!」


 身動き取れずに落下していく青いディアボルスに、フリージアは容赦なく矢を2発ぶち当てて瞬殺。

 無事にディアボルス・スカウトを処理し終えると、通常のディアボルス達が俺達を追いかけるのを止め逃げ出し始める。

 勿論逃がすことなくダラに追いかけてもらい、容赦なくフリージアの矢によって全滅させた。


「ふぅ……何とか乗り切ったか」


「あの魔物が15体に青い種類が2体……見回っていたのも含めて全部で26体もいたのでありますか」


「このレベルの魔物が26体もいたなんて、冒険者協会が知ったら大騒ぎ間違いなしね」


「1体でも大討伐級に匹敵しそうな強さですからね……。今の時点でも大事件ですよ」


「やれやれ、攻撃を避けられないのはめんどうだ。フリージアがいて助かった」


「えへへ、どういたしましてなんだよ!」


 ディアボルス24体に上位種っぽいスカウトが2体……想像を絶する数だな。

 もしこの数を一斉に相手にしていたら、相当苦戦させられたと思う。

 最初に9体個別に倒せていたのが救いだった。後はダラに乗っていたのも大きい。

 囲まれずに一定の距離を保って遠距離攻撃できるのは、フリージアの力を活かすのに最適だった。


 ……島に着く前にまるでボスラッシュを体験したようで疲れたんですが。

 前はディアボルス1体相手にするのも大変だったのに、その辺にいる魔物みたいにポンポン出てこないでくれ。

 ディアボルスをこんな扱いできる奴がいるなんて、島に行ったら一体どれだけの戦力が待ち構えているのか怖くなってきたぞ。

 でも、こうやって俺達もディアボルスを軽々と狩れるぐらい強くなっているんだ。

 必ず今回で黒幕を突き止めてこの騒動を終わらせてやるぞ!

 

 そう俺が意気込みを新たにしていると、戦闘を終えてからイリーナさんが体を震わせているのに気が付いた。

 俺達はもう慣れていたけど、ディアボルス級の魔物の攻撃に晒されたんだから怖いに決まってるよな。


「イリーナさん、大丈夫ですか?」


「大倉さん……いえ、大倉様! 皆様はなんと頼もしい方々なんですか!」


「えっ」


 怖がっているのかと思いきや、イリーナさんは目を輝かせて恍惚の表情を浮かべて俺達を見ていた。

 あれれ、すっごく怖い雰囲気がするんですが……。


「これもテストゥード様が皆様と私達が出会うよう、導いてくださったのですね。あなた方は我々にとって救世主様に違いありません! このイリーナ、皆様方には感服いたしました。どうか、聖地へ共に向かい我々をお救いください」


「あっ、えっと、最初からそのつもりで……お、お願いですから頭を上げてください!」


「……何だかさらにややこしくなった気がするのでありますが」


「お姉さんの中でどんどん私達が神格化され始めているようね」


「終わった後色々と面倒なことになりそうですね……」


 イリーナさんの俺達に対する評価が、とんでもないことになっているようなんだが……。

 まだ島に着いていないというのに、今から終わった後のことを考えると頭が痛くなってきそうだ。

献本でいただいたコミック特装版の缶バッジをウキウキしながら開けたら……平八が出てきました。

ちょっと悔しくて自分で2冊買ったら、平八でジェットスト○ームアタックができるようになりましたorz


あとガチャ6巻のアンケート特典のSSですが、タイトルは【フリージアライフ】となっております。

フリージアのちょっとした日常といった内容です。

是非アンケートに答えてお読みくださればと思います。

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