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出発に向けて

 ルーナ達を連れて行く決断をして、お昼過ぎ頃に彼女達を伴って再度神殿を訪れた。

 だが、まだ話し合いは終わっていなかったみたいで、俺達は神殿の客間に案内されて待たされることに。


「うーん、遅いな」


「話し合いが長引いているのでありますかね?」


「それほど神殿にとって神聖な場所なんですよ」


「場合によっては説得できずに、離れ小島へ行けないかもしれないわね」


 イリーナさんは何が何でも説得するような雰囲気だったけど、そう上手くはいかなかったか。

 あの人だったら勢いだけで押し切れそうだが、神殿の人は守護神が関わると皆あんな感じだったりして。

 絶対話し合いには参加したくないな。大人しく終わるのを待たせてもらうとしよう。

 もし駄目だったら……どうしよう。

 そんな不安を煽る俺達の会話を聞いていたフリージアが声を上げた。


「えー、ノールちゃん達と冒険できると思ったのに……残念なんだよぉ」


「なんだ、来たのに無駄足か。相手に断られたのなら仕方がない。うむ、残念だ」


 フリージアは肩を落とし、ルーナは口では残念と言いながら微笑を浮かべている。

 同じ残念でも含んでいる意味がまるで対照的だな……。

 なんて思っていると、ドタドタと廊下から走る音が聞こえ、バンッと勢いよく俺達のいる部屋の扉が開いた。

 そして中へ入ってきたのは、興奮した様子で満面の笑みを浮かべるイリーナさんだ。


「大倉さん! やりました! 島へ赴く許可をいただきましたよ!」


 そのままの勢いで彼女は俺のところまで詰め寄ってきて、俺の手を両手で握り締めながら顔を近づけてくる。


「これも大倉さんのご活躍のおかげです! 本当にありがとうございます!」


「そ、そうですか……」


 近い近い! どうして毎度真っ先に手を握ってくるんだ! ……いやまあ、ちょっぴり嬉しいんだけどさ。

 そう思っているとエステルさんの不機嫌そうな声が聞こえてくる。


「その割には結構時間がかかったみたいね。やっぱり反発する人もいたのかしら?」


「それは……反発される方も中にはいらっしゃいましたが、丁寧に説明をしてご理解いただきました。神殿長からも認めていただいたので、心配はございませんよ。神殿長もすぐにこちらへ足を運ばれると思います」


 やっぱり俺達が行くのに反対していた人達がいて、説得するのに時間がかかっていたんだな。

 神殿長も認めてくれたのなら安心できる。

 イリーナさんが言った通り、少し遅れて神殿長もこの部屋へとやって来た。


「大倉様、せっかくあなた様が我々の危機をお伝えくださったのに、お待たせして申し訳ない」


「いえ、急に来てあんなことを言い出したら混乱しても無理はないですよ。断られるかもしれないと思っていたぐらいですから。信用してくださってありがとうございます」


「御礼なんてとんでもない。大倉様達には御神体まで取り戻していただき、二度もお世話になっているのです。ですから今回の件も信用するのは当然の行い。ですが反対した者達もテストゥード様のことを思っての意見でしたので、そこはご理解くださると幸いです。どうか聖地をお守りいただけるよう、何卒よろしくお願いいたします」


 そう言って神殿長は頭を深々と俺達に下げた。

 わざわざ神殿長が自ら頭を下げてお願いされるとは……というか、信用して当然とまで言われるなんて。

 反対する人もいるって考えてはいたから、別に悪く思うこともない。

 せっかく信用して許可をしてくれたんだし、気合を入れて小島に向かわないとな。

 神殿長はイリーナさんに箱を手渡すと部屋を後にした。


「聖地へ向かうにはテストゥード様から賜ったこの甲珠が必要となります。今回もダラに乗って皆さんを私が案内いたしますので、さっそく出発いたしましょう」


 イリーナさんが箱を開けると、その中には緑色に輝く宝石が入っていた。

 六角形になっていて、甲羅のような模様が入っている。

 あれが島に行くのに必要な物なのか……それを持ち出さないといけないから、反対する人もいたんだろうな。

 それと今回もやはりダラに乗っていくのか。急ぐ必要があるし、船で行くんじゃ時間がかかるだろうから助かるな。

 さて、これで島に行くことはできるけど、その前にもう1つ許可を貰わないと。


「わかりました。ですが1つお願いがありまして……彼女達も一緒に連れて行ってもいいですか?」


「はーい! 私も一緒に行きたいんだよ!」


「気は進まないが同行しよう」


 俺が手を向けると、フリージアは元気よく手を上げて挨拶をし、ルーナは腕を組んで仏頂面をしている。

 そんな2人を見てイリーナさんは、困惑した表情を浮かべた。


「先程からお2人がいて気になってはいたのですが……どうして彼女達を同行させるのでしょうか? フリージアさんはご立派な弓を持っているみたいなようですけど……ルーナさんを連れて行くのは大変危険かと」


「心配するな、私は強い。魔法が使える。ポンコツよりも役立つ」


「むぅー! そんなことないもん! 私だってちゃんと力になるんだよ!」


 見た目でわかってもらえるよう、フリージアにはディバインルクスをわかりやすく持たせていた。

 そのおかげでイリーナさんもフリージアが射手だとわかったみたいだが、ルーナには疑問を抱いているようだ。

 腕を組んで自信満々そうに自分で強いと言っているが、エステルよりも小さいルーナが言っても説得力がないな。

 でも、ここで引き下がる訳にはいかない。


「えっと、ご不安になるのもわかりますが、実はこの2人に時々狩りや調査を手伝ってもらっているんですよ。冒険者ではありませんけど、最低でもBランクの腕前はあります」


「そ、そうなのですか!? フリージアさんの弓を見ればそれも頷けますが……ルーナさんもなんですか?」


「うむ、実際に見せてやろう。ついでにポンコツの弓の腕も見せるといい」


「了解しましたなんだよ!」


 あまり時間をかける訳にもいかないが、信用してもらう為に2人の力を見てもらうことになった。

 人の気ない神殿の庭に案内してもらい、エステルに土魔法でそこそこ大きい的を作ってもらう。


「はい、これで的は完成ね。ちょっとやそっとじゃ壊れないようにしておいたわ」


「こんな簡単に的を作れるとは、やっぱりエステルの魔法は便利でありますね」


「それではさっそくやってみましょう! おりゃぁぁぁぁ!」


 制止する暇もなく、エステルが作り出した土の的にシスハが拳をぶち込んだ。

 縦が3メートルほどある的のど真ん中に命中すると、バンッと音を立てて爆発が起きた。

 シスハの奴、殴るだけじゃなくてプロミネンスフィンガーまで使いやがったぞ!

 フリージア達が試す前にぶっ壊してどうする!

 と思ったが、煙が晴れると土の的は全く傷が付いていなかった。


「……傷1つありません。さすがエステルさん産の標的ですね」


「お前がやってどうするんだよ! 時間も勿体ないからさっさとルーナ達にやらせるぞ」


「手が爆発した……? シスハさんはそのような技まで習得していらっしゃるとは、やはりシスハさんは凄いです!」


 イリーナさんが拳を爆発させたシスハに向かって憧れの眼差しを向けている。

 相変わらずシスハの攻撃的な部分を尊敬しないでもらいたいのだが……これで的の耐久性はわかってもらえたはずだ。

 さっそく俺達は離れて、まずはルーナが実力を見せることになった。


 いつものように気だるそうな表情をしているが、手を前に突き出すと魔法陣が現れる。

 そこから黒い影のような物が飛び出すと、土の標的に向かって次々と尖った先端が突き刺さってゴリゴリと表面を削っていく。

 ある程度削ると標的を影が広がって包み込み、バキッと音を立てた後影は地面に沈んで消える。

 そして影が消えた後には、土で作られた標的は跡形もなくなっていた。


「ふむ、並の魔物ならこれで即死だろう」


「あ、あの爆発でも無傷だった的があっさりバラバラに……本当にルーナさんも凄い方だったのですね」


「さすがルーナさんです! 私よりも遥かにお強いんですから!」


 イリーナさんが目を見開いて驚愕している。

 おいおい、エステルとまた違った意味で凶悪な魔法だな。

 土の的は一体どこに消えたんだ。


「あんな魔法まで使えたのかよ……というかかけ声すらないんだな」


「声を出すのがめんどうだ。普段は槍を使った方が早い。魔法など使わない」


「確かにルーナだったら魔法を使うよりもそっちの方が戦いやすいわよね」


「ルーナは槍だけじゃなくて魔法も使えて、羨ましいのでありますよぉ」


 今までブラドブルグとマントを出す魔法しか見ていなかったけど、こんな魔法も扱えたんだな。

 だけど槍で攻撃した方が遥かに強いから、魔法を使う必要は確かになかったか。

 近接主体で魔法まで扱えるなんて、ノールからしたら羨ましいだろうな。

 

 ルーナの実力を確認してもらい、今度はフリージアの番だ。

 フリージアはディバインルクスを構えてやる気満々な表情をしている。


「むっふん! 次は私の番だね! もうポンコツなんて言わせないんだよ!」


「おー、頑張れポンコツ」


「うん! 頑張るんだよ!」


 ルーナがパチパチと拍手をしてそう言うと、嬉しそうに片腕を上げて喜んでいる。

 本当はポンコツ呼ばわりされているの、大して気にしていないのでは……。


「フリージア、あまり本気でやるんじゃないぞ」


「任せてほしいんだよ! ちゃんとルーナちゃんみたいに的を壊すからね!」


「後ろにいくつか壁を作っておきましょうか……」


「ああ、頼んだ……」


 フリージアの様子を見てエステルも不安に思ったのか、土の標的を作り直す際に後ろにいくつも壁を付け足している。

 もし貫通して後ろに飛んでいったら大惨事になっちまう。

 

 準備も整ってフリージアは弓を構えた。

 さっきまでのおちゃらけた雰囲気がたちまち消え失せて、弦を力強く引っ張っていく。

 そうして放たれたディバインアローは、標的のど真ん中をぶち抜いた。

 かと思いきや、2発、3発とフリージアは矢を立て続けに放っていく。

 1発目で上半分が消し飛んで後ろの壁も粉砕し、2発目と3発目で跡形もなく粉々になった。

 フリージアはそれを終えると、満足そうに腰に手を当てて満面の笑みを浮かべている。


「えっへん! ちゃんと的を粉々にしたんだよ!」


「おぉう……的が跡形もないのでありますよ」


「魔法じゃなくて物理攻撃で粉砕しやがったぞ」


「壁を作っておいてよかったわね。分厚くしておいたのに3枚ぐらい貫通しちゃってるわ」


「むぅ、私だって槍を使えばあれぐらい」


「ルーナさん、張り合ってはいけませんよ。私はわかっていますから」


 やっぱり注意しても無駄だったか……エステルが壁を作ってくれてよかったぞ。

 ルーナが頬を膨らませて対抗心を抱いているが、魔導師だって誤魔化しているんだから止めてもらいたい。

 肝心のイリーナさんを見ると、目を点にして唖然とした表情をしている。

 ルーナだけでも驚いていたけど、フリージアのとんでも火力を見て驚いたみたいだ。


「えっと、彼女達も連れて行って問題ありませんよね?」


「あっ、はい。むしろ頼もしいぐらいです。このような方々まで連れて来ていただけるとはお心強いです」


「そう言ってもらえるなら連れて来てよかったです。ですが、彼女達のことは冒険者協会にはご内密にしていただけると……」


「何か事情がおありなのですね。ご安心ください。私共の為に協力していただくのですから、決して彼女達のことは口外いたしません」


 フリージア達の実力を目の当たりにして困惑したみたいだが、イリーナさんは苦笑しながら答えてくれた。

 よかった、やはりイリーナさんは信頼の置ける人だな。

 2人の実力を確認してもらった俺達は、ダラに乗って小島に向かい出発するのだった。

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