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出発前の問題

 神殿での話し合いが終わるのを待つ間、俺達は一度帰宅したのだが……俺は悩んでいた。


「うーむ、どうしたものか」


「む? 何かあったのでありますか?」


「ああ、ルーナ達のことでちょっとな」


 神殿での話を聞いた後、どうしたらいいかずっと悩んでいた。

 そんな考え事をしている俺の足元には、さっきからゴロゴロとフリージアが床を転がりながら叫んでいる。


「ぶー、また平八達だけでお出かけなんだよー! ズルいんだよー! 私も冒険したいんだよー!」


 帰ってきた翌日にまた俺達がいなくなるのがご不満みたいだ。

 散歩で外出させていたからそこまで騒がないと思っていたけど、置いてけぼりにされるのも嫌なのか。本当に困ったエルフだな。

 そんなポンコツエルフとは対照的に、ルーナがシスハの膝の上に座りながらダルそう声で嘆いている。


「またこのポンコツと留守番だー。疲れるぞー」


「はぁー、私もルーナさんと離れるのが嫌ですよー」


 ルーナまで既に留守番モードなのか、2人して今にも溶けそうな表情をしてやがる。

 というかシスハまでそっち側の雰囲気に混じってるんじゃねぇ!


 ノールと共にそんな彼女達の様子に呆れていたのだが、エステルが真面目な声色で話しかけてきた。


「お兄さん、悩みごとってもしかしてフリージア達をどうやって小島に連れて行くかってこと?」


「さすがエステルだな。まさにその通りだ」


 悩んでいたことを的中させるとは、本当にエステルさんは凄いな。

 俺が考えていたのはズバリその通りで、フリージア達を小島に呼ぶにはどうしたらいいかということだ。

 最初はいつも通りビーコンで呼べばいいと思っていたが、想像していたよりも小島が遠い可能性がある。

 それでも陸地の近い場所に置く、エアーロープにビーコンを吊るして空中に設置、エステルに頼んで陸地を作ってもらうなり方法はいくつか浮かぶから問題はないと思っていた。

 だが、神殿で話を聞いた感じからすると、小島でビーコンが機能してくれるか自体怪しい。


「島が動くとか霧が立ち込めているとか、間違いなく特殊な力が働いている場所だ。ビーコンは迷宮とかで使えないことがあるし、今回も電波が妨害されて機能してくれないかもしれない。小島に着いた後にそれがわかっても手遅れだし、ビーコンを当てにできない」


「なるほど、それは確かに問題でありますね。フリージア達がいるといないでは天地の差なのでありますよ」


 もし現地でフリージア達を呼び出せない! なんて事態になったら最悪だ。

 小島に着いた後に戻れるならまだいいけど、そう簡単に帰れるとは思えない。

 それにもし敵がいたとしたら、海を渡って逃げるのは危険過ぎる。

 どんな罠があるかわかったもんじゃないし、行くなら絶対に万全の状態で行きたい。

 そうなると取れる手段は……。


「今回はビーコンで呼ぶんじゃなくて、イリーナさんに頼んで普通にフリージア達も同行させるか?」


「えっ! 一緒に連れて行ってくれるの!」


「まだ話の途中なんだからはしゃがないの」


「はい! 黙ります!」


 エステルに注意され、フリージアは手で口にチャックをしてビシッと敬礼し黙り込んだ。

 それでも嬉しさを隠し切れないのか、体がプルプルと震えている。

 うーん、こういうのを見ると連れて行くのが心配になるんだよなぁ……。

 それはとりあえず置いておいて、先に話を進めよう。


「だけど普通に連れて行くとしても、イリーナさんにどう説明したらいいか悩んでさ」


「今回ばかりは慎重に考えた方がいいと思うわ。ビーコンが使えない可能性を考えると、何かあったら私達も逃げられないもの。フリージアとルーナは絶対に欠かせないわ」


 そうか、フリージア達を呼べないってことは、俺達もビーコンで逃げられないってことだ。

 祠の時は脱出装置があったからよかったけど、外となると逃げる手段がまるでない。

 これはさらに最初からフリージア達を同行させるべきだと思ってきたぞ。

 

 だけどフリージア達を連れて行くとして、どうやって説明すればいいんだ?

 正直にこの2人は強いから戦力として連れて行きます、って言うのはなぁ。何かいい言い訳はないだろうか。

 それからどうしようか悩んでいたが、ノールが人差し指を立てて声を上げた。


「あっ、もし船に乗るようならインビジブルマントはどうでありますかね? あれなら一緒に乗っていても、神殿の人達にわからないのでありますよ」


「うーん、守護神の加護があるあの人達だと何かのきっかけでバレる可能性がありそうです。それに船に乗ったらフリージアさんがジッとしていられると思えませんよ」


「そんなことないもん! 私はちゃんと大人しくする! マジだよ! 信じて!」


 フリージアが両手をグーにして必死に訴えているが、シスハ達の顔を見るとまるで信じていない目を向けている。

 最初は我慢できたとしても、途中でわーとか声を出して、最終的にインビジブルマントを脱ぎ捨てて走り回る姿が目に浮かぶ。

 うん、隠れながら一緒に来てもらう案は無理だな。


「インビジブルマントは悪くなさそうだけれど、止めておいた方がよさそうね。もしかしたら船じゃなくて、例のダラって子で連れて行かれる可能性もある訳だし」


「あの様子を考えるとそっちで行く可能性は十分にあるな」


「それだとインビジブルマントは絶対に使えないでありますね……」


 神殿でのイリーナさんの反応を思い返すと、祠の時と同じように一刻も早く向かうべきですって言いそうだもんなぁ。

 そうなると間違いなくダラに協力してもらうだろうし、透明になって一緒に乗るのは厳しいか。

 結局その後もいい案が出てこなかったのだが、黙って俺達の話を聞いていたルーナが口を開いた。


「平八、私達をそのまま一緒に連れて行け。疑われたら、私のことはエステルの使い魔とでも言っておけ」


「えっ、だけど……」


「いちいち隠れるのもめんどうだ。道中が安全という保証もない。平八達に何かあったら困る」


 まさかルーナが真っ先に連れて行けなんて言うとは……しかも俺達を想ってのことっぽい。

 ちょっと顔と耳を赤くして恥ずかしそうにしているぞ。


 それにしてもエステルの使い魔か……言われたら絶対に怒りそうなことを自分から言うとは。

 この世界に人型の使い魔がいるのかわからないが、それなら多少の誤魔化しは効くか?

 ルーナも魔法が使えるし、最初は魔導師と言っておいて、何か疑われるようなら使い魔ってことにしよう。

 幸い見た目だけなら吸血鬼だとバレはしないからな。

 フリージアは耳さえ見せなければ問題ないから、これで実力を見せればイリーナさんも同行を許可してくれるだろうか。

 今回は素直に戦力になるから連れて行くって言うしかなさそうだな。


「やっぱり今回は普通に連れて行くべきね。ルーナ達が戦えることを知られるよりも、小島での危険を少なくする方が重要よ」


「現地に呼べない可能性を考えると、それも仕方がないでありますね」


「やった! 平八達と一緒にお出かけできる! 私がしっかりとお守りしちゃうんだよ!」


「……この調子で本当に大丈夫か少し心配だわ」


 エステルが不安そうに頬に片手を添えて喜ぶフリージアを見ている。

 一応フリージアも俺達を守るって認識らしいけど、何故か喜ぶ姿を見ていると俺も不安を覚えてくるぞ。

 ルーナよりもこいつの方が大丈夫なのか心配なんですが。


「小島に着いた後のことばかり考えていますけど、ルーナさんが仰ったように道中も考えるとそれが無難ですよね。船やダラさんに乗っている最中にディアボルスに襲われたら、私達だけじゃ対応するのは厳しいですし」


「私も空間を指定して爆破できるようになったけど、使うまでに少し時間がかかるから対処し辛いわね。その点フリージアならすぐに撃ち落せそうだもの」


「えへへ、そんなに期待されると照れちゃうんだよー」


 フリージアは頭を擦って笑っている。

 うーん、対空戦力としては間違いなく1番期待できるけど、やっぱりどこか不安になるな。

 この判断が吉と出るか凶と出るか……同行させるのが怖いなぁ。

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