表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
190/410

夜の散歩

 翌日から3日かけてリシュナル湖の調査を続けたが、大発生の生き残りらしきレックス2体と遭遇した程度でその後は特に異変は発見できず。

 全体の確認を終えた俺達はリシュナル湖を後にして、急ぎ足でセヴァリアへと戻った。

 町に到着後、冒険者協会に足を運び今回の異変の経緯を説明するべく、ノール達には待ってもらい俺とグレットさんでベンスさんと話をすることに。

 2人でリシュナル湖に到着してから起きた出来事を話すと、ベンスさんはとても驚いた。


「いやいや! まさかそんな騒ぎが起こったなんて! 規模としては間違いなく大討伐と言ってもいいぐらいだよ! それをたった2パーティで解決しちゃうとは凄い! グレットさんと大倉さんに調査を頼んで本当によかったよ!」


「私達としては、大倉さんをご紹介してくれた支部長に感謝したいです。これが他のBランクパーティでしたら、放置して逃げるしかありませんでしたので。むしろあの魔導師の子と神官の方がいなければどうすることもできなかったはずです」


「グレットさんがそこまで言うとは、エステルという子はやはり只者じゃない! それにシスハさんもあのイリーナさんが一目置いていたのも納得だ!」


「なるほど、神殿にお仕えしているイリーナさんが一目置くほどの方だったのか……。私達は想像以上に凄いパーティの方々とご一緒させていただいていたのだな。あの2人だけじゃなくノールという方も凄かった。クロコディルス・レックスを1人で倒してしまわれるほどの実力、あのような冒険者の方がいたのは驚きだ」


「レ、レックスを1人で倒した!? 大倉さんのパーティはそれほどの方々の集まりだったとは……これはAランク冒険者になるのも時間の問題だよ!」


「あはは……そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、私達はまだ冒険者として経験が不足していますのでAランクは早いですよ」


「なんと謙虚な! わかりました! 大倉さん達がAランクになれるようこのベンス、精一杯応援させていただきます!」


 ベンスさんが胸の前で両手を握り締めて目を輝かせながらこっちを見ている。

 そんな目で見られても非常に困るのだが。

 祠の件から立て続けに異変を解決したせいか、ベンスさんの中で俺達の評価が異常なぐらい上がっていそうだぞ。

 Bランクの今でさえこうやって依頼で忙しいし、Aランクになったら魔石狩りに行く暇もなくなるかもしれない。

 正直今の立ち位置が1番無難そうな感じだが……なるとしたらもっと魔石供給が安定してからだな。

 まあ、それはAランクに上がる話が来たら考えればいいや。


「しかし今回の件といい、このセヴァリアで一体何が起こっているのかな。こんな立て続けにおかしなことが起きるなんて、今までなかったよ。ましてや大討伐なんて……例の魔物といい、本当に魔人が関わっているんじゃ……」


「魔人、か。私も探索で時折魔人が関与したという場所に行くこともあるが殆どは噂話みたいだ。そんな魔人がこの町に来ているとは到底信じられないが……この異変を体験したらそうも言っていられないな」


 ほお、噂とはいえ魔人関連の場所が他にもあるのか。

 セヴァリアでも昔話に魔人が出てくるぐらいだもんなぁ。

 この町の異変が解決したら、その噂話のある場所とやらを調べてみるのもよさそうだな。


「大倉さん達のおかげで被害もなく済んでいるけど、大討伐まで起きたと思うと不安にもなってくるよ。他の冒険者にも情報提供をお願いしているけど、最近は例の魔物との見間違い報告ばかりではっきりとした情報もないんだ。やっぱり祠の件を解決して以降、あんまり活動はしなくなったみたいだね。せめてどこからあの魔物が来ているのかわかればいいんだけど……」


 ベンスさんは腕を組んでうーんと考え込んでいる。

 異変を解決しているとはいえ、毎回相手が行動を起こしてから俺達も後を追っているだけだ。

 だが、今回の異変で手がかりを掴んだ今、今度こそ相手が動く前にこっちから仕掛けられる可能性が出てきた。


「もしかしたらですけど、次は異変が起きる前にこちらから先手が打てるかもしれません」


「なんだって!? 凄いよ大倉さん! さすが彼女達のいるパーティのリーダだね!」


「あっ、いえ。それも彼女達と相談して可能性がわかっただけですので……」


「先手とは……今回の異変で何がわかったというんだ?」


 首を傾げるグレットさんとベンスさんに、先日エステル達と話し合った考えを説明した。

 リシュナル湖の異変は近くにあるという小島に行かせないようにする為で、もしかしたらそこで何かしているかもしれない、と。


「なるほど、そういえば私達があそこで遭遇した時も海の方に逃げていた。だが、そう思わせようとわざとやっている可能性はないのか?」


「それは否定できませんが……リシュナル湖の異変を考えると小島に何かある可能性は高いと思うんです。あまり人が立ち寄る場所じゃないようですし、隠れるにはもってこいのはずです」


「確かに……どちらにせよ手がかりがない今、そこを調べてみる価値はあるかもしれない」


「小島を調査するのなら神殿に一応許可を貰った方がいいかな。あそこは神殿が管理しているし、詳しい航路も神殿の人しか知らないんだ。危ないから絶対に無断で行かない方がいいよ。大倉さん達なら快く許可してもらえると思うからね」


「はい、イリーナさんにご相談しようかと思っていましたので、後日伺おうと思っています」


 その離れ小島とやらは、イリーナさんの話を聞いた感じだと神殿の聖地みたいだったからなぁ。

 それにベンスさんの言い振りからして、普通に船で行っても辿り着けるか怪しい。

 この前の祠のように結界も張っていそうで何があるかわからないし、神殿に話を通しておいた方がいいだろう。


 話もまとまり報告も終えたので、ベンスさんから今回の調査依頼の報酬を受け取り、俺とグレットさんは支部長の部屋を後にした。

 なんと今回の依頼、クロコディルスの大量発生を解決したということで各3500万ギルの追加報酬が。

 正確な数はわからないけど、クロコディルス・レックスが10体以上出現した異常事態ということでこの額だ。

 今回の件はただ事じゃなかったということで、王都の冒険者協会にも報告するらしい。

 レックスは単体じゃ大討伐といえるほどの魔物じゃないけど、それが1度に複数体出てくるのは前代未聞だとか。

 想定外の報酬でルンルン気分だが、この先のことを思うと少しばかり不安だから素直に喜べない。

 冒険者協会内で待っていたノール達と合流し、依頼も終わったということでグレットさん達と別れの挨拶を始めた。


「大倉さん、今回はあなた方とご一緒できて助かった。私達も今後は異変について積極的に調べるつもりだ。お互いに協力できたら嬉しく思う」


「グレットさん達と協力できるのでしたらとても心強いです。神殿から伺ったお話も協会を通してお伝えいたしますね」


 グレットさん達にはお世話になったし、これからも協力してもらえるなら心強い。

 ……欲を言えばセヴァリアの異変が終わった後、魔石狩りグループの一員になってもらいたいところだ。

 信頼できる人達だしガチャ産のアイテムを渡しても問題はないはず。


 挨拶も終えこれで解散、と思いきや、その前にマースさんが声をかけてきた。


「何かあればいつでも俺達に言えよ。出来る限りはお前達に協力してやるからよ」


「はい、ありがとうございます」


「あれだけ疑っていた方がここまで言ってくれるとは意外ですね。私達のことを信用してくださったんですね」


「か、勘違いするんじゃねーぞ! 拠点にしているセヴァリアで何かあったら困るだってだけだ! ちっ、もう行くぞ!」


 シスハの言葉を聞いたマースさんは、顔を赤くして髪をくしゃくしゃとかきながら協会から出て行ってしまった。

 グレットさん達はそれを見てくくっと小さく笑うと、俺達に軽く頭を下げてその後を追っていく。


「全く、最後まで素直じゃない方でしたねー」


「でも、会った時に比べるとだいぶ対応も柔らかくなっていたのでありますよ」


「そうね。これもお兄さんとシスハのおかげかしら」


「うふふ、私の手にかかればこんなものですよ! 私は神官ですからね!」


 腰に両手を当てて胸を張る神官様を見て、俺もエステルも額に手を当てて溜め息を吐いた。

 確かにシスハのおかげで打ち解けられた部分もあるけど、絶対に半分ぐらいは面白がっていただろ……。

 シスハに感謝しつつも呆れながら俺達も協会を出て、日も落ちていたのでそのまま帰宅した。


「ルーナさん! 私は帰ってきましたよー!」


 家に着いた途端、シスハは満面の笑みを浮かべてダダダっとルーナの部屋目がけて走っていく。

 その姿にまた呆れながらも室内を見ると、特に荒れてないし俺達が留守の間家の中は平和だったご様子。


「今回は家の中が荒れてないし無事に過ごせたみたいだな」


「むふふ、フリージアは良い子でありますからね。ルーナと仲良くしていたに違いないのでありますよ!」


「本当にそうだといいけれど」


 エステルが頬に手を当てて心配そうにしていると、シスハが向かった部屋の先からドタバタと走り回る音が聞こえる。

 そしてバンッと音を立てて扉を開けながら、血相を変えて慌てた様子のシスハが出てきた。


「ど、どうしたんだ?」


「ルーナさんがどこにもいらっしゃらないんですよ! ノールさん! モフットさんの小屋にフリージアさん達はいらっしゃいませんか!」


「む? ちょっと見てくるのでありますよ」


 ルーナがいないだと? もう日が沈んで外は真っ暗だし、いつも通り寝てると思っていたけど部屋にはいないようだ。

 フリージアの姿も見当たらないみたいだし、モフットの小屋にでも入っているのか?

 そう俺も考えたが、小屋の様子を見に行ったノールは腕にモフットを抱えて1人で戻ってきた。

 抱き抱えられた白い毛玉は、プープーと寝息を立てて気持ちよさそうにしている。


「モフットしかいなかったでありますよ。フリージアの部屋はどうなのでありますか?」


「既に確認済みです! ああ、一体どこに行ってしまわれたのですかルーナさん……」


「名前を呼んだらすぐに来るフリージアが来ないってことは、家の中にはいないんじゃないかしら?」


 あの地獄耳のフリージアなら、名前を言えば何々! とか騒ぎながら居間に来るはずだ。

 それがないってことはやはり家の中にいないってことなのか?

 だけどそうなると、同じくいないルーナも外出していると?

 確かにフリージアの外出の付き添いを頼んではいたけど、こんな夜遅くまで外出するとは思えない。

 まさか何かトラブルに巻き込まれたんじゃ……と考えが過ぎった瞬間、またバンッと扉が開く音が聞こえた。

 玄関の方から音が聞こえたので振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべるフリージアの姿が。


「あー! やっぱり帰ってきてた! おかえりなんだよ!」


「ただいまでありますよ。外にいたのでありますか」


「うん! ルーナちゃんと散歩してたんだよ!」


 フリージアが片手を上げながら元気よくそう言うと、遅れてルーナが家の中に入ってきた。


「ふぅ、やれやれ。急に走ったと思えば平八達がいたのか」


「ルーナさん! おかえりなさいませ!」


「うむ、ただいま。シスハもおかえりだ」


 よかった、トラブルに巻き込まれた訳じゃなかったみたいだな。

 だけど夜に散歩をしているとは思わなかったぞ。


「こんな時間に外に出かけていたのか」


「昼は平八達に呼ばれるかもしれないから夜に散歩をしていた。このポンコツに何かあっても夜なら誤魔化せて都合もいい」


「確かに私達が調査をするのって昼間が多いから避けた方がいいわね。だけどよくフリージアがそれで納得したじゃない」


「えへへ、夜の散歩もお月様が綺麗で楽しいんだよー。ルーナちゃんも夜の方が楽しそうにしてくれるし!」


「別に楽しんでいる訳ではない。日光がない方が気分的にいいだけだ」


「またまた~、鼻歌歌いながらお出かけし――ててて!? 痛い! ルーナちゃん痛いんだよ!」


 ツンツンと指先でルーナの頬を突いたフリージアは、ルーナに思いっきり指を噛み付かれた。

 ほほぉ、夜ならあのルーナもそれなりに機嫌よく散歩をするみたいだな。

 しかし俺達のことを考えて夜に散歩をしているとは思わなかった。

 言われてみると調査をするのは大体日中だし、ルーナ達を呼び出すのはその時間になる可能性が高い。

 だったら昼は家で待機して、夜になってから外出した方が呼び出しの心配もない。

 フリージアなら日が出ているうちじゃないと嫌だ! とか言いそうだけどそこまでわがままじゃなかったか。


「とりあえず俺達がいない間に問題はなかったみたいだな」


「……大丈夫だ、問題ない」


 少し間を置いて答えたルーナは、目を逸らして俺と視線を合わせないようにしている。

 おい、どう見ても問題があったようにしか見えないんだが。


「今の間はなんだ。もしかして何かやらかしたんじゃないんだろうな?」


「何もしていないんだよ! お昼はモフットと遊んで、夜はルーナちゃんと散歩していただけだもん! 変わったのなんて町の外にいた魔物射抜いたぐらいだよ!」


「やってるじゃねーか! 何やってんだよお前!」


「いひゃい! やめへ!」


 元気よく答えたフリージアを見て、つい頬を両手で押さえてグリグリと潰してしまった。

 マジでなんてことしてくれてんだよこいつは……誰かに見られたらどうするつもりだ!


「どうしてそんなことしたのかしら?」


「壁を登って散歩中に外で襲われている奴らを見つけた。だからフリージアが魔物を射抜いた。止められなかったのはすまなかった。私達の周囲に人の気配はなかったから見られてはいないはずだ」


「壁を登って散歩するのもどうかと思うでありますが……手を出したくなるほど危なそうにしていたのでありますか?」


「うん……でもでも、凄く離れていたから大丈夫なんだよ!」


「ちなみにどのぐらい遠くの魔物を射抜いたのですか?」


「うーん、前にラピスって魔物を倒したのより遠かったかなぁ。誰にも見られていないから安心してほしいんだよ!」


 ラピスってことは、前にルゲン渓谷でフリージアの腕試しをした時だな。

 あれでも1キロ近くは離れていたが……あれ以上の狙撃をしたってことか?

 こいつはポンコツ気味だけど、実力は本当に優秀だな。


 ……まあ、人助けをしたみたいだから大目に見てやるべきだが、人目に付きそうな場所でやらないでほしい。

 ルーナが止められなかったと謝っているのは、襲われているのを見て止めるのを躊躇したってところか?

 一応目撃者はいないっぽいけど、遠くから見ていたり助けられた相手がブルンネに来て噂が広がっているかもしれない。

 しばらくフリージアが町の中で弓を持たないように注意した方がよさそうだ。

 全く、セヴァリアの異変も謎が深まるばかりだが、こっちもこっちで色々と大変だなぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ