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和解

 浄化も終わり日が沈み始めたので、俺達はリシュナル湖を後にした。

 これで調査も終了……といく訳もなく、もう数日探索を続けて他に異変がないか確認をしないといけない。

 なので今日はある程度離れた場所まで移動して野営をしている。


「今回はあなた達と一緒の依頼で本当に助かった。私達だけだったらどうなっていたことか……」


「いえ、私もマースさんに危ないところを助けられましたので。グレットさん達と同行できてよかったです」


「そうね。おかげで私もお兄さんも食べられずに済んだもの」


 危うくクロコディルス・レックスに食べられるところだったからな……マースさんには感謝しないと。

 そのマースさんは行きと同じように離れた場所で座っているけど、ちらちらとこっちを見ているような気がするぞ。

 グレットさん達は今日の異変についてそれぞれ話している。


「Bランク2パーティに依頼する調査と聞いて警戒はしていたが、ここまで凄まじいものとは思わなかった」


「レックスが12体にクロコディルスが数えられないぐらいだったし、もうこれ大討伐だよ。大討伐に参加したことないし良い経験ができたよねー」


「バカもん、何が良い経験だ。あんな大量のクロコディルスに囲まれて、寿命が縮んでしまったわ」


 アゼリーさんにヴァイルさんが突っ込みを入れている。

 俺達は大討伐級をもう何回も体験しているけど、大討伐がそう頻繁に起きる訳ないもんなぁ。

 クロコディルス・レックスは全部で12体も出現して、その全てをエステルとノールだけで倒してしまった。

 ドロップアイテムの皮はかなりの希少素材ということでちゃんと回収済みだ。

 防具の素材になるみたいだから、これはディウス達にでも渡すとするかな。

 

 そんなこと考えていると、さっきまでちらちらと見ているだけだったマースさんが近付いてくる。

 ズボンに手を突っ込みながらばつが悪そうな顔をしていたが、彼は俺に向かって声をかけてきた。


「その、なんだ……色々と悪かったな」


 マ、マースさんが謝ってきた!? 急にどうしたのだろうか。

 困惑している俺を他所に、謝ってきたマースさんを見てシスハが愉快そうに笑っている。


「うふふ、ようやく私達を認める気になったみたいですね。正直に謝罪してくるなんて、あなたにも素直な部分があるじゃあありませんか。感心いたしましたよ」


「うるせぇ! ったく、こいつ本当に神官なのかよ……」


「うちの神官が本当にすみません……」


 せっかく謝りに来てくれたのに何言ってやがるんだ! 本当にどうしようもない神官様だな。

 でも、それで気が紛れたのかばつが悪そうな顔をしていたマースさんがすっかりいつもの調子に戻っている。

 それから彼は真面目な表情に変わると、俺をジッと見つめてきた。


「どうかしましたか?」


「……お前には特に散々なことを言って悪かった。大倉、囲まれた時はお前のおかげで助かったぜ」


「いやぁ、そんなことは……」


 マースさんにお礼を言われるなんて! それに大倉って初めて呼んでもらえたぞ!

 これは認めてもらえたと思っていいのだろうか。

 ……あれ、何かおかしい。囲まれたって足場が崩れた時のことを言ってるんだよな?

 あの時に女神の聖域を張ったのはシスハがやったことになっていたのに、どうして俺にお礼を言うんだ。

 疑問に思いつつグレットさん達との話を終えた後、俺はシスハ達と話し合うことにした。


「なぁ、マースさんはなんで俺にお礼言ってきたんだ? 言うならシスハにじゃないのか?」


「もしかするとあの方、女神の聖域を使ったのが大倉さんだって気が付いているのかもしれませんね。なかなかやるじゃありませんか」


「あれだけ自信満々に言ったシスハに騙されないなんて凄いでありますね。私だったら完全に信じちゃうのでありますよ」


「断言している訳じゃないから気が付いているのかわからないけどね。でもわざわざ言ってきたってことは、何か勘付いているのかもしれないわ。それだけよく周りを見ているってことね」


 確かにあの時女神の聖域は、使用者である俺を中心に展開された。

 まさかそれを見て発動させたのが俺だって勘付いたってことなのか?

 警戒心が強いってグレットさんが言っていたけど、こんなところまで気が付くとは思わなかった。

 泥に埋もれたテストゥード様の御神体を見つけたのもマースさんだし、あの人ってかなり凄い人なんじゃないだろうか。

 疑問も晴れたところで、次に今回の異変について話すことになった。


「あと何日か調査は続けるけど、ひとまずリシュナル湖の異変は解決できたってところか」


「そうね。あれだけ大規模なものを何度も起こせるとは思えないし、これ以上ここで異変は起きないんじゃないかしら」


「今回のは凄かったでありますね。個々の強さはそれなりでありましたが、レックスというのがあれ以上増えていたら脅威だったのでありますよ」


「うふふ、それを阻止できたのも湖を浄化した私のおかげですね! 褒めてくださってもいいんですよ?」


「はいはい、よくやってくれて感謝してるぞ」


「気持ちがこもっていませんね。まあいいですけど」


 俺の返事にシスハは不満そうにしている。こいつは褒め過ぎると調子に乗るからな。

 湖を浄化してくれたのには本当に感謝しているんだけどさ。


「それにしてもなんでこんな所で異変なんて起こしたんだろうな。テストゥード様の御神体があったってことは、祠の騒動の後に仕掛けられたものだってことだろ?」


「祠を襲ったのは守護神の加護を失くす為じゃなくて、御神体を奪うのが本命だったのでありますかね?」


「そう考えるのが妥当かしら。御神体を奪うついでにセヴァリアから加護がなくなるんだもの。罠やあそこにいた魔物を考えると、それなりに力は入れていたみたいだけどね」


「私達がその考えを潰しているにしても、二手三手先を考えて行動しているとは厄介な相手ですね。クェレスから追い続けてはいますけど、未だに尻尾も掴めませんし」


 クェレスから始まって、今の今まで憶測以外の手がかりが全く掴めていないからな。

 本当に魔人が関与しているのか、それとも別の存在がやっているのか。

 だけどクェレスのグランディスの時と違って、今回は未だにセヴァリアで活動をしているみたいだから、そう簡単に逃げ出しそうにない。

 このまま追っていけば黒幕とやらに辿り着けるかもしれない。


「あの赤い魔物のこともありますし、今回はわからないことだらけでありますね」


「ディアボルスと似ていたし仲間なのは間違いないだろうな。それよりも今はこれからのことを考えよう」


「とりあえずディアボルス達の目的が何なのか考えないといけませんね」


 結局のところ、あっちこっちで異変を起こして、さらには御神体まで奪った理由がなんなのか。

 それがわからないことには、これから俺達がどう動くべきなのか決めづらい。

 そんな俺の疑問にエステルさんが意見を出してくれた。


「うーん、そうね。まずはこの調査が終わったら神殿に行った方がいいかもしれないわ」


「確かに御神体も見つけたんだし報告だけはした方がいいだろうな」


「ええ、それだけじゃなくて盗まれた御神体の大きさも確認しないとね。祠に祀った時のと同じぐらいの大きさだったら、まだまだ盗まれた御神体が残っているってことだもの」


「つまり今回みたいな異変がまた起きるということでありますか……」


「御神体を媒介に異変を起こすとは罰当たりな相手ですね。神殿の方達が知ったら激怒しそうですよ」


 あの大人しそうなイリーナさんでも、守護神の御神体を使って魔物を発生させていたと知ったら怒り狂いそうだな。

 ある意味神を冒涜するような所業だ、伝えに行くだけでもどんな反応をするのか怖くなってくるぞ。


「それと今回の異変がただの実験だったのか、何か他の狙いがあったのかも重要ね」


「他の狙い?」


「例えば守護神の加護を失ってセヴァリアが混乱している間に、魔物を大量発生させるつもりだったとかね」


「でもそうするんだったら、あの赤い魔物も祠の守りに使っていたんじゃないのでありますか?」


「そうね。だから今回の異変は加護の有無に関わらず起こしていた可能性が高いわ」


「加護の方は当てにしてなかったってことですか。となると、それ以外の狙いになりますが……」


 つまり祠の件とは無関係に今回の異変を引き起こそうとしていたってことか。

 あくまで御神体の確保が最優先だっただけで、守護神の加護の喪失は囮でしかない、と。


「あとはわざわざここを選んだ理由ね。単純にセヴァリアから遠いからって理由もありそうだけど、多分違うわ」


「ディアボルスの姿を見られていたでありますし、それだったら場所を変えてもよさそうでありますもんね」


「ここじゃなきゃいけなかった理由か……わからないな」


「うーん、私には遠いから大討伐に発展しやすいって考えしか浮かびませんが……神官的な立場から意見を述べますと、御神体と魔物の相性とかでしょうか?」


「相性なんてあるのか」


「はい、以前にも言いましたけどテストゥード様って魔物だと思うんですよ。その力の元となっている魔物との相性によって、効果も違ってくるんじゃないでしょうか?」


「あら、その発想は神官ならではかしら。私じゃ思いつかなかったかも。やるじゃないシスハ」


「うふふ、エステルさんに褒められるなんて滅多にないことですから嬉しいですねぇ」


 魔物との相性ね。つまりテストゥード様はクロコディルスに近い種族だってことか?

 だから一気にあんな大量の魔物が湧き出したんだな。

 魔物を発生させる場所にも色々と条件があって、どこでも異変を引き起こせる訳じゃないのだろうか。

 そういえば今まで異変が起きた場所も、元々魔物が出てくる場所だったな。

 シスハがエステルに感心されるほどの意見を出すなんて珍しいこともあるもんだ。


「私が考えたことは海が近いってことと、やっぱり魔物の種類ね。ここで魔物を大量発生させられれば、陸地だけじゃなくて海にもあの魔物が大量に出ていた可能性もあるわ。そしてこの近くには神殿に関係ある小島もあるって話じゃない」


「あっ、そういうことか!」


 もしその小島とやらで何かしているのなら、ここで魔物を大量発生させて海に解き放って、船を近づけさせないように考えていたのかもしれない。

 海でレックスなんかに襲われたらひとたまりもないからな。

 ワニが海で活動できるのかは疑問だが、そこは魔物だから問題ないんだろうな。


「でもでも、海にも加護があるのでありますよね? それなら小島にだって魔物は近づけないはずでありますよね?」


「それもどうかわかりませんよ。なんせ守護神の力で発生した魔物達ですからね。加護も問題なく突破してくる可能性もあります」


 なるほど、それなら守護神の加護があってもなくても関係ないってことか。

 だけど、そうなるとまた新たな疑問が出てきたぞ。


「それにしてはここの守りもかなり薄かったと思うがどうなんだ?」


「そこだけは相手の想定外だったんじゃないかしらね。私も強化されていたし、シスハが湖を浄化できるとは思わなかったんじゃない?」


「前は強い魔物を1体だけでありましたけど、今回はそこそこの魔物を大量に発生させていたでありますからね。質より量で叩こうとしたのでありましょうか」


「うふふ、むしろ大量に倒す方が私達向けの戦い方なんですけどね。これは相手も悔しがっているんじゃないでしょうか」


 この前は出来るだけ俺達の力を見せないようにディアボルスと戦ったからな。

 相手がこっちの戦力を見極められていない可能性は十分にある。

 だけどそう考えると、これからはそれに合わせてもっと力を入れてくる気がしてくるんだけど……無事に黒幕まで辿り着けるのだろうか。

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