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謎の魔物

 エステルに道を作ってもらいながらリシュナル湖を進んでいき、地図アプリを見る限り中心と思わしき場所までやってきた。


「この辺りが中心みたいだな。エステルはしばらく休んでてくれ」


「ふぅ、そうさせてもらうわ。魔力が尽きないとはいえ、ずっと使い続けていると疲れるわね」


「私がマッサージしてさしあげますよ。疲労回復には神官がお勧めです」


「それじゃあお願いしようかしら。シスハのマッサージはよく効くものね」


 ここまで結構距離があったからな。魔力が切れないとしても、精神的に疲れているはずだ。

 もしここで何か発見したら、そのまま戦闘になる可能性もあるからな。

 しばらく休んでもらって備えておいてもらおう。

 シスハにエステルを任せて、俺とノールがマースさん達のところへ行くと、彼らは周囲を見渡してざわついていた。


「こんな所まで道を作っちまうなんて信じられねぇな」


「ああ、私達の知る探索とは全く違う。これほどの冒険者パーティがいたとは……」


「ヴァイルさんも今度からこうしようよ。探索すっごく楽じゃーん」


「ばか者、こんなことできるか! あの娘は何もかもが桁違いだ!」


 アゼリーさんがヴァイルさんに無茶振りしてやがる。

 エステルの真似をするなんて、魔導師を複数人連れてきても難しそうだ。

 本当にエステルさんは頼りになるお方で、いつも助かっているよ。


「さて、ここまで来たのはいいけど特に気になる点は見当たらないな」


「ここに何かあればいいのでありますが、上からだとよく見えないのでありますよ。降りてみるでありますか?」


「そうした方がよさそうだが……ワニが怖い」


「何情けないこと言ってるのでありますかぁ。あのぐらいのワニなら、大倉殿だってパパッと倒せちゃうのでありますよ」


 ステータス的には倒せると思うけど、あんなバカでかいワニの相手なんてしたくはない。

 エステルが作った道の両脇を、ワニが何体もうろついているのを見て肝が冷えたからな。

 今もずっと俺達の足元で、10体ぐらいこっちを見て待ち構えているぐらいだ。

 来る途中にも何体か見かけたが、その中に一回り大きな希少種っぽいワニも含まれている。


――――――

●クロコディルス・ギガス 種族:クロコディルス

 レベル:60

 HP:1万3000

 MP:0

 攻撃力:2200

 防御力:1300

 敏捷:120

 魔法耐性:20

 固有能力 なし

 スキル デスロール

――――――


 通常のクロコディルスでも大きいのに、さらに大きいこいつはもはや恐竜のようだ。

 こんなのがちらほらとうろついているから恐ろしい。水の中なんて絶対に入りたくないぞ。


 そんな感想を抱きつつ、安全な足場から周囲の様子をしばらく観察した。

 地図アプリでも異変がないか見続けたが特に発見はない。

 このまま探していてもわかりそうなことはなさそうだな。

 ……よし、ここは前にも来ているグレットさん達に意見を聞くとしよう。


「グレットさん、ここに来るまでに何か違和感を覚えるような物はありましたか?」


「そうだな……このように進んできたことがないから断言はできないが、いつにも増してクロコディルスの数が多いような気はする」


「それは俺も感じたな。もし下を歩いて探索をしてたら、これじゃ進むのに苦労したぜ。ギガスもいつもより多い気がするしな」


 ワニの数が多いねぇ。やっぱりここでも何か起きているのだろうか。


「ノール、どう思う?」


「いつものパターンなら異変の可能性もあるでありますが、今回は真ん中を通る形でありますからねぇ。地面を盛り上げる時の振動で寄って来た可能性もあるので、判断が難しいでありますよ」


 グレットさん達が気がするって言う程度の差みたいだから、異変だって判断するのは確かに難しそうだ。

 これだけ派手に地形を変えて移動すれば、湖のワニが刺激されて寄って来ていると考えてもいい。

 いつものように1体だけ強い魔物がいるとかならわかりやすいけど、今回はそうじゃないし……。

 やはりディアボルスはここを通っただけで、何もしていなかったのだろうか。

 

 上から見ているだけじゃわからないし、下に降りて探索をするしかないかもしれない。

 そう思っていると、休憩していたエステルが声をかけてきた。


「この状態だと確認もし辛いし、辺り一帯の水底を上げちゃいましょうか」


「エステルさんはまた大胆な発想をいたしますねぇ」


「前に沼でやったみたいに、蒸発させるよりはいいでしょ」


「そ、それはそうだけどさ」


 そういえばフロッグマンがいた池で戦闘した時、火球を撃ち込んで半分ぐらい沼を蒸発させていたな……。

 あんな惨事をまた引き起こす訳にもいかないし、地面を底上げしてもらった方がいい。

 エステルの提案に了承すると、彼女は杖を黄色いグリモワールを再度手に取った。


「それじゃあさっそく――」


 エステルが魔法を使おうとした瞬間、湖の一部が輝き始めた。

 そこから光の粒子が噴出し湖に降り注いでいく。


「なんだ!?」


「どんどん魔物が湧いてきたのでありますよ!」


 光が降り注いだ場所に次々と光が集まっていき、クロコディルスが湧き出していく。

 その光景にマースさん達も焦りの声を上げている。


「こいつは一体どういうことだ! 魔物が湧くのは見たことあるが、こんなに一気に湧いたりしねーぞ!」


「これが異変というものなのか……? ここまで突然魔物が湧き出すとは、もはや災害じゃないか」


「うわぁ……あっ!? レックスまでいる! しかも複数体!」


「なんと……こんな光景今までみたこともないぞ」


 アゼリーさんが指差す先を見ると、クロコディルス・ギガスよりもさらに大きな黒いワニが出現していた。

 全長10mは軽く超えている大きさだ。そんなのが周りを見渡すと5体ほど確認できた。

 完全に怪物じゃねぇーか! と、とりあえずステータス!


――――――

●クロコディルス・レックス 種族:クロコディルス

 レベル:60

 HP:6万5000

 MP:2000

 攻撃力:3000

 防御力:1600

 敏捷:160

 魔法耐性:30

 固有能力 なし

 スキル ウォーターブレス ワイルドプレス デスロール

――――――


 見た目の割には強くない。が、問題は数だ。

 未だに湧くのが止まらないクロコディルスの数は、パッと見るだけでも100体は超えている。

 反応が多過ぎて一面真っ赤になり、地図アプリが使い物にならないぐらいだ。

 この中でこいつと戦うとなると……かなりまずいな。


「あっという間に湖がワニで埋まってしまいましたよ。しかも全て私達を狙っているみたいですし」


「下にいたらと思うとゾッとしてくるな。こいつら倒しちまった方がいいよな?」


「このまま放置していると大討伐になりそうだし、早めに倒した方がいいんじゃないかしら」


「幸い私達は上にいるでありますから、今なら安心して戦え……む?」


 ノールが突然後ろを振り向いたのでその視線を追ってみると、空中に1体の赤い魔物が飛んでいた。

 ディアボルスのような見た目をしているけど、槍ではなく黒い鎌を持ち体も大きい。

 一体何者なのかステータスを確認しようとしたが、その前に奴が動いた。

 大きく片手を振りかぶると、俺達に向かって何かを投げ付けてきた。

 すぐさま俺が動いて鍋の蓋で防ごうとしたが、投げ付けられた物は俺達の手前に落ち、エステルの作った道の上でパシャンと音を立てて砕け散る。

 それを見てシスハが口に手を当てて笑い出した。

 

「うふふ、どこ狙ってるんですかねあの魔物。完全に狙いを外しているじゃありませんか」


「あっ、逃げていくのでありますよ!」


「逃がす訳ないじゃない、すぐに叩き落して――えっ」


 物を投げ付けてすぐに後ろを向いて去ろうとする魔物に、エステルが杖を構えて攻撃しようとした瞬間、ピシッと足元で音がした。

 その直後、俺達のいた足場が崩れ始める。慌ててエステルを抱き上げると、そのまま俺達は湖へと落下。

 ズポッと腰辺りまで水中に体が沈んだ。

 

 あ、あぶねぇ……このままエステルが落ちていたら、溺れちまうところだった。

 そう安堵したのもつかの間、すぐに抱き抱えていたエステルが叫んだ。


「お兄さん後ろ!」


「えっ」


 振り向いてみると、大きく口を開けたクロコディルス・レックスが目前に迫っていた。

 突然のことに反応できず体が硬直したが、横からマースさんの跳び蹴りが炸裂してレックスが吹き飛んでいく。


「何ボケッとしてやがる!」


「す、すみません!」


 マースさんに叱責されてハッとなり、すぐに装着していた女神の聖域を発動させた。

 対象は俺達とグレットさん達にすると、近くに迫っていたクロコディルス達が俺を中心に展開された光の壁に押されて離れていく。

 アゼリーさん達はノールが守ってくれたみたいで、誰もやられていないようだ。


 ふぅ、何とか助かったな。

 突然のことに動揺して使うのが遅れたけど、これでとりあえず安全は確保できた。


「……この光はなんだ? クロコディルス達は入れないようだが」


「まだこんな奇妙な力を持ってやがったのか。お前らホントどうなってやがるんだ」


「疑問に思うかもしれませんが、この中なら安全ですので出ないでください」


 突然のことに困惑していたグレットさん達を落ち着かせて、1度態勢を整えることに。

 エステルが再度魔法を使い女神の聖域内に足場を作り、周囲の状況を確認していく。

 女神の聖域のすぐ外に、おびただしい数のクロコディルスが迫って俺達を襲おうと口を開いている。

 レックスは光の壁を破る為か、口から勢いよく水を噴出して攻撃しているがビクともしていない。

 スキルのワイルドプレスなのか空中高くまでジャンプして押し潰そうとしているが、壁に当たった瞬間弾かれて遠くで水しぶきを上げている。

 さすが女神の聖域、破られる心配は全くなさそうだ。


「どうする? これは一旦逃げ出した方がいいか? 一応ビーコンがあるから逃げられるぞ」


「いえ、せっかく女神の聖域を発動させているんだから、このまま殲滅しちゃった方がいいと思うわ。また外から来て全て相手にするとなると厄介だもの」


 ここに来るまでにビーコンを設置してあるから、逃げようと思えば逃げられる。

 だけど女神の聖域を発動させている今、すぐに逃げ出す必要もない。

 さっき上空にいた謎の魔物には既に逃げられたようだし、今から追うのは厳しいだろう。

 それにこの状態のリシュナル湖を放置する訳にもいかない。

 ここは安全に倒せる今の内に、クロコディルス達を倒してしまった方がよさそうだ。

 

 そんな訳で、準備を整えた俺達はさっそく反撃へと転じた。

 まずエステルが女神の聖域の外側まで、緩やかな山を作ってクロコディルス達が上がってくるようにする。

 そして近付いてきた奴を片っ端から攻撃していく。

 勿論俺達は女神の聖域内にいるから反撃はされず、一方的に攻撃していくだけだ。

 ノールやシスハやマースさんは、時折聖域内から出て攻撃しているが、すぐに中へ戻ってきて追ってきたクロコディルスは光の壁に衝突してひっくり返っている。

 

 もはや作業に近い戦いをしていると、だんだんと近付いてくるクロコディルスが減ってきていた。

 ここまで何も出来ずに仲間がやられているのを見れば、いくら魔物でも警戒を始めるようだ。


「ふぅ、大量の魔物に囲まれていると状況だというのに、ここまで一方的に倒していけるとは」


「凄く楽でいいよねー。これって神官様の奇跡なんですか?」


「ふっ、そうですよ。邪悪な物を寄せ付けない結界です」


「おおー、さすが神官様」


 シスハの奴ドヤ顔で嘘ついてやがる!?

 ……いやまあ、俺が使ったというより、神官のシスハの方が説得力があるからいいんだけどさ。


「さすがにここまでやられると、近付いて来なくなるな」


「外に出て倒しきりたいでありますが、先程の謎の魔物のこともあるでありますし……下手に遠くまで出るのは危険でありますよ。それにあの大きなワニも油断できないのであります」


「あら、それなら私に任せてちょうだい。1体も残さずに倒しちゃうんだから」


 未だにクロコディルス・レックスは5体とも健在だ。

 遠距離攻撃のウォーターブレスもあるし、ワイルドプレスというのもなかなかの脅威。

 そんな相手をエステルさんが倒してしまうという。


 白いグリモワールを取り出して、彼女は杖を掲げた。

 あっ、これって……滅びの光じゃないか!?


 以前のように上空に巨大な魔法陣が出現し、中央に光の球体が形成されていく。

 さらに5つの小さな魔法陣が現れて、それぞれがクロコディルスの方を向いている。


「まとめて……えいっ!」


 エステルがかけ声と共に杖を振り下ろすと、中心に形成されていた光が5つの小さな魔法陣に流れ込む。

 同時にその魔法陣から光線が発射され、レックスに直撃。

 近くにいる通常のクロコディルス達も巻き込み、凄まじい雄たけびを上げている。

 5体のレックスが完全に消滅するまで光線の照射は続いて、終わるとぽっかりと穴が空いて水がそこに流れ込んでいた。

 倒し終わったエステルは杖を地面に突いて、満足そうにドヤ顔をしている。

 それを見てマースさんがぼそりと呟く。


「……この小娘だけで全部倒せちまいそうだな」


「あ、あはは……」


 魔法耐性が低い魔物とはいえ、同時に5体も消し飛ばしてしまうとは……さすがエステルさんだ。

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