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腕試し?

 グレットさん達と調査に行く日までの間、ルーナにはフリージアの面倒を見るにあたって、見た目をごまかす魔法をエステルが教えることになった。

 元々ルーナは魔法を扱え覚えも悪くなく、めんどくさそうにしてはいたが無事に取得。

 これで万が一外でフードが取れたとしても、耳がバレる心配はない。

 フリージア本人も風系統の魔法を使えるみたいだから教えようと案が浮上したが、この魔法の適正がとても低く無理みたいだ。

 もし覚えたとしても、すぐに意識があっちこっちに移るから解除される危険性もあるとか。

 エステルがそれ用の魔導具を作成できないか検討しているのだが、なかなか難しいようだ。

 

 そんなこんなで数日経って、出発当日を迎えた。

 朝早くからルーナを起こしてフリージアを任せ、2人に見送られながらセヴァリアにやってきている。

 そしてまずは馬を借りようと移動を始めた。

 

「ようやく馬に乗る練習を活用する機会が来たか。緊張してきたぞ」


 ノール達に乗馬の初訓練をさせられてからしばらく経つが、あれから暇を見てちょくちょく練習に行っていた。

 おかげ様で1人でもある程度乗りこなせるようになり、今回は俺がシスハかエステルを後ろに乗せる番。

 そう思いやる気と不安を背負い、覚悟を決めていたのだが……俺の発言を聞いたシスハが眉をひそめて否定してきた。


「何仰ってるんですか。大倉さんは今回も私の後ろですよ」


「えっ」


 な、なんだと!? さすがに今回は俺の出番だと思ったのに……どうしてなんだ!

 俺の心の声が聞こえているかのようの、シスハは的確な返答をしてきた。


「当たり前じゃないですかぁ。確かに乗れるようにはなってきましたけど、いきなり2人乗りなんて無理ですよ。それだけじゃなく、他の馬と速さも合わせないといけないんですから」


「そうでありますねぇ。1人でもっと自由に馬を操れるようにならないと、エステルを任せることはできないのでありますよ」


「せっかくの機会だったから残念だけれど仕方がないわ。次を楽しみにしておくから頑張ってね」


 シスハだけじゃなくノールまで……どうやら2人の合格基準からはまだまだ遠いようだ。

 馬で行くって話になった時、練習もしたんだから俺に任されると思っていたのは甘い考えだったらしい。

 くっ、情けない……でも、よく考えなくても初心者である俺が、他の人の馬に合わせて乗るなんて無理だから当たり前か。


 残念さもある反面不安もなくなって複雑な心境になりつつも、無事に馬を借りて集合場所までやってきた。

 早めに来たはずなのだが、既に馬を連れたグレットさんの姿が。

 周囲にマースさんの姿もあり、他にも杖を持ちローブ姿の魔導師っぽい中年の男性と、引き金の付いた少し重そうな弓を持った若い男性も一緒だ。

 そしてもう1人短髪で軽装な格好の女性もいて、腰に短剣と小さめの鞄を携えている。見た目だけで判断するならシーフ系統な気がするぞ。

 

 これがグレットさんのパーティメンバーか。なかなか強そうな人達が揃って……というか、攻撃主体な感じがするな。

 おっと、マジマジと見ていないで挨拶しなくては。


「お待たせしてすみません」


「いや、私達も今来た……」


 振り向いたグレットさんは、俺を見るや目を見開いて黙り込んでしまった。

 近くにいたマースさんも気が付いたのか鋭い瞳をこっちへ向けてきたが、俺を見た途端口を開けて怪訝な表情に変わった。

 うーん、一応考慮してヘルムや帽子は脱いでいるのだが、それでもこの反応か。

 少し固まっていたグレットさんはハッとすると、咳払いをしてポツリポツリと言葉を口にしていく。


「それが噂の格好とやらか……その、なんと言うか個性的、だな。一瞬誰かわからなかったぞ」


 頼もしそうな雰囲気のあるグレットさんがここまでうろたえるなんて、そこまで俺の見た目はやばいのだろうか。

 でもこれが現状の最高装備だし、実際に魔物と戦えばわかってもらえる……と思った瞬間、唖然としていたマースさんの表情が強面に変わって俺の声をかけてきた。


「おいおい、お前ふざけてるのか? どうして鍋の蓋なんて持ってやがるんだ」


「別にふざけている訳では……持っている盾の中でこれが1番質がいいので」


「はぁ?」


 見た目はともかく、そっちの方に反応してきたか。

 ガチガチの鎧姿で持ってるのは鍋の蓋だもんなぁ……そりゃ突っ込みたくなるわ。

 俺の返事を聞いたマースさんは、何を言ってるのか理解できないと言いたそうな複雑な顔をしている。

 そして次は何を言われるのかと身構えていると、驚くべきことを口にし始めた。


「……よし、おもしれぇ。じゃあ試しにそれ使って俺の攻撃防いでみろ」


「止めないか! 合流して早々に問題を起こすな!」


「でもよ、これで一緒に戦うって言われてお前信用できるのか? どうもこの前から胡散臭くて信用ならねぇ」


 止めに入ったグレットさんだが、マースさんの言葉を受けてチラッと俺に視線を向けながら言葉に詰まっている。

 うげぇ、何か面倒なことになり始めたんですが。

 魔物と戦えばわかってもらえると思ったけど、マースさんとやるなんて考えてもなかったぞ。

 どうするか……ここで断れば完全に下に見られて何を言っても聞いてもらえなくなりそうだ。

 グレットさんのパーティメンバーもさっきから俺の方を見て返事を聞こうとしているし。

 ……仕方がない、ここは受けよう。攻撃を防げと言われただけだし、鍋の蓋で攻撃を受けるだけでいいはずだ。

 それに顔面さえ気をつけておけば、防げなくても鎧を着ている俺にダメージも大して入らない。

 失敗しても勝負を受けないよりは印象もマシだろうしな。


「防ぐだけで信用していただけるというなら構いませんよ。遠慮なく攻撃してください」


「おう、そうこなくちゃな! 遠慮なくやらせてもらうぜ!」


 そう言ってマースさんは持っていた荷物から手甲を取り出して腕に装着した。

 おい、ちょっと待て! ガチじゃねーか! 遠慮なくとは言ったけど、鉄製っぽいしそんなので殴られた痛いじゃ済まないだろ!


 待ってと制止する前にマースさんは喜々とした表情で駆け出し俺に向かってきた。

 瞬く間に手の届く距離まで接近され、顔面目がけて拳が放たれる。

 既に防御が間に合いそうにない状態だったが、装備の効果のおかげでパンチの速度を上回る速さで鍋の蓋を構えられた。

 防げたと確信してそのままマースさんの殴打を受け止めようとしたのだが……鍋の蓋に当たる寸前で拳は止まり、視界の隅からもう片方の拳が向かってきているのが見えた。


 フェイントだとぉ!? そこまでして攻撃してくるんじゃねぇ! 鍋の蓋の強度見るだけじゃねーのかよ!

 思わず罵倒が出そうになったがそれどころじゃなく、さらに無理矢理腕を動かして迫り来る拳に鍋の蓋を直撃させた。

 ゴキッ、と鈍い音がして場の空気が静まると、ワンテンポ遅れてマースさんが叫んだ。


「――いってぇぇぇぇ!?」


 殴った方の腕を押さえて苦痛の表情で絶叫している。

 ……やっちまったぜ。

 

「ふ、ふざけんな! 何だその鍋の蓋! 蓋の硬さじゃねぇーぞ!」


「だ、だから1番質がいいって言ったじゃないですか」


 俺も必死だったから、思いっきり防いじまった……手甲しているから大きな怪我はしてなさそうだけど、筋を痛めているかもしれない。

 でも、鉄製の手甲装着してフェイントまで使って顔面狙ってくる方が悪いんだ! 俺は悪くねぇ!

 ……いや、だけど罪悪感がちょっとあるかも。それにこれから調査に行くのに腕を痛めているのもよくない。

 ポーションを渡して治してもらおうとしたのだが、その前にシスハが近付いてきた。


「あらら、痛そうな音がしましたね。治療してさしあげますよ」


「余計な真似すんじゃ――あっ、おい!」


 吼えるマースさんを無視してシスハが回復魔法を掛けると、腕の痛みが引いたのか表情が和らいだ。

 だが、回復された事実を認識したのか、すぐに苦虫を噛み潰したような表情に変わる。

 そして何かを言おうと口を開いたのだが、グレットさんが割って入ってきた。


「お前の負けみたいだな。フェイントまでしてしっかり防がれたんじゃ何も言えないぞ。腕まで痛めて何をしているんだ」


「ちっ、見かけによらずめちゃくちゃ速く動きやがって……」


 ぐうの音も出ないのか、マースさんは舌打ちをして俺達から離れて行こうとした。

 が、我らが神官様がそれを許さない。

 両手を口に当てて、わざとらしく大声で叫び出した。

 

「あのー、それで信用はしていただけるのでしょうかー。大倉さんちゃんと防ぎましたよねー」


「うるせぇ! 認めてやるよ畜生が! わざとらしく聞きやがって、おめぇ本当に神官かよ!」


「うふふ、回復してあげたじゃありませんかー」


 ひでぇ追い討ちだな……マースさんの方から絡んできたことだが、あまりにも惨い。

 面白くなさそうに石を蹴り飛ばしながら、マースさんは肩を落として離れていく。

 残されたグレットさんはそれを溜め息をしながら見送った後、俺達に頭を下げた。


「マースが失礼なことをして本当に申し訳ない。あいつは1度言い出すとなかなか話を聞かないんだ」


「いえ、こちらが了承したことですので。腕の方は……大丈夫だよな?」


「私が回復魔法をかけたんですから大丈夫ですよ。まあ、元々そこまでダメージはなさそうでしたけど」


「いや、回復してくれて感謝する。私達のパーティには神官がいなくてな……おかげでポーションを使わずに済んで助かった」


 魔導師がいるのに神官がいないとは、ディウス達も神官のスミカさんしかいなかったし、やはり両方を揃えるのは難しいんだろうなぁ。

 回復手段がポーション頼りとなると、それはそれで辛そうだ。

 ひと悶着終え、黙って見守っていたノール達のところへ一旦戻った。


「ふーん、あれが言ってた男の人なのね」


「実力はあるみたいでありますが、本当に喧嘩腰の人でありますね。出発前からちょっと不安になってきたのでありますよ……」


 事前にエステル達にマースさんのことは話していたけど、実際に会って見て不安を感じたようだ。

 俺も何か起きたら困ると思っていたが、まさか合流して早々こうなるとは思わなかったぞ……。

 先が思いやられ溜め息を吐いていると、ノールが首を傾げている。どうかしたのか?


「だけど、さっき大倉殿を攻撃した際、若干手を抜いていたように見えたでありますね」


「えっ、そうか? めちゃくちゃ速くて焦ったんだけど……」


「あからさまな挑発で、わざとやっている感じはするわね。何か考えでもあるのか、それともただ気に入らないだけなのかしら?」


 あれで手抜きとかうっそだろぉ!? 防げはしたけど本気で殺りにきてるかと思ったぐらいなのに。

 まさかわざと喧嘩腰で俺達に絡んで、事前に実力を確認したとか……いや、わざわざそんなことするか?

 単純にこの前の延長で気に入らないから絡まれていると思った方が自然に思えるぞ。

 グレットさんが上手く間を取り次いでくれるといいのだが……俺の格好のせいもありそうだから、任せるだけじゃなくて認めてもらえるように俺も頑張るか。

 

 それからお互いのパーティ同士で軽い自己紹介を始めた。

 魔導師である男性のヴァイルさんは、同じく魔導師であるエステルに興味を示したのか話しかけている。


「ほほぉ、こんなお若い魔導師のお嬢ちゃんが冒険者をしているとは珍しい」


「それはおじさんもよね。冒険者をしている魔導師と会ったのはこれが初めてだわ」


「冒険者をやる物好きは少ないわなぁ。ワシは面白いからやっとるがね」


「ふふ、私も同じような理由よ。面白いって部分はお兄さんといるのが、って違いはあるけれど」


「ははは、これはまたおませなお嬢ちゃんだ」


 何だか意気投合しているのか、お互いに楽しそうに雑談している。

 エステルがおませで済めば可愛らしいのだが……。

 そしてノールはというと、シーフっぽい女性のアゼリーさんと話していた。


「女の人ばかりのパーティなんだ。あなた凄く強そう」


「むふふ、そんなことあるのでありますよぉ! 頼りにしてくれてもいいのでありますよん!」


「おおー、凄く自信まんまんだ。頼りにさせてもらっちゃうぞー」


 ノールが腕を曲げて力こぶを作る仕草をすると、アゼリーさんはパチパチと拍手をした。

 アゼリーさんは地図のマッピングや洞窟探索に秀でた探索者系の人らしい。

 一応シーフ系統の職って認識でいいのだろうか。


 最後にクロスボウを持っていた青年はクルーセといい、あの若さでかなりの腕前だそうだ。

 あまり話をしないみたいで、軽く挨拶をした後俺達から離れ無言でクロスボウの手入れをしている。


 とりあえず全員挨拶を終えて、最後にまたグレットさんと話をした。


「先ほども言ったが、私達のパーティには神官がいない。神官のいるあなた方と一緒に行動できるのは、正直とても助かる。だが、この人数となると負担もかなり増えるはずだ。あまり無茶はせず、必要な時だけ回復に専念してもらいたい」


「うふふ、ご心配なさらずに。この私が本気でサポートすれば、このぐらいの人数ちょちょいと捌いてみせますよ。むしろ私も戦ってもいいぐらいですからね!」


「お前は今回も回復と支援優先だ! 絶対突撃するんじゃないぞ!」


「ふふふ、面白い冗談を言う方だな。とても頼もしい。今回はよろしく頼む」


 すみません、その神官様が言ってること冗談じゃないんです……。

 色々と不安に思いながらも俺達は出発した。

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