ルーナとフリージア
「そんな訳で、Bランク冒険者パーティと共同で調査に向かうことになった」
グレットさん達との話し合いを終えて帰宅し、早速今日話したことをノール達に伝えた。
すると、エステルが頬に片手を添えて少し困った仕草をしている。
む? 何か気になるところがあったのか?
「共同ねぇ。ディウスの時はまだ面識があったからいいけれど、初対面のパーティと組むのは少し不安だわ」
「どういう感じの人達だったのでありますか?」
シスハのお墨付きがあったとしても、実際に会ってないエステル達からしたら、いきなり他の冒険者と一緒に行動するのは不安に思うか。
今までディウスやグリンさん以外のパーティと行動したことなかったしな。
「リーダーっぽい女の人は丁寧な人だったけど、男の人がちょっとなぁ……でも、シスハが平気だって合図してくれたから大丈夫なはずだ。な?」
「粗野な振る舞いな方でしたけど、悪い人ではないと思いますよ」
「シスハがそう言うなら平気そうね」
「はい、冒険者ならあれぐらいの威勢の良さはありませんと。久しぶりに腕が鳴りそうでしたよ」
腕が鳴るって、一体何するつもりだったんだか……シスハの威圧を受けて勢いが衰えたマースさんは正しかったみたいだ。
「それで実力の方はどうなのでありますか?」
「Bランク相応の実力はあるかと。見た感じですと、女性は剣を使う方だと思います。男性は恐らく体術主体で戦う武闘家辺りですかね」
「2人共武器とか持っていなかったのによくわかるな」
「体の動きを見ていれば大体わかりますよ。大倉さんも観察眼を磨いて、それぐらいわかるようにしてください」
話し合いの場だからお互いに装備は持っていなかった。
それなのに体の動きだけで戦い方や実力がわかるとか……俺の考えもよく見透かしてくるし、もうエスパーだろ。頼りになるけど怖いぞ。
それにしても武闘家か……。思い返してみれば、確かにあの格好はそれっぽく思える。
シスハも武闘家のような戦い方しているけど、この世界の武闘家はどうなんだろうか。
GCの武闘家と同じように、拳圧飛ばして遠距離攻撃してきたり、瞬間移動したみたいに距離を詰めたりするのかな。
近接戦闘主体だから遠距離で封殺できるかと思えば、回避や距離を詰めるスキルでかなり苦戦されられた思い出が……。
「へぇ、シスハもよく殴ったり蹴ったりしているけど、その男の人はシスハより強そうなのかしら?」
「ふっ、何をおっしゃいますかエステルさん。このシスハ・アルヴィが負けるはずがないじゃないですか! 私に勝てる相手なんて、大倉さん、ノールさん、エステルさん、ルーナさん、フリージアさんぐらいですよ!」
「お、多くないか? というか俺もその中に入ってるんだな」
「生身なら勝てますけど、武装されたら勝ち目ないですからね。エクスカリバールはズルいですし、鎧が硬いですから。変質者な見た目をしておいて強いなんて理不尽ですよ」
「見た目はともかく大倉殿の装備は凄いでありますからね。装備だけじゃなく、最近は実力も付いてきたでありますから、私もうかうかしてられないのでありますよ」
自分で思っていた以上にノール達からの評価が上がっているんですが。
俺もそれなりに戦えるようにはなったし、装備込みで考えたらシスハに勝てるのか?
……勝てるビジョンがまるで浮かんでこねぇ。
「話がズレましたけど、とりあえず問題はないと思いますよ。心配するなら現地に到着した後でしょうか」
「祠の時みたいにディアボルスを沢山相手にする事態にならなければいいけど……」
「そうなったらガチャアイテムを使ったり、フリージアやルーナも呼ぶしかないか。その後忘却薬で記憶を消そう」
「仕方がないとはいえ、薬を飲ませて記憶を消すなんて悪いことする気分でありますねぇ……」
流石に祠みたいな戦闘になるとは思えないが、万が一の可能性もあるしな。
やはり他の人と一緒に行動するのは、色々とバレる危険があって迂闊な行動できないのが痛い。
最悪知られちゃマズイことを知られたら、忘却薬を使うしかないな。
なあに、ちょっと眠ってもらってる間に飲ませるだけさ……本当に悪いことする気分になってきたかも。
と、話がひと段落したかと思ったのだが、ダダダと家の奥から走ってくる音が。
そして勢いよく扉が開かれると、ルーナを脇に抱き抱えたフリージアがやってきた。
「何々! 今私の名前呼んだよね!」
「ぐっ、放せポンコツエルフ!」
「いただだだ!? ルーナちゃん噛まないで!」
脇に抱えたルーナに噛まれて、フリージアは涙目で騒いでいる。
ホントこいつは騒がしい奴だなぁ。ルーナの部屋で遊んでいたようだが、名前を聞いて出てきたのか。
最近はノールだけじゃなくて、ルーナとも仲良くして良い傾向だ。
……まあ、相変わらず今みたいに噛まれることもあるみたいだが。
「ああ、ちょうどいいや。また依頼でしばらく家を留守にするから、また家で待っててくれ」
「えぇ!? また平八達だけでお出かけするの!? ズルいんだよ!」
「いや、別にお出かけって訳じゃないんだけど……」
依頼の為に遠出するだけで、遊びに行くかのように言われても困るぞ。
今回もフリージアには、ルーナと一緒に留守番をさせようと思っていたのだが……いつも以上に騒ぎ始めた。
「また留守番なんて嫌だ! それなら私も冒険者になりたい!」
「いやぁ、それはちょっと……」
「なるぅ! なるんだよぉぉ! 平八、お願いだよぉぉ!」
その場でピョンピョンと跳ねて、全身で猛抗議している。
うわぁ、こりゃ今回は簡単に治まりそうにないな……流石にノールでも説得するのは難しいか?
そう思っていたのだが、ノールは俺の考えと真逆のことを言い始めた。
「うーん、だけどまた家の中でずっと留守番させるのは可哀相でありますし……そろそろ自由に外出させてあげてもいいんじゃないのでありますか?」
「えっ、お外出ていいの!」
「大丈夫? ノールの付き添いなしに外出させるのは不安じゃない?」
フリージアはノールの言葉にパァっと表情を明るくさせたが、エステルの言葉を聞いてまたズーンと暗い表情に。
だが、そこで終わらず、パンッと手を叩いて閃いたかのように、エステルはある提案をした。
「あっ、そうだわ。ルーナがいるじゃない」
「やれやれ、何を言い出すかと思えば。何故私が付き合わないといけない。ただでさえうるさくてかなわんのだぞ」
「そんなぁ!? ルーナちゃんお願い! 私達はさっきも一緒に遊んだ仲なんだから!」
「勝手に貴様が部屋に来ただけだろう」
腕を組んだルーナがぷいっと顔を逸らし、その足元にフリージアが涙目で縋っている。
仲良くなったとはいえ、やはり外に出るのは渋るよなぁ。
フリージアと一緒に出かけるってことは、何か問題を起こさないか見張ってないといけない訳で……折れてくれそうにないぞ。
この前はノールが説得したが、今回ばかりは厳しいか?
これは硬直状態だろうな、と思っていたのだが、ここでシスハが話に加わってきた。
「ルーナさん、私からもお願いいたします。フリージアさんに少しでもいいですから、お付き合いしてあげてくれませんか?」
「むぅ、シスハまで……ぐぬぬ、ぬぅ……」
流石のルーナでもシスハのお願いとなると一蹴できないのか、腕を組んだままウンウンと唸っている。
そして足元に縋る涙目のフリージアを見つめると、溜め息を吐いて返事をした。
「はぁ、わかった。少しだけなら付き合おう」
「本当! ルーナちゃんありがとう! シスハちゃんもありがとなんだよ!」
「ただ、限度は守れ。四六時中引っ付くようなら話はなしだ。言うことも聞け。いいな?」
「了解しましたなんだよ! ルーナちゃんの言い付けちゃんと守ります!」
おお、あのルーナが折れたぞ。しかもちゃんと条件まで取り付けている。
これで上手くいけば、ルーナの引きこもりとフリージアの外出問題も解決できそうだが……上手くいくことを願って、俺達は調査を頑張るとしよう。
いつもお読みくださりありがとうございます!
また書籍のお話になりますが、今回活動報告に書き忘れていたので一応ここで……。
書籍版巻末にあるURLからアクセスしてアンケートにお答えいただくと、今回も特典小説が読むことができます。
今回のアンケート特典のタイトルは【シスハ狂乱】となっております。
お読みいただけると嬉しいです!