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危険な香り?

 神殿長との挨拶を終え、食事の準備にまだ時間が掛かるということで、俺達は神殿の中庭へと連れて行かれた。

 そこにはかなり大きな池があり、透き通った水の中には巨大なエイ、ダラの泳ぐ姿が。

 浮いているから常に地上に居るのかと思ったけど、神殿内の池の中にいたのか。

 エイって海に住んでるイメージだったが、池の中でも生きていけるんだな。

 ダラを見たフリージアは、池の周りをピョンピョンと跳ねながらはしゃいでいる。

 

「うわぁー、あの子がダラなんだ! 凄く大きいんだよ!」


「強そうだ。神殿なのに魔物がいるのだな」


「魔物ではございません。ダラはテストゥード様の遣いですよ」


「……そ、そうか。すまなかった」


 イリーナさんがグイッとルーナに顔を近づけると、ちょっと引き気味に頬を引きつらせて彼女は謝った。

 あのルーナが気圧されるほどとは……俺達も踏んだ地雷だけど、ダラを魔物扱いされたくないんだな。

 それから少しダラと戯れた後、フリージア達を背中に乗せて飛んでもらえることになった。


「ノール、フリージアが落ちないようにしっかり見張っておいてくれよ」


「お任せくださいであります。フリージアは良い子でありますから、心配はなさそうでありますけどね」


 心配だから見張ってもらうように頼んでいるんだが……。

 一応エアーシューズをノールに渡してあるから、フリージアが騒いで落ちたとしても対処はできるはずだ。

 不安に思いながらも、イリーナさんと一緒にダラの背中に乗って上空へと飛び立つのを見送った。

 そこで神殿に入ってからの緊張の糸が切れたのか、俺はつい溜め息を吐いた。


「はぁ、感謝されるのはいいが、あそこまで大袈裟に言われると気疲れするな」


「特にお兄さんに対しては凄いわね。あのお姉さんだけじゃなくて、おじさんまで同じような感じだったもの。神殿の人は皆ああなのかしら?」


「信仰する神の祠を守ったんです。そうだとしても不思議じゃありませんね」


 イリーナさんだけじゃなくて、まさか神殿長まであんな様子とは思わなかった。

 神殿の人全員があんな風になっているとは思いたくないけど……早くご馳走になって帰ろうかな。


「そういえばルーナとフリージアの件、大丈夫なんだよな?」


「ええ、お姉さんや神殿長の様子を見た限りじゃ平気だと思うわ」


「特に不審な素振りもありませんでしたからね」


「えっ、シスハもそういうのわかるのかよ」


「当然じゃないですか、神官ですからね。いくら隠そうと意識していても、必ずどこかに特有の動きが出てしまうものです」


 エステルだけじゃなくて、シスハまで相手の動作から何を考えているのかわかるのかよ……。

 ノールも稀に冴えてるし、フリージアは地獄耳だし、俺のパーティ怖過ぎる。

 グーたら寝ているルーナが一番安心して会話できそうだぞ。


「そういえば出身を聞かれたりしたけど、あれなんだったんだろうな」


「喜ばしいとか言っていたわよね。どういう意図で言ったのかわからないけれど……悪意はなさそうだったわ」


「この神殿も含めて、テストゥード様に関して知らないことが多いですからね。私達が考えても、どういう意味があったのかわかりませんよ」


 エステル達でも神殿長の話の真意はわからないのか。

 悪意がなさそうなら別に問題ないけど、ちょっと気になってくるな。


 空を飛んでいるダラを眺めフリージアが降ってこないか心配しつつ、エステル達と話を続けた。

 そしてしばらくすると、ダラが中庭へと戻ってきた。

 背中を見るとノールが、がっちりとフリージアの体を抑えている。

 ああ、はしゃいで落ちかけたなあれ……。


「お空飛ぶの凄かったんだよ! 遠くまで景色が見えるし、風も気持ちよかった! また乗りたいんだよ!」


「うむ、外に出て気持ち良く思えるのは滅多にない。次は空の上で寝てみたい」


「危なかったでありますが、2人共楽しかったみたいでありますね。ありがとうございます、なのでありますよ」


「喜んでいただけたようでよかったです。ダラ、ありがとね」


 イリーナさんがそう言ってダラを撫でると、応えるように胸びれを揺らしてから池の中へ潜っていく。


「それではお食事の準備も整っていると思いますので、ご案内いたしますね」


 イリーナさんの先導に従って、俺達は神殿の中へ再度入った。

 これでようやく食事……あっ、神殿で食事となると決まりとかあるんじゃないか?

 そういえばこの前の護衛依頼の時も、野営時にイリーナさん達は食事前に祈っていた気がするぞ。

 食事の前に教えてくれるかもしれないけど、今の内に聞いておくか。


「イリーナさん、この神殿では食事の前にやることってあるんですか?」


「はい、私共は食事の前に、恵みをもたらせてくださったテストゥード様に祈りを捧げております。ですが、本日はしていただく必要はございませんよ」


「あら、神殿で食事をするっていうのにいいのかしら? 守り神様に不敬じゃないの?」


「本来ならそうなのですが……本日はこちらからお招きいたしましたので。それに祠をお守りいただいた方々に、そこまでお願いをする訳にもいきません。今回は神殿長もご同席いたしませんので、お気になさらないでください」


 イリーナさんは苦笑を浮かべながらもそう言ってきた。

 今回神殿長が食事に来ないのは、そういうところで気を使ってくれた意味もあったのだろうか。

 確かにそんなお偉いさんと一緒に食事するとなると、俺はガチガチに緊張しちゃいそうだからなぁ。

 しかし、そこまで神殿の人達に気を使ってもらっているのに、こっちは食事前の決まりごとをしないというのも気が引けるな。


「それでしたら、よければ軽く祈るぐらいはさせていただいてもいいですか? ご馳走になるのに感謝をしないのも悪いので。ノール達もいいよな?」


「そうでありますね。守り神様と神殿の人達に感謝をしたいのであります!」


「ダラにも乗せてもらえたし、私もお礼をするんだよ!」


「そうね。必要ないって言われたからって、何もしないのもちょっとね」


「ふむ、私も感謝ぐらいは示そう」


「大倉さんにしては良いこと言うじゃないですか。まあ、私はちゃんと祈るつもりでいましたけどね!」


 俺にしては良いことだとぉ? 相変わらず余計な一言を言いやがる奴だな!

 文句の1つでも言ってやろうかと思ったのだが、突然イリーナさんが俺の方へ駆け寄ってきて、興奮気味でガシッと両手を掴んできた。


「皆様、ありがとうございます! やはり思っていた通り、素晴らしい方々です!」


「ちょ、イリーナさん!」


「あっ……す、すみません!」


 ハッと我に返ったのか、イリーナさんは顔を赤くしながら手を離して俺から距離を置いた。

 び、びっくりしたぞ……この前もそうだったけど、何かあるとすぐ手を握ってくる人だな。

 しかもどうして俺の手を握ってきたのだろうか。正直ちょっと嬉しくはあるのだが。

 そう思った直後、背後から無言の猛烈な視線を感じた。


「あっ、き、気にしないでください! ささ、早く行きましょう!」


「は、はい。それでは気を取り直して、ご案内いたしますね」


 俺は振り返ることなくイリーナさんを促して、案内を続けてもらった。

 ……最近こういうのが増えた気がするぞ。


 それからしばらくイリーナさんの後を付いて行き、ようやく目的地である部屋に案内されたのだが……入った瞬間ゴクリと息を呑んだ。

 中央には白地の布が被された長机が置かれており、室内を七色に光るシャンデリアのような物が照らしている。

 まるで晩餐会のような雰囲気に、食事の前だというのに圧倒されてしまった。

 ノール達も部屋の光景に驚いているのか、ワーワーと叫ぶフリージア以外は無言で見渡している。

 そのまま流されるように各自少し離れた席に案内されて、俺はエステルと隣の席で、ノール達は向かい合うように反対側の席へ座った。


 俺達が席に着いた直後に部屋の奥から人が出てきて、次々と食事を机へ置いていく。

 やはり港町の神殿だけあって、魚料理が多いみたいだ。中には虹色に輝く謎の魚料理まであるが……食えないものは出さないだろう。

 料理がある程度並び終わると、神殿の人達は左右に分かれて部屋の両端に並ぶように整列し始める。

 それを合図にイリーナさんが俺達が座る机の前に移動して、綺麗な姿勢でお辞儀をした。


「神殿長の代行としまして、私がご挨拶をさせていただきます。本日は神殿にお越しくださいまして、誠にありがとうございます。テストゥード様にお仕えする私共一同、祠をお守りくださった皆様方に深い感謝をいたします」


 イリーナさんの言葉に従うように、並んでいた神殿の人達も頭を下げている。

 ……あれぇ、ただの食事が凄く仰々しくなってません?

 不安を覚える光景に背筋がゾクゾクしていたが、さらにイリーナさんは追い討ちを掛けてきた。


「今回は食前の祈りはしない予定ではありましたが、大倉様方のご好意によりしてくださる運びとなりました。重ね重ねのご慈悲をくださり、私共も感謝の念に堪えません。本当に、本当にありがとうございます」


 おおー! と神殿の人達は声を張り上げて、熱のこもった瞳で俺達を見ている。

 やばい、やばいってこれ……言葉にできないやばい雰囲気がするですけど!

 隣に居るエステルさんでさえ、若干引いているのか顔を青くしているぞ。


「それでは、今回は略式的ではございますが、挨拶を終えて祈りに移りたいと思います」


 さっきまでとは打って変わり、全員静かに両手を合わせて祈りを捧げ始めた。

 突然の変化に戸惑いながらも俺も見よう見真似で手を合わせて、とりあえず感謝の念を込めておく。


 そして挨拶が終わったので、ようやく食事を始めた。

 飯を食べるだけだっていうのに、既に疲れてきたんだけど……あっ、でもこの魚美味いな。

 町で食べた店の魚料理も美味しかったけど、こっちは味付けもさっぱりしていて上品な味わいだ。

 神殿の料理に舌鼓を打っていると、イリーナさんが俺の隣へとやって来た。


「お口に合いましたでしょうか?」


「あっ、はい。凄く美味しいですよ」


「ええ、とっても美味しいわ」


「よかったです。本日は大倉さん達が来てくださるということで、皆さん張り切っていたんですよ」


「皆さん、ですか。さっきの挨拶の時もでしたけど、神殿の人達は皆あんな感じ……なんですか?」


 さっき挨拶をした時の雰囲気は凄かったからなぁ。まるで俺が信仰されているかのようだったぞ。

 ここに全員神殿の人達が居る訳じゃないと思うけど、他の人達まであんな感じだったら怖い。

 そう思って恐る恐る聞いてみたのだが……現実は非常だった。


「はい、大倉さん達の話をしたら、皆さん感銘を受けたご様子でした。……ご迷惑、でしたでしょうか?」


「あっ……い、いえ、そんなことありませんよ」


「本当ですか! ありがとうございます!」


 ぐっ、こんな可愛らしい人に不安そうな表情で聞かれたら、迷惑だなんて言えるはずないじゃないか……。

 俺の返事にイリーナさんは笑顔になっていたが、代わりに隣にいるエステルさんは不満そうに頬を膨らませて口を開いた。


「お姉さん達って本当に熱心なのね。それほどテストゥード様を信じているの?」


「勿論です。私共だけではなく、セヴァリアで育った方の殆どはテストゥード様を崇めております」


「やっぱりこの町に居る人は、守護神の加護を実感することが多いからですか?」


「それもありますが、ご家族揃って神殿に来る方も多いですからね。幼い頃から神殿に関わっている人は、特に信仰深いのです。それに御神体を実際に見た方々は、テストゥード様が常に私達を見守ってくださっていると実感なさるんですよ」


 うーむ、セヴァリア育ちの人は程度の差はあるけど、殆どの人はテストゥード様を信仰しているってことか。


「それほどの存在なら、今もどこかにいるのかしら? 実際に見たことはないの?」


「……残念ながらわかりません。500年ほど前に降臨なされたのを最後に、お隠れになられてしまいました。伝承ではセヴァリアの沖合いにある、離れ小島へ向かわれたと言われております」


 500年前ってなると、確かこの町に来た魔人と戦ったって話だったな。

 隠れたってことは、それから姿は見せていないのか。

 そしてその守護神が消えた方角にある小島……気になる。


「その小島って何かあるんですか?」


「人は住んでおりませんので、特に何もありません。ですが、テストゥード様が最後に向かわれた方角にあるということで、祠を建てさせてはいただいております。巡礼の最後の地として、神殿の皆さんで祈りを捧げに行くのです」


 何か凄いものでもあるのかと思ったけど、何もないのか。

 守護神の向かった先って言うぐらいだから、迷宮や特殊な魔物でもいるかと思ったのに。


「大倉さん達も是非、1度お祈りに参りませんか? テストゥード様もきっとお喜びになってくださいますよ」


「あー、私達も冒険者として忙しいのでわかりませんけど、予定次第で考えておきますね」


「そうですか。前向きにご検討いただけると嬉しいです」


 うっ、正直神殿のことに関わるのはだんだん怖くなってきたけど、やはりイリーナさんに笑顔で言われるときっぱりと断れない。

 だが隣に座っているエステルから凄く視線を感じるお陰で、とりあえず行くと言わずには済んだ。

 ホッと一息吐いていると、今度はイリーナさんが机に置かれた瓶を手に持って、コップに透明な液体を注ぎ始める。

 そしてある程度注いでから、俺へと差し出してきた。……この匂い、酒か?


「大倉さん、よろしかったらこちらをお飲みになりませんか?」


「お酒、ですよね?」


「はい、セヴァリアでよく好まれているお酒なんです。是非味わっていただければと思いまして」


 シスハとの付き合い程度でしか飲まないけど、せっかく勧められたから少しだけ飲んでみるか。

 ……うん、あっさりとしていて飲みやすい。前の俺ならちょっときつかったかもしれなけど、シスハと飲んでいる内に慣れてきたみたいだな。


「飲みやすくて美味しいですね」


「気に入っていただけたようなら嬉しいです。どんどんお飲みくださいね」


「いやぁ、どうもすみません」


 飲み終わると、すぐさまイリーナさんが空いたコップにお酌してくれた。

 いやはや、こんな可愛い女性に注いでもらえると顔がニヤけてしまいそうだ。

 そう思っていると、エステルがちょっと強めな声色で話しかけてきた。


「お兄さん、ほどほどにしておいてね。酔ったら帰りが大変よ」


「ご安心ください。もしそうなったら別室にてお休みいただけますので。神殿にお泊りいただくこともできますよ」


「あら、用意がいいのね。でも、お姉さん達に迷惑を掛けちゃうから。ね、お兄さん」


「あ、ああ。せっかくですけど遠慮しておきます」


「そうですか……」


 微笑んでいるが目が笑っていないエステルさんの迫力に、さっきまでの浮かれ気分が吹き飛んだ。

 うん、調子に乗っちゃ駄目だな。酔ってもシスハに治してもらえばいいと思っていたけど、程ほどに抑えておこう。

 そう反省していると、ノールの浮かれるような声が聞こえてきた。

 見てみるとこの前店に行った時の様に、神殿の人が慌てて食事を運んでいる光景が目に入る。


「むふふ、お店のとまた違って、神殿の料理も美味しいのでありますよー」


「ノールちゃん沢山食べて凄いんだよ! 私ももっと食べる!」


 ノールは幸せそうにしながらも、パクパクと皿に乗せられた食事を平らげていた。

 勢い余ってなのか、骨もそのままボリボリと噛み砕いている。まるで野獣のようだ。

 そんなノールと競うように、フリージアまでモリモリと食べて頬を膨らませている。

 その光景を見て、イリーナさんは引きつった笑みを浮かべていた。


「ノ、ノールさんは凄いお食べになるんですね」


「すみません……程ほどにしておけって言ったんだけどなぁ」


「ノールだもの。仕方がないわ」


 全く、神殿に来る前に少しは遠慮しろって言ったのに。……まあ、あれでも遠慮気味だと思うけどさ。

 エステルと共にそう呆れていたのだが、今度は突然後ろから何かが勢いよく抱き付いてきた。


「ぐほぉ!?」


 あまりの衝撃に息が漏れたが、その直後にモニュっとした感触が背筋に伝わる。

 な、なんだ!? なんか凄くやわらかい物が当たってるんだけど!

 振り返ろうにも抱き付かれて動けなかったが、すぐにだらしない声が聞こえてきた。


「おーくらさん! 飲んでますか!」


 これシスハかよ! つまり……さっきから当たっているのって……ひょぉ!?


「当たってる! 当たってるって! 離れろ!」


「うふふー、ナニが当たってるんですかー」


 グイグイと左右に体を振るが、シスハはさらに抱き付く力を強くして離れない。

 その様子を隣で見ていたイリーナさんは、驚きの声を上げた。


「し、シスハさん!? どうしたのですか!」


「完全に酔っているわね……いつの間に移動してきたのよ」


 呆れるエステルさんの視線に晒されながら、ようやくシスハは俺から離れた。

 振り向いて顔を見てみると、頬を赤くさせて口元もだらしなく半開きにしている。

 こいつ、さっきイリーナさんに勧められた酒飲みやがったな……。

 何か言ってやろうかと思ったのだが、その前にシスハが口を開いて遮られた。


「全く、イリーナさんとエステルさんばかりと話してズルいですよ。私も構ってください」


「離れてたんだから仕方がないだろ。色々と配慮してもらったのにすみません」


「私の方こそ、そこまで気が回りませんでした。シスハさん、こちらの席をどうぞ」


「いえいえー、お構いなくー。ちょっとからかいに来ただけですのでー」


 そう言って両手をブーンと広げながら、足取り軽くシスハは自分の席へと戻っていった。

 ……一体なんだったんだ。



 結局あれから何事もなく食事を終え、俺達はイリーナさん達に見送られながら神殿を後にした。

 帰る時も沢山の神殿の人達に見送られて、背中がこそばゆくなってきたぞ。


「むふふ、沢山食べちゃったのでありますよー。美味しかったのでありますぅ」


「うぅ……お腹が苦しいよぉ……。どうしてあんなに食べて、ノールちゃんは平気なの……」


「無理して食べるからだ。これだからポンコツエルフは困る」


 ノールは幸せそうにポンポンと腹を叩いているが、フリージアは苦しそうにしながらヒィーヒィー言っている。

 その様子をジト目で見つめながら、ルーナは呆れていた。

 俺達が色々と話している間、ノール達は食事を堪能したみたいだな。


「ふぅー、特に何事もなく終わったな。やっぱりエステル達が心配し過ぎただけじゃないか」


「本当にそう思うお兄さん?」


「全く、この人は本当に隙だらけなんですから」


 エステルとシスハが、呆れたような目で俺を見ていた。

 えっ、確かに色々とあったけど、別に大事はなかったよな?


「お酒を勧めた辺りで、あのお姉さん少しだけ怪しかったわ」


「そうですね。あのお酒も飲みやすくはありましたけど、かなり強い物でした。大倉さんでしたら……3杯程度でかなり酔ったんじゃないですか?」


「えっ、そこまで強かったか?」


 飲みやすくはあったけど、そこまで強い酒には思えなかった。

 だが、お酒ソムリエールのシスハが言うなら間違いなさそうだ。

 そんな物を飲まされていたとは……だけど、セヴァリアで好まれている酒なんだから偶然の可能性だって……。


「私が声を掛けたのと、シスハが1度来た後はすっかり警戒していたみたい。お兄さんだけだったらどうなっていたのかしら」


「強引な勧誘などはありませんでしたけど、神殿の方達と関わる時は注意した方がいいかもしれませんね。色々な意味で、特にイリーナさんには注意が必要ですよ」


 うーん、シスハ達はここまで言うってことは、やはり何か狙われていたのだろうか。

 シスハが酔って抱き付いてきたのも、狙いを逸らす為にやってくれたこと……なんだよな?

 今回は無事に済んだからよかったけど、今後関わる機会があったら注意しておこう。

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