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神殿訪問

 今日はイリーナさんと約束した、テストゥード神殿へ訪問する日。

 神殿長に軽く挨拶をしてから、料理をご馳走してくれるって話だ。

 なのでルーナとフリージアも連れて、俺達はセヴァリアにやって来ている。


「あの神殿行くの怖いよー」


「うむ、怖くはないが気味が悪い。……本当に怖くないぞ?」


 フリージアの言葉に頷いて、ルーナは腕を組みながら念を押すようにそう言う。

 別に疑ってなんていないんだけど……本当は神殿に行くのが怖いのか?

 この前は最後まで耐えていたが、テストゥード様の威圧感に参っていたもんなぁ。

 それでもこう言うとは、本当に妙なところでプライドが高いぞ。


「でも、ダラって子に会うのは楽しみ! 空を飛べるんだよね?」


「そうでありますよ。空を飛ぶのは凄く気持ちがよかったのであります」


「楽しみ! 私も乗せてもらいたいんだよ!」


「やれやれ、騒がしいエルフだ。だが、私も少しだけ興味がある」


 神殿に行く話をしてから、ダラのことも2人に話したのだが、かなり興味津々だった。特に空を飛ぶってところ。

 だから怖いと言いつつも今回の訪問は乗り気のようだ。


「むふふ、神殿のご飯は何が出るのでありますかね。凄く楽しみなのでありますよ!」


「そうね。セヴァリアのちゃんとした料理ってまだ食べていないから楽しみだわ。ね、お兄さん」


「お、おう」


 ノールの言葉に同意しながら、頬に手を当てながらエステルがジッと俺を見つめてきた。

 ど、どうしてわざわざ俺に話を振ってくるんだ。この前ノールと食事に行ったのはエステル達に話していないから、知らないはずなんだけど……。

 ノールは帰ってからも普通に夕飯モリモリと食べていたし、不自然な部分もなかった。

 ……後でちゃんと話しておこうかな。悪いことした訳じゃないのに、怖くなってくる。

 なんて心配をしていたが、エステルは急に真面目な表情で話し始めた。


「でも、お礼として神殿に招かれるのはいいけれど、何かありそうでちょっと心配だわ。守り神を信仰しろとか言われないかしら?」


「おいおい、イリーナさん達がせっかく善意で誘ってくれたのに、そうやって疑うのはよくないぞ」


「大倉さんは随分とイリーナさんを信用なさっているんですね。この前も手を握られて嬉しそうにしていましたし」


「べ、別に嬉しそうになんてしてなかっただろ! ……ったく、エステルもシスハもどうしたんだ? あんな人が良さそうな人を疑うなんて」


 俺の言葉を聞いたシスハとエステルは、互いに顔を見合わせている。

 それからちらっとエステルが俺の方を見て、頬に手を添えて眉をひそめ始めた。


「だって、ねぇ?」


「大倉さんは隙が多いですからね。誘惑されてホイホイと頷いたりしちゃ駄目ですよ」


 人差し指を立てながらそうシスハが話を締めると、エステルもうんうんと頷いている。

 俺、ここまで言われるほど嬉しそうにしていたのだろうか……というか信用ないな!

 いくらイリーナさんに頼まれたからって、そう簡単に何でも頷くほどこの平八は腑抜けてはいないぞ!


 そんな会話をしながらセヴァリアの町を歩いていき、神殿へと続く白い道に出たのだが……突然フリージアが声を上げた。


「……あれ? この前来た時と全然違うんだよ」


「うむ、威圧感がなくなっている。不快じゃない」


 ルーナもそれに同意するように腕を組んで頷いている。

 不快感がない……? 


「どういうことなんだ? 力が失われた訳じゃなさそうだし……」


「そうなっていたら今頃大騒ぎになっているはずじゃない?」


「うーん、力が失われた感じではありませんね。今も祠で感じた物と同質の力で守られているようです」


 テストゥード様の加護が失われた訳じゃないなら、どうしてルーナやフリージアに対して威圧感がないのだろうか。

 悪いことじゃないから別にいいんだけど、ちょっと疑問に思ってしまう。

 どうにも釈然とせず首を傾げていると、ノールが口を開いた。


「祠で戦った時のことをテストゥード様が知って警戒を解いた、とかどうでありましょうか?」


「えっ、いくらなんでもそれは……」


「御神体が祀られていた祠だものね。そうだとしても不思議じゃなさそうだわ」


 フリージア達が祠を守る為に戦ったから、それに応えてテストゥード様も威圧するのを止めた、ってところか?

 確かにそれっぽい話ではあるけど、それはそれでまずいような……。


「だけどそうなると、イリーナさん達にフリージア達のことがバレないか? テストゥード様から伝わる可能性だって否定できないだろ?」


「その可能性は十分あり得ますね。ですから今日お会いした時に、その辺りに関して言動に注意しておきましょう」


「お食事に誘われただけなのに、何だか妙な話になってきたでありますね……」


 フリージア達があの場に来て戦っていることがバレたら、何を言われるかわかったもんじゃない。

 俺が1人で戦っていないって知られるのはいいけど、吸血鬼やエルフだってバレるのはまずいぞ。

 もし知られていたとしたら、忘却薬を飲ませて忘れてもらう……のは厳しいか?

 テストゥード様に飲ませるのは無理だし、自分を崇めるイリーナさん達に危害を加えたら本気で祟られるかもしれない。

 ……バレていたら何とか黙ってもらえるよう、頼み込むしかないな。

 ただ食事に来ただけだっていうのに、急に胃が痛くなってきたんですけど。

 

 肩がずっしりと重くなったように感じながらも白い道を進んでいくと、真っ白い神殿が見えてきた。

 そして道の終わりだと示すように建てられている白い柱の先には、イリーナさんが立っている。

 彼女は俺達が来たのに気が付くと、にこやかに微笑みかけてきた。


「お待ちしておりました。本日はご足労いただきまして、誠にありがとうございます」


「いえ、こちらこそ誘っていただいて、ありがとうございます」


 軽く挨拶をしてから、フリージアとルーナを前に出した。

 俺やノールは護衛である程度交流したけど、フリージア達は初めて神殿に行ったっきりだからな。

 改めて挨拶をさせておこう。


「お2人方もお越しいただきまして、誠にありがとうございます。改めて自己紹介させていただきますね。私はテストゥード様にお仕えさせていただいている、イリーナと申します。本日はよろしくお願いいたします」


「ルーナだ。よろしく」


「私はフリージア! よろしくぅ! ダラって子に会うのを楽しみにしていたんだよ!」


「ふふ、それはダラも喜んでくれると思います。それではご案内いたしますね」


 ルーナの無愛想な挨拶にちょっとヒヤッとしたが、イリーナさんは気にした素振りもなく微笑んで俺達を神殿の方へと招いてくれた。

 うん、やっぱりいい人だな。この人が俺を誘惑しようだなんて、ありえないだろ。エステル達は気にし過ぎなんだよ。

 それよりも、今はイリーナさんがフリージア達のことを知っているか探りを入れないと。


「私達だけではなく、フリージア達まで招待していただいてすみません」


「お気になさらないでください。大倉さん達のお知り合いなら大歓迎です。遠慮なさらずにご堪能くださいね」


「うん! ありがとなんだよ!」


「たっぷりともてなしてもらおう」


 知っていたらもう少し態度に出てくるかと思ったけど、これだけじゃわかりそうもないな。

 エステルにチラッと目で合図を送ってみたが、首を横に振っている。もう少し突っ込んでみるか。


「ゴ、ゴホン、今日は何とい言いますか、神殿内の雰囲気がちょっと違いますね。フリージア達もそう思うよな?」


「そうだね! 雰囲気が和らいだ感じがする!」


「うむ、これなら寝れそうだ」


 神殿でまで寝ようとするな! 全く、この吸血鬼様は。思わず突っ込んじまったじゃねーか。

 頭の中で俺がそう思っている間にも、イリーナさんは再び微笑みながら答えてくれた。


「この前は緊張していらっしゃったので、一応明かりなどを変えました。それにテストゥード様も、フリージアさん達を歓迎してくださっているようです」


「あら、そんなことまでわかるの? 歓迎してくれるって、理由はあるのかしら?」


「そこまで御心を知ることはできませんが……祠を救ってくださった大倉さんのお知り合いなんです。歓迎してくださっているはずです」


 うーん、どうやらそこまで詳しくは知らないみたいだ。

 エステルを再度見てみると、今度は片手で丸を作っていた。よし、どうやら心配しなくてもいいかな。

 俺と一緒に来ているからフリージア達も警戒されていないのか、祠で一緒に戦ったおかげなのかわからないけど、テストゥード様は警戒を解いてはくれたようだ。

 それだけじゃなくて照明を変える配慮もしてくれていたのか。この前はちょっと室内が暗かったけど、確かに明るい。

 イリーナさんも前回ルーナ達が緊張していたのを気にしていたもんな。


 胸を撫で下ろしながらイリーナさんの後を付いて行くと、広間へと連れて行かれた。

 そしてそこには、長い白髭を生やしたおじさんが。ご立派な和服のような装束姿で、とても貫禄がある。


「大倉様達をお連れいたしました」


「おお、すまないねイリーナ」


 イリーナさんがお辞儀したのに合わせて、俺もお辞儀で挨拶をしておいた。


「私はこの神殿の長をさせていただいております、ラスクームと申します。祠を救ってくださって皆様方には、心より感謝させていただきます」


「いえいえ、こちらこそこの度は神殿にお招きいただき、ありがとうございます」


 う、うーん……感謝されるのは嬉しいけど、救っただなんて随分話が大きく感じるな。

 それほどテストゥード様を信仰しているってことなのか?


「イリーナから話は聞いておりますが、身を挺してまで祠を守ってくださったそうで……本当に、本当にありがとうございます」


「み、身を挺してだなんて大袈裟ですよ……」


「そんな、ご謙遜なさらないでください。お1人で魔物に立ち向かうお姿はご立派でした。大倉様はとても尊敬のできるお方です」


 威厳あるラスクームさんに何度も頭を下げられ、さらにはイリーナさんまで熱に浮かされたような表情で俺を見ていた。

 体がむず痒くなってくるようなお褒めの言葉だなぁ。褒められ慣れていないから、どうも反応に困る。

 というか、イリーナさんの俺に対する評価が怖い。どんどん妄信的になっているような……。

 そんな不安を抱きつついると、ラスクームさんが質問をしてきた。


「大倉様達はセヴァリアの出身ではありませんよね?」


「そうですね。セヴァリアには協会からの依頼でつい最近来たばかりです」


「やはりそうでしたか。それなのにそこまでして祠をお守りいただけるとは、テストゥード様にお仕えする私共としては、とても喜ばしいことなのです」


 ……う、うん? どういう意味? セヴァリア出身者じゃない俺が祠を守ったことが、どうして嬉しいんだ?

 まさか信者になる見込みがあるとか思われて……いや、それはないか。

 信仰者でもないのに、1度逃げ切ってまた祠に戻って解決したから過剰に評価されている、辺りかな。

 まあ、悪く思われてないなら構わないだろう。


「せっかくご招待したのですし、挨拶はこの辺りにしましょうか。私は同席できませんが、どうか食事をご堪能ください。イリーナ、皆様の案内を頼むよ」


「はい、お任せください。それでは参りましょうか。神殿長、失礼いたします」


 ラスクームさんとの話を終えて、俺達は広間を後にした。

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