王都のイケメン戦士
「随分とデカイな」
「王都って言われているだけはあるわね」
「や、やっと着いたんでありますな……」
ミノタウロス襲撃から数日、俺達は王都シュティングへと到着した。ブルンネの倍以上はある壁に囲われ、遠くにはお城のような建物が見える。
流石は王都、ブルンネよりもかなり大きな街のようだ。行き交う人の数もブルンネよりかなり多い。
馬車を降り、他の乗客達と一緒に街の入り口で簡単な書類手続き。その後許可証を貰いそのまま解散となった。
解散する前に護衛の冒険者や他の乗客にお礼を言われて、少し恥ずかしかったな。
ミノタウロスのドロップアイテムは俺達が黒光りした角、冒険者の人達には人間がなんとか持てるサイズになった斧を報酬にするということでまとまった。
「さてと、早速冒険者協会に行くか」
「あら、もう行くのね」
「とりあえず移動して来たんだし登録だけでも済ませておかないと」
ブルンネを発つ際、挨拶をしに冒険者協会に寄った。その時にマーナさんから、シュティングに着いたら1度冒険者協会で登録をしないといけないと忠告された。
別の協会の管理する場所で依頼を受ける際は、そこでも登録をしないと駄目なそうだ。
「ノール大丈夫か? 辛いようなら先に宿行って、お前だけ休んでてもいいんだぞ」
「大丈夫なのでありますよ……大倉殿達にご迷惑はお掛けしないのであります」
結局睡眠魔法は万能薬を使わないと起こせないと判明したので、ノールには我慢してもらい馬車に乗らせた。日に日に弱っていく彼女にポーションを飲ませたり、背中を擦ってやったりしたが大分体力を失っているようだ。
今も少しふらっとした足取りをしていて心配だな。
「んー、そうか。まあ一応これでも飲んでおけ。気分も少しは良くなるはずだ」
「良いのでありますか? えへへ、ありがとうございます、なのでありますよ」
バッグからポーションを取り出して彼女に手渡す。どうもガチャ産のポーションはこの世界で売ってる物よりも効能が良いらしい。
俺も飲んでみたが林檎味で美味かった。飲むだけで体調も微妙に良くなってくる。これでしばらくは平気そうだが、登録が終わったらさっさと宿に行くとするか。
そんなやりとりをノールとしていると、エステルが微笑んで俺達を見ているのに気が付いた。
「どうかしたかエステル?」
「ふふ、少しノールが羨ましいだけよ。私も酔っておけばよかったかしら」
「それは勘弁してくれ……」
●
「やっぱり王都ってだけで全然違うのね」
「随分と立派な建物でありますな」
シュティングの冒険者協会に到着してみると、立派な建物が出迎えた。大きさはブルンネの倍近くはあるか?
中に入るとかなりの人数の冒険者が、掲示板の前などでひしめき合っていた。ざっと数十人は居そうなぐらいだ。
掲示板もブルンネのように1つじゃなく、4つ有りどれも依頼の書類が隙間無く張り付いている。依頼の数も桁違いだな。
「本日はどのような御用でしょうか?」
「はい、私達はブルンネから来たのですが、シュティングでの登録をしていただいてもよろしいでしょうか?」
受付に行き受付嬢の人に登録のことを聞いてみる。既に冒険者である俺達は、プレートを預ければすぐに登録は終わると言われ3人分のプレートを手渡した。
「はい、問題はありませんね。登録はしておきますので、本日からシュティングでの依頼もお受付可能です」
「ありがとうございます」
登録を終え、プレートが俺達の許へと返ってくる。さて帰るかと入り口に向かい歩き始めた時だ。
何やら協会の奥の方が騒がしい。そっちの方を見てみると、1人の金髪の青年がこっちに向かい歩いて来ていた。
青い瞳に整った顔、イケメンという奴か。そいつの視線を見ると俺達の方を見ており、行き先も真っ直ぐ俺達の方だ。
仕立ての良い防具に剣を携え盾も持っている。多分ノールと同じ戦士系の職業だな。
「君、少しいいかな?」
付近まで来ると、青年は声をかけてきた。声を掛けた相手はエステル。
顔見知りのはずはないし、一体なんの用なんだ。
「私、かしら?」
「あぁ、そうさ。僕はディウス、Bランク冒険者パーティのリーダーをしている。もし良かったら僕達のパーティに入らないかい? 君魔導師だろう?」
彼の口から出た言葉は驚くべきものだった。パーティメンバーが居る前で堂々と引き抜こうとしている。
ノールの方をチラっと見て興味有りそうな顔をしていたが、俺のことは少し見て鼻で笑い無視された。こいつとんでもない奴だぞ。
「すみません、この子は私達とパーティを組んでいるので……」
とてもじゃないが見過ごす訳にはいかない。俺はディウスとエステルの間に割って入り、代わりにこいつと話すことにした。
「へー、パーティねぇ。Eランク程度で魔導師とパーティなんてね。そっちの戦士の子は装備も良さそうだけど、君はなんなんだい? 鎧は良い物なのかもしれないが、随分とみすぼらしい格好だね。まさか君がこのパーティのリーダーだなんて言わないよね?」
話を遮るとこの戦士は俺の装備とプレートを確認し、見下したようなことを言ってきた。
なんなんだこいつ。両手を肩程まで上げ、やれやれと首を振る仕草と口調が合わさりとても癇に障る。
確かにバールと鍋の蓋とかいう見た目糞な装備だけどさ、言われるとムカッとするぞ。
「この子の為にも、君達はパーティを組むの止めた方がいいと思うよ? 魔導師がEランク程度のパーティに居るなんて勿体なさ過ぎる。僕達のパーティに入ってくれれば、すぐにでもBランクにしてあげられる」
エステルの為とか言ってるけど完全に建前だろそれ。自分達が魔導師確保したいからとしか思えない。
グリンさんが言っていたランクで絡まれるってこういうことだったのか?
「あら、それは魅力的ね」
「お、おい、エステル?」
エステルが俺の前へと出て、こいつの話に乗るかのような返事を返す。
俺はそれを聞いて困惑した。彼女がそんな話に乗るとは全く思えないが、まさかな……。
「そうだろう? なら、早速――」
「でもお断りしておくわ。私、あなたに興味無いもの。私はお兄さん達と一緒だから冒険者しているだけよ」
了承してくれるのかと期待に満ちていた青年の顔が、彼女の返事で凍り付いた。やはりエステルはそうだよな、信じていたぞ。
なんだかスカッとした。俺と一緒だからとか嬉しいこと言ってくれるじゃないか。
「それにあなた達よりも、この2人の方が強いわ。どうしてわざわざ弱いパーティに移動しないといけないのかしらね?」
「なっ、おい、わざわざ煽るな! す、すいません、この娘口が悪くて……」
次いで相手を挑発する発言をする。おいおい、断ってはい終わり、ってところだったのに何してんだ。
青年の顔もそれを聞いて凍った笑顔のまま少し引きつっているぞ。
「だってお兄さん達のこと見下していて不快なんだもの。私、この人嫌いだわ」
勢い付いたエステルは彼に追い討ちを掛けた。
これはいけない、早々に黙らせなくてはならんな。このままでは取り返しのつかないことになりそうだ。
「はは、面白いことを言うね君。ならこうしないかい? 僕達と勝負をして、こっちが勝ったら君にはパーティに入ってもらう。君達が勝ったら言うことをなんでも1つ聞いてあげるよ」
「えぇ、い――」
「エステル、少し黙っててくれ」
「えっ……でも」
「いいから、な?」
彼女が言い切る前にその発言を遮り、ディウスの真正面に居たエステルを俺の後ろへと下げた。
危ないところだった。エステルは大切な仲間だ。彼女を賭けての勝負なんてする訳ないだろ。
なんでもってところに反応しそうになったが、野郎に頼み事するのと美少女1人とかどう足掻いても釣り合う訳ない。100億G積まれたって断るわ。
「ホント申し訳ございませんでした。どうか、仲間を引き抜くのだけは勘弁してください」
「ん~、まあ少女の戯言だと水に流すことはできるけどねぇ。でもこっちも面子という物がある。あそこまで言われて、タダで済ませるなんて少しね」
とても不本意だが、この糞野郎に俺は頭を下げる。なんとかエステルを賭けての勝負は回避できそうだな。
それでもやはり全部無かったことにさせるつもりはないみたいだ。凄く嫌味ったらしく言ってくるこいつの顔面に、バールをぶち込んでやりたくなるな。
とりあえずこいつのステータスを確認するか。
――――――
●ディウス 種族:ヒューマン
レベル:50
HP:1300
MP:150
攻撃力:410
防御力350
敏捷:60
魔法耐性:10
固有能力 戦士の誇り
スキル ソニックブレード 再使用時間:1分
――――――
むぅ、言うだけあって強いなこいつ。素のステータスだと俺負けてるぞ……。見た目はあれだけど、その分装備で恐らく俺が勝っているだろう。
固有能力の戦士の誇りは、HPが半分以下になった時に攻撃力が上昇する能力だったはずだ。スキルのソニックブレードは剣を振るい衝撃波を飛ばすものだったな。
うん、これなら勝負になっても大丈夫だろう。
「それじゃあこうしましょう。お互い100万Gを賭けて勝負をするなんてどうでしょうか?」
「はは、冗談は顔だけにしてくれ。Eランクの君達に100万Gなんて大金あるのかい?」
俺が100万Gを賭けた勝負を提案すると、奴は大笑いした。
この野郎、どこまで俺を馬鹿にすれば気が済むんだ。確かに、確かに顔に自信無いけどさ……。
金自体は既に300万G程あるので、失ったら痛いには痛いがエステルがいなくなるよりは遥かにマシだ。負けるつもりないけどな。
「はい、ここにありますよ」
「ほぉ……よし、いいだろう。じゃあお互い100万Gを賭けて勝負だ! 一応言っておくけど逃げようだなんて思わないほうがいいよ。冒険者達の情報網は結構広いからね」
俺はバッグから金貨10枚と取り出し、こいつに見せてやる。金貨を見た瞬間、ニヤついた顔で了承してきた。
周りの冒険者達にも聞こえるような大きな声でそれを言う。これで逃げたら俺達は臆病者だとか噂が流れるようにして、冒険者をやれなくするつもりなんだろうか。冒険者の情報網が広いとか脅してくる辺り、絶対そういう意図があるな。
誰が逃げるかよ。こいつ絶対に許さんぞ。
●
勝負については結局後日決めることとなった。冒険者同士の決闘などは禁じられており、こういう揉め事が起きた際は魔物を使った競い合いで勝負を決めるらしい。
「お兄さんごめんなさい。私……」
「気にするな。俺もかなりムカついていたから気持ちは分かる。けど、自分を賭けるなんて言おうとするのは止めてくれ。心臓に悪いぞ」
あれからエステルは随分と大人しい。ずっと顔を下に向けとぼとぼと俺達に付いて来るだけ。いつものからかって来る様子など微塵も無い。
どうやら感情的になって相手を煽り、勝負に発展したことに責任を感じているみたいだ。
「お兄さん!」
ついに泣き出して胸に飛び込んできたので、とりあえず背中をポンポンと叩いて慰めておく。正直あの野郎にはムカついていたので、彼女があいつに一泡吹かせていたのは気持ち良かった。
「それにしても大倉殿。よく怒らなかったでありますな。正直私も大倉殿を貶められてカチンと来たのでありますよ。真っ二つにしてやりたくなったのであります」
「えっ? 怒ってない? 冗談じゃないぞ、あの糞野郎。尻の穴にマジックダイナマイト突っ込んで爆発させてやりたくなったわ。いいか、あいつとの勝負絶対に勝つぞ、絶対にだ」
「なんか物騒な発言をしているでありますな……」
思い出すだけでも腹が立つ。あのイケメン野郎は絶対に許さん。