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ノールの気晴らし

 ガチャを回してから十数日後。

 今日もノールとセヴァリアの協会で経過を確認しに来たが、特に気になるような報告はなかったので協会を後にした。


「やっぱりあれ以降ディアボルスの発見報告はなし、か」


 祠の騒動からディアボルスの発見報告は1件も上がってきていない。俺達も一応調査を続けてはいるものの、まるで進展なし。

 狩場に異変があるかも調べているのだが、キャンサー洞窟以外は変化している様子もない。

 この騒動は終息したと思ってもよさそうなのだが……エステルの予想のこともあって何とも言えない感じだ。


 他の冒険者達もまだ調査は続けているみたいだから、もう少し様子を見て判断したいと思う。

 イリーナさんとの約束で神殿に訪問する予定も決まったし、しばらくはセヴァリアを中心に活動を続けるつもりだ。


「セヴァリアにいたのは、あれで全部だったのでありますかね?」


「どうだろうなぁ。あれが全部でこのまま騒動が治まってくれたのなら、俺としては嬉しいのだが……アイテム報酬もらえるかすら怪しいし」


「結局そこにいきつくのでありますか……。大倉殿はもっとこう、真っ当な理由を作るべきなのでありますよ」


「馬鹿野郎! 正義感だけであんな危険な目に遭ってたまるか!」


 アイテムが貰えるかもしれないと思ったからこそ、俺は異変解決に努めているんだ。

 名誉だとか、正義感だとかでやってられるかっての!

 それなのにグランドーリスを倒して報酬なしとか……やるせないぜ。

 まあ、セヴァリアの結界が消えて大変な事態になるのを防げたのはよかったと思うよ。

 イリーナさんに感謝してもらえたのも、照れくさかったけど嬉しかったしなぁ。

 ……シスハとエステルが妙な視線を送って来るのは怖かったけど。


 なんて考えていると、隣を歩くノールが不意に呟き始めた。


「私、今回は全くお役にたてなかったでありますね……」


「い、いきなりどうしたんだ?」


「だって、調査で何も発見できず、祠での戦いでも逃げただけなのでありますよ……。このままじゃ私、カニを採る為だけにセヴァリアに来たみたいなのであります。大倉殿はあんなにも体を張ってくれて、エステル達だって活躍したのに……」


 急にどうしたんだ? 自分でカニ採る為だけに来たみたいとか言い出しやがったぞ。

 確かに喜々としてカニを採っていたし、エステル達に比べると目立った活躍は少なかったかもしれないが……役に立たなかったとは思わない。


「あー、うん。そう気にするなよ。役割分担は重要なんだからさ。それに逃げただけって言うけど、イリーナさん達を安全に逃がせたのはノールのおかげだろ?」


「あれは私の働きでは……魔物も襲って来なかったでありますよ」


「それは結果的にそうだっただけだろ。もし外でディアボルスが待ち伏せしていたら、お前がいなきゃ危なかっただろ? そういう可能性も考えて、逃げる先導を任せたんだぞ。だから俺は安心してボコられることができたんだからな!」


「あ、安心してボコられるっていうのはどうかと思うでありますが……無事で本当によかったのでありますよ」


 あそこで即逃げる決断できたのも、ノールがいてくれたおかげだ。

 そうじゃなきゃ皆無事に逃げられなかったかもしれない。

 結果としては逃げた後魔物は襲って来なかったけど、そんなこと事前にわからないんだから仕方がない。

 そう言ったものの、まだノールは口を尖らせて不満そうにしている。


「まあ、そういうことだから気にするな。むしろ本格的な戦いがあればノールが頼りになるんだから、その時頑張ってくれよ」


「……了解なのであります。その時は力の限り頑張るのでありますよ」


「おう、頼りにしているからな」


 返事は一応してくれたけど、まだノールは気にしているのかちょっと歯切れが悪い。

 前よりはマシになったとはいえ、やっぱり細かいところを気にする奴だなぁ。

 よし、ここは1つ気分転換でもさせよう。


「せっかくだからこのまま2人で飯でも食いに行くか。今日は俺が全部奢るぞ」


「えっ、2人ででありますか? エステル達は……」


「あー、まあ、たまにはいいだろ。最近は色々と任せているし、息抜きって感じでさ」


 フリージアのことをノールに頼りっぱなしだし、俺達が手伝いはしていても食事を作ってもらってばかりだ。

 前のノールはもうちょっと気楽そうにしていたけど、人数が増えるにつれてだんだん遠慮することが増えた気もする。

 ……というより、ノール以上にフリーダムな仲間が増えたのが原因な気もするけど。俺も含まれてそうだから、その点は申し訳なく思う。

 そんな訳で日頃の感謝も込めて飯に誘ったが、自分だけ行くのに抵抗があるのか渋っている。

 仕方ない、もう一押ししてやろうか。


「今日は思う存分食べていいぞ。嫌って言うなら別に――」


「行く! 行くのであります!」


 あっさり落ちやがった!? 思う存分って言うのは不味かっただろうか……いや、流石に飯を食べるだけなら平気だろう。

 そう軽く考えて、ちょっと不安を抱きつつ適当な飲食店に入ってみた結果。


「むふふ、美味しいのでありますよー。あっ、おかわりであります!」


 軽快に片手を挙げて、ノールはおかわりを要求した。

 テーブルの上は空いた食器で埋め尽くされ、店員さんが大急ぎで皿を下げては新たに料理を運んでくる。

 店内にいる他の客は驚いた様子で俺達のテーブルを見ていて、一部の人達はノールがどれだけ料理を食べるか盛り上がっているぐらいだ。

 うん、甘かった。ノールの食欲を甘く見過ぎていた。俺がスープ1つ食べ終わる間に、6、7皿食い尽くすとか予想外だろ。

 こいつの胃袋はブラックホールか? 大食い大会にでも出してやりたいぞ。

 時間帯的に客は少ないけど、厨房の方を見ると満席と思えるぐらい慌しく次々料理が出てくる。


「思う存分とは言ったが、ここまで食うのか……。まあ、俺が言い出したんだからいいんだけどさ」


「むしろ大倉殿が小食過ぎるのであります。もっとしっかり食べないと、強靭な肉体にならないでありますよ!」


「別に強靭な肉体なんて目指していないんだが……俺はこれぐらいで十分だ」


 呆れながら俺は焼かれた魚料理を摘んでいく。

 ノールと同じ量食べたら、強靭な肉体になる前に胃がぶっ壊れちまうぞ。

 既に20人前ぐらいは食べてるんじゃないか? 金に問題はないが……最終的にどんだけ食うのやら。

 相変わらず見ていて気持ちがいい食べっぷりだから構わないけどさ。


「やっぱり港町は美味しい魚料理が多いでありますね。参考になるのでありますよ」


 港町の飲食店だけあってか、主なメニューは殆ど海産物だ。

 貝や魚は勿論、エビやイカなどを焼いたりスープで煮込んだりと、種類が豊富だ。

 刺身みたいな生ものがないか探したけど、どうやらこの店にはなかった。……ちょっと残念だな。

 高い店って訳じゃないので、味付けは大味といったところだ。だが、俺としては安心感のある味わい。

 こういう店の方が慣れ親しみがあるというか、気楽だ。ガチャ産の食料はかなり美味いけど、こういう店の味もいい。

 異世界で最初は不安に思っていたが、この世界って割と料理のレベル安定してるんだよなぁ。魔物の食材が稀によく紛れ込んでるけど。

 でも、店の味よりもノールの味付けが好きかな。


「確かにこの味付けも美味いと思うけど、家で食べるお前の料理も俺は好きだぞ」


「えっ……も、もう! 大倉殿は口が上手いでありますね! 今日はおかず1品増やしちゃうでありますよ!」


 照れ隠しなのかノールは片手をぶんぶんと振っている。

 やったぜ、毎回褒めるとおかずが1品追加されていくな。


「それにしても、大倉殿と2人でご飯を食べるなんて、久しぶりでありますね」


「そうだなぁ。2人で宿に泊まっていた時以来か。あれから随分と経っているもんな」


「思い返せば長いものでありますねぇ。冒険者を始めて、エステル達を呼んで、自宅も手に入れて……感慨深いものがあるのであります。木から落とされたのも、今では懐かしい思い出なのでありますよ」


「その節は大変申し訳ございませんでした……」


「むふふ、冗談であります冗談。もう気にしていないでありますから」


 深々と頭を下げる俺を見てノールは笑っていた。

 うっかりとはいえ木から落としちまったからなぁ。

 冗談だとしても、あれが懐かしい思い出というのは申し訳なく思う。

 

 そんなやりとりをしながらもしばらく食事をし、心行くまでノールに食事を楽しんでもらった。


「むふふ、満腹なのでありますよー。大倉殿、ご馳走様なのであります!」


「お、おう……満足してくれたみたいで何よりだ」


 店を出ると、ノールは幸せそうにポンポンと少し膨らんだお腹を叩いている。

 今回のお食事代、40万G近くまで膨れ上がった。高級店という訳じゃないのにこのお値段。

 さすがはノール、一体何人前食べたのだろうか。帰る時に見た店員さんの安心したような表情が印象深かったぞ。

 食材が尽きてもおかしくないペースだったからなぁ……。ノールの胃袋を侮っていたよ。

 奢ると言った手前、支払いは俺個人が稼いだポケットマネーから支払っておいた。


「私だけこんなご馳走になって、エステル達にちょっと悪いことしちゃった気分でありますね」


「ノールにはいつも飯を作ってもらってるし、たまにはいいだろ。エステル達だって気にしないはずだ」


 協会に行ったついでに飯を食べただけだから、エステル達もそう気にしないだろ……多分。

 ノールが自分で作っている時は、流石にこんな量を作っていられないからな。


「どうだ、少しは気分も晴れたか?」


「……はい、モヤモヤがすっかり晴れたのでありますよ」


「ならよかった。機会があればまたこうやって2人で出かけたりするか」


「そうでありますね。大倉殿、本当にありがとうございます、でありますよ」


 飯を食べる前の雰囲気は微塵もなく、どうやら吹っ切れたみたいだ。

 これからもこうやって一緒に飯に行くのも悪くはないだろう。

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