女神の聖域
いつもお読みくださり、誠にありがとうございます。
明日、9月28日に書籍5巻が発売となります。同時にコミカライズ版1巻も発売となります。
詳しくは活動報告にて書かせていただきますので、興味のある方は目を通していただけると幸いです。
ガチャを引いた翌日、予定通り出たアイテムを確認する為、人目のない場所に来ていた。
「ふふふ、どれだけ強化されたのか試すのが楽しみだわ」
エステルは杖を両手で握り締め、笑顔でブンブンと左右に振って興奮気味だ。
「エステルが浮かれている姿を見るのは、珍しいのでありますよ」
「新しい力を試すとなれば、浮かれてしまうのも無理はありませんよ。私だったら町全体に回復魔法をぶっ放してしまうかもしれません」
「……お前は絶対に強化しないからな」
「えー、いいじゃありませんか。害はありませんよ」
よくねーよ! 確かに回復魔法なら害はないだろうけどさ……町全体が突然光に包まれたら大パニック間違いなしだぞ。
シスハは元々大人数を一度に回復できるのが売りの神官だったからなぁ。
やろうと思えばブルンネ全体を対象に回復魔法を使うことぐらいはできそうだから、冗談なのか本気なのか全くわからん。
「えへへー、ガチャのアイテムを試すのは楽しみだね!」
「昼間に外へ出るぐらいの価値はある」
ルーナはさっきまで寝ぼけていたが、ガチャのアイテムが気になるのか一緒に来ていた。
フリージアに起こされて誘われた形だったけど、まんざらでもなさそうだ。
さて、今回のメインはUR女神の聖域だけど、その前に例の物の確認といこうか。
アイテム欄から極大金塊を選択してタップする。
スマホから光が溢れ出し、俺達の前に具現化した金塊は……巨大な台形型のインゴットだった。
俺の背丈より高さがあって、その倍以上の幅がある。
「でかっ!? 大きすぎるだろこれ!」
「す、凄い大きさの金塊であります……」
「巨万の富というのもあながち嘘じゃなさそうですね」
「ピカピカしてて綺麗なんだよ!」
デカイで済む大きさじゃないだろ……一体おいくら万G分の金なのか。
そんな疑問に、インゴットへ触れて調べていたエステルが答えた。
「うーん、純度もかなり高そうね。1億Gどころか、10億Gは超えるかもしれないわ」
「ふむ、それだけあればもう働かずに済む……」
エステルの言葉を聞いた途端、ルーナが紅い瞳にキラリと光を宿して動いた。
持っていこうとインゴットの端っこを掴んで引っ張っている。
しかし、重過ぎたのかビクともせず彼女はすぐに諦めた。
強奪して引きこもろうとしないでくれませんかねぇ……。
それにしても、俺が見ても1億G分以上はあるのはわかったけど、まさかエステルさん換算で10億G分か……。
もう資金に困ることもなさそうだな。これだけで王都に家が買えちまう。
だけど、このままだと大き過ぎて支払いに使うのは難しそうだ。
溶かして小さなインゴットにして地道に使うか辺りが無難か?
次は金塊と同じ理由で後回しにしていた希少鉱石。
具現化させると、これまた俺の背丈よりも大きいゴツゴツとした物体が出てきた。
全体がメタリックな緑色をしていて、パッと見た感じ不純物は一切混ざっていない。
「これまたデカい鉱石が……鉱石なのかこれ?」
「随分と派手な色をしている石でありますね。どんな鉱石なのでありましょうか?」
「少なくともただの鉱石じゃなさそうね。砕いて鑑定してもらった方がよさそうだわ」
「鑑定できるアイテムがあれば便利なんですけどね。ステータスアプリでどんな物かわからないんですか?」
「……駄目だ、全く反応しない」
ステータスアプリは魔物や人にしか効果ないからなぁ。
鑑定アプリとかその内ガチャから出てくれないだろうか。
エステルの言うように、砕いた欠片をガンツさんに持っていって見てもらうとしよう。
「よし、それじゃあ女神の聖域の確認を始めるとするか」
金塊と鉱石をバッグに仕舞い、白銀の指輪を指にはめた。
ノール達を頭の中で対象として思い浮かべて、指輪に魔力を送る。
すると、虹色の宝石内にある紋章が光り出して、俺を中心に全員を覆う虹色の薄い膜が半円状に出現した。
「おお! 何かで覆われたのでありますよ!」
「これが女神の聖域なんだね。もっとババーン! って凄いのが出てくるのかと思ったんだよー」
「確かに使う瞬間はあっさりしていたけれど、かなりの力を感じるわ。これならどんな攻撃を受けても防ぎきれそうね」
「神聖な力で満たされていますね。女神の聖域という名に恥じない効力が……あっ、ルーナさん! この中にいて大丈夫なのですか!」
しまった!? 女神の聖域って言うぐらいだから、神聖な力が働くのは予想できたじゃないか!
シスハの声に釣られて、俺だけではなくノール達も一斉にバッとルーナの方を振り向くと……腕を組んでジト目のまま仁王立ちしていた。
なんだよ、全然平気そうじゃないか。神聖な力だからといって、ルーナに害がある訳じゃないのか。
「よかった、大丈夫そうでありますね。ビックリしたのでありますよ」
「うむ、これぐらいどうということはない。頭痛と吐き気がする程度だ」
「いやいやいや! それ大丈夫じゃないから! ほら、外に出ておけ!」
「そうですよ! 一緒に出ましょう!」
「そういう時は、黙っていないでちゃんと言わなきゃ駄目よ」
「そうだよー。我慢はよくないよ!」
「別に我慢などしていない。皆心配性だ」
慌ててルーナを薄い膜から運び出し、そのまま外で待機してもらうことになった。
全く、どうして気分が悪くても言わないんだこの吸血鬼様は……変なところで妙にプライドがあるから困る。
開始早々騒ぎになったが、気を取り直して女神の聖域の確認作業を始めた。
まず確認することは、持続時間だ。どれぐらい展開し続けられるか、わからないと運用も難しい。
なので、発動直後からアイテムガチャで追加されたSR時計アプリの機能の一つである、ストップウォッチで時間を計測している。
ついでに俺を中心に展開している結界から抜け出したらどうなるか試すと、発動した場所から膜は動くことなくその場に留まり続けた。
1度発動させると、発動者が中にいなくてもそのまま残るってことか。
指輪を中心にして女神の聖域も動いてくれたら、色々便利そうだったけど仕方がない。
もし動くなら、発動状態で魔物を壁に追いやってそのまま押し潰したりできそうだったのに。
「持続時間を計る間に別の検証もしておこうか。俺が中に入るから、エステルの支援魔法とシスハの回復魔法が通るか試してくれ」
このまま時間が過ぎるのを待つのも勿体ないから、ついでに他の検証もしておこう。
俺が聖域の中に入り、エステルとシスハに害のない魔法を飛ばしてもらった。
結果は……2人共首を横に振っている。俺も支援と回復魔法が掛かっている感じはしない。
「うーん、駄目ね。魔法が途中で弾かれちゃうわ」
「害を与える物じゃなくても弾かれてしまうんですね」
「それじゃあ今度は俺が外に出るから、シスハ達は中に入って魔法を使ってみてくれ」
次に入れ替わって中から同じように魔法を飛ばしてもらった。
結果はいつも通りちゃんと俺に魔法が掛かって、体の内から力が湧き上がってくる。
おお……この感じ、前よりも力が強く成っている気がするぞ。
エステルが支援魔法も強化されるかもしれないって言っていたけど、本当に効果が上昇しているみたいだな。
せっかくなのでエステル達にはそのまま中に残ってもらい、さらにフリージアにも中に入ってもらって今度は攻撃してもらう。
喜々としてフリージアが聖域内から外に向かって矢を放つと、そのまま膜をすり抜けて矢は飛んでいく。
次にエステルが指先から水を飛ばすと、問題なく外へ飛んできた。
「中からは問題なし、か」
「あはは、凄い凄い! 矢が通り抜けていくんだよ!」
「私の攻撃魔法も問題なく中から撃てるわね」
「さすがURですね。外からは干渉できず、中からはできるなんて理不尽極まりないです」
ルーナが中に入って体調を崩すのは想定外だったけど、これは十分過ぎるぐらい凄いアイテムだな。URは伊達じゃない。
計測時間も5分を過ぎたがまだ女神の聖域は健在だし、これなら一方的に安全圏から敵を攻撃できる。
これがグランドーリス戦の時に使えたら……くっ。
「それじゃあ残りの時間は、どんな攻撃でも無力化できるのか実験だな。中に俺が入る……のは怖いから、代わりにこれを置いておこう」
「あっ、ぬいぐるみ! 大倉殿! それを実験に使うなんてとんでもないであります!」
「いや、沢山あるんだし1つぐらいいいだろ……」
「駄目でありますよ! これ持っていない種類なので欲しいであります!」
いつ効果が切れるかわからないから、中に入らずぬいぐるみで実験しようとしたのだが……俺がぬいぐるみを実態化させた途端、ノールがバッと飛び付いてきた。
持っていない種類って……まさかぬいぐるみコンプリートを目指しているのか?
「この前の洞窟でも囮に使ったよね。ぬいぐるみは便利なんだよー」
「おい! それは言うなって!」
フリージアの言葉を聞いた瞬間、ノールはピクッと体を震わせて動きが止まった。
「……ちなみに、そのぬいぐるみはどうしたのでありますか?」
「ポンコツエルフのスキルに巻き込まれて、跡形もなく消え失せた」
「あっ、あっ……ぬいぐるみ、私のぬいぐるみが……」
ルーナの言葉を聞いて、ズルズルと膝から崩れ落ちノールはうなだれている。
そ、それほどぬいぐるみが消滅したのがショックだったのか……?
だけどこれは致し方ない犠牲、納得してもらいたい。
その後、複数出して新たに出たぬいぐるみを渡し、ダブったぬいぐるみを身代わりに使うことでノールを納得させた。
これで納得するなんて、意外にノールも現金な奴だな……。
って、時間を浪費している場合じゃない! 早く残りの女神の聖域の性能を確かめなくては!
さっそく攻撃に対する効果を確認する為、まずはフリージアに攻撃してもらった。
「それじゃあ私からやるね! 狙い撃つんだよ!」
強化されたエステルの支援魔法を受けたフリージアが、弓に番えた矢を放った。
放った瞬間空気の破裂するような音がして、瞬く間に矢が女神の聖域である虹色の膜に到達すると……矢は弾かれた彼方へと飛んでいく。
「あっ、弾かれた……あれ凄いね!」
「なら、次は私だ。お前の代わりに撃ち砕いてやろう」
「おお! やっちゃえルーナちゃん!」
槍を構えてやる気のルーナをフリージアがぶんぶんと手を回して応援している。
この2人、実は結構仲いいんじゃないのか?
そんな疑問を他所に、ルーナは駆け出して宙高く飛び上がる。
槍を空中で豪快に回して勢いを付け、さらに槍から真紅のオーラが立ち上り……おい、待て、あれスキル使ってるだろ!
気が付いた直後に槍はルーナの手元から放たれ、紅い閃光となって女神の聖域へと向かう。
そして着弾すると……槍は弾かれてクルクルと回転しながらあさっての方向へ飛んでいく。
「弾かれた……平八、血をくれ」
「お、おう」
「スキルまで使うとは思わなかったでありますね……」
「ですが、これで女神の聖域の効果も実証されましたね。並大抵の物では、ルーナさんの攻撃は防げません」
スキルを使ってまで破ろうとしたのは予想外だったけど、これはこれで性能を証明する良い例になったな。
フリージアの矢を物とせず、ルーナの防御と魔法耐性を貫通するカズィクルすらビクともしない。
これは完全に外からの干渉を無効化していると思っていいだろう。
うん、これで大体の検証は済んだかな。
後は女神の聖域の効果が切れるのを待つだけ……かと思いきや、エステルさんが満面の笑みを浮かべてこっちを見ている。
あっ、やる気満々みたいですわ。
「ふふ、それじゃあ私も試してみようかしら。とりあえず、えい」
黄色いグリモワールを片手にエステルが杖を地面に突き刺すと、轟音と共に突き上げるような縦揺れが俺達を襲った。
それだけでは終わらず、女神の聖域の薄い膜と地面の境界部分が大きく爆ぜて、空に雪崩のように土が舞い上がっていく。
「な、何をしたんだ!?」
「地面の下がどうなってるか気になったから、土魔法を撃ち込んでみたの。ちゃんと対応しているみたいね」
「す、凄い揺れだったのでありますよ……」
「強化されてエステルさんの魔法も強烈になっているみたいですね……」
確かに下まで保護されているのか検証していなかったけど……エステルさんの魔法がめちゃくちゃ凶悪に育ってないか?
女神の聖域の展開している地面以外の場所が、一気にまとめて掘り返されたような状態になっているぞ。
とりあえずエステルのおかげで、女神の聖域が半円状ではなく、円状に近い形で展開されていると判明した。
これで終わり……かと思いきや、今度は赤いグリモワールと取り出してまたエステルが杖を振った。
すると、お次は突然聖域の上空で大爆発が起こり、熱風が周囲に撒き散らされる。
「あら、ズレちゃったわ」
「エステルちゃん今の何! いきなり爆発したんだよ!」
「空間を指定して爆破しただけよ。やっぱり外から干渉するのは無理みたいね」
「あれは避けられそうにない。エステルはやはり恐ろしい」
く、空間を指定して爆破……? まさか座標攻撃みたいなことやってるのか!?
今までは多少魔法を使うまで溜めの時間があったけど、今のは一瞬で爆破していた。
これなら素早い相手でも攻撃を当てられるし、対空能力も飛躍的に向上している。
うん、エステルさんを強化して本当によかったと思う。
……他にも色々と強化されていると思うと、ちょっと恐ろしい気がしてきたけど。
「それじゃあ最後に、とっておきの魔法を撃ち込んでみるわね」
「まさか前に使おうとした、滅びの光……とかいうやつか?」
「ええ、以前の私だったら制御ができなくて目の前が全て更地になっていたと思うけど、今なら位置を絞れるはずだから安心して」
目の前が更地とか、やっぱりあの魔法ヤバイやつじゃないですかー。
正直撃つのを止めさせたかったが、胸を張って自信満々なエステルを見ると悪い気がして、つい撃っていいぞと言ってしまった。
彼女はパアッと明るい笑顔を浮かべ、意気揚々と白いグリモワールを取り出して杖を掲げる。
すると女神の聖域の遥か上空に巨大な魔法陣が出現し、中央に輝く球体が形成されて周囲から光が集まっていく。
その大きさは徐々に大きくなっていき、ドクンドクンと脈打つように玉は鼓動している。
……ほ、本当に大丈夫この魔法?
「――えいっ!」
ある程度集束したところで、エステルはかけ声と杖を振り下ろした。
光の球体はそのまま落下……はせず、柱のような極太の光線が聖域へと上から下へと向かっていく。
聖域は光線に丸ごと飲み込まれ、あまりにも光が強過ぎて中の様子がまるで見えない。
眩しさに直視はできないけど、それよりも全く音がしないのが恐ろしいぞ……。
それから極太の光線は1分近く継続して降り注ぐと、徐々に細くなっていき、最後には細長い線になってようやく魔法が終わった。
光線に飲み込まれた場所が姿を現すと、聖域のあった場所だけを残し周囲の地面が消し飛んで、深い穴に囲まれ孤島のようになっている。
「ふぅ……これでも防がれちゃった。URアイテムって凄いのね」
エステルは残念そうに息を吐いたが、あの魔法を撃ってご満悦なのか頬を赤くしている。
お、おおう……あんなの食らったら、どんな魔物でも即蒸発しそうだな……しかも照射が1分近く続くとかエグイ。
しかし、そんなヤバイ魔法も含んだ全てのエステルさんの魔法を、女神の聖域は防ぎきった。
これはもう性能が証明されたと思っていい筈だ。
「エステルの方が凄いと思うのでありますが……」
「やはり強化されると色々できるようになるんですね。私も早く強化されたいものです」
「うむ、働かなくていいなら強化されてみたい」
「あはは! 凄い凄い! エステルちゃん、もっと魔法を見てみたいんだよ」
「ふふふ、仕方がないわね。それじゃあ、もう少し色々試してみましょうか」
その後も女神の聖域の効果が切れ、中のぬいぐるみが消し飛びノールが絶叫するまで検証は続いた。
最終的に女神の聖域の効果時間は20分、再使用時間は12時間と判明し無事に確認終了。
エステルさんも強化され、超性能の女神の聖域まで手に入った。今後の戦闘に大いに期待できそうだな。
いつもお読みくださり、誠にありがとうございます。
明日、9月28日に書籍5巻が発売となります。同時にコミカライズ版1巻も発売となります。
詳しくは活動報告にて書かせていただきますので、興味のある方は目を通していただけると幸いです。
大事なことなので2回……しつこくて申し訳ございません!