表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
175/409

黒幕考察

 祠の修繕を終え、俺達は洞窟を後にした。

 行きと同じようにダラの背に乗って、セヴァリアを目指して空を移動していく。

 飛行中にディアボルスが襲ってこないか警戒して、高度はちょっと落とし気味だ。

 地図アプリで赤い点には特に注意を払い、野営時はいつもより緊張感もあった。

 

 そうやってセヴァリアまで3日掛けて移動したけど、特に魔物からの襲撃もなく無事町へ到着。

 もしディアボルスがまだ残っているなら襲ってくるかと思ったけど、もういないのだろうか。

 どちらにしても何事もなく帰ってこれたんだから一安心だ。

 

 そのままイリーナさん達と別れて、俺達も協会に報告をして帰ろうとしたのだが……イリーナさん達は神殿に帰ることなく、ダラだけ神殿に帰して冒険者協会へ付いてきてしまった。

 なんでも今回のことを直接支部長に話したいそうだ。

 俺としては一緒に来てほしくないので、大丈夫だと何度か言ってみたけど、どうしても行きたいと退いてくれなかったから渋々了承するはめに。

 そして現在俺達は、冒険者協会で一緒にベンスさんと話をしている。


「なんと!? それじゃあ大倉さんお1人で例の魔物6体に、謎の巨大な魔物まで倒してしまったんですか!」


「はい、それにシスハさん達に結界の修繕や強化までしていただけました。このような素晴らしい冒険者様を紹介してくださったベンスさんには、感謝の念に堪えません」


「いやいや! 紹介したなんてとんでもない! これもちょうどあの場に来てくださり、快く依頼を引き受けてくださった大倉さんのおかげですよ!」


「あ、あはは……そ、そんなことありませんよ」


 イリーナさん達が祠で起きたことを話して、さらに襲ってきた魔物が探していたディアボルスだったことを俺達が補足した。

 その結果ベンスさんまで、俺が1人でディアボルス6体を撃退したと思っているようだ。

 おいおい、勘弁してくれ。だからイリーナさん達と一緒に来たくなかったんだ……。

 彼女達の話を聞いて興奮しているベンスさんは、さらに口早に俺達を賞賛する言葉を口にしていく。


「大倉さん! 今回の件は十分誇ってもいいものだよ! 護衛対象を無事に逃がして、例の魔物を6体も1人で相手にして祠を奪還するなんて、Aランク冒険者でも難しい偉業だ! クリストフさんが一目置いた冒険者なだけはあるよ!」


 おぉう、Aランクでも難しい偉業だと……ちょっと話が膨らみ過ぎてないか?

 ベンスさんをこのままにしたら大変なことになりそうだな。

 これ以上過剰に俺達の評価が上がって厄介ごとが舞い込んでも困るし、言い訳をしておこう。


「そんな大袈裟な。あれは運がよかったといいますか、持っていた魔導具のおかげといいますか……」


「おお! そんな凄い魔導具も持っていたとは! さすがは大倉さん! もしかしてその魔導具を作ったのも、そちらのお嬢さんなのかな?」


 俺の言葉を聞いたベンスさんは、今度はエステルを見て目を輝かせていた。

 やばい、失敗した! 言い訳に魔導具を出したのは迂闊だったか。

 いや、だけど他にいい考えも思いつかなかったし……。

 ここは上手く取り繕ってくれることを期待するしかない。


 ベンスさんの視線を受けたエステルは困ったように苦笑を浮かべている。

 そして片手に頬を添えて少し考えるような素振りを見せ、切り出し始めた。


「……ええ、だけど1から作った訳じゃなくて、私はただ手を加えただけよ」


「それでもあの魔物に対して効果のある魔導具にできるとは、大倉さんだけではなくパーティの皆様方も凄い! 神官様も祠の結界を修繕できるほどのお力をお持ちでしたとは!」


「うふふ、それほどでもありますよ」


「本当にシスハさんは凄いお方です! 私共も見習わなくてはいけませんね」


 ベンスさんとイリーナさんに褒められたシスハは、それはそれは満足そうに胸を張ってドヤ顔をしている。

 ちょっとぐらいは空気読んで謙遜しやがれコノヤロー! 

 それとイリーナさん達も見習わないで!



 何とかベンスさんを落ち着かせて、今回の依頼の報告を終えて協会を後にした。

 ふぅ、ギリギリ言い訳を押し通すことができたけど、俺だけが祠に行ってディアボルスを倒したように思われたのは迂闊だったな。

 だけどイリーナさん達の護衛を疎かにする訳にもいかなかったから仕方がない。

 せめてもう1人ぐらい冒険者として登録できれば……愚痴っても意味ないか。


 護衛も終わりということでイリーナさん達とはここでお別れだ。

 彼女達は協会の建物から出ると、俺達に対して深々と頭を下げた。


「この度は護衛をしてくださいまして、誠にありがとうございました。大倉さん達の行いには、テストゥード様もお喜びだと思いますよ」


「お力になれたようでよかったです。セヴァリアにはまだ滞在する予定ですので、もし何かありましたらまたご協力いたしますね」


「はい、その時は真っ先にご相談させていただきますね」


 あんなトンでもない結界をシスハ達が張ったから、あの祠が襲われる心配はないだろうけどな。

 元凶だったディアボルスをまとめて倒すことができたし、これでセヴァリアの調査も一区切りと思っていいだろう。

 だけどまだ何かある可能性も捨てきれないので、もう少し様子見をするつもりでいる。


 これで一安心とその場を離れようとしたのだが……イリーナさんが突然俺の片手を両手で握り締めてきた。


「大倉さん」


「は、はいっ!?」


「これは私の個人的なものなのですが……今後も大倉さんがどうかご無事なように、僭越ながら祈らせていただきますね」


 イリーナさんは俺の名前を呼びながら、頬を若干赤くしている。

 こ、個人的って……つまり神殿に仕える身としてじゃなく、イリーナさん個人として祈ってくれているってことなのか?

 俺が動揺して固まっていると、彼女は握っていた手を離してさらに話を続けた。

 ……ちょっと残念だなんて思ってないぞ。


「それと……後日神殿にお招きしてもよろしいでしょうか? 神殿としても今回のことはとても深刻な問題でしたので、解決してくださった大倉さん達にお礼をさせてください」


 えっ、神殿に招くって……ただ依頼を受けただけなのに、そんなお礼だなんてとんでもない。

 それに今回の護衛の報酬として、かなりの金額を貰える予定だ。

 結界を張り直したりその他諸々とあって、最低でも2000万Gは考えているとか。

 イリーナさん達だけで判断する訳にもいけないから、そこは神殿に帰って神殿長達と話し合ってから支払うことになった。

 そんな訳で、さらにお礼までしてもらうなんてとんでもない。


「お誘いいただき光栄ですが、私達としては協会から依頼を受けただけですので……報酬も貰えますし、そのようなことをしていただかなくても」


「お願い致します。私共も移動中に話し合いまして、是非大倉さん達に感謝をお伝えしたいのです。神殿長も快く許可をしてくださると思いますので、おいでいただけませんでしょうか?」


 うーむ、引き下がってはくれないか。

 ここまで言ってくれているのに断るのは失礼だな。


「……わかりました。後日伺わせていただきますね」


「ありがとうございます! よろしければこの前一緒に来てくださった子達も、連れて来てください。その時ダラを紹介させていだきますので。日程は協会の方にお伝えすればよろしいでしょうか?」


「はい、それでお願いします」


 俺の了承に満足してくれたのか、イリーナさん達は再度頭を下げてお礼を言い俺達と別れた。


「ふぅ……これでとりあえず終わりか」


「大倉殿、今回はお疲れ様なのでありますよ! 大活躍だったのであります!」


「おう、お前にそう言ってもらえるなら、頑張ってボコられた甲斐があるってもんだ」


 ディアボルスにボコボコにやられて鼻水垂らしながら顔を涙でぐちゃぐちゃにしたが、こうやって褒めてもらえるなら男が上がった気がする。

 ふふふ、最後までぼろ糞に泣いて逃げ回った事実がバレなかったおかげだな!

 そうやって俺が喜んでいたのだが……エステルとシスハは眉を寄せて凄く複雑そうな顔をしていた。


「仕方ないとはいえ、神殿に行くなんて引き受けちゃって……それにおにーさん、手を握られていた時ニヤニヤしてたでしょ。祠から帰ってくる前も嬉しそうにして……」


「うぇ!? そ、そんなことないぞ! ……ただ、女の人に手を握られたら、俺だって色々とだな」


「大倉さんの反応を見るのは楽しみの1つですけど、ちょっとあれですね。私も手を握ってあげましょうか?」


「お前はそのまま握り潰してきそうだから嫌だ!」


 シスハが手をゴキゴキと鳴らして迫ってきたので慌てて逃げ出した。

 町に着いてヘルムを脱いでいたから、手を握られて顔がニヤケたのがバレたのか……。

 仕方ないだろ、俺だって男なんだ。頬を赤くさせながらあんなこと言われちゃ平常心を保てない。

 2人の雰囲気にビクビクとしていたのだが、空気を読まないノールによってそれも破られた。


「それにしても、これでセヴァリアの調査は終わりなのでありますかね?」


「ディアボルスを6体も倒しましたし、企みも阻止できましたからね。黒幕がいたとしても、ここまで被害を被ればクェレスの時みたいに逃げたんじゃないでしょうか」


「そうだな。できればその黒幕とやらを仕留めたかったけど、これでセヴァリア周辺で異変が起きることもないだろう」


 突然舞い込んだ護衛依頼で、ずっと探していたディアボルスと遭遇して倒すことまでできた。

 しかもまとめて6体も倒せたのは大戦果。

 例の魔光石で発生させたっぽいグランドーリスまで倒されたんだから、既に黒幕も逃げていそうだ。

 後は様子見をしてこれ以上ディアボルスの発見報告や異変がなければ、調査も無事に終わり。

 そう楽観的に俺達は考えていたのだが……エステルの不安そうな呟きが聞こえた。


「本当にそうならいいけれど……」


「エステル、どういうことなのでありますか?」


「ちょっと気になる点があるのよね。私達が到着した時点で祠が壊れていたじゃない? あれって本当に中身まで破壊されていたのかしら?」


「それはわからないが……どうしてそんなことが気になるんだ?」


「確証はないのだけれど、今回の件で黒幕のことが少しわかったからよ」


「えっ、何かわかるようなことがあったのでありますか!」


 やはりエステルさんは凄いな……だけど、話を聞いてもどこに不安要素があるのかわからない。

 祠の中身ってなると、テストゥード様の御神体だよな?

 どうしてそれが破壊されたかどうか気にしているんだろ。

 考えてもわからないので、エステルの話にそのまま耳を傾けた。


「道中に魔法で罠が仕掛けられていたじゃない? あれを仕掛けたのはディアボルスを操っている存在だと思うの。だとするとその黒幕は召喚士系か、魔物使いと似たような力を持った相手のはずよ。仕掛けた罠が拙かったのは、魔法に関しては得意じゃなかったからかも」


「まあ、確かにディアボルスのステータスに眷属って表記があったから、その可能性は高いけど……」


「そう考えると黒い魔光石に込められていた、魔物を強化する力や発生場所に影響を及ぼす効果が付与できたのも納得がいくもの。だけど罠の力量から考えると、そっちに関しては他の魔導師とかと協力しながらやっていた可能性もあるわ」


「単独の可能性もまだ否定できませんけど、そうなると複数人で行動していることも考えないといけませんね」


 操っている奴の正体が召喚士や魔物使いだって可能性は、ステータスの眷属表記を見た時点で頭の片隅程度にはあった考えだ。

 罠も魔物召喚系だったから、召喚士の可能性が高いかな?

 だけどそれ以外にも、魔法の罠から黒幕が複数人いることまで予想するとは……。

 そうなると相方として、あの魔光石を作れる力量の魔導師の協力者までいるかもしれないのか。


 召喚士や魔物使いだとしたら、そいつからするとディアボルスは偵察をさせるだけのやられても困らない魔物なのか?

 そう考えれば複数体いるのも納得がいく。

 ディアボルスをそんな扱いできるほどの相手だったとしたら、本格的な戦闘になったら一体どんな魔物を使ってくるんだ。


「で、そこまで考えて気になったことなんだけれど、もしかすると祠にあったテストゥード様の御神体、持ち去られたのかもしれないわ」


「えっ、持ち去られた?」


「だって召喚士や魔物使いといえば、魔物に関しては専門職みたいなものなのよ? あの御神体を媒介にして、何かしようとしているのかも」


「で、でも、それはあくまで想像でありますよね? そもそもテストゥード様が魔物だって決まった訳でもないのでありますし……」


 今エステルが言っていることは、あくまで予想だ。

 御神体だって俺が思っていたみたいに、フリージアのインベルサギッタで消し飛んだけかもしれないし。

 だけどイリーナさんが崩壊した祠を探して、欠片すらないとか言ってたからなぁ……持ち去られた可能性は否定できない。


 召喚士とかのことは詳しく知らないけど、今までのことを考えるとエステルが言うことも納得がいく。

 もしあれほどの力を持つ御神体を使って魔物を召喚でもしたら、一体どれだけ恐ろしいのが出てくるんだ?

 し、しかし、ノールが言うようにテストゥード様が魔物だって決まった訳じゃ……。

 そう現実逃避しようとしたのだが、黙っていたシスハがそれを否定することを口にした。


「……ノールさん、テストゥード様という存在に関してですけど、ほぼ魔物だと思いますよ」


「そういえば祠の力が戻る時、困った顔してたけどなんだったんだ? あれで魔物だって確信したってことなのか?」


「はい、あの広がる力からは神聖な物というより、魔物に近いものを感じました。ですが邪悪な気配はしませんでしたから、悪い存在ではないと思いますよ」


 テストゥード様、魔物だって確定しちゃったよ……。

 あの場で言うとイリーナさん達に悪いから、言うのを控えたのか。


「むむっ、そうなると神殿の人達は魔物を祀っているのでありますか……」


「信仰にも色々とありますから。実際に人々を守って力を示しているのですから、例え魔物だったとしても崇拝される対象にはなりますよ。御神体だけであんな力を持つということは、実際のテストゥード様を見た人には神に見えたでしょうね。まさに神の顕現です」


 神降臨、ってやつか。

 うーん……想像の域は出ていないけど、今回は色々と判明したのかもしれない。

 今後の一番の懸念としては、やはり奪われたかもしれないテストゥード様の御神体で何をするのか、だな。

 もし何かするのであれば、黒幕はまだセヴァリア周辺にいることも考えられる。

 どちらにせよ、今後の戦いが激化する可能性がある以上、戦力強化は必須。

 それにはやはりガチャを回さないといけないな!

 

 そう俺が決意した直後、ポケットに入れていたスマホが振動した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ