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祠の修復

 グランドーリス達を倒した後、祠のある広間を確認したがそれは酷い惨状だった。

 インベルサギッタのせいで地面は穴ぼこだらけで、グランドーリスが暴れてあっちこっち体当たりしたせいで壁も崩れ、最初に来た時の面影が殆ど残っていない。

 無事なのは天井ぐらいか……そこもヒビが入ってパラパラと砂が降ってきているけど。

 今にも崩落しそうだと思いながら、他に魔物がいないか確認をした後俺達は洞窟を出た。


「やれやれ、疲れた」


「ありがとな。家に帰ってゆっくり休んでくれ」


「うむ、そうさせてもらおう」


 ルーナが普段よりも気ダルそうなジト目をしている。

 今回闇討ちばかりで戦闘は時間は短かったけど、グランドーリスとの戦いには苦戦させられた。

 2回もスキルを使ったし、吸血衝動が治まっているとはいえ、ルーナが疲れているのは当然か。


 外に出た後、回収したディメンションルームのドアノブを近くの岩壁に突き刺す。

 そして手前に引いて扉を開くと……入ってすぐのところで、フリージアがうつ伏せになって倒れていた。


「……本当にこいつは気絶するのだな」


「すまないけど一緒に連れて帰って、ベッドにでも寝かせておいてくれ。明日まで目を覚まさないはずだ」


「わかった。そのまま床に放置してやりたいところだが、今回はこいつのスキルに助けられた。ちゃんと運んでおく」


「……留守番している間、そんなにうるさかったのか?」


「うるさいなんてものではない。常に騒ぎながらあっちこっちうろちょろと……こいつは動きを止めると死ぬのか? 風呂には付いてくるし、寝ている時も潜り込んで……クッ」


「もう少しだけの辛抱だから、我慢してやってくれ……」


 ルーナはフリージアを背中に乗せながら、留守番中のことを思い出しているのか、歯軋りをして暗い表情になった。

 やっぱりノールかシスハが相手をしていないと、大人しくしないみたいだな。

 部屋の中を動き回って、ちょっかい出す姿が目に浮かぶぞ……早めに帰ってやらないと。


 フリージアをディメンションルームから運び出し、エステルのトランシーバーに通話を掛けた。

 イリーナさん達には事前に、終わったら魔法で連絡を入れると言い訳しておいたから、怪しまれることはないはずだ。

 少し時間を置いてからエステルは通話に出ると、開口一番に彼女は叫びだした。


『お兄さん! 大丈夫だったの! 何かあったなら今すぐ私を――』


「ぶ、無事だから落ち着けって!」


『……よかった。本当に心配したんだからね』


 通話越しにでもわかるぐらい、安堵したような息遣いが聞こえた。

 ルーナやフリージアが一緒にいるとはいえ、随分と心配させちゃったみたいだな。


『それで、無事に済んだってことはあの作戦は成功したの?』


「ああ、フリージア達のおかげで1体も逃がさずに倒せたぞ」


『3人だけでそこまで上手く行くなんて凄いじゃない。それじゃあ私達は、これから洞窟に向かえばいいのよね? 今は少し離れた場所にいるから、ダラに乗って戻るまでにちょっと時間が掛かると思うわ』


「わかった。もう安全だとは思うけど、まだディアボルスが他にもいるかもしれないから、急がず警戒しながら来てくれ」


『ええ、ノール達にもそう伝えておくわ。私達が行くまでお兄さんも気をつけてね』


 そう言ってエステルは通話を切った。

 ふぅ、これで一安心ってところか。後はイリーナさん達と合流して、祠の力を復活させるだけだ。

 もうディアボルスが周囲にいないとは思いたいけど、まだ注意はしておかないとな。

 だけど、あいつらからすれば訳もわからず一方的にやられた状況だし、いたとしても襲ってくる可能性は低いはず。

 相手だっていたずらに犠牲を増やしたくはないだろう。


「平八達はまだ帰らないのか?」


「ああ、これからまた洞窟に入ってやることがあるからな」


「冒険者というのは大変そうだ。また何かあれば私を呼べ。今日のところはすぐ動けるようにしておこう」


「おう、頼んだぞ。平気そうなら連絡入れるからさ」


 ルーナはいつも怠けているけど、こういう時は協力的になってくれるから助かるなぁ。

 ……欲を言えばいつもそうしてもらいたいところだが、それは仕方がない。


 それからしばらく待ち、イリーナさん達が近くに来たのを地図アプリで確認したところで、ルーナとフリージアを自宅へと送った。

 ノール達がいる方を眺めていると、空を飛ぶ物体がこっちへ向かって来るのが視界に入る。

 それはノール達を背に乗せたダラで、高度を徐々に下げ始め、俺のいる洞窟の入り口を目指しているみたいだ。

 行きはもっと手前で降りたのに、急いでいるから直接来るつもりなのか?

 ダラが目前まで迫ると、その上から誰かが飛び降りて駆け寄ってくる。

 それは……イリーナさんだった。


「大倉さん!」


「は、はいっ!?」


 駆け寄ってきたイリーナさんは、そのままの勢いで俺の両手を掴んで握り締めてきた。

 まさかイリーナさんが駆け寄ってくるとは……しかも手を握られるなんてびっくりだぞ。


「本当にご無事そうで良かったです。お怪我はありませんでしたか?」


「え、ええ、ポーションも飲んでいますから大丈夫ですよ」


「そうですか……。ですが、念の為に回復魔法を掛けさせてください」


「いえ、そんなお気になさらなくても……」


「テストゥード様の為に危険を冒していただいたのです。せめてお気持ちだけでも、受け取ってはもらえませんでしょうか?」


「あっ……そ、それじゃあお願いします」


「はい! ありがとうございます! それでは……我らが主よ、その御恵みを彼の者へ与えたまえ」


 俺の返事を聞いてパァっと表情を明るくすると、イリーナさんは呪文らしきものを唱え始めた。

 直後に握られている俺の手が光り出して、全身を温かい何かが巡っていく。

 おぉ……シスハに回復魔法を使ってもらった時と同じ感じだ。

 こんな美人さんに手を握ってもらえるなんて、顔がニヤけてきそうだぞ。

 ヘルム被っててよかったぜ!

 役得だと内心喜びつつ、されるがままに回復してもらっていると、イリーナさんが驚くことを口にした。


「大倉さんはとても勇敢な方なのですね」


「えっ」


「あんな魔物達がいる場所へお戻りになって、さらにお1人で追い払ってしまわれるなんて……凄いです」


「い、いやぁ……」


 俺の両手を握り締めながら、輝きのある瞳で見上げてイリーナさんは言葉を口にしていく。

 おいおい、まさかこれって俺が敬われているのか!?

 事情を知らないイリーナさんからしたら、ディアボルスとグランドーリスを俺1人で撃退したことになっているのか……。


 そりゃ確かに凄いわ、そんな大戦果あげるなんてどこの架空の平八だよ。

 だけど訂正しようにも言い訳はできそうもないしな……幸いあの魔物達の強さの詳細はステータスを見ている俺達しか知らないから、その辺りで誤魔化しておこう。

 ……でも、こうやって美人さんに敬われるのは嬉しいな。


 なんて思っていると、背後からゾッとする声が聞こえた。


「……おにーさん」


「大倉さん、随分と嬉しそうにしていますね」


 振り返るとそこには、ジト目のエステルさんと笑顔を浮かべるシスハが立っていた。


「うぇ!? あっ、いや……その、な?」


「2人共なんだか怖いでありますね……」


 遅れてきたノールが関わりたくなさそうに後ずさっている。

 い、一体いつからいたんだ……というか、どうして2人共怖い雰囲気出しているんだよ!

 目の前で首を傾げるイリーナさんに見守られながら、俺は必死に取り繕った。



 ノール達と合流した後、再度洞窟へ入り祠のある広間へ向かう。

 最初に入った時と違い既に罠もなく魔物もいないので、警戒はしているもののスムーズに進むことができた。

 エステルの光魔法で洞窟内を照らしているが、やっぱり明るいと安心できるなぁ。

 さて、祠に入る前にイリーナさんに言わなきゃいけないことがあるんだ。


「えっと、その、イリーナさん。すみません、先に謝っておきます」


「急にどうなされたのですか? 謝られることなど何もございませんが……」


「魔物達を倒す時、結構派手にやってしまいまして。祠があった場所が酷い状態になっているんです」


「大倉さんが謝られることではございませんよ。あれほどの魔物を相手にしたのですから、仕方のないことです。テストゥード様だって、きっとお分かりになってくださいます」


 イリーナさんは柔らかな笑みを俺に向けてくれた。

 ふぅ、良かった。これならあの祠のあった場所の惨状も許してもらえ……るのかなぁ?

 正直想像以上に酷い状態だからな……実際に見たらどうなるのか怖いです。

 そう不安に思いながら、目的地である広間へと到着した。


「こ、これは……荒れ果てているでありますね」


「今にも洞窟が崩壊しそうなぐらいですよ……」


「でも、あの魔物の相手をしてこれならマシな方かしら?」


 ノール達ですら広間を見て顔を引きつらせていた。

 それぐらいここの惨状は酷いみたいだな……これも全部グランドーリスが悪いんだ!

 恐る恐るイリーナさんの方を見てみると、イリーナさんだけじゃなく、他の神殿の人達も全員顔を青くして体が震えていた。

 足元をふらつかせて、今にも倒れてしまいそうだ。


「あの……」


「あっ……だ、大丈夫ですよ大倉さん! す、少し驚きましたけど、本当に大丈夫ですから、はい、大丈夫ですから」


 青い顔をしてそんなこと言われても、全く大丈夫に思えないんですが……。

 やっぱりこのままにしておけないし、エステルに頼むしかないな。


「エステルさん、魔法で少しでもいいから直せたりしない?」


「このぐらいだったら簡単に直せるわ。戦闘で活躍できなかった分、頑張っちゃうんだから」


 待ってましたと言わんばかりに、黄色いグリモワールと杖を手にしてエステルが張り切っている。

 えいっと杖を地面に突き刺すと、瞬く間に地面の穴は盛り上がって平らになり、崩れていた壁やヒビもみるみると修復されていく。

 さらには元々デコボコしていた場所まで平らになって、祠のあった広間は綺麗な正方形の空間へ早や代わり。

 や、やり過ぎじゃないか……?


「お姉さん、これでいいかしら?」


「す、凄い……凄いですエステルさん! ありがとうございます、ありがとうございます!」


「ふふ、もっと豪華にしちゃってもいいわよ」


「い、いえ! もう十分過ぎます! 少し確認したいことがありますので、お待ちください!」


 エステルに深々と頭を下げると、祠の残骸があった場所にイリーナさんは駆け寄って行き、しゃがんで何やら探しているみたいだ。

 うん? 何か気になることでもあるのか?

 俺達も近寄って様子を窺ってみたけど、何を探しているのかわからない。

 イリーナさん達は残骸を探し回っていたが、しばらくすると諦めたのか残念そうな表情で立ち上がった。


「やはりテストゥード様の御神体はありませんか。欠片すら残っていないなんて……」


 ああ、壊された御神体を探していたのか。

 欠片すら残ってないって、まさかフリージアのインベルサギッタで消し飛んだんじゃ……。

 すみませんテストゥード様! お許しください!


「イリーナ様、仕方がありません。今回お持ちした御神体を新たに祀りましょう」


「……そういたしましょうか」


 俺が必死に心の中で許しをこうていると、神殿の人が背負っていた風呂敷を下ろして解いた。

 包まれていた物は抱き抱えられる程の大きさをした木箱で、蓋を開けると光沢のある黒い物体が入っている。


「それって神殿に祀ってあった御神体ですか?」


「はい、これを祠に祀らせていただき、この地にテストゥード様のご加護を賜るのです」


 それからエステルにまた頼んで、岩で祠を作ってもらい御神体を中へ置いた。

 その後イリーナさん達が祠から離れて、両手を合わせて呟きながら祈ると、祠が輝き始めて一瞬にして光が広がっていく。


「これがテストゥード様の加護ってやつか……」


「むむっ、私でも何かが起きているのがわかるのでありますよ!」


「この力で魔物からセヴァリアを守っているのね」


 俺ですらピリピリとした力の波動的な物を肌で感じた。

 神聖なものなのかはわからないけど、凄い気はする。

 俺達がテストゥード様の力を感じて驚いている中、シスハだけは首を傾げて複雑そうな表情をしているのが目に入った。


「シスハ、どうかしたのか?」


「いえ……なんでもありませんよ。お気になさらないでください」


 シスハは苦笑を浮かべて、口に人差し指を当てて俺に合図を送ってきた。

 今は話さない方がいいってことなのか……?

 よくわからないが、大人しく従っておこう。


「これで依頼達成ということでいいのかしら?」


「はい、後はまた結界を張り直せば終わりなのですが……半日以上かかりますし、もしもまた同じような魔物が来てしまった場合は……」


 イリーナさんが困ったように眉を寄せている。

 結界を張り直すのにそんなに掛かるのか。

 それに張り直したとしても、またディアボルス達がやってきたら破壊されて同じことの繰り返しだ。

 だけどずっと見張っておく訳にもいかないし、どうすればいいんだ……。

 そう悩んでいると、自信満々な雰囲気でシスハが笑い始めた。


「うふふ、仕方がありませんね。私が一肌脱ぎましょう!」


「おっ、何かいい案があるのか? まさか服を脱ぐだけとかじゃないよな?」


「何馬鹿なこと言ってるんですか。結界を張るのを手伝うんですよ」


 おや、珍しく真面目な理由で自信満々そうにしていたのか。

 というかそんなことできたのかよ!


「シスハって結界張れたのでありますね」


「私だって一応神官ですからね。本気を出せば、2度と空気に触れないような封印だって出来ちゃいます。なんだったら大倉さん、1度体験いたしますか?」


「……冗談言ってないで、できるならやってくれ」


「ちぇ、つれないですねー」


 俺を封印してどうするんだよ! 2度と空気に触れられないとか止めて下さい。


「という訳ですのでイリーナさん、よろしければお手伝いいたしますがどうでしょうか?」


「はい! 是非ともお願いいたします! シスハさんに協力していただけるなら、テストゥード様もお喜びになられますよ!」


 ガシッとに両手を掴んで迫るイリーナさんに、シスハは頬を引きつらせている。

 ここまで喜ぶとは……それだけ期待をしているということか。

 本当にシスハが結界なんて張れるのか疑問なんだが……黙って見守るとしよう。

 シスハを含めて、イリーナさんと神殿の人達はバラバラに配置についた。


「それでは始めますね。皆さん、準備はよろしいですか?」


 イリーナさんの合図で両手を合わせて祈り始めると、地面に魔法陣のような物が浮かび上がり、周囲が光で満たされていく。


「おおー、綺麗な光景なのでありますよ」


「そうね。ああしていると、シスハも本当の神官みたいに見えるわね」


「いつもあんな感じだったらいいんだけどなぁ」


 シスハも目を閉じて真剣な顔つきで祈りを捧げている。

 うーん、見た目詐欺しているだけあって、こういう時はホント様になっているな。

 それからその光景を眺めていると、数分で祠の周りにドーム上の光が形成され始めた。

 1つ出来上がったかと思えば、2つ3つと次々に外側を覆うドームが増えていき、最終的に5つ形成されたところで周囲を満たしていた光が消えていく。

 うん? 半日ぐらい掛かるとか言っていたはずなのにもう終わりなのか?


「あれ……もう結界が完成して……」


 俺が疑問に思っていると、イリーナさんと神殿の人達も困惑したように周囲を見渡している。

 そんな中をシスハだけは肩を回しながら、平然とこっちへ歩いてきた。


「ふぅ、やっぱり結界を張るのは疲れますねー」


 まさかシスハが参加しているから、半日掛かる作業がもう終わったのか?

 イリーナさんも同じ考えていたったようで、また駆け寄っていきシスハの両手を握り締めた。


「シ、シスハさん! やはりあなたは凄い神官様です!」


「うふふ、それほどでもありません。これでもうこの祠が簡単には破られることもないと思いますよ。魔物避けは勿論、五重の結界に自動修復も付いていますからね! さらに念には念を入れて、同時に破壊しないと即座に結界が再生して攻撃者を封印するおまけ付です!」


 おい、お前はどれだけ結界に機能を盛り込んだんだ!

 やり過ぎだと思っていると、今度はエステルまで意気揚々と提案を始めた。


「結界が破られても平気なように、私も何か仕掛けておこうかしら。魔物に反応する自動迎撃の爆破魔法なんてどう?」


「本当ですか! 是非ともお願いいたします!」


「ふふ、任せてちょうだい」


 感激したように声を上げたイリーナさんによって、エステルの魔法まで結界に付加されることになった。

 う、うーん……これで並みの魔物なら余裕で撃退可能な祠ができ上がったからいいのかなぁ?

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[気になる点] 各地の湧きポイント覆うようにして結界張って エステルの迎撃魔法も付ければ 自動で魔石回収出来るのでは?
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