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闇討ち

「ルーナ、これをいつでも飲めるように持っていてくれ」


「ん?」


 洞窟の中へ入る前に、用意しておいた赤い液体の入った数個の小瓶をルーナに手渡した。

 受け取った彼女は蓋を開け匂いを嗅いでいる。


「血か。……この匂いは平八産」


「ルーナちゃんって吸血鬼だったよね。平八の血って美味しいの?」


「可もなく不可もない」


 人の血の味の感想を言うのは止めていただきたい。

 ルーナの言うとおり、この小瓶には俺の血を入れてある。


「これを渡すということは、私にスキルを使えと?」


「そういうことだ」


 今回の作戦ではルーナに何回かスキルを使ってもらう予定だ。

 なので闇討ちを考え付いた時点で、血を抜いて小瓶に詰めて用意した。

 ……注射器とかないから、シスハに頼んで回復してもらいながら、ザックリとやって血を無理矢理出すはめになったけど。


「それとフリージアにも渡す物がある」


「本当! 何かな何かな!」


 バッグから物を取り出そうと動くと、そわそわと俺の周りをフリージアが動き回っている。

 こいつは本当に落ち着きのない奴だなと呆れながらも、お目当ての物を手に取って渡した。


「……何これ? ドアノブだよ。平八壊したの? ノールちゃんかエステルちゃんへ、私に一緒に謝ってほしいのかな?」


「ちげーよ! これはディメンションルームってアイテムで、こうやって壁に付けて使うんだ」


「おおー! 凄い! 開いたんだよ!」


 岩壁にドアノブを差し込んで使い方を教えてやると、フリージアはドアノブを開け閉めしてはしゃいでいる。


「でも、どうしてこれを私に?」


「お前にもスキルを使ってもらおうと思っているんだ」


「うぇ!? そ、それでどうしてこのアイテムなんだよ!」


「それはな……」


 今回の作戦には、フリージアのスキルであるインベルサギッタは欠かせない。

 このままだと嫌がりそうなので、詳しくディメンションルームをどう使うのか教えてやったのだが……頭をブンブンと横に振ってわめき出した。


「やだいやだい! スキル使いたくない!」


「そう言うなって。これが終わったら好きなだけ遊ばせてやるからさ」


「むむむ……わかった。それなら我慢する。約束だからね!」


 遊ばせるだけで協力してくれるなら楽なもんだな。

 ……本当に楽で済むか怪しいけど、ノールに頑張ってもらおう。


 さて、まずやることは、俺を追って広間から出てきたディアボルス3体を各個に仕留めることだ。

 準備も整ったので、地図アプリを使いながら、徘徊しているディアボルスの1体に目標を絞って俺達は洞窟内に足を踏み入れた。

 イリーナさん達と入った時はエステルのおかげで明るかった洞窟も、今は真っ暗だ。

 

 ディアボルス達にバレないよう、今度はランプなども使わず明かりがない状態で移動している。

 そんな暗闇でも、ルーナとフリージアの足取りはしっかりしていて暗闇を物ともしていない。

 俺はというと、赤外線アプリの暗視モードを使い、モニターグラスを暗視スコープ化して進んでいる。

 エステルのおかげで明かりに困ったことはなかったから、今まで使いどころがなかったものだ。

 本当ならルーナに主な誘導を任せて進もうと思っていたけど、何だかんだで全員明かりなしでも暗闇を行動できるメンバーになっていた。


「それにしても闇討ちなんて、平八は物騒なことを考えるんだね」


「暗殺得意宣言したお前には言われたくないんだが……」


「ふふん! さいれんときりんぐ? は任せてよ!」


 また変な単語を使いやがって……意味をわかっているのか?

 シスハが楽しんで、また余計なことを入れ知恵したに違いない。


「こんなやかましいエルフが静かにできるとは思えない」


「むぅー、信じてないんだね! なら、私の実力見せてあげるんだよ!」


 そう言うと、フリージアはゆっくりと動き出して、暗闇に溶け込むように視界から姿を消した。

 き、消えた!? さっきまで感じていた気配もまるで感じられない。

 超スピードとか、そういう類の物じゃない。存在その物が掻き消えたような感覚だ。

 慌てて辺りを見回して探したが発見できずにいると……急にフリージアの悲鳴が聞こえた。


「うげっ!? うぅ、痛い……」


「ふん、私にイタズラしようとするとはいい度胸だ。だが、確かに多少気配は消せるようだな。暗殺が得意というのも戯言じゃない」


 声がした方を見ると、そこには呆れ顔のルーナと額を押さえているフリージアの姿が。

 ルーナも気が付かない内に移動していたみたいで、全く見当違いの場所に2人はいた。


「よ、よくわかったな……俺にはどこに行ったかわからなかったぞ」


「このぐらい当然だ」


 この2人やべぇな……暗視スコープを使っているのに、全く移動する姿が見えなかった。

 ちゃんと見ていたはずなのに見失うとか、マジでフリージアは暗殺得意なのか……?

 それを発見するだけじゃなく、同じく目の前から消えたルーナも大概だけどさ。


 そんなやり取りを終えて、真面目な気持ちに切り替えて進み始めた。

 フリージアもその空気を察したのか、騒ぐのを止めて真面目な面持ちでいる。


「むっ、止まれ。何かある」


 先頭を歩いていたルーナが、腕を横に上げて静止を促す。

 俺にはその先に何があるのか見えないけど、どうやらルーナには見えているみたいだ。


「ふむ……これが平八の言っていた罠か?」


「俺には見えないからわからんが、多分そうだ。祠のある場所に行く道は全部エステルが解除したけど、まだ残ってたのか……」


 可能な限りエステルが罠を解除してくれた主要な道を通るようにしていた。

 だけどディアボルスを追っている内に、そこから外れていたみたいだ。

 多少の魔法ならルーナでもわかると言うから先頭を任せたけど、それで正解だったな。


「魔法で罠なんて作れるんだね。発動したら何が起こるのかな!」


「触るなよ! 絶対に触るんじゃないぞ!」


 フリージアがそわそわと腕を動かしながら、今にも飛び出して行きそうな勢いだ。

 それを俺が食い止めていると、ルーナが前方に向かって槍を振るう。

 するとエステルの時とは違い、魔法陣は浮かび上がらずに何かが砕ける音だけ聞こえた。


「よし、行こう」


「えっ……ルーナも魔法の解除ってできるのか?」


「解除じゃない。壊した」


「あっ、そうですか……」


 どう違いがあるのかわからないが、罠がもうなくなったならいいか。

 やっぱりルーナって怠惰な言動ばかりだけど、いざって時はかなり頼りになるな。

 それからも何度かルーナに罠を破壊してもらいながら進み、ようやくお目当てのディアボルスの近くまでやってきた。


「そろそろ近いぞ。用意するから一旦止まってくれ」


 このままディアボルスを倒しに行くのではなく、立ち止まってバッグからアイテムを取り出した。

 そのアイテムは……インビジブルマントだ。

 それから3人で道の端っこに移動して、インビジブルマントで全員覆って姿を隠す。

 布の面積が小さくて3人で姿を隠すにはちょっときついけど、ルーナが小柄だからギリギリセーフだった。


「うぅ……平八、狭いよ!」


「し、仕方がないだろ。あいつが来るまで辛抱してくれ」


「ぐぅ……暑苦しい」


 真ん中でギュウギュウ詰めになったルーナが苦しそうにしているけど、我慢してもらいたい。

 地図アプリで確認しているディアボルスの進行方向的に、これからここを通る。

 そこをインビジブルマントで待ち伏せして、一気に闇討ちする算段だ。

 

 待ち伏せしている場所は見通しの良い一本道。

 ディアボルスはこの暗闇でも普通に活動できているから、暗視能力を持っているはずだ。

 だから闇に隠れることもできないし、洞窟内で隠れられる場所も限られる。

 そこであえて見通しのいいこの場所を選んで、インビジブルマントで不意を討つ。


 息を殺して地図アプリを見ていると、予想通りディアボルスは俺達の方へやってきた。

 洞窟内をバサバサと翼を羽ばたかせて緩く飛んでいる。

 ぐへへ、完全に警戒心が薄れているな。


 ルーナ達に目を向けてお互いに相槌をした後、俺は行動に出た。

 インビジブルマントで姿を消したまま、ディメンションブレスレットを使いディアボルスの頭をわし掴みにする。

 目を覆うようにがっちりと掴んだから、何が起きたのかわからず混乱したのか、飛ぶのを止めて地面に足を着いて必死に俺の手を振り払おうともがく。


 さらに空いている片手でインビジブルマントの一部を捲ると、俺の考えを察したのか無言でフリージアが矢を放った。

 掴んでいる俺の手を完璧に避けて、ヘッドショットを1発、胴体に3発瞬時に矢が打ち込まれる。

 悲鳴を上げるディアボルスだったが、続けてルーナが俺達に挟まれた体制のまま槍を投擲。

 無理矢理なフォームでの投擲だったけど威力はいつもと劣らず、胸の中央を槍は貫く。

 そして止めとばかりにフリージアの矢が放たれて、ディアボルスは俺の拘束から逃げることなく光の粒子になって消滅した。


「1体仕留めたんだよ! 呆気なかったね!」


「うむ、この前相手した時よりも楽だ」


「喜ぶのはまだ早い。また隠れるから集まってくれ」


 ディアボルスを倒した場所から少し位置を変えて、再度インビジブルマントで身を隠す。


「むぅー、どうしてまたこれで隠れるの? 残りの相手も探しに行くんじゃないの?」


「いや、ディアボルスがどう動くのか確認したくてな。ちょっと待ってくれ」


「平八は稀に冴えている。大人しく従おう」


 地図アプリを注視して、徘徊している残り2体のディアボルスの動きを見る。

 すると離れた場所にいたディアボルス達は、進んでいた道を突然引き返して合流した。

 そして俺達がいる場所に向かって移動を始めたのだ。


「うーん、予想していたから試したんだけど、これでハッキリとしたな」


「平八、何かわかったことがあるのか?」


「確証はないけどからこれは予想になるけど、あいつらは別の個体同士で何か繋がりがあるみたいだ」


「繋がり? どういうことなんだよ」


「ディアボルスを倒した途端、残りの2体が合流しながらこっちに向かって来ているんだ。つまり倒されたことを感知して、位置まで把握している」


 わざわざ洞窟内で散らばっていた時点で、何かしら仲間に情報伝達をする手段があるんじゃないかと疑っていた。

 だから可能な限り察知されずに、インビジブルマントを使ってまでコソコソと闇討ちをしたのだ。


「ふむ、だからわざわざこんな物を使ってまで身を隠したのか。捕まえる時も頭を掴んで目を覆っていた」


「よくそこまで見ていたな。もしかしたら見た物まで共有されるかもしれないからさ。できるだけあいつらに情報を渡さないよう、用心はしないとな」


「よくわからないけどちゃんと考えてるんだね! さすが平八なんだよ!」


 単純に倒されたから位置が伝わっただけの可能性もあるけど、どこまで情報を伝達できるのかわからない。

 だからこっちの人数や正体を把握されないように目を隠して、一気にぶっ倒したんだ。

 最終目標であるグランドーリスを倒すまで、可能な限り情報を与えずに倒していきたい。

 

 確認ができたところで、向かってくる2体のディアボルスを相手する準備をした。

 今度は俺だけインビジブルマントで隠れずに、道の真ん中で堂々と仁王立ちをしている。

 そこにディアボルス2体は飛んでやってくると、俺を見た途端手に持っていた三叉槍を投げつけてきた。すかさず持っていた鍋の蓋で2本共弾き飛ばす。

 はは、前から2本投げ付けられる程度なら楽々防げるぜ! フルボッコされた時に散々こいつらの攻撃を受けたからな……もう見慣れたよ。

 

 防ぐと同時に天井に引き伸ばして貼り付けておいたセンチターブラを操り、ディアボルスの片割れに液体状のセンチターブラをぶっ掛けて即固めた。

 上半身を丸ごと銀の塊に覆われたディアボルスは、墜落して足をバタバタと動かしてもがいている。

 何だよ、結構拘束できるじゃないか。やっぱりシスハが異常だっただけか。


 さらにもう1体のディアボルスはセンチターブラに気を取られた瞬間、頭に矢が3本、胴体に2本突き刺さって地面に落ちていく。

 俺はその場でディメンションブレスレットを発動させて、離れた場所からザクザクとエクスカリバールを突き刺す。

 フリージアに射られた方は既に瀕死だったのかすぐに光の粒子になり、センチターブラで拘束した方もルーナが槍を投擲して胴体を地面に張り付けにした後、下半身を集中的にフリージアに射られて消滅した。


「やった! 追加の魔物を倒しちゃったんだよ!」


「……ポンコツエルフの癖にやる。ちょっと見直した」


「そうでしょそうでしょ! えへへ、ルーナちゃんに褒められると照れちゃうんだよ!」


 それは褒められているのだろうか……本人が満足しているならいいかな。

 それにしても、徘徊していたディアボルス2体がこっちに来てくれたのは助かった。

 1体倒した時点で警戒されて、グランドーリスのところに戻られたらちょっと厄介だったかもしれない。


 これで残すは広間にいるグランドーリスとディアボルス3体。ここからが本番だな。

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