助っ人
光が治まると、俺は洞窟の入り口に立っていた。
た、助かったのか?
センチターブラが壊れたと同時に脱出装置が作動するとか、心臓に悪いな……。
先に逃げたノール達と合流する為に、俺は地図アプリを見ながら走り出した。
だが、ホッと安心した途端、体のあっちこっちが痛くなってくる。
逃げてる間は無我夢中で気にしなかったけど、片手は動かないし目も血が滲んで片方見えない。
死ぬほど痛い思いするってわかっていたが、マジで死ぬほど痛かったぞ。
もうどこが痛いのかわからないぐらいだ。主に全身が痛い。
痛すぎて今にも泣きそうだ……既に涙がヘルムの中でぼろぼろ零れ落ちてるけど。
ポーションでも飲もうかと思ったが、片手も使えず出すのに手間取りそうだから、我慢して走り続けた。
それに今にも後ろの洞窟から、ディアボルスが追いかけて来そうで怖いからな……さっさと合流したい。
痛みに耐えながら走っていると、ようやくノール達の姿が見えてきた。
そして、俺に気が付いたシスハがこっちへ走ってくる。
「大倉さん! 大丈夫ですか」
「あ、あぁ……」
シスハが俺の体に触れると、全身が眩しい光で覆われた。
温かい何かが体に流れ込んできて、一瞬で痛みが引いて気持ちがよくなってくる。
あぁー、癒されるわぁ。こういう時に神官のありがたみがわかるな。
しばらくそのままじっとしていると、シスハは体から手を離した。
いつもなら一瞬なのに結構時間かかったな。
「ふぅ、回復にこんなにかかるなんて、大倉さん随分と手酷くやられましたね」
「ははは、ボールみたいに転がされたぞ! 無事に逃げてきたけどな! ざまぁみやがれ! 治療ありがとな!」
「自棄になってますね……。まあ、ちゃんと逃げてきてくれたのでいいですけど。あっちこっちの骨がバキバキになっていたみたいですし、本当に危なかったんですね」
えっ、そこまで酷い状態だったのか俺!?
そりゃ全身が痛い訳だ。骨なんて少しヒビが入っただけでもめっちゃ痛いのに、よく耐えられたな。自分でも不思議だ。
防具のおかげなのか、それとも他に装備しているガチャアイテムのおかげなのか、どっちかわからないぞ。
今も恐慌状態になりづらくなるって効果の獅子の心を装備しているけど……まさかこれに痛みを薄れさせる能力があるのか?
痛みに耐えられるのは凄く助かるけど、感覚が麻痺しているようでちょっと怖いかも。
「泣き言1つ言わないなんて、大倉さんのこと見直しちゃいましたよ。本当にやる時はやってくれるんですね」
「あ、あははは……と、当然だろ!」
シスハが優しく俺に微笑みかけながら、頬がニヤけてきそうな嬉しいことを言ってくれた。
だけどヘルムの中で顔をぐしゃぐしゃにしながら泣いていたのに、褒められるのはちょっとお恥ずかしい。
回復も終わりノール達のところへ向かうと、今度はエステルが駆け寄ってきた。
「お兄さん! もう、心配したんだからね!」
「……ごめんな」
そのままの勢いで抱き付いてきたエステルが顔を上げると、若干目に涙を浮かべていた。
まさか泣かせるぐらい心配をかけるとは……本当に申し訳なくなるな。
「大倉殿、無事でなによりでありますよ。本当なら私が囮をするべきだったのでありますが……」
「気にするな。ノールはイリーナさん達を無事に逃がしてくれたんだから、これで正解だっただろ」
本当に酷い目に遭ったけど、全員無事に逃げ切れてよかったよ。
ノールなら俺みたいにフルボッコにされずに済みそうだが、それでも防御特化じゃないから囮はさせたくはなかった。
普段頼りっぱなしなんだから、こういう汚れ役は俺が引き受けるべきだ。
「私共のせいで危険な目に遭わせてしまい、申し訳ございません。大倉さんがご無事で本当によかったです」
「いえいえ、イリーナさん達のせいじゃありませんよ。それに元々危険があるのは承知の上でしたので」
強い魔物やらがいるとは予想していたけど、まさかディアボルス6体におまけまでいるとは思わなかった。
あの紫のナメクジみたいな奴はなんだったんだよ……。
ディアボルスの攻撃には耐えたけど、あいつの体当たりで死に掛けた。
体の骨がバキバキになったのも、多分あの一撃のせいだと思う。
「それで、これからどうするでありますか? 早く決めないとあの魔物達が来ちゃうのでありますよ」
「いえ、すぐには来ないと思うわ。逃げたとはいえ、まだ私達が外に出たことは気が付いていないはずよ」
「エステルの言う通りだな。あいつら洞窟内を徘徊して俺達を探しているみたいだ」
地図アプリで洞窟内の状況を確認すると、赤い点が3つ散らばって徘徊していた。
すぐに外に出てくるかと思ったけど、考えてみればディアボルスからしたら俺達が急に消えたようにしか思えないもんな。
俺はぼろ雑巾のような状態でヘロヘロだったし、今も近くにいると思って探しているのか。
「それじゃあ、このまま外に出てくるまで待ちましょうか。あの数を中で相手にするのは厳しいですし」
「そうしたいんだけどなぁ……出てくるか怪しいぞ。3体だけ俺達を探す為に徘徊しているけど、デカブツを含めた残りは全部あそこに留まったままだ」
「えぇ……それは面倒ですね。あの魔物達の目的は私達を倒すことじゃないんですか?」
残りのディアボルス3体とグランドーリスは、祠のあった広間から動いていなかった。
逃げた俺達を追って外に出てきてくれると助かるんだが……特にグランドーリスはスキルとかを考慮すると絶対中で戦いたくない。
わかっているからあいつらも出てこないのか、それとも他に何か……。
そんな疑問に、頼れるエステルさんが答えてくれた。
「お姉さん達から聞いた話を考えると、あの魔物達はテストゥード様って存在の守護が完全にこの場所から消えるのを待っているんじゃない? だから私達が祠の機能を復活させるのさえ阻止できれば十分なのよ」
「うーん、そうだった場合絶対に出てこないでありますね……。どうしたらいいのでありましょうか」
あくまで目的は祠の守護を無くすことで、俺達を倒すことじゃないってことか。
そうなるとそれを達成する前に、どうにかあいつらを一掃して祠を直さないといけない、と。
……無理じゃね? もう1度あの場所に行って正面切って戦いたくなんてない。
でも、あの広間で戦うとなると、絶対に対面することになる。
エステルさんに頼んで、洞窟全部爆破してもらえないかなぁ……無茶な願いか。
あのデカブツは魔法耐性が高かったから、魔法であれこれしても余裕で耐えそうだ。
……待てよ? あの密室空間にバラけているディアボルス……殺れる。
上手くいけば安全に殺れるかもしれない。
よし。
「闇討ちしよう」
「えっ?」
俺の言葉を聞いたノール達は、満場一致で何言ってんだこいつ、と言いたそうな表情をしていた。
●
ノール達にこれからやることを伝えて、俺はイリーナさん達から見えないよう1人で離れた場所へとやってきた。
そしてビーコンを設置して、自宅にいるフリージアとルーナを現地に呼んだ。
「わーい! 久々のお外なんだよ!」
「全く、うるさいエルフだ」
大はしゃぎで飛び跳ねるフリージアと、腕を組んで呆れているルーナ。
イリーナさん達に存在を知られない為に、こうして離れて2人を呼び出した。
どうやら俺達がいない間は、両極端な態度をしているけどそれなりに仲良くやっていたみたいだ。
「呼び出してすまないな」
「うむ、構わない。しかし私達が来ないといけない程の状況なのか」
「ああ、正面から戦ったら無事じゃ済みそうにないな。だから2人を呼んだんだ」
「それでそれで! 私達は何をすればいいのかな?」
「これから俺と一緒に、洞窟に入って魔物を闇討ちしてほしい」
「闇討ち?」
この2人を呼んだのは、俺の闇討ち作戦に欠かせないからだ。
ルーナは首を傾げていたが、フリージアはその言葉を聞いて胸を張っていた。
「そういうことなら任せて! 暗殺は得意だよ!」
「えっ……そ、そうか。ちなみにだけど、暗闇でも気配が察知できたりするか?」
「うん! 暗闇ぐらいなら普通に見えるよ。それに姿が見えない場所に隠れていても、ある程度ならわかっちゃうんだよ!」
こいつも暗闇で行動できるのかよ……。
俺達のパーティ、俺とエステル以外、全員素で暗闇でも動ける奴ばかりじゃないか!
というか、満面の笑みで元気よく暗殺得意だって言うのは非常に怖いんだが。
森の中での移動が得意で、精密な弓での長距離射撃、そして暗闇でもへっちゃら……こいつ実はとんでもなくやばい奴なんじゃないか?
……うん、今は考えるのはよそう。
「私も問題はない。暗闇は私の独壇場だ」
「ああ、2人共頼りにしているからな」
とりあえずルーナとフリージアを呼び出したので、一旦別の場所で待機してもらう。
そして支援魔法を2人にかけてもらう為に、エステルとシスハに俺と入れ替わる形でルーナ達の所に行かせた。
俺はイリーナさん達の所へ行って、彼女達をこの場から遠ざける為の説明をしている。
「そんな訳なので、イリーナさん達は安全が確保できるまでノール達と安全な場所にいてください」
「ですが……本当に大倉さんだけで大丈夫なのですか? 先程あんなにボロボロになっていたじゃありませんか」
「あれは不意打ちされたからですよ。そうじゃなければ遅れはとりませんから」
「……わかりました。どうやら私達ではお役に立てないみたいですので、素直に従わせていただきます」
イリーナさんみたいな良い人を騙す感じで悪い気はするけど、これも安全に作戦を行うためだ。
本当ならノール達も連れて行きたいが、今回の作戦は少人数じゃないと実行できない。
何とかイリーナさんと神殿の人達を納得させて、あいつらを倒すまでここから離れてもらうことになった。
シスハ達も支援魔法を掛け終えたのか戻ってきたので、ここで一旦ノール達とまた別れることになる。
「また大倉殿と別行動なのでありますか……フリージア達も一緒とはいえ、心配なのでありますよ」
「そうね。だけど、お兄さん達がこれからやることを考えたら、私達じゃ力になれないものね」
「うぅ、ルーナさんが来ているのに一緒にいられないなんて……。大倉さん! ルーナさんに何かあったら許しませんからね!」
「ははは……やばそうだったらまた逃げてくるから安心してくれ」
今回の作戦、それは俺とルーナとフリージアの3人だけで実行する。
本当ならイリーナさん達を一度セヴァリアに帰して、全員で戦いに行きたいところだけど……あまり時間もかけていられない。
ビーコンならすぐに帰せるけど、そう簡単に条件を揃えられそうにない。
だから近い場所でノール達にイリーナさん達を守ってもらい、俺達だけであの魔物達を仕留める。
グランドーリスだけはどうなるかわからないけど……確実にディアボルスの数は減らせるはずだ。
最悪、この作戦実行後にノール達を連れて突撃をすればどうにかなるだろう。
「さて、行くとするか。2人共、本当に頼りにしているからな」
「お任せくださいなんだよ! 早く終わらせてノールちゃんと遊びたいから頑張る!」
「いい加減このエルフの相手もうんざりしていた。早く平八達に帰ってきてもらわないと困るから頑張ろう」
「酷い! あんなに仲良くしていたのに!」
……本当にこの2人で大丈夫だろうか。




