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祠への道

 ノールを先頭にイリーナさん達の先導を受けて、祠を目指し険しい山道を進んでいた。

 元々祠によって守られていた場所だったおかげか、地図アプリにも魔物は全く表示されない。


「イリーナさん、結構早いペースですが大丈夫ですか?」


「はい、各地の祠へ移動するのに、私共も鍛えておりますので」


「ほぇー、神殿に仕える人達も逞しいのでありますね」


 俺達が狩りをする時よりも速いペースで進んでいるが、イリーナさん達は顔色すら変えずに付いて来ている。

 こんな森の中にある祠を定期的に巡っているだけはあるか。神殿に仕えるのも楽じゃなさそうだ。

 さらに俺達の会話に、イリーナさんと一緒に来た年配の男性が参加した。


「ダラに協力してもらえるようになるまで、祠巡りは過酷でした。こうやって安全に行えるのも、イリーナ様がダラと通じ合えるおかげです」


「そ、そんなことございませんよ。私はたまたま、ダラと親しくなれただけですので……」


 イリーナさんは顔を赤くして、俯きながら恥ずかしそうにしている。

 あのエイは前から協力していてくれた訳じゃないのか。

 馬と徒歩でセヴァリア各地の祠を巡るなんて、どんだけ掛かるのか考えたくもないな。


「あの守護神の遣いって、昔から神殿にいたんじゃないの?」


「昔から神殿の守護はしておりました。ですが、人などを乗せて移動することはせず、テストゥード様の御神体を守るのに専念していたのです」


「それなのにイリーナ様のお願いだけは聞いてくださるんですよ。神殿長ですら、そんなことできませんので……」


 神殿長は立場が相当高い人だと思うけど、そんな人ですら協力してもらえないのか。

 その話を聞くとダラが純粋な守護神の遣いというより、テストゥード様の配下って感じだな。

 それでも協力してもらえるなんて、神殿の人がイリーナさんを様付けにするのも頷ける。


「イリーナさんはダラと通じ合える、特別な何かをお持ちということですか?」


「いえ、私にそんなの特別なものはございませんよ。ただ……幼い頃からダラと一緒にいたからかもしれません」


「幼い頃から……。お姉さん、そんな頃から神殿に仕えていたの?」


「はい、ちょっとした私事で神殿にお世話になっていまして……」


 エステルの質問に、少し暗い表情で顔を背けながらイリーナさんは答える。

 幼い頃から神殿に仕えている、か。


「あら、ごめんなさい。あまり聞かない方がいい話だったかしら」


「いえいえ。それでダラと一緒にいた理由なんですが……あの頃の私は怖いもの知らずで、よくダラの寝床へ会いに行ってたんですよ。よく叱られてしまったんですけど、それでも通い続けていました」


「ほぉ、それでダラも心を開いたのでありますか」


「それのお陰かはわかりません。ですが私が物心ついた頃には、背中に乗せてくれるようになっていたんです」


 今はこんなにおしとやかな話し方をしているけど、昔は結構やんちゃだったのかな。

 子供の頃から会っていた魔物が、大きくなってから協力してくれるようになっていたと。

 そういうのって、なんかいいな。

 モフットが最初にノールに懐いたのも、似たような無邪気さのお陰か。


「うふふ、幼い頃からの信仰心が、守護神様に届いたに違いありませんよ。イリーナさんの純粋な気持ちが、ダラさんにも通じたのですね」


「そんなお恥ずかしい……。でも、シスハさんにそう言われるのはとても嬉しいです」


 シスハに褒められたイリーナさんは、頬を赤らめて恥ずかしそうにしている。

 事情がどうであれ、そんな幼い頃から神殿に仕えていたのなら、その信仰は相当な物だろう。

 そのイリーナさんに尊敬の眼差しを向けられている、俺達の神官様は一体どうなんだ。

 GC内のゲーム的な設定とはいえ、ちゃんと神官になっている理由ぐらいはあるはずだよな?


「そういうお前は、どういう経緯で神官になったんだ?」


「へ? 私ですか? 私は教会にぶち込まれるまでは、ストリートファ……って何言わせるんです! 清く正しい神官ライフを送っていたに決まってるじゃありませんか!」


「今、凄く物騒なこと言おうとしたでありますよね……」


「ぶち込まれるって……。それでどうして、あんなに優秀な回復魔法が使える神官になってるのかしら……」


 こいつ、一体どんな設定で神官になったんだ……自分からなった訳じゃないのか?

 結局よくわからないこと言って誤魔化しているし。

 帰ったら詳しく聞いて……も話しそうにないな。

 ぐぬぬ、こうなるとGCの個人シナリオが凄く気になってくるぞ。


 相変わらずのシスハの話は置いておき、周囲を警戒しつつ祠を目指して森の中を進む。


「罠でもあるかと思いましたが、今のところ何もありませんね」


「そうね。魔法を使った目に見えない物も注意しているけれど、それもなさそうだわ」


「そんな罠まで作れるって、魔法って怖いでありますね……」


「範囲に入ったら捕縛したり、爆発させるぐらいなら簡単にできるわ。私だったら待ち伏せをするのなら、沢山設置しておくのだけれど」


「……エステルが敵じゃなくて、よかったのでありますよ」


 エステルさんが敵じゃなくて本当に良かった……。

 逃げられない威力の爆破魔法とか設置してきそうだぞ。

 それにしても、キャンサーの洞窟みたいなわかりやすい罠だけじゃなく、目視できない物にも注意しないといけないのは怖いな。


 それからさらに進むと、それらしき洞穴が視界に入った。

 すると、イリーナさん達は悲鳴のような声を上げる。

 

「ああ!? や、やはり祠の結界が……」


「あの大きな横穴に祠があるのでありますか?」


「隠しているっていう割には、わかりやすいわね」


「いえ、本来だったら入り口が見えないよう、穴を覆う結界が張られていたんです!」


「それが丸見えということは……結界が破られているってことでありますね」


 結界が壊されているということは、何者かが侵入した証だ。

 ここまで何も起きなかったけど、どうやらこの洞窟の中からが本番みたいだな。

 それにもしこの中で戦闘になったら、フリージア達をビーコンで呼べそうにないぞ。

 入り口付近に設置しておいて、やばくなったら逃げ出して外で戦うしかないな。


 今度は俺が先頭になって、1番後ろをノールに任せて洞窟内に足を踏み入れる。

 罠といえば平八にお任せってね! ……自分で思ってて虚しいけど、物理と魔法に対して耐久力だけはこの中じゃ1番だからな。

 エステルの光魔法で照らしてもらっているけど、洞窟内はひんやりとしていて不気味だ。

 

「こういう洞窟内に入ると魔物を警戒するけど、いないみたいだな」


「テストゥード様の守護によって、元々この周辺には魔物がおりません。なので、結界を破られたとはいえそう簡単に魔物が居着いたりはしないはずです」


 地図アプリを見ても、洞窟内に魔物がいる様子はない。

 森の周辺にも魔物はないなかったし、祠が機能を失ったばかりの今なら魔物はまだいないみたいだな。

 それでも念を入れて魔物を警戒して進んでいたのだが……。


「止まって! そこに罠があるわ!」


 エステルが声を上げた。

 慌てて足を止め鍋の蓋を構えて、彼女の指示に従って罠のある場所へ近寄る。

 そして俺の脇からエステルが顔を出して、ちょこんと杖を突き出した。

 すると、灰色の丸い円状の魔法陣が表面に浮かび、ヒビが入って砕け散る。


「うぉ……マジで罠が仕掛けてあったのか」


「引っかかる前に気が付いてよかったでありますね」


「一体どんな罠だったんでしょうか?」


「うーん、多分召喚系の魔法ね。一定範囲に入ったら、魔物が出てくるのかもしれないわ」


 エステルが指示した範囲より先に足を踏み込んだら、発動する仕組みかよ……。

 全くわからなかったし、エステルがいなかったらやばかったな。


「エステルのお陰で、罠も問題なさそうでありますね」


「隠された魔法陣がわかるなんて、エステルさんは凄いのですね」


「魔導師だもの、このぐらい普通よ。それにそこまで巧妙に隠されていないわ。術者の腕が良くなかったのかしら?」


「そこまでわかるもんなのか……」


「ええ、だけどわざとわかりやすいのを設置して、本命を隠している場合もあるから気をつけないとね」


 おいおい、安心したかと思えば物騒なこと言わないでくれ。

 だけど、もし相手がエステル基準だった場合、そういう感じで罠を仕掛けてくることもあるってことか。

 いつもエステルが使っている攻撃魔法しか印象にないけど、罠まで張れるとか魔法って怖過ぎる。

 もし罠に引っかかったら、追撃が来るのも想定しておかないとな……。

 

 そんな心配をしたのだが、エステルでも発見できない罠はなく、解除してもらいながら順調に奥へと進んでいく。

 そして、ついに目的の場所へと辿り着いたのだが……。


「あ、あぁ……ティ、テストゥード様の祠が!」


「あっ!? ま、待ってください!」


「危ないのでありますよ!」


 通路より広い空間、そこは真ん中を囲むように丸く海水が流れ込んでいる。

 そして強調された中心部分には……原型もわからないほどに粉々に砕かれた石の破片。

 それを見たイリーナさんは声を上げて、俺達の列から外れて走り出した。

 俺達も慌てて後を追い、祠の残骸らしき物へと駆け寄る。


「あ、ああぁぁ……そんなぁ……こんなのって酷過ぎます……」


「イリーナさん、勝手に走ったら危険で……耳に届いてないか」


「ここまで徹底的に壊されたのを見たら、この反応は仕方ありませんよ……」


「これじゃ中にあった御神体も粉々かしら」


 ノールには敵襲に備えて周囲を警戒させて、俺達はイリーナさんの守りに入った。

 彼女は祠の残骸を手にしながら座り込んで泣いている。

 力を失わせるにしても、ここまで祠を破壊するなんて……瓦礫の中に混ざっているのかわからないけど、御神体も無事じゃなさそうだな。

 しかし、このまま嘆いていても仕方がない。これからどうするのか考えないと。


「とりあえず、祠の機能を維持できるかが問題ね」


「万が一に備えて、テストゥード様の御神体の一部は持ってきております。ですが、祠がこの状態ですと……祭る為の壇のような物が必要です」


「あら、それぐらいなら私の魔法で作ってあげるわ。仮の物でも立派な物を用意しちゃうんだから」


 泣いて話ができないイリーナさんに代わり、別の神殿の人が答えてくれた。

 剥き出しのまま御神体を設置する訳にもいかないし、エステルに作ってもらうしかなさそうだな。

 だけど、再度祠を造ったとしてもまたすぐに壊される可能性も……さて、どうしたものか。

 なんて考えた時だ。


「大倉殿! 何か来るのでありますよ!」


 周囲を警戒していたノールが声を上げ、すぐにイリーナさん達を守る為に戦闘態勢に入った。

 するとどこからか、6体のディアボルスが俺達のいる広間へと飛んでくる。

 それだけでもギョッとするような光景だったのだが……さらに洞窟内が大きく揺れ、壁の一部が吹き飛ぶ。

 そこからゆっくりと姿を現したのは、紫色をした巨大な異形の怪物だった。

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