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不穏な到着

 移動中はイリーナさん達と他愛ない会話をし、神殿でどう過ごしているのか、テストゥード様をどれだけ信仰しているのかを聞かされた。

 神殿で活動するテストゥード様の信仰者は、1日に数回決まった時間に祈りを捧げているようだ。

 禁じられていることもあるみたいだが……そこまで詳しくは聞いていない。やっぱり聖職者的な存在だけあって、その辺りは厳しいのかも。

 今回の移動中も、急いでいる為短くはあるが彼女達は何回も祈っていた。

 俺達のパーティの神官様と違って、本当に信仰心に満ち溢れているなぁ。

 ……ある意味シスハも信仰心溢れていそうだけど。


 だけど一般的な信仰者に対しては緩いようで、感謝の祈りを捧げるだけでいいらしい。

 日頃から魔物を遠ざけてくれたり、豊漁をもたらしてくれるから信仰的な人が多く、そのお陰で神殿も成り立っているという。

 漁師さんなんて、朝一に獲ってきた魚を持ってきてくれるって話だ。

 セヴァリアの住民もよく神殿に訪れるみたいで、宗教的ではあるけど良好な関係をしている。

 国からも守護神の存在は認められていて、後ろ盾もある程度あるそうだ。

 今回のように突発的じゃなく時間が掛かってもいいのなら、軍や騎士団を要請することもできるとか。

 

 思っていたよりテストゥード様は、この国で認められた存在だったようだ。

 調べたら他の地域でも、似たような守護神がいたりしてな……。

 

 この機会に俺達もどうですかとお誘いを受けたが、曖昧な返事をして誤魔化しておいた。

 祠の一件もあって未だに罰でも当たらないか怖いところはあるけど、こうやって協力してるから許してほしい。

 特にシスハに対しては思い入れがあるのか、イリーナさんは熱心に話をしていたが……ことごとく反応に困る返答でかみ合っていなかったご様子。

 そんなこんなで大きなエイの背中に乗せられて、3日掛けて俺達は目的地へ到着した。


「皆さん気をつけて降りてくださいね」


 ゆっくりとダラは降下して、俺達は地面へ足を付いた。

 魔物も相手せず済み、山や道なき道をもひとっ飛び。

 魔法のカーペットでも十分過ぎるほど便利だが、空を移動するアイテムが欲しくなってきたぞ……。


「ダラ、ありがとう。また後でお願いするから、待っててね」


 イリーナさんがダラを撫でると、応えるように胸ビレを揺らしてから空へと飛び立っていく。

 他の神殿の人はただ見ているだけだし、このエイと意思疎通できるのはイリーナさんだけなのだろうか?

 そんな疑問を抱きつつも、祠があるというこの場所を確認する。

 以前俺達が祠を見つけた切り立った崖……ではなく、今俺達がいるのは海岸と隣接した森の入り口。

 空から全体を確認したけど、高低差の激しい緑生い茂る山。ジャングルみたいな感じだ


「……ここに祠があるんですか」


「初めて来て探すとなると、なかなか見つからなさそうでありますね」


「前に見つけた祠はすぐ見える場所にあったのに、随分と差があるわ」


 祠っていうぐらいだから、俺達が見つけた時みたいにわかりやすい場所にあるんだと思っていたのだが。

 ここに祠があるとか言われても、信じられないというか……見つけられる気がしない。

 それどころか探している最中に、崖から海に落ちそうだぞ。


「テストゥード様が見守ってくださるように、あえてわかりやすい場所に置いている祠もございますからね。全ての祠の正確な位置を知っているのは、お仕えしている私共の中でもごく一部だと思います」


「なるほど、街の中にある神殿だけではなく、外に出た際にも守護神様に祈りを捧げたい人がいらっしゃるかもしれませんね」


「はい、そういう考えもあって、古くから祠を置かれたんだと思います」


 シスハは神官としてそういうことに理解があるのか、ウンウンと頷いている。

 セヴァリア周辺を守る為じゃなくて、そういう役割も兼ねて祠を設置していたのか。

 各地の目立つ場所に置くことで、信仰心を集めることもできそうだ。

 とりあえず目的の場所に来たんだし、さっそく向かう為の作戦を……。


「ねえお姉さん、祠って今回みたいに力を失うことって多いの? わかりやすい場所にもあるのなら、悪戯されたりもするんじゃない?」


 エステルが頬に片手を添えて、イリーナさんに突然質問を始めた。


「いえ、そんなことございませんよ。力が弱ることは稀にありましたけど、完全に失われることは私がお仕えしてから1度もありませんでした。悪戯というのも、好奇心から祠に触る人はいるぐらいですね。結界が張られていますから、よっぽど強力な魔法でも使われない限りはそれ以上のことはできません」


「じゃあ今回の騒ぎは異例の事態ってことかしら? 力が失われるだけじゃなくて、隠れている祠なんだもの。もし何者かがやったんだとしたら、わざわざ探し出したってことよね」


「……そうかもしれません」


 微笑みながら問いかけるエステルに、イリーナさんは目を逸らして複雑な表情をしている。

 あのエステルがわざわざ確認をするってことは、ただ事じゃなさそうだぞ。

 確かに話を聞いていると、もし危害を加えた輩がいるんだとしたら、どうしてこんな探し辛い場所にある祠を選んだのだろうか。

 祠の力を失わせるだけなら、簡単に見つけられるあの崖にあった祠でもいい筈。

 場所の関係でこの位置にある祠を狙った可能性もあるかもしれないが……イリーナさんの反応を見るとそうでもなさそうだ。


「もう1つ聞きたいのだけれど、その祠って重要な場所だったりするの? そうね……もしその祠が完全に機能しなくなったら、大変なことが起きたりしちゃう、とか」


 可愛らしい笑顔でエステルが言葉を投げ掛けると、イリーナさんは目を見開いて驚いている。

 エステル……まさか知っていたんじゃ……いや、それはないか。

 恐らくはったりを掛けただけだろう。しかし、今の反応を見て十分にわかった。

 やっぱり俺達が知らない何かが、ここの祠にはあるみたいだ。

 黙ってエステルとイリーナさんの様子を見ていると、ついに彼女は観念したのか肩を落とした。


「……実は今私達が向かおうとしている祠は、セヴァリア周辺にある祠の中でも重要な役割をしていたのです」


「ふぅん、だから協会であんなに必死になって護衛を探していたのね。どうして言ってくれなかったの?」


「あまり外部の方に知られたくありませんでしたので」


「あら、私達を信用してくれてなかったのね、悲しいわ」


「そ、そんなつもりでは……!」


「ふふ、冗談よ。いくら信用できる相手だとしても、話せないことぐらいあるものね」


 今の会話で終始エステルは笑顔だったが、それが逆に怖かったのかイリーナさんと後ろにいた神殿の方々が青い顔で震えている。

 エステルさんは本当に勘の良いお方だ。

 俺のことに関しても、実は知っているのに黙っていることがありそうで怖いんですが。

 今度からエステルの言動には注意しておこう……ちょっとした恐怖ですよ。

 っと、それよりもまず聞いておかないと。


「それで、重要な役割ってなんなんですか?」


「ここにある祠は、神殿と他の祠を繋ぐ中継地点としての役割がありました。もしここの祠から完全に力が失われた場合、セヴァリア各地にある祠も力を失ってしまいます。ですからこちらの祠には、特に強力な結界が張られていて、テストゥード様の御身の一部まで保管されていたんです」


「あの祠には、神殿にあったあの物体が入っていたのでありますか!」


 神殿の御神体と繋ぐのに、あの守護神の体の一部が使われていたのかよ!?

 しかもここの祠が完全に駄目になったら、他の場所も一気に駄目になるとか……かなりヤバイ事態じゃないか?

 そうなったらセヴァリア周辺から守護神の加護が消えて、魔物がどんどん侵入してくるかもしれない。

 協会で随分と焦っているように見えたけど、そんな事実があったとは。

 そこまで厳重な祠が自然と力を失うとは考え辛いし、ディアボルスが関わっている可能性が濃厚だ。

 そしてその結界が破られていると考えたら、1体だけでやったとも思えない。


「それをわかっていて狙ってきたんだとしたら、相当厄介な相手かもしれません……」


「そうね。そうなると力を失わせた後、私達が来るのを想定している可能性も考えられるわ。ここから先は慎重に進んだ方がよさそうね」


 元々いるかもしれないと気構えはしていたけど、想像していた以上に危険な臭いがプンプンとしてきたぞ。

 今から入ろうとしているこの森に、何かしらの罠があってもおかしくない。

 ビーコンなどは気が付かれないように空中投下して設置しておいたから、いざって時にルーナ達を呼ぶ準備は万全だ。

 一応連絡をいれて到着の目安は伝えておいたけど……ルーナが寝てたりしないよな?

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